労務

ハラスメントが及ぼすメンタルヘルス不調

横浜法律事務所 所長 弁護士 伊東 香織

監修弁護士 伊東 香織弁護士法人ALG&Associates 横浜法律事務所 所長 弁護士

  • ハラスメント対応

職場でハラスメント(嫌がらせ)が発生した場合、職場には、どのような影響があるのでしょうか。
以下で解説していきます。

目次

ハラスメントとメンタルヘルスの関連性

ハラスメントとメンタルヘルス不調との間には密接な関連があります。
誰しも嫌がらせをされれば、不愉快な気持ちとなり、それがメンタルヘルスの問題に発展していくのです。

職場における人間関係のストレス

ストレスの原因でもっとも多いのは人間関係です。ハラスメントは人間関係に影響し、ハラスメントの直接の被害者だけでなく、ハラスメントに接した人間のメンタルヘルスを悪化させます。

「職場」という継続的な人間関係において問題が生じれば、継続的な大きなストレスとなることは皆さんも経験上わかるかと思います。
「職場」でのハラスメントは「職場」で生じるストレスの最たるものです。

ハラスメントが企業に与えるリスク

ハラスメントが企業に与える点については、金銭問題の点がクローズアップされがちです。
しかし、実際により深刻なのはメンタルヘルスの悪化そのものから生じるリスクです。

メンタルヘルス不調の原因となるハラスメントの種類

メンタルヘルス不調の原因となるハラスメントには以下のように種類があります。

パワーハラスメント

大きく分けて以下の6類型が挙げられます。
「パワー」とは、必ずしも暴力を伴うものではないことに注意してください。

  • (1)身体的な攻撃
    叩く、殴る、蹴る等です。丸めたポスターで頭をたたく等も含まれます。
  • (2)精神的な攻撃
    同僚の目の前での叱責や、他の職員も宛先に含めメールで罵倒する等です。必要以上に長時間繰り返し執拗に叱る等も含まれます。
  • (3)人間関係からの切り離し
    対象者1人だけを別室に席を移したり、職場で無視するなどです。
  • (4)過大な要求
    新人で仕事の仕方がわからないのに、他の人の仕事まで押し付けて帰るなどです。
  • (5)過小な要求
    事務職なのに倉庫業務だけを命じるなどです。
  • (6)個の侵害
    奥さんに対する悪口を言ったり、交際相手について執拗に問う等です。

セクシャルハラスメント

人事院が公表している定義によれば、

① 他の者を不快にさせる職場における性的な言動
・ 職員が他の職員を不快にさせること
・ 職員がその職務に従事する際に接する職員以外の者を不快にさせること
・ 職員以外の者が職員を不快にさせること
② 職員が他の職員を不快にさせる職場外における性的な言動

を指します。

男性から女性に行われるものに限らず、女性から男性に対して行われるものや、同性同士で行われるものも対象となります。

マタニティハラスメント

マタニティハラスメントとは、妊娠・出産・育児に関して、女性労働者が職場で受ける不当な取扱いや嫌がらせのことです。

その他職場で発生しやすいハラスメント

性についての固定観念や差別意識が起こす嫌がらせ(ジェンダーハラスメント)や飲酒に関する嫌がらせ(アルコールハラスメント)等が職場で発生しやすいハラスメントとして挙げられます。

ハラスメントによるメンタルヘルス不調者への対応

まずは、面談を実施し、体調の確認をしましょう。
その上で、医療機関への受診を促し、必要に応じて休職させましょう。

メンタルヘルス不調者の休職と職場復帰

まず、様子のおかしい従業員が居た場合は、上長との面談を設定し、必要に応じて医師の診断を受けさせましょう。
そして、メンタル不調であることが医師の診断によって明らかとなった場合は、速やかに休職させましょう。

休職期間中は定期的に治療状況を確認し、復帰の目途が立つようであれば、徐々に段階を踏んで、慣らしながら復職を目指しましょう。

なお、復職にあたっては本人からの申告のみではなく、医師からの診断書を求める等し、客観的な判断を心がけるようにしてください。

ハラスメントとメンタルヘルスにまつわる判例

事件の概要

大学の女性研究員が、上司である男性教授とともに出張先のホテルに宿泊していました。

この宿泊の際、男性教授が自室を訪ね、当然ベッドに押し倒してきた等の強制わいせつ行為を受けたとして、女性研究員が訴えた案件です。なお、この事件では、教授が研究員の体に触れた点については争いがありませんでした。

裁判所の判断

一審判決は、教授が行ったとする強制わいせつ行為に対する女性研究客員の対応やその直接の言動について、不自然な点が多々あるとして、女性研究員の主張を認めませんでした。

二審判決では、性的被害者の行動をパターン化して、それに合致しないという理由で、主張を否定することはできないとし、「第三者に悟られないように行動するということも十分あり」える旨判示して女性研究員の主張を認めました。

県立農業短大事件(仙台高秋田支判平10.12.10判時1681号112頁)

ポイントと解説

ハラスメントにおいては、「本当に嫌なら、抵抗できたはず」云々のある種の思想は判断基準とならず、事実関係と証拠により淡々と判断がされることが示された例と言えます。

ハラスメントのない職場環境を作る重要性

ハラスメント問題は生産性を低下させ、経営上の重大なリスクとなり得るため、ハラスメント自体のない職場環境を作る必要があります。

では、どのようにすれば、ハラスメントのない職場をつくることができるのでしょうか。

ハラスメント防止のために企業が講ずべき対策

一言で言えば労働者を孤立させない環境を構築していくことが必要です。
様子がおかしければ「どうしたの?」と話かけ、特段回答に心理的な抵抗が生じないような環境が理想です。ハラスメントを防止するためには、相談しやすい環境を作りましょう。

ハラスメントとメンタルヘルスに関するQ&A

ハラスメントを直接受けていなくても、ハラスメントが発生している職場に勤務することでメンタルヘルス不調になる可能性はありますか?

あります。
なんらかのハラスメントが発生し、それが他の従業員の目に触れていた場合、その従業員は、「自分もされるのではないか」との心配をすることになります。

職掌上関係がない部門であったとしても、「嫌な気持ち」になることは間違いなく、「この会社に居続けていいのか」「居続けるべきなのか」との疑問を持ちます。そのような気持ちで働き続けた場合、メンタルヘルス不調となる可能性は高まります。

職場でのハラスメントを早期発見するにはどうしたらいいでしょうか?

問題の性質上、みつけようとするのではなく、「自然に情報が入ってくる」環境を構築することが重要です。

①普段からあいさつ等対面でのコミュニケーションをとり、
②情報があつまる従業員との信頼関係を構築し
③集まった情報の取り扱いについて細心の注意を払いましょう。

職場におけるパワハラの事実確認では、どのような証拠が有効となりますか?

メール、付箋、形に残るものが重要です。
他には音声や画像等があります。
こういった客観的なものから確実に読み取れる情報をもとに、事実確認を進めていきましょう。

職場でのハラスメントが、仕事の生産性に影響を及ぼすことはありますか?

あります。
ハラスメントとは端的に言えば「いやがらせ」です。「いやがらせ」が発生する職場では誰しも不快な思いをします。

そのような気持ちで働いた場合、必然的に生産性は落ち、離職が発生し、人員不足に由来する業務過多が発生していきます。

ハラスメントにより、うつ病となった社員から労災請求された際の対処法を教えて下さい。

労災請求された場合、その全てが労災として認められるわけではありません。 もっとも、従業員による労災の申請結果がどうなったのか、会社側で確認することは基本的には困難ですので、基本的には交渉を継続し、労災の結果について共有をいただくというのが、対応の第1歩となります。

セクハラした社員に対し、解雇処分を下すことは問題ないでしょうか?

解雇処分は極めてリスクが高いですので慎重に判断しましょう。

①事実関係の調査
被害者・加害者のプライバシーに配慮し、「いつ、どこで、誰が、何を、どのように、なぜ、」といった基本的なポイントを踏まえて、事情を知っていそうな人物からそれぞれヒアリングを実施しましょう。この時、加害者のプライバシーにも十分に配慮して慎重に調査を進める必要があります。

②処分の検討
専門家とよく相談しましょう。他の手段はないのか、御社での先例との関係でバランスを失していないか、検討いただく必要があります。

③発令
本当に解雇処分しかないのか、配置転換等、他の手段は考えられないのか、検討をいただく必要があります。

男性の育児休業取得を認めないとすることは、ハラスメントに該当しますか?

男性と女性とで異なる扱いをしているという点ではセクハラとの指摘を受ける可能性がありますし、男性の育児に対する嫌がらせとしてマタニティハラスメント同様、ハラスメントに該当するとの指摘もあり得るかと思います。

パワハラが原因で社員が自殺した場合、会社はどのような責任を負うのでしょうか?

安全配慮義務違反で会社側の責任を追及されることとなるかと思います。
金額の問題もさることながら、社会的な会社のイメージの極端な低下を生じさせることとなります。

女性社員のみにお茶くみをさせることはハラスメントにあたるのでしょうか?

性別のみを理由にお茶くみをさせるのはまさにハラスメントです。

会社の忘年会や新年会の強制参加は、アルコールハラスメントに該当しますか?

参加強制がそれだけでアルコールハラスメントにあたるかははっきりしません。
会への参加=お酒をのむとは限らないからです。

もっとも、前提として、会社の業務ではない社内のイベントへの参加強制は、個の侵害として、ハラスメントに該当する可能性がありますので、やめましょう。

職場におけるハラスメント問題でお困りなら、弁護士に相談することをお勧めします。

ハラスメント問題は感情論ではなく職場の生産性に直結する「ビジネス」上の危機です。
早い段階から弁護士に相談いただくことで、当該問題への対処だけではなく、今後の人事に生かすことも可能です。是非一度弁護士に相談ください。

横浜法律事務所 所長 弁護士 伊東 香織
監修:弁護士 伊東 香織弁護士法人ALG&Associates 横浜法律事務所 所長
保有資格弁護士(神奈川県弁護士会所属・登録番号:57708)
神奈川県弁護士会所属。弁護士法人ALG&Associatesでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。
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