残業代請求対応、未払い賃金対応

未払い賃金請求や、未払残業代請求に関するトラブルは、労使間トラブルの中でも特に件数の多い問題です。最近では、新型コロナウイルスが経済活動に多大な影響を及ぼしたため、業績が悪化し、未払の賃金や残業代があるという会社も多くなってきているのではないでしょうか。労働者の適切な請求に対しては、会社としても適切に対応しなければなりませんが、中には、不当な請求を行う事案もしばしば見受けられます。不当な請求か否かを判別し、不当な請求に屈しないようにするために、賃金や残業に関するルールをきちんと把握しておくことが重要です。

未払い賃金・残業代請求のリスク

未払い賃金・残業代請求は、対内的・対外的に大きなリスクを抱える問題です。

(1)対外的なリスク
まず、訴訟を起こされた場合、賃金や残業代を払わない企業であるとして公開の法廷で糾弾されることとなり、社会からの信用を大きく損なうこととなります。印象悪化による採用への影響にとどまらず、賃金や残業代すら払えない経営状況であると推認され、取引にも影響があります。

(2)対内的なリスク
未払い賃金・残業代は、個人の問題であることはむしろ稀で、当該会社に所属する労働者全員が潜在的に問題として抱えていることがほとんどです。
もし、とある労働者の残業代請求等が認められたならば、連鎖的に他の労働者も残業代請求等を行う可能性があり、キャッシュフローの致命的な悪化の引き金となり得ます。

賃金の支払いに関する法律上の定め

賃金の支払いについては、労働基準法24条にて、次の5つの原則が定められています。

(1)通貨払いの原則
賃金は原則として、現物ではなく、現金で払わなくてはなりません。なお、賃金の口座振込払いは認められています(労働基準法施行規則7条の2)。

(2)直接払いの原告
賃金は直接労働者本人に支払わなくてはなりません。もし友人や代理人に支払った場合、改めて本人に支払い、二重払いをしなければならなくなる可能性があります。

(3)全額払いの原則
賃金は、法令で定められているもの(例えば税金)を除いては、全額払わなければなりません。

(4)毎月1回以上払いの原則
賃金は毎月1日から月末までの間に、1回以上支払わなければなりません。

(5)定期払いの原則
賃金は毎月一定の期日に払わなければなりません。
月給制の場合、「毎月第2金曜日」とすることは許されません。

残業代支払いの事前防止策

  • ・変形労働時間制の導入
  • 端的に言えば、労働時間を1日単位ではなく、月・年単位で計算をする制度です。
    繁忙期・閑散期がはっきりしている業種であれば、導入することで残業代を抑える効果が期待できます。
    ただし、あくまで、労働時間の計算の単位を月・年単位とすることが主眼ですので、労働時間の管理が前提となりますし、無制限に労働させられるわけではない点に留意する必要があります。

  • ・定額残業制の導入
  • あらかじめ、固定の残業代を労働者に支払うことで残業代の総額をコントロールする方法も考えられます。
    ただし、固定残業代の導入のためには、固定残業代の金額と、当該残業代が何時間分の残業に対応するものであるかを労働者に対し周知する必要があります。
    また、例えば固定残業代が20時間分であったとして、当該月の残業時間が18時間であったとしても、固定残業代は20時間分全額を支払う必要があります。
    さらに上述の例では、20時間を超えた分の残業代は、固定残業代とは別途支払う必要があります。

  • ・事業場外、在宅勤務のみなし労働時間制の導入
  • 一言で言うと、会社の外で仕事をした場合は、あらかじめ決めておいた時間働いたものとみなすという制度です。
    例えば、営業職が、会社の外回りを5時間やった場合や10時間やった場合、いずれの場合もあらかじめ決めておいた8時間の労働時間で計算を行うという制度です(労基法38条の2)。
    この制度も残業代の抑制につながるものですが、導入にあたっては、
    ①労働者が、労働時間の全部または一部について事業場外で業務に従事していること
    ②労働時間を算定し難いこと
    の2点を満たす必要があり(労基法38条の2、第1項)、いずれもそれなりに高いハードルをクリアする必要があります。

  • ・裁量労働制の導入
  • 労働時間を労働者の裁量にゆだねることで、労働時間をみなし時間で計算し残業代を低減させる方法も考えられます。
    現在、裁量労働制は、専門業務型裁量労働制と企画業務型裁量労働制の2種があり、専門業務型については、対象となる業務が限定されており、企画業務型については、事業場について制限があります。
    ただし、あくまでみなし労働時間の一種であるため、みなし労働時間を9時間とした場合は、1時間分の残業代が必要となりますし、深夜労働がなされた場合にも割増賃金の支払いが必要です。

未払い残業代の支払い義務と罰則

残業代の支払いは、労働基準法で定められた使用者の義務です(37条)。
支払いを怠った場合は、単に違法と評価されるだけでなく、社長や残業をさせた管理職等に刑罰(6か月以下の懲役または30万円以下の罰金)が科される可能性があります。

残業時間の立証責任

残業時間の立証責任(証明をしないと金銭請求が認められないこと)は労働者側にあります。
しかし、だからといって、会社側で労働者の残業時間を把握しなくてもよいということにはなりません。
突発的な残業代請求に備えて、会社側でも労働者の残業時間を正確に把握・管理することが必要です。

未払い賃金請求の対応

労働者から未払い賃金請求がなされました。どうすべきでしょうか。

初動対応の重要性

未払い賃金請求は、場合によっては、労働審判という進行の早い法的手続に発展しかねない問題です。時間のない中で、確実な証拠に基づき、迅速かつ慎重に意思決定を重ねる必要があります。
①まずはマネジメント層及び顧問弁護士に直ちに状況の報告を行い、
②請求に対応する期間について、総務・人事部門に勤怠状況の確認を指示し
③直属の上長を呼び出し請求者の業務状況・職務内容についてヒアリングを実施してください。
④その上で、請求者が主張する未払い賃金が本当に発生しているのか、発生しているとして、請求されている金額と一致するのか、記録と突き合わせて確認をしてください。

請求を放置した場合のリスク

請求に理由があるか否かにかかわらず、放置は絶対にやめてください。
放置をした場合、追い詰められた労働者は訴訟提起に及ぶ可能性があります。
訴訟提起された場合、対外的には、訴訟提起による公開の法廷を経由した風評被害(企業イメージの大幅な悪化)、対内的には、他の労働者による同種請求の連鎖等、企業の存続にかかわるリスクが発生します。

会社側が主張すべき反論

会社側としての法的な反論は、典型的には、以下のようなものが挙げられます。

未払い賃金・残業代は発生していない

そもそも、残業をしていないとの反論です。
この後に述べる反論にも共通して言えることですが、労働者の勤怠記録や業務状況について、平時からしっかりと記録をとることで、会社側の反論に説得力が出てきます。

会社の許可なく残業をしていた

いわゆる残業許可制を敷いていたことを理由に、許可なく労働者が残業をしていたと反論することが考えられます。
もっとも、会社の許可の有無と残業代の発生は法的に無関係であり、単純に許可をしていなかったといだけでは、法的な反論にはなり得ません。
寧ろ、当該労働者の業務状況を洗い出し、残業の必要性について吟味を行うべきであると考えます。残業の必要性がなかったため残業の許可をしなかった、つまり当該労働者は仕事をしていたのではなく、意味もなくダラダラと会社に残っていただけとの反論の準備を進めましょう。

管理監督者からの請求である

当該労働者が、労働基準法41条2号にいう管理監督者にあたるため、残業代はそもそも発生しないとの反論が考えられます。 ただし、会社組織における「管理職」と労働基準法上の管理監督者は必ずしも一致しないことに注意をしてください。
会社組織における「管理職」が労働基準法上の管理監督者に該当しないとして、会社に対する残業代請求が認められたケースがあります(東京地裁平成17年(ワ)26903号・平成20年1月28日民事第19部判決)。
また、仮に労働基準法上の「管理監督者」に該当するとしても、深夜手当の支払いを免れることはできませんので、平時からの就労状況把握が必要です。

定額残業代として支払い済みである

固定残業代制を敷いていることを理由に、既に残業代は支払い済であるとの反論が考えられます。
もっとも、固定残業代制の導入にあたっては、固定残業代の金額と、当該残業代が何時間分の残業に対応するものであるかを労働者に対し、周知している必要があります。労働者への周知状況を確認する必要があります。
また、例えば固定残業代が20時間分であったとして、20時間を超えた分の残業代は、固定残業代とは別途支払う必要があります。
したがって、請求を受けた段階で、当該労働者の残業時間について、早急に洗い出しを行う必要があります。

消滅時効が成立している

労働基準法上、未払い残業代を遡って請求できるのは、2年までと定められています(115条)。
したがって、2年より以前に発生していた残業代請求権は、時効によって既に消滅しているとの反論もあり得るでしょう。
もっとも、2020年4月1日以降に支払われる賃金からは、消滅時効が当面の間3年となっているため、注意が必要です。

未払い賃金請求の和解と注意点

残業代請求がなされている案件で、労働者と和解をする際には、特有の問題があります。
一般論として労働者が会社と和解をする際、労働者は一部乃至全額の賃金債権を放棄することとなります。
しかし、労基法上、賃金全額払いの原則が定められているため(24条1項)、賃金債権の放棄は賃金全額払いの原則に抵触し、無効ではないかという疑義が生じます。

この問題が争われたシンガー・ソーイング・メシーン事件(最判昭和48年1月29日)において、最高裁は、当該事例においては、放棄をなすことにつき合理的理由があり、自由な意思に基づいているとし、放棄は有効と判断しました。
この判例は、未払い賃金請求について和解したとしても、労働者側が、事後的に「会社におどされて賃金債権の放棄をさせられた」などと主張し、会社側が和解の経緯について十分な記録をとっていないようなケースでは、和解そのものが無効となる可能性を示唆しています。

付加金・遅延損害金の発生

(1)付加金
次のいずれか未払いがある場合、裁判の際、裁判官は請求額と同一額の付加金の支払いを命じることができると定められています(労基法114条)。
ア 解雇の際の予告手当
イ 休業手当
ウ 時間外・休日・深夜労働の割増賃金
エ 年次有給休暇中の賃金

(2)遅延損害金
例えば、賃金が本来支払われるべき日に支払われなかった場合、本来支払われるべき日の翌日から、年利5%の遅延損害金が発生します。

弁護士に依頼すべき理由

未払い賃金や残業代請求の案件は、決して単純なものばかりではなく、裁判所の判断も分かれ得るような高度な法的判断を要求される論点があります(例えば、未払残業代請求における、固定残業手当の有効性や管理監督者の該当性等)。このような点について、労働契約や就業規則、労働実態等を細かく確認した上で、適切な反論をしていかなければ、交渉や訴訟で優位に立つことは難しいでしょう。

更には、使用者側が特段意図せず行った行動が、法的には大きな意味を持ち、それが最終的な解決に大きく影響する場合があります。後になって、そのような法的効果が生じるとは思わなかったと主張しても、その主張が認められることはありません。

このように、未払い賃金、残業代請求に関しては、専門家である弁護士でなければ、一筋縄ではいかない点も多々あります。適切な解決をするためにも、ぜひ弁護士には相談をしてみましょう。

弁護士に相談をすれば、➀不当な請求に対しては適切に反論ができますし、②労働者が適切な請求をしてきている場合には、それが適当な請求であることの判断が出来るため、徒に紛争を長期化させずに済ませることができます(未払い賃金や残業代には、退職後の場合には14.6%と高率の遅延損害金がかかるため、早期解決をするに越したことはありません。)。更には、③今後同様のトラブルが生じないようにするために、労働契約や就業規則を見直す必要がある可能性がありますが、弁護士に相談をしておけば、就業規則等を改善することも可能です。実務的には、特に中小企業に多いですが、就業規則が会社の実態と乖離していたり、記載しておくべきものが記載されていないということが多々見受けられます。

このように、弁護士に相談をすることで、目の前の紛争を適切な解決に導くだけではなく、将来的な会社の健全化についてもサポートを受けることができます。

当事務所は、企業案件の豊富な実績を有しており、労使間トラブルについて、事案に即した適切な解決法をご提案することができます。トラブルでお困りの方も、トラブルを防ぎたいという方も、ぜひ一度ご相談ください。

関連記事

この記事の監修

横浜法律事務所 所長 弁護士 沖田 翼
弁護士法人ALG&Associates 横浜法律事務所 所長弁護士 沖田 翼
神奈川県弁護士会所属。弁護士法人ALG&Associatesでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。
神奈川県弁護士会所属。弁護士法人ALG&Associatesでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。

企業側人事労務に関するご相談

初回1時間電話・来所法律相談無料

顧問契約をご検討されている方弁護士法人ALGにお任せください

※会社側・経営者側専門となりますので、
労働者側のご相談は受け付けておりません

※法律相談は、受付予約後となりますので、直接弁護士にはお繋ぎできません。

会社側・経営者側専門となりますので、労働者側のご相談は受け付けておりません