監修弁護士 伊東 香織弁護士法人ALG&Associates 横浜法律事務所 所長 弁護士
- ハラスメント対応
顧客のいない企業はありません。
顧客からのいやがらせ=カスタマーハラスメントは企業にとって悩ましい問題です。
企業はカスタマーハラスメントと、どのように向き合えばいいのでしょうか。
目次
企業にはカスタマーハラスメントから社員を守る義務がある
一般論として企業は従業員に対する安全配慮義務を負っています。
平たく言えば、企業は、従業員と特段「安全」について契約をしていなくとも、従業員の安全について、常に配慮をする義務を負っています(最判昭和50・2・25民集29-2-143)。
悪質なカスタマーハラスメントともなると従業員の身の安全にも影響があるため、企業はカスタマーハラスメントから従業員を守る義務を負っているといえます。
カスタマーハラスメント(カスハラ)とは
法令上に定義があるわけではありませんが、一般に、顧客による嫌がらせ一般を指します。 例えば、従業員に土下座を強要したり、苦情を延々と述べて長時間従業員を拘束したりするなど様々な態様がありますが、サービスや商品の「改善」というよりは、企業や従業員に対する「いやがらせ」が主たる目的である点に特徴があります。
カスハラが増加した背景
カスハラが単純に増加したというより、SNS等の発達により、今までは隠れていた、顧客の行き過ぎた行動が明らかとなる機会が増えたことが背景として挙げられます。
カスハラとクレームはどう違うのか?
それぞれ法的に違いが明示されているわけではありませんが、目的に企業や従業員に対する攻撃意図を含めるか否かで一応の区別がなされます。
カスハラ → いやがらせが主たる目的
クレーム → 商品やサービスに対する改善要求が主たる目的
カスハラとクレームを区別する難しさ
カスハラとクレームの区別は抽象的には、上述のとおり可能ですが、現実の顧客対応で区別をつけることは至難です。
通常、ある顧客からの苦情には企業や従業員への負の感情が伴うことは寧ろ自然なことであり、商品やサービスの改善希望をも含むというのが大多数ではないでしょうか。
肝心なのは、企業側において、顧客からの要望の内、不合理なものについては毅然と対応し、商品やサービスの改善につながる意見については受け入れるという柔軟な判断を徹底することです。
カスタマーハラスメントについて企業が取るべき対応
カスタマーハラスメントを検討するにあたっては、
- ①企業の体制整備の問題、
- ②企業と従業員との間の問題、
- ③企業と顧客との間の問題
- ⑴ 企業の体制整備の問題
カスタマーハラスメントに対応するための体制整備が必要です。詳細は後述します。 - ⑵ 企業と従業員との間の問題
カスタマーハラスメントにさらされた従業員に対しての精神的なケアが必要です。 - ⑶ 企業と顧客との間の問題
顧客の行動の目的が何かを冷静に分析することが必要です。顧客の行動に何ら経済的合理性や論理性が見いだせない場合は、純粋に従業員や企業に対するいやがらせ目的である可能性が高いため、場合によっては警察や裁判所の助けを借りるなどして対応する必要があります。
マニュアル・対応フローの作成
カスタマーハラスメントは、クレームとの峻別が難しいため、クレーム対応の系に近い対応フローが必要です。
特に重要なのが、
・誰にどの段階でカスタマーハラスメントとクレームを峻別しどこまで対応させる権限を与えるのか。
・フローそのものに、誰を含めるのか(どこまで情報を水平展開するのか)
を明確に定める必要がある点です。
カスハラ対策に関する研修
カスハラの定義や社内窓口の説明に終始する研修では、効果はほとんどありません。 過去の自社事例や他社事例をベースとした具体例を設定し、ロールプレイング形式で具体的な対応の仕方を修得させることを目的とした実践的な研修を組み立てましょう。
相談窓口の設置
カスハラに対応するため、従業員からの相談窓口を設置し、周知しましょう。 当該相談にあたっては、相談することそれ自体で人事評価上、不利な取り扱いをしないことも併せて周知する必要があります。
被害者のストレス対策
ここでいう被害者とは、従業員を指します。 カスハラの被害にあった従業員のための、精神的なケアの場を設定しましょう。 先に述べたとおり、企業は従業員に対して安全配慮義務を負うため、従業員をカスハラから守ることが求められています。
カスタマーハラスメントに関する裁判例
事件の概要
自動車損害保険契約に基づき、保険会社の窓口担当者と保険金請求についての交渉をしていた顧客が、多数回及び長時間にわたり架電するなどしてきたため、保険会社が業務妨害だとして、顧客に対して業務妨害の禁止を求めて仮処分の申立てをした事案です。
裁判所の判断(事件番号 裁判年月日・裁判所・裁判種類)
「法人に対する行為につき、①当該行為が権利行使としての相当性を超え、②法人の資産の本来予定された利用を著しく害し、かつ、これら従業員に受忍限度を超える困惑・不快を与え、③「業務」に及ぼす支障の程度が著しく、事後的な損害賠償では当該法人に回復の困難な重大な損害が発生すると認められる場合には、この行為は「業務遂行権」に対する違法な妨害行為と評することができ、当該法人は、当該妨害の行為者に対し、「業務遂行権」に基づき、当該妨害行為の差止めを請求することができると解するのが相当である」(東京高決平成20年7月1日)と判断がされました。
ポイントと解説
「保険会社」と「保険金を請求する顧客」というのは、一般的にはげしい応酬が生じやすい関係ではあります。しかしこの裁判例は、顧客側の極端な行動を不相当な権利行使として、従業員の受任限度を超える困惑・不快を与えるものとして、顧客の架電等を差し止めました。
裏を返せば、差し止めができる等、対応する手段が裁判所によって認められたということですから、場合によっては、企業側が安全配慮義務の履行として、訴訟提起まで視野に入れなければならなくなったということです。
職場におけるハラスメントの法改正と企業対応
厚生労働省のカスハラに対する指針
厚生労働省が、2021年度に、企業向けの対応マニュアルを策定する方針です。
防止対策の強化に向けて企業が講ずべき措置
詳細は、2021年度に策定予定のマニュアルを待つべきですが、主に以下の内容について言及されるものと思われます。
- ・従業員の相談窓口の設置
- ・研修実施
- ・処理フローの確定
- ・自社対応マニュアルの作成
カスタマーハラスメントへの対応は困難です。ハラスメント問題でお悩みなら、一度弁護士にご相談ください。
カスタマーハラスメントへの対応は、顧客を相手にするため、十把一絡げに拒絶してよいという単純なものではありません。紛争の交渉に慣れた弁護士であれば、不必要に顧客を刺激することなく紛争解決への道を探りやすいと言えます。
是非一度弁護士へご相談ください。
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企業側人事労務に関するご相談
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