監修弁護士 伊東 香織弁護士法人ALG&Associates 横浜法律事務所 所長 弁護士
従業員が逮捕された場合、身柄を拘束されれば業務にも支障が出ますし、他の従業員との関係で対処しなければならなくなります。
会社は、速やかに適切な対応をすることが求められますが、突然の知らせを受けることでもあり、事前に準備することが必要です。
そこで、従業員が逮捕された場合に、会社がどのような対応をすれば良いのか、以下解説します。
目次
従業員が逮捕された場合に会社がとるべき初動対応
①事実関係を正確に把握する
従業員が逮捕されたとの連絡が入った場合には、逮捕された事実は何か、どのような事実関係なのか、私的な事実なのか会社も関係のある事実なのか、本人は認めているのかなど、事実関係を正確に把握する必要があります。
もっとも、逮捕された直後は、捜査が優先されるので、必ずしも接見できるわけではありませんし、接見できたとしても短時間となるので、全てを聞き取ることは難しいことが多いです。
また、事案によっては、交流に接近禁止が付されており接見自体ができないこともあります。
家族と密に連絡を取りつつ、本院の意向を確認するすべを模索しながら、事実関係の把握に努めることが必要です。
②社内対応を行う
従業員が逮捕された場合には、従業員が出勤できなくなるので、社内での対応を考える必要があります。
また、不要な不安や動揺が走らないようにする必要もあります。
会社としては、従業員に関する社内での対応策を検討周知する必要があります。
従業員が逮捕・勾留される期間は?
警察は、被疑者を逮捕してから、48時間以内に、事件を検察庁に送致しなければならず、事件の送致を受けた検察庁は、事件の送致を受け手から24時間以内に釈放するのか交流するのかの判断を行い、裁判所に交流請求をしなければなりません。
そして、裁判所において、検察からの交流請求を認めた場合には、通常10日間拘留されることになりますし、事案や捜査の必要を裁判所が認めた場合には追加で最大10日間拘留されることになります。
③従業員を支援するかどうかを決める
正確に事実を把握し、本人の意向を確認した上で、会社として従業員の支援を行うのか、支援を行うとしてどのような支援をするのか、被害者への対応をするのかについて検討する必要があります。
顧問弁護士に依頼する場合の注意点
従業員が逮捕された場合には、今後の方針や見通しについて顧問弁護士に相談することも考えられます。
しかし、顧問弁護士は、あくまでも会社の弁護士であり、会社の利益を追求する立場にあります。
会社が被害者になる場合や会社に社会的責任が問われる場合、従業員間の犯罪の場合などによっては、会社と従業員の利益が相反することがあり、その場合には顧問弁護士が従業員の刑事弁護人に就任することができませんので、注意が必要です。
④逮捕中の勤怠・賃金の取り扱いを検討する
雇用契約は存続していることから、従業員が逮捕された場合に、休職を明示するのか、賃金を支払うのかなどを検討留守必要があります。
身柄拘束期間中の賃金は支払うべきか?
雇用契約においては、ノーワークノーペイの原則が適用されます。
従業員が逮捕され、交流されている間は、従業員の責任で就労することができないわけですから、会社は、従業員に対して、身柄拘束期間中の賃金を支払う必要はありません。
起訴休職制度を設けている場合
従業員が釈放され会社の命令で自宅待機とした場合には、会社の責任で就労させないわけですから、会社は、従業員に対して、自宅待機中の賃金を支払い必要があります。
もっとも、就業規則において起訴休職制度を設けている場合には、その規定に従って、賃金の支払いをすることになります。
ただし、裁判所では、業務に具体的な支障が生じ、かつ、労働者の責めに帰すべき事由に基づく場合と限定的に解釈しているため、規定があるからといって必ずしも休職命令が認められるわけでは無いので、注意が必要です。
⑤マスコミ・報道機関への対応
社員が逮捕されたことで、報道されることがあります。
その場合には、記者会見の開催、謝罪広告、ホームページへの掲載等を行う必要がありますが、その方法や時期については、会社の信用にも影響することですので、顧問弁護士や取締役会などで慎重に判断する必要があります。
逮捕された従業員の懲戒処分の検討について
プライベートでの犯罪行為も処分の対象か?
会社は、合理的な理由があり、かつ、社会的に相当であると認められる場合でないと、懲戒処分をすることはできません。
特に、懲戒処分は、刑事罰と同様の効果を持つ処分ですので、より厳格に解されています。
他方で、当該行為によって、会社の名誉や経済活動に影響を与える場合には、会社の経済活動を妨げることになるので、処分を
私的な行為が犯罪行為になる場合には、就労とは直接関係がないので、会社の社会的評価や経済活動を妨げることが明らかな場合を除いて、制裁として処分することは難しいと考えた方が良いです。
従業員の逮捕を理由に懲戒解雇できるのか?
懲戒解雇は、合理的な理由と社会的に相当な場合でなければ、権利濫用として無効となります。
逮捕されただけでは、犯罪事実不明ですし、刑事事件では、有罪判決が確定するまでは無罪と推定するので、逮捕されたこと自体をもって懲戒処分をすることはできません。
逮捕された従業員の退職金の支給について
退職金は、功労報奨金的なの役割だけでなく、賃金の後払い的な役割も果たしています。
そのため、会社の名誉信用を著しく害しているなど強度の背信性を有する場合でない限り、逮捕されたことだけを理由に退職金を無支給とすることはできません。
不起訴・無罪になった場合の対応
不起訴や無罪となった場合には、当該社員が職務に復帰できるように支援をするのが望ましいです。
また、刑事事件としては無罪となった場合でも、別途民事事件として訴訟提起をされることも考えられますので、動向は注視した方が良いです。
従業員の逮捕と解雇に関する裁判例
事件の概要
従業員が他人の自宅に許可なく侵入したところ、住居侵入罪で逮捕され、その後、この従業員は、2500円の罰金刑に処せられました。
会社は、従業員の行為が就業規則の懲戒解雇事由にあたるとして、この従業員を懲戒解雇としました。
(最高裁昭和45年7月28日判決 横浜ゴム事件)
裁判所の判断(事件番号・裁判年月日・裁判所・裁判種類)
裁判所は、従業員の行為は、会社の組織、業務等に関係のないいわば私生活の範囲内で行われたものであること、罰金刑の金額が2500円の程度の止まったこと、会社における従業員の職務上の地位も指導的なものではないことから、従業員の行為が会社の体面を著しく汚したとまでは評価できない俊、懲戒解雇を無効と判断しました。
ポイント・解説
本来であれば、私生活上の行為は、会社や就労には関係がないはずであり、懲戒事由の該当にはなりません。
しかし、従業員が人である以上、私生活上の行為が会社に与える影響は否定できず、一定の要件の下では、私生活上の行為も懲戒処分の事由に該当することがあることを示したことに大きな意義があります。
従業員が逮捕されたから、懲戒処分、解雇処分をしても良いというわけではありませんし、懲戒処分が有効か、解雇が有効かを判断するにあたっては、明確な基準があるわけではなく、個々の事案によって判断されることになります。
従業員が逮捕された場合は初動対応が重要です。まずは弁護士にご相談下さい。
従業員が逮捕された場合には、会社として誠意をもって対応することが必要となります。
初動対応によっては、対外的、対内的な会社の名誉や評価が大きく変わることになるので、慎重に行う必要がありますし、初動対応だけでなく、その後の雇用関係、報酬支払い、従業員への対応等など継続した対応が必要となります。
従業員が逮捕されると、速やかな対応が難しくなるかもしれませんが、そのようなときにこそ、弁護士に相談していただき、適切な初動対応、その後の対応をとるためにも、まずは弁護士にご相談ください。
-
保有資格弁護士(神奈川県弁護士会所属・登録番号:57708)
来所・zoom相談初回1時間無料
企業側人事労務に関するご相談
- ※電話相談の場合:1時間10,000円(税込11,000円)
- ※1時間以降は30分毎に5,000円(税込5,500円)の有料相談になります。
- ※30分未満の延長でも5,000円(税込5,500円)が発生いたします。
- ※相談内容によっては有料相談となる場合があります。
- ※無断キャンセルされた場合、次回の相談料:1時間10,000円(税込み11,000円)