監修弁護士 伊東 香織弁護士法人ALG&Associates 横浜法律事務所 所長 弁護士
ある日突然、従業員と連絡がとれなくなり、「退職代行」を名乗る何者かから連絡が入った際には、どう対応するべきでしょうか。
目次
退職代行サービスとは
会社と従業員の関係は、雇用契約です。会社と従業員の間の契約ですから、退職に際しては、その本人が申入れすることがもっともイメージしやすいでしょう。
しかし、退職の申入れは、実は必ずしも、【本人が自分でしなければならない】というものではありません。
弁護士に代理で交渉を依頼すること自体は可能です。
従業員が退職代行を利用したとき会社はどう対応すべき?
弁護士資格を有している者が代行をしている場合は、基本的には、本人が交渉してくるケースよりは対応はしやすいのが通常です。
というのも、退職代行の依頼を従業員から弁護士が受けている場合、ほとんどの場合、ゴールが「退職」に設定されているため、要求自体はシンプルで理解がしやすいことが多いでしょう。
また、当事者ではないため、感情の摩擦が生じにくく、手続きにまとを絞って、比較的冷静に話し合いができると思われます。
誰が退職代行を行っているかで対応が異なる
従業員は、退職代行は基本的には弁護士に依頼をしていることが多いと思いますが、弁護士以外が退職代行であると名乗ってくるケースがあります。
まずは、代行している人が弁護士か否か確認をしてください。
⑴弁護士が退職代行を行っている場合
退職代行をすることは問題がないため退職に必要な話し合いを当該弁護士と行っていくこととなります。
⑵弁護士以外が退職代行を行っている場合
弁護士以外の人が報酬を得る目的で紛争性のある交渉の代理をすることは禁止されています(これを非弁行為の禁止といいます。)。
この非弁行為の禁止にあたるか否かの判断を即時に行うのは通常は困難です。
企業からすれば、難しいコンプライアンス上の問題を抱えこむことにつながっていきますので、代行している人が弁護士資格を有していない場合は、弁護士法上の問題があるため、本人か弁護士を代理人としてもらわないと対応できない旨回答しましょう。
「単なる事務手続のみの代行」と説明してくる場合でも、退職日の調整等の交渉を伴うのが通常ですし、「単なる事務手続のみの代行」と「それ以外」の線引きは極めて困難であるのが通常です。
退職代行による退職の申し入れを拒否することはできるのか?
弁護士を代理人とする退職代行の申入れは拒否できません。
退職代行に法的効力はあるのか?違法ではない?
弁護士が代行している場合は適法です。
弁護士が退職代行を行っている場合の注意点
弁護士がついて退職代行をしている場合については、書面にせよ、そうでない場合にせよ、回答内容に一貫性を持たせる必要があります。
退職代行への適切な対応方法
それでは、退職代行に対応するにはどうすればよいのでしょうか。
委任状の提出を求める
まず、代行を名乗る人物が、本当に、本人から依頼を受けているのか確認する必要があります。
代行を名乗る人物に委任状を示してもらうのが手っ取り早いです。
もっとも、多くの場合は、事前に本人から、「●●という人に退職代行をお願いしました」というような連絡が来るため、そこまで厳密に委任状の提出を求めなくてもよいと思います。
従業員本人に退職の意思を確認する
本人が弁護士に退職代行を依頼している場合には、合意の成立の際、具体的には合意書作成時には、代理人の署名押印ではなく、本人の署名押印を求めましょう。
雇用契約に応じた退職日を決定する
退職を申し入れてきた従業員との間で締結した雇用契約書を確認し、退職日についての定めがどのようになっているのか確認しましょう。
退職事由を検討する
「形としては話し合いでやめてもらうのであるから、退職事由を検討する必要がない。」
というのは間違いです。
対外的に、どのような理由で退職するのかをしっかり決めておかなければなりません。
退職後に退職証明書の発行を求められた際問題となります。
回答書を作成して送付する
上述のもろもろの点について、会社としての検討を尽くした後は、書面にて回答しましょう。
退職日までの実務上の対応について
退職について合意が成立した後は、以下の点に留意して退職日に備えてください。
業務引き継ぎの依頼
新たな仕事を依頼することは基本的には避け、従前の業務の引継ぎをさせることに注力してください。
有給休暇の取り扱い
退職直前の年次有給休暇の連続取得については拒否できるのでしょうか。
「時季変更権」は、年次有給休暇の日の調整を促す権利であり、そもそも年次有給休暇の取得自体を拒絶できるものではありません。
そして、「時季変更権」は退職又は解雇の効力発生日までの間しか行使できません。
したがって、申請された年休日数が退職等の日を超える場合には、超えた部分について時季変更権の行使の余地はない=拒否できないということになります。
もっとも、労働者側の申出があれば、有給を行使せず、退職等で消滅する部分については、金銭給付等で調整する余地はあります。
貸与物の返還請求
カードキー等のセキュリティーに関係する物や貸与していた携帯電話機やノートパソコン等も回収しましょう。
携帯電話機やノートパソコンについては、物の返還を求めるだけではなく、ログインやアクセスするためのパスワードも合わせて聞いておき、ログインやアクセスができる状態となっているか確認してください。
退職代行に対して会社がやってはいけない対応とは?
弁護士が介入している状態で、申入れに何も反応しないことはさけるべきです。
また、以下についての会社側の考えが確定していない状態での対応はやめましょう。
①当該従業員と会社の契約関係(雇用契約なのか 業務委託契約なのか)
②退職理由についての会社の認識
退職代行が利用された場合のリスク
⑴弁護士が代行しているケース
よくも悪くも法律の専門家による行動ですので、うかつな書面や電話での回答については、有利な材料として利用される可能性があり、議論がまとまらなかった場合には後日、訴訟の際の証拠とされてしまいます。
一方で法的な相場や裁判での権利実現の可否についても当然理解をしているので、ある程度その挙動を予測することは可能です。
⑵弁護士以外が代行しているケース
代行している者が退職に関係する手続きや法律を熟知していないため、無理筋でごねるなどして紛争解決までの時間を要する場合があります。
また相手方陣営において本人の意向の確認が十分でなかったことによるトラブルが発生しやすく、本質的でない部分で無意味に本人の感情を悪化させる場面等があり得、早期解決が難しい場合が多いです。
退職代行の利用に至らないためにしておくべきこと
上司と部下との間の信頼関係を十分に構築しておくことが必要です。
そうすれば、退職代行に頼らずとも話し合いができると部下は認識し、上司と直接の話をむしろ望むと思われます。
退職代行の対応方法でお悩みなら、まずは弁護士に相談することをおすすめします。
退職代行が入った場合の対応について、詳しい・慣れているという方はいないと思われます。
一方で退職という重要な人事上の局面には潜在的に大きなリスクがあります。
リスクのコントロールには、法的知識や対応経験が必要です。
早い段階で弁護士が介入した方がとれる選択肢は広いですので、なるべく早く専門家である弁護士にご相談ください。
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保有資格弁護士(神奈川県弁護士会所属・登録番号:57708)
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