管理職と残業代請求-管理監督者とは

公開日:2020年9月3日
  • 残業代請求対応、未払い賃金対応

「管理職になると残業代は付かない」という話を聞いたことはありませんか?

管理職と残業代の関係はどのようなものなのでしょうか。以下で見ていきましょう。

管理職に対しても残業代を支払う義務があるのか?

管理監督者に残業代を支払う義務はない

その「管理職」が、労働基準法(以下、「労基法」といいます。)41条2号にいう「監督若しくは管理の地位にある者」(以下、「管理監督者」といいます。)に該当した場合は、残業代を支払う必要はありません。

管理監督者でも深夜手当の支払いは必要

もっとも、管理監督者に該当したとしても、深夜労働に従事した場合には、通常の労働時間の賃金の計算額に25%以上の率を掛け合わせた割増賃金を支払わなければなりませんので、注意が必要です(労基法37条4項)。

管理職には残業代を支払わないと就業規則で定めている場合は?

管理職の残業代について、労基法に違反する内容が就業規則に定められている場合、労基法の定めが優先します。したがって、

① 管理職が労基法上の管理監督者に該当しない場合→原則として残業代を支払わなければなりません。
② 管理職が労基法上の管理監督者に該当する場合 →残業代は支払う必要はありませんが、深夜労働に従事した場合には、場合によっては、通常の労働時間の賃金の計算額に25%以上の率の割増賃金を支払わなければなりません。

労働基準法における管理監督者の該当性

会社が定める「管理職」と、労基法上にいう「管理監督者」とは常に一致するわけではありません。会社が管理職として扱っていたとしても、労基法上の「管理監督者」とは言えない場合もあります。

労基法上の「管理監督者」に該当するというためには、以下の要素が重要となります。

権限経営者と一体的な立場で仕事をするために、経営者から管理監督、指揮命令にかかる一定の権限をゆだねられていることが必要です。

具体的には、採用や解雇、人事考課や労働時間の管理等の人事・労務上の権限が与えられているか否かがポイントになります。

勤怠の自由

出社、退社や勤務時間について、厳格な制限を受けていないかがポイントととなります。

待遇

一概に言えませんが、①当該企業において、報酬上位層に所属している、②管理監督者とそうでないものとの間の待遇の差が大きい、③報酬の金額そのもので見て高額(700~800万円が一応の目安)というような要素があれば、管理監督者に該当しやすくなります。

管理職が必ずしも管理監督者に該当するわけではない

注意をしなければならないのは、労働者を管理職に据えれば、自動的に労基法上の管理監督者となるわけではないという点です。

企業で違う管理職の扱い

企業によって、人事・労務をはじめとする各種権限の範囲や、勤怠管理の有無、待遇について、管理職の扱いについては様々です。

これは、各企業によって、管理職のポストを置く目的や意図に違いがあることに由来します。

「名ばかり管理職」と残業代の問題

企業によっては、管理監督者であれば残業代は払わなくてよいという結論部分にのみ着目し、労働者に対して、特に権限を与えず、名目上の管理職を大量に据えて、残業代の支払いをしないというケースが存在します。

管理職の勤務実態を把握する必要性について

終身雇用制が支配的であった過去の時代にあっては、名目上の管理職で残業代が支払われなくても、不満を訴える者は多くはありませんでした。

しかし昨今の権利意識の高まりや、終身雇用制の動揺から、形式ではなく、実質的な観点から、自らの管理職としての待遇に疑問をもつ労働者が増えてきています。

この疑問を放置すれば、最悪、訴訟が提起されてしまい、結果にかかわらず、企業の採用活動、各取引、引いては企業の存続に影響がでることとなります。

当該労働者の権限・勤怠状況・待遇に照らして、適切な処遇をしているのか今一度確認をする必要があるのです。

管理監督者の該当性が問われた裁判例

代表的なものとして、ハンバーガーの販売等を業とする大手ファーストフード店(以下、「会社」といいます。)の「店長」が管理監督者に該当するか否かが争われた事例があります。

事件の概要

会社の就業規則上、「店長」以上の職位を労基法上の管理監督者として扱っていたため、会社は「店長」である原告に対して、法定労働時間を超える労働時間について割増賃金を支払っていませんでした。

会社の「店長」である原告は、被告である会社に対して、過去2年分の割増賃金の支払いを求め、訴えを起こしました。

裁判所の判断(事件番号・裁判年月日・裁判所・裁判種類)

裁判所は、「店長」に、アルバイトの採用、時給額、人事考課・勤務シフト等の決定といった労務上の権限があることを認めつつも、アルバイトではなく「社員」を採用する権限がないことや、人事考課について二次評価や三者面談、評価会議が予定されている中での一次評価を担うにとどまることから、経営者と一体的な立場とは言い難いとしました。

加えて、店長として固有の業務を遂行するだけで相応の時間が必要となることなどから(時間外労働が月100時間を超える場合もあった)事実上労働時間に関する自由裁量性があったとは認められないとして、結論として管理監督者性は否定されました。

(東京地裁平成17年(ワ)26903号・平成20年1月28日民事第19部判決)

ポイントと解説

この裁判例は、「店長」にある程度の権限が認められていたにも関わらず、管理監督者性が否定された点がポイントです。

形式的に「店長」であるかどうか、権限があるのかどうかではなく、その実態に着目して裁判所が判断していることが読み取れます。

例えば、単に人事評価を当該管理職が行っているか否かではなく、当該管理職の行う評価が人事評価システム全体からみてどの程度の比率を占めているのか、人事評価システムのどの段階で検討される要素として扱われるのかが審査されています。

加えて、単に、労働時間の裁量があるかないかではなく、当該職位の固有の職務を遂行するにあたり、事実上、労働時間の裁量があるとまでは言えないほどの時間外労働を余儀なくされる等の場合には労働時間の自由裁量性も否定されるとの判断されている部分にも注意が必要です。

管理職・管理監督者の残業に関するQ&A

管理職から残業代の請求があった場合、企業はどう対応すべきでしょうか?

対応の出発点としては、まずは、当該人物が、労基法上の管理監督者といえるか否かの吟味が必要です。

形式的なところで言えば、人事ないし総務部門に、当該管理職についての、就業規則上の扱いと、勤怠記録の照会が必要です。

実質的なところで言えば、当該管理職の上長を呼び出し、当該管理職の業務遂行の実態についてヒアリングをする必要があります。

以上について、基本的には、当該管理職の①権限、②勤怠の自由、③待遇の3つに着目し、同時並行で迅速に調査をする必要があります。

また、問題は、請求をしてきた管理職その人だけの対応で済む話ではないことに十分留意が必要です。もし訴訟となり、判決で管理監督者性が否定されれば、他の在籍する管理職との関係に影響がでますので、場合によっては話し合いでの解決を目指した方がよいケースがあります。

訴訟等を提起されるか否かの重要な局面ですので、まずは早急に弁護士に相談いただいた方がよいです。

裁判で管理監督者の該当性が否定された場合、過去の残業代を支払わなくてはなりませんか?

基本的には、2020年4月1日以降に支払われる賃金については、過去3年分の残業代を払わなければならなくなる可能性があります。

管理監督者に労働時間の規制が及ばないのは何故でしょうか?

管理監督者は、労働者の労働時間を決定し、労働時間に従った労働者の作業を監督する立場です。

このように労働時間の管理・監督権限を持っていることから、自らの労働時間は自らの裁量で律することができ、かつ管理監督者の地位に応じた高い待遇を受けることから、労働時間の規制を適用するのが不適当とされています。

管理職の職務内容や権限を把握するには、どのような資料が必要ですか?

いくつか考えられますが、典型的には、

①就業規則(当該管理職の職位と給与等について言及されている部分)
②当該管理職の上長がこれまで作成してきた当該管理職の人事評価資料
③当該管理職が作成してきたこれまでの人事評価資料
④組織図
⑤当該管理職の勤怠記録
⑥給与等の支給実績
⑦当該管理職の上長からのヒアリングをまとめた資料

が必要となります。

勤怠管理は一般社員と同様ですが、待遇については差があります。このような管理職は管理監督者に該当しますか?

以下の裁判例を前提とするならば、ご質問の管理職は管理監督者に該当しない可能性が高いと思われます。

・通常の就業時間に拘束されて出退勤の自由がない銀行の支店長代理について否定(静岡地方裁判所 昭和53年3月28日判決)
・時間管理を受けているカラオケ店の店長について否定(大阪地方裁判所 平成13年3月26日)

管理監督者は36協定の対象となるのでしょうか?

労基法上の管理監督者に該当するのであれば、36協定の対象とはなりません。

遅刻や早退による減給の対象外としている管理職は管理監督者に該当しますか?

それだけで、必ずしも管理監督者に該当するとは言えません。

管理監督者に該当するかどうかは、当該管理職の①権限、②勤怠の自由、③待遇の3つを実質的に検討して判断されます。

管理職の待遇を把握するには、どのような資料が必要ですか?

いくつか考えられますが、典型的には、

①就業規則(当該管理職の職位と給与等について言及されている部分)
②当該管理職の上長がこれまで作成してきた当該管理職の人事評価資料
③当該管理職の勤怠記録
④給与等の支給実績

が必要となります。

管理監督者が長時間労働によって健康障害を生じた場合、企業はどのような責任を問われますか?

違法な長時間労働が認められた場合、多額の損害賠償請求がされるにとどまらず、刑事罰を招来したり、事業所名の公表により、社会的信用の失墜や新規採用・中途採用への悪影響を招きます。

事業許可等の取り消しがなされる可能性もあります。

パートやアルバイトを採用する権限がない店長は、管理監督者には該当しますか?

パートやアルバイトについて採用権限があるにも関わらず管理監督者に該当しないと判断した裁判例(東京地方裁判所 平成20年1月28日)が存在することから、パートやアルバイトを採用する権限すらない店長は管理監督者には該当しない可能性が高いと思われます。

管理監督者でない管理職に残業代を支払っていない場合、会社は罰則を科せられますか?

従業員に時間外労働等について割増賃金や残業代を支払わない場合については、会社に罰則が科されます(労基法37条)。

管理職について正しい知識を持つ必要があります。企業法務でお悩みなら弁護士にご相談ください。

管理職については、労基法上の管理監督者に該当するか否かを含めて、膨大な量の裁判例や行政の取り扱いについての習熟が求められますが、企業において日常の業務とは別に裁判例や行政の取り扱いを調査・分析しながら現実の問題に対応することは事実上困難です。

また対応を間違えれば、他の管理職全員を仮想敵として想定しなければならない事態となります。

管理職の取り扱いについてお悩みであれば早めに弁護士に相談しましょう。

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