残業代請求を和解で解決する場合の注意点-和解と賃金債権放棄

  • 残業代請求対応、未払い賃金対応

残業代をめぐる紛争では、話し合いで解決ができそうな場面があります。
しかし、話し合いでの解決にあたっては、労働分野特有の問題があるため注意が必要です。

目次

未払い残業代の請求と和解による解決

和解の意義と効力

和解とは、当事者が互いに譲り合い、争いをやめる合意をすることをいいます。
一度した和解は、原則としてなかったことにはできません。

和解後に紛争を蒸し返すことは許されるのか?

和解の後に、真実とは異なる証拠が出てきた場合でも和解は覆すことはできません。

賃金全額払いの原則と賃金債権放棄の関係

賃金全額払いの原則

賃金は、所定支払日に支払うことが確定している全額を支払わなければなりません(労働基準法24条1項)。これを「賃金全額払いの原則」といいます。

賃金債権を放棄することの有効性

労働者が賃金債権を放棄した場合、使用者が放棄された賃金を支払わなくとも、全額払いの原則には違反しません。
しかし、賃金債権の放棄は自由な意思に基づいてなされることが前提ですので、放棄が「自由な意思」に基づいていたか否かについては留意が必要です。

賃金請求権放棄の有効性に関する裁判例

代表的なものとして、シンガー・ソーイング・メシーン・カムパニー事件があります。

事件の概要

在職中に不正経理をした労働者が、その弁償として退職金を放棄しました。
この労働者が、退職金の放棄は、賃金全額払の原則により効力を生じないとして、退職金の請求をするために裁判を起こしました。

裁判所の判断(事件番号 裁判年月日・裁判所・裁判種類)

最高裁は、当該事例においては、放棄をなすことにつき合理的理由があり、自由な意思に基づいているとし、放棄は有効と判断しました。
(最高裁第二小法廷・昭和48年1月19日 民集27巻1号27頁)

ポイントと解説

この判例は、未払い賃金請求について和解したとしても、労働者側が、事後的に「会社におどされて賃金債権の放棄をさせられた」などと主張し、和解が無効となる可能性を示唆しています。したがって、会社側は、和解の経緯について十分な記録をとる必要があります。

和解が「賃金債権の放棄」として問題になり得る可能性

最高裁は、シンガー・ソーイング・メシーン・カムパニー事件にて、「賃金債権の放棄」は自由な意思に基づいてなされる限り全額払の原則に抵触しないと判断しています。
したがって、「賃金債権の放棄」が自由な意思に基づいてなされていないと判断されるような交渉態様の場合は、問題となり得ます。

和解で解決するにあたって使用者が注意すべき点

和解の内容自体に着目されがちですが、交渉の経過や経緯の記録も重要です。
なぜなら、労働者の自由な意思に基づいて放棄がなされたか否かは、和解の合意書だけみてもわからないのが通常だからです。

よくある質問

残業代請求で和解が成立しなかった場合はどうなるのでしょうか?

交渉であれば、労働審判や訴訟等のより強硬な解決手段がとられていくことでしょう。
また、訴訟であれば、判決へ向かっていくこととなります。

未払い残業代の請求で、労働基準監督署が介入することはありますか?

残業代が未払いであることの証拠がある場合には、労働基準監督署は、必要に応じて、調査の実施や、会社に対して是正勧告を出すことがあります。
しかし、労働基準監督者が残業代の計算や、労働者を代理して会社と交渉をすることはありません。
労働基準監督署は個人の救済というよりは、法令順守を企業側に求めることを目的とした組織だからです。

退職する従業員に、退職後に残業代を請求しないと約束する誓約書を交わすことは可能ですか?

可能ですが、自由な意思に基づいて合意がなされたことを証明するため、交渉経緯についての記録は残しておいてください。

未払い残業代請求における、和解金の相場はいくらぐらいですか?

未払い残業代の金額、発生期間及び事情により1件1件異なりますので、相場というものは存在しません。

未払い残業代の請求に時効はあるのでしょうか?

2020年3月31日までに発生したものについては2年、同年4月1日以降に発生したものについては3年で時効により消滅します。

従業員の退職時に、未払い賃金がない旨の念書を取り交わしました。この念書に法的な効力はありますか?

自由な意思に基づいて合意がなされたことが証明できるのであれば、法的な効力はあります。

賃金債権放棄が無効とされるのはどのようなケースですか?

会社から、様々な圧力を用いて、和解を強要するようなケースです。

残業代請求の和解後に「和解は会社から強要された」と主張されました。この場合はどう対処すべきでしょうか?

まず、どのような事実を指して「強要された」と主張しているのか確認すべきでしょう。
その上で、「強要された」のか否かについて議論をする必要があります。

和解交渉は口頭よりも書面でやり取りした方がいいのでしょうか?

一般論から言えば書面でのやり取りが望ましいです。
対面での交渉であれば、双方予期しないやり取りが生じる可能性が高まるためです。

和解合意書を作成しておけば、再度残業代を請求されることはないですか?

和解合意書を作成したとしても、
①当該和解自体が、労働者の自由な意思によらないとの主張がなされたり、
②合意内容の不備が指摘される
等により、再度残業代を請求されることはあり得ます。
したがって、弁護士関与のもと、作成経緯の記録と、合意前の文案確認は必須です。

未払い残業代請求で和解による早期解決を目指すなら、経験豊富な弁護士に依頼することをお勧めします

残業代請求がされている際、闇雲に和解を成立させればよいというものではありません。
特に労働分野は、和解に至るまでの交渉と、和解の内容に注意が必要ですので、弁護士に相談ください。

この記事の監修

横浜法律事務所 所長 弁護士 沖田 翼
弁護士法人ALG&Associates 横浜法律事務所 所長弁護士 沖田 翼
神奈川県弁護士会所属。弁護士法人ALG&Associatesでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。
神奈川県弁護士会所属。弁護士法人ALG&Associatesでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。

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