監修弁護士 伊東 香織弁護士法人ALG&Associates 横浜法律事務所 所長 弁護士
交通事故でケガをして、病院に通った場合、精神的苦痛に対する慰謝料を請求することが可能です。
慰謝料は基本的に通院日数・期間に応じて支払われるものであるため、6ヶ月という長期の通院になると、相手に請求できる慰謝料も高額となる傾向にあります。
ただし、相手方の保険会社から、相場よりも低い慰謝料が提示されることも少なくありません。安易に相手の提案に応じると、適正な慰謝料が受け取れなくなるおそれがあります。
そこで、本記事では、6ヶ月通院した場合の慰謝料にスポットをあて、正しい慰謝料の相場や、治療費の打ち切りを打診された場合の対応方法等について解説していきますので、ぜひお役立て下さい。
6ヶ月の通院期間ではどれくらいの慰謝料がもらえるの?
交通事故でケガをして通院した場合、加害者に対して、「入通院慰謝料」を請求することができます。
入通院慰謝料は、基本的に、通院期間や実通院日数を基礎として計算され、期間・日数が長くなればなるほど、慰謝料も増えるのが通常です。ただし、ケガの症状や治療内容に照らして、通院頻度が少なすぎると、慰謝料が減額されることもあります。
また、慰謝料の相場は、軽傷(すり傷、むちうち等)か、重傷(骨折、脱臼等)かによっても、相場が異なります。
例えば、むちうちの軽傷で、通院期間6ヶ月、実通院日数60日間の場合の入通院慰謝料は、下表のとおりです。
自賠責基準 | 弁護士基準 | |
---|---|---|
むちうちで他覚所見がない場合や軽傷の場合 | 51万6000円 | 89万円 |
それ以外の怪我(骨折等の重傷) | 51万6000円 | 116万円 |
なお、自賠責基準とは、加害者側の自賠責保険が用いる最低補償の基準です。
これに対し、弁護士基準とは、弁護士が加害者側に慰謝料を請求する際に用いる基準です。被害者に過失がない事故の場合は、基本的に、自賠責基準よりも弁護士基準の方が、慰謝料が高額となることが多くなります。
通院期間とは
通院期間とは、初診日から治療終了日、または初診日から症状固定日までの期間のことをいいます。
症状固定日とは、「症状がまだ残っているものの、これ以上治療を続けても、改善が望めない状態に陥ったと主治医が判断した日」のことをいいます。
なお、基本的に、治療終了日、または症状固定日以降の通院は、入通院慰謝料の支払い対象となりません。
実通院日数とは
実通院日数とは、ケガの治療のために、実際に病院へ通院した日数のことをいいます。
あくまで通院「日数」であるため、例えば、1日に2回に分けて通院したり、1日に病院と接骨院2つ通ったりしても、実通院日数は1日として数えられます。
入通院慰謝料は通院期間に応じて算定されるのが通常ですが、ケガの症状や治療内容などに照らし、通院頻度が極端に低い場合は、実通院日数に応じて、慰謝料が算定される場合があります。
ただし、通院日数を増やせば、慰謝料が増えるというわけではありません。必要以上に通院すると過剰診療が疑われ、過剰と判断された治療費の支払いを拒否されたり、慰謝料が減額されたりすることがあるためご注意ください。
通院が少ないと慰謝料が減る
自賠責基準による入通院慰謝料は、1日あたり4300円(2020年3月31日以前に起きた事故については4200円)で算定します。そのため、通院日数が少ないと、慰謝料の合計額が減ることになります。
一方、弁護士基準による入通院慰謝料は、基本的に、実通院日数ではなく、通院期間をベースに算定します。しかし、通院期間が長くても、実通院日数が少ない場合は、軽傷の場合で実通院日数の約3倍、重症の場合で実通院日数の約3.5倍が、慰謝料算定の通院期間として用いられることがあり、その場合は入通院慰謝料が減額されます。
ただし、骨折などのケガのように、実際に通院治療を行うより、自宅療養で安静にしていた方がケガの治療に有効と判断された場合は、通院頻度が低くても、通院期間を慰謝料の算定期間とする場合もあります。
実通院日数が少ない場合の慰謝料はいくら?
それでは、実通院日数が少ない場合の慰謝料の相場を見てみましょう。
ここでは、日弁連が発行する通称・赤い本に掲載された「慰謝料算定表」を使い、弁護士基準による慰謝料を日割り計算して、慰謝料を算出します。
【通院6ヶ月、月1日しか通院しなかった場合】
- 実通院日数:6日
- 通院期間:6日×3=18日(通院頻度が極端に少ないため実通院日数×3とします)
- 慰謝料の計算式:1ヶ月分の慰謝料×18/30
- 軽傷の慰謝料:19万円×18/30=11万4000円
- 重傷の慰謝料:28万円×18/30=16万8000円
【通院6ヶ月、週1日しか通院しなかった場合】
- 実通院日数:24日
- 通院期間:24日×3=72日(通院頻度が少ないため、実通院日数×3とします)
- 慰謝料の計算式:2ヶ月分の慰謝料+2ヶ月と3ヶ月の慰謝料の差額×12/30
- 軽傷の慰謝料 36万円+(36万-19万)×12/30=42万8000円
- 重傷の慰謝料 52万円+(73万-52万)×12/30=60万4000円
【通院6ヶ月、週3日通院した場合】
- 実通院日数:72日
- 通院期間:180日(適切な通院頻度が保たれているため、原則どおり180日で計算します)
- 軽傷の慰謝料:89万円
- 重傷の慰謝料:116万円
月1通院 | 週1通院 | 週3通院 | |
---|---|---|---|
むちうちで他覚所見がない場合や軽傷の場合 | 11万4000円 | 42万8000円 | 89万円 |
それ以外の怪我(骨折等の重傷) | 16万8000円 | 60万4000円 | 116万円 |
相手方から治療費打ち切りの話が出た場合の対応
ケガの治療費は、相手方の保険会社が病院に直接支払ってくれる場合が多いです。
しかし、ある程度治療を続けると、保険会社から「そろそろ症状固定ですね」と言われ、それと同時に治療費の支払いの打ち切りを打診されることがあります。
ケガの症状によりますが、打ち切りの打診時期は、打撲で通院1ヶ月、むちうちで通院3ヶ月、骨折で通院6ヶ月というケースが多くなります。
しかし、医師がまだ治療が必要だと判断しているなら、打診を受け入れる必要はありません。ケガが治っていないのに、治療を終えると、ケガが悪化したり、慰謝料が減額されたりするおそれがあります。そのため、安易に打ち切りに応じず、保険会社に治療費支払いの延長を求めることが重要です。
仮に、治療費の支払いが打ち切られたとしても、健康保険などを使って、治療費を被害者側でいったん立て替えて治療を続け、立て替えた分を示談交渉時に加害者に請求する等の方法もあります。
まだ通院が必要な場合
医師から、「まだ治療が必要である」という診断を受けたら、相手方の保険会社に対して、以下の対応が必要となります。
【治療の必要性を訴える】
具体的には、ケガの症状や治療がいつ終わるのか等、医師に医学的な見解を診断書やカルテに記載してもらい、その写しを保険会社に見せて、治療費の支払いの延長交渉を行う
ただし、個人で治療の必要性を訴えても、相手方の保険会社が治療費の支払いを頑なに拒否する場合はよくあります。このようなケースでは、交通事故に精通した弁護士に一度相談し、今後の対応方法についてアドバイスを受けられることをおすすめします。
まずは交通事故チームのスタッフが丁寧に分かりやすくご対応いたします
6ヶ月の通院後、「症状固定」と診断されたら
症状固定とは
症状固定とは、これ以上治療を続けても、改善の見込みがない状態になったことをいい、そのタイミングは医師が判断します。
基本的に、症状固定日以降に発生した治療費や慰謝料については、加害者側に請求できなくなるため、症状固定日については慎重な見極めが必要となります。
なお、症状固定日に、痛みやしびれなどの後遺症が残っている場合は、後遺障害等級認定の申請が行えるようになります。
後遺症が残ったら
後遺症が残った場合は、後遺障害等級認定を受けられる可能性があります。
後遺障害等級認定とは、自賠責保険から「間違いなく、交通事故によって負った後遺障害です」と正式に認定を受けることをいいます。
後遺障害として認定されると、後遺障害等級(1級~14級)に応じた後遺障害慰謝料や逸失利益を請求できるようになるため、損害賠償金額が大幅にアップする可能性があります。
ただし、自覚症状だけで後遺障害認定を受けることは簡単ではなく、MRIやレントゲンなどの画像検査や、触診などによる神経学検査を受け、後遺症の存在を証明する医学的な証拠を得ることが必要となります。また、医師に書いてもらう「後遺障害診断書」の内容も後遺障害認定の可否を左右するため重要です。
適切な後遺障害認定を受けるには、専門知識が必要とされ、提出資料も多岐にわたるため、弁護士のサポートを受けることをおすすめします。
後遺障害等級認定についての詳細は、以下の記事をご覧ください。
後遺障害等級認定の申請方法主婦が6ヶ月通院した場合の慰謝料
主婦であっても、会社員等と同じように、慰謝料を請求することが可能です。
慰謝料をもらえるかどうかについて、収入の有無は関係ありませんので、主婦であるからといって、慰謝料を減額されることもありませんので、ご安心ください。
また、主婦は慰謝料の他にも、主婦の休業損害(主婦の休損)を請求できる場合があります。
休業損害とは、仕事を休んだ分の減収分の補償をいいますが、家事も労働の一種と考えられていますので、事故によるケガのために、家事をすることができなかった場合は、休業損害を請求することが可能です。
なお、家事に支障が出た日の証明は容易でないため、基本的には、実際に通院した日数に応じて、休業損害が算定されるのが通常です。
家事ができなくなって家政婦に来てもらった場合は?
家事ができなくなって、家政婦を雇った場合の家事代行費用も、相手方の保険会社に請求することが可能です。ただし、相場よりも高額であったり、ケガの症状に照らして、必要以上に家政婦に頼んでいたりする場合は、費用を全額支払ってもらえない場合があります。
なお、家政婦を雇った日については、基本的に、主婦休損を請求することができません。
例えば、休業日数が14日で、家政婦を雇った日数が5日だとすると、以下のいずれかを相手方に請求することになります。
①9日分の休業損害+5日分の家事代行費用
②14日分の休業損害
具体的には、①と②の金額を比較し、高額である方を請求するのが望ましいといえます。
6ヶ月ほど通院し、約800万円の賠償金を獲得した事例
6ヶ月ほど通院し、約800万円の賠償金を受け取ることができた、弁護士法人ALGの解決事例をご紹介します。
【事案の概要】
依頼者は相手方の車に追突され、むちうちを負いました。
6ヶ月ほど治療を続けたものの、後遺症が残ったため、頚椎除圧固定の手術を受け、その後、後遺障害等級11級7号の認定を受けました。
相手方は、依頼者の手術は、事故前からあった首の疾患が主な原因であるとして、30%の素因減額を主張しました。
【担当弁護士の活動】
弁護士が裁判を起こしたところ、相手方は、顧問医の意見書を提出し、「依頼者の首に事故前からあった加齢によって起きた変性が、本手術を行うことになった主な原因である」と主張しました。
そこで、当方は相手方の主張や証拠の曖昧な点を指摘し反論しました。
【解決結果】
裁判所は当方の主張を認め、素因減額は認めないという判断を下しました。
その結果、既払い金を除き、約800万円の賠償金を受け取る内容での和解成立に成功しました。
6ヶ月通院した場合の慰謝料請求は弁護士にお任せください
通院6ヶ月目は、交通事故の慰謝料請求において、様々な対応を迫られる節目の時期です。
通院期間が長いため、慰謝料も高額となることが予想され、さらに後遺障害等級認定を受けられる可能性も出てきます。また、相手方の保険会社が治療費の打ち切りを打診し始める時期でもあるため、延長交渉などの対応も必要となります。
今後の対応に少しでも疑問や不安を感じた場合は、ぜひ弁護士にご相談ください。
弁護士に任せれば、治療費の支払いの延長交渉、後遺障害認定の支援、弁護士基準による慰謝料の増額交渉等をしてもらえるため、適正な賠償を受けられる可能性が高まります。
通院を6ヶ月続けられ、慰謝料についてお悩みの場合も、交通事故対応を得意とする弁護士法人ALGにご相談ください。
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保有資格弁護士(神奈川県弁護士会所属・登録番号:57708)