交通事故の慰謝料を適正な金額で受け取るためには

交通事故

交通事故の慰謝料を適正な金額で受け取るためには

横浜法律事務所 所長 弁護士 伊東 香織

監修弁護士 伊東 香織弁護士法人ALG&Associates 横浜法律事務所 所長 弁護士

交通事故に遭ってしまったとき、どんなお金が請求できるのでしょうか。
まず、怪我の治療費、車の修理代、仕事を休まなければならなかったことによる収入減分などが思い浮かぶのではないでしょうか。これらは全て「損害賠償」として、加害者に請求できるお金です。
そして、この「損害賠償」の中の1つに、「慰謝料」があります。
不倫された人が、不倫した配偶者やその不倫相手に対し慰謝料を請求できるように、交通事故においても、事故の被害者は、事故に遭ってしまったことによる精神的苦痛を、慰謝料として加害者に賠償してもらうことが可能です。今回は、この交通事故における慰謝料について解説します。

交通事故における慰謝料とは

交通事故に遭遇し生命の危機や強い恐怖を感じた場合、その後も、突然事故の光景がフラッシュバックしたり、怪我をしたことにより辛い治療や手術に耐えなければいけなくなったり、後遺障害で仕事に制限ができてしまったり・・・
事故に遭ったことでトラウマを抱え、事故後の精神健康状態が悪化したり、仕事や日常生活に支障をきたしてしまったりすることも、珍しくありません。
交通事故における慰謝料は、交通事故の被害者が、加害者に対し、このような「事故に遭ってしまったせいで被った精神的な苦痛」を賠償してもらうものです。具体的には、以下の3種類があります。

  • 入通院慰謝料
  • 後遺障害慰謝料
  • 死亡慰謝料

入通院慰謝料

入通院慰謝料とは、文字通り、事故による怪我の治療のために通院したり、入院したりしたときに支払われる慰謝料(怪我の痛みや手術などの苦痛に対する損害賠償金)です。実際に医療機関で医師の治療を受けないと支払われません。
入通院慰謝料の額は、次の2つを基に金額を算出します。

  • 入通院日数(治療した実日数)
  • 入通院期間(治療開始日から治療終了日まで)

また、治療費や休業損害など、実際に発生した財産的損害と入通院慰謝料は別物です(財産的損害は入通院慰謝料の内容には含まれません)。これらを混同しないように注意しましょう。

後遺障害慰謝料

交通事故の怪我の治療は、「怪我が治癒した(治った)とき」と「症状が固定したとき」に終了します。「症状が固定したとき」とは、治療やリハビリによっても、これ以上の症状の改善が見込めないと判断された状態です。
例えば、事故により眼を怪我してしまい、治療を受けたものの、これ以上治療を続けても視力の回復は見込めないと判断された場合、「症状固定」とされます。症状固定というのは、医学的な概念ではなく法的な概念ですが、症状固定の判断は第一次的には、主治医が行います。この症状固定時に、残った障害(先の例でいうと、低下した視力の度合い)が1級から14級までの後遺障害等級に認定されれば、等級に応じた「後遺障害慰謝料」の請求権が発生します。

死亡慰謝料

交通事故により被害者が死亡した場合、死亡慰謝料が発生します。
死亡慰謝料には、以下の2種類があります。

①本人慰謝料(死亡した被害者本人の精神的苦痛を賠償させる慰謝料)
②遺族慰謝料(遺族が受けた精神的苦痛を賠償させる慰謝料)

死亡した被害者本人は加害者に慰謝料を請求することはできないので、請求権を相続した遺族(原則、配偶者、子、父母などの近親者)が、死亡した被害者に代わり①の本人慰謝料を請求することになります。慰謝料の金額は、遺族の人数や、死亡した被害者本人の家庭内での経済的な立場(一家の大黒柱か、専業主婦か、子供かなど)により、変動することがあります。

適正な交通事故慰謝料を算定するための3つの基準

交通事故の慰謝料には、入通院慰謝料、後遺障害慰謝料、死亡慰謝料の3種類があります。そして、これらの慰謝料は、目に見えない精神的苦痛の賠償金であるため、妥当だと思う金額は、慰謝料を払う側ともらう側、それぞれの主観によって異なります。
そこで、交通事故では、慰謝料を客観的に算定するための基準として、以下の3つが存在します。

①自賠責基準
(法令で定められた最低限の基準)
②任意保険基準
(自賠責保険と同等かそれより少し高い基準。保険会社により異なり、内容は非公開)
③弁護士基準(裁判基準)
(過去の裁判例を基に算定された基準。裁判や弁護士が示談交渉を行う際に用いる)

自賠責基準

すべての自動車やバイクは、自賠責保険への加入が義務付けられています。そのため、仮に事故の加害者が任意の保険に加入していなかったとしても、被害者は、この自賠責保険から補償を受けることができます。自賠責基準はこの自賠責保険における算定基準であり、3つの基準の中で、最も金額の低い、最低限の基準となることが多いです。
なお、補償の対象は事故による怪我や死亡などの損害(対人賠償)に限定され、自動車の破損などの物損は対象外です。また、自賠責保険で補償してもらえる傷害による損害は、治療費や休業損害などの財産的損害と慰謝料を全てひっくるめて、120万円が上限となっています。

任意保険基準

任意保険基準とは、民間の保険会社が独自に定めた損害金の算定基準です。内容は各保険会社によって異なりますが、自賠責基準と同等か、これよりも少し高い基準となっているようです。上限額のある自賠責保険からはみ出した部分の補償を、民間の保険会社で賄うというイメージです。
しかし、民間保険会社はあくまでも営利企業ですので、自社の利益のため、その支払基準は低く設定されています。そのため、自賠責保険を超える部分の保険金を出し渋られたり、治療の打ち切りを言い渡されたりすることも、珍しくありません。そのため、任意保険基準において算出された金額では、必ずしも充分な補償を受けられるわけではありません。

弁護士基準(裁判基準)

弁護士基準とは、過去の交通事故事件の裁判例を蓄積した基準であり、「もしこの交通事故の損害賠償を裁判で争った場合、過去の裁判例からするとこれくらいの金額が得られるであろう」というものです。裁判で用いられる基準のため、裁判基準ともいわれます。弁護士が示談交渉や裁判で賠償額を争うときは、この弁護士基準に則り行われます。弁護士基準は、自賠責基準や任意保険基準と比べて、基本的には最も高額な算定基準となることが多いです。

交通事故慰謝料の算定方法

交通事故の慰謝料(入通院慰謝料、後遺障害慰謝料、死亡慰謝料)の額は、

  • 自賠責基準
  • 任意保険基準
  • 弁護士基準

この3つの、どの基準をもとに算出するかによって変わります。本章では、その具体的な金額の算定方法について、解説します。 なお、任意保険基準での算出方法については、各保険会社が独自の算定基準(非公開)を定めており、保険会社以外の第三者では正確な金額の算出は不可能なため、本章での解説は割愛します。

入通院慰謝料

自賠責基準

自賠責保険における入通院慰謝料の額は1日4300円(但し、2020年3月31日以前に起きた事故については、1日4200円)であり、次の①と②の式で計算された金額のうち、低い金額となります。

① 4300円×対象日数(治療を始めた日から治療が終わった日までの期間)
② 4300円×{実治療日数(入院日数+通院日数)×2}

例えば、
・治療を始めた日から治療が終わった日までが100日
・入院したのは7日
・通院して治療を受けた実日数が30日
であった場合、
①の「対象日数」は100日 
②の「実治療日数×2」は74日(入院7日+通院30日の37日の2倍)
となるため、低い金額となる②の計算式が採用され慰謝料額は31万8200円となります。

弁護士基準

弁護士基準は、通称「赤い本※」と呼ばれる書籍の入通院慰謝料【別表Ⅰ】及び【別表Ⅱ】にまとめられおり、以下のように使い分けられます。

【別表Ⅰ】怪我が骨折などの他覚所見のある重症の場合
【別表Ⅱ】怪我がむちうちなどの他覚所見のない軽傷の場合

この表から算出される金額は、あくまでも相場の目安にすぎません。実際には、この金額に、怪我の程度や通院期間に対する実通院日数などの個別具体的要素が加味されます。

通常の怪我の場合【別表Ⅰ】
入院 1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月 13月 14月 15月
通院 AB 53 101 145 184 217 244 266 284 297 306 314 321 328 334 340
1月 28 77 122 162 199 228 252 274 291 303 311 318 325 332 336 342
2月 52 98 139 177 210 236 260 281 297 308 315 322 329 334 338 344
3月 73 115 154 188 218 244 267 287 302 312 319 326 331 336 340 346
4月 90 130 165 196 226 251 273 292 306 316 323 328 333 338 342 348
5月 105 141 173 204 233 257 278 296 310 320 325 330 335 340 344 350
6月 116 149 181 211 239 262 282 300 314 322 327 332 337 342 346
7月 124 157 188 217 244 266 286 304 316 324 329 334 339 344
8月 132 164 194 222 248 270 290 306 318 326 331 336 341
9月 139 170 199 226 252 274 292 308 320 328 333 338
10月 145 175 203 230 256 276 294 310 322 330 335
11月 150 179 207 234 258 278 296 312 324 332
12月 154 183 211 236 260 280 298 314 326
13月 158 187 213 238 262 282 300 316
14月 162 189 215 240 264 284 302
15月 164 191 217 242 266 286
むちうち等他覚所見のない比較的軽傷の場合【別表Ⅱ】
入院 1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月 13月 14月 15月
通院 A’B’ 35 66 92 116 135 152 165 176 186 195 204 211 218 223 228
1月 19 52 83 106 128 145 160 171 182 190 199 206 212 219 224 229
2月 36 69 97 118 138 153 166 177 186 194 201 207 213 220 225 230
3月 53 83 109 128 146 159 172 181 190 196 202 208 214 221 226 231
4月 67 95 119 136 152 165 176 185 192 197 203 209 215 222 227 232
5月 79 105 127 142 158 169 180 187 193 198 204 210 216 223 228 233
6月 89 113 133 148 162 173 182 188 194 199 205 211 217 224 229
7月 97 119 139 152 166 175 183 189 195 200 206 212 218 225
8月 103 125 143 156 168 176 184 190 196 201 207 213 219
9月 109 129 147 158 169 177 185 191 197 202 208 214
10月 113 133 149 159 170 178 186 192 198 203 209
11月 117 135 150 160 171 179 187 193 199 204
12月 119 136 151 161 172 180 188 194 200
13月 120 137 152 162 173 181 189 195
14月 121 138 153 163 174 182 190
15月 122 139 154 164 175 183

※「民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準」

後遺障害慰謝料

自賠責基準

交通事故によって負った後遺症が、後遺障害等級に該当すると認定された場合、後遺障害慰謝料の請求権が発生します。
自賠責保険における後遺障害に対する慰謝料額の目安は、障害の態様と等級に応じ、次の【別表第1】と【別表第2】に掲げられている金額となります。

なお、被害者に配偶者や子供などの被扶養者がいる場合は、さらに慰謝料額が加算されます。

別表第1 介護を要する後遺障害慰謝料
等級 自賠責基準
1級 1650万円(1850万円)
2級 1203万円(1373万円)

※カッコ内の金額は被扶養者がいる場合の適用額
自賠責基準は新基準を反映しています。令和2年4月1日より前に発生した事故の場合は、旧基準が適用されます。

別表第2 後遺障害慰謝料
等級 自賠責基準
1級 1150万円(1350万円)
2級 998万円(1168万円)
3級 861万円(1005万円)
4級 737万円
5級 618万円
6級 512万円
7級 419万円
8級 331万円
9級 249万円
10級 190万円
11級 136万円
12級 94万円
13級 57万円
14級 32万円

※カッコ内の金額は被扶養者がいる場合の適用額
自賠責基準は新基準を反映しています。令和2年4月1日より前に発生した事故の場合は、旧基準が適用されます。

弁護士基準

弁護士基準による後遺障害慰謝料の基準額も、自賠責保険と同様に、認定された後遺障害の等級に応じて、次の表のとおりに定められています。

自賠責保険のように、介護状態の態様で算定表上の金額に違いはありませんが、実際はこれに障害の重症度、事故の状況や扶養家族の状況など、さまざまな個別具体的な事情が加味され、金額が変動します。

等級 弁護士基準
1級 2800万円
2級 2370万円
3級 1990万円
4級 1670万円
5級 1400万円
6級 1180万円
7級 1000万円
8級 830万円
9級 690万円
10級 550万円
11級 420万円
12級 290万円
13級 180万円
14級 110万円

死亡慰謝料

自賠責基準

自賠責基準では、被害者本人分と遺族固有分がはっきりと区別されているのが特徴です。
本人分は年齢や性別などにかかわらず一律400万円と決まっています。
遺族固有分は、下表のとおりです。遺族としてみなされるのは、
・配偶者
・子供(養子、認知した子及び胎児も含む)
・父母(養父母を含む)
が基本で、人数と扶養状況によって金額が異なります。

請求権者の人数 金額
1人 550万円
2人 650万円
3人以上 750万円
被扶養者がいる場合 上記プラス200万円

例えば、死亡者(夫)に妻と子が1人いて、夫が扶養していた場合、自賠責基準における死亡慰謝料の額は、
400万円(本人慰謝料)
650万円(請求権者2人の額)
200万円(扶養者加算)
の、合計1250万円となります。

弁護士基準

弁護士基準では、本人分と遺族固有分を合わせた総額として、目安の金額が下表のとおりに定められています。

死亡者の属性 金額
一家の大黒柱 2800万円
母親、配偶者 2500万円
その他
(独身の男女、子供、幼児など)
2000万~2500万円

自賠責基準と比べると、トータル的にみても高額であることが一目瞭然です。
また、実務上は、この目安額に、死亡者の収入や事故が起きた経緯、家族構成などの個別具体的な事情が考慮されることとなりますので、金額が変動する可能性があります。

まずは交通事故チームのスタッフが丁寧に分かりやすくご対応いたします

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通院期間別の入通院慰謝料相場比較

(例)通院期間3ヶ月・実通院日数45日の場合

自賠責基準 弁護士基準
38万7000円 重症73万円
軽傷53万円

※通院期間は30日を1ヶ月としてカウントします。
①通院期間=3ヶ月×30日=90日、
②実通院日数(45日)×2=90日
①、②いずれも90日となるため、自賠責基準における入通院慰謝料の額は、
日額4300円×90日=38万7000円となります。

※弁護士基準では、
重症の場合は入通院慰謝料【別表Ⅰ】
軽傷の場合は入通院慰謝料【別表Ⅱ】
を基準に算定します。

※通院期間が3ヶ月の場合、軽いむちうちや打撲などのケースが考えられます。

(例)通院期間6ヶ月・実通院日数(85日)の場合

自賠責基準 弁護士基準
73万1000円 重症116万円
軽傷89万円

※通院期間は30日を1ヶ月としてカウントします。
①通院期間=6ヶ月×30日=180日
②実通院日数(85日)×2=170日
自賠責基準における入通院慰謝料の額は、少ない日数である②の170日が対象日数となり、
日額4300円×170日=73万1000円となります。

※弁護士基準では、
重症の場合は入通院慰謝料【別表Ⅰ】
軽傷の場合は入通院慰謝料【別表Ⅱ】
を基準に算定します。

※通院期間が6ヶ月の場合、むちうちや、経過が良好な軽い骨折などのケースが考えられます。

(例)通院期間8ヶ月・実通院日数(140日)の場合

自賠責基準 弁護士基準
103万2000円 重症132万円
軽傷103万円

※通院期間は30日を1ヶ月としてカウントします。
①通院期間=8ヶ月×30日=240日
②実通院日数(140日)×2=280日
自賠責基準における入通院慰謝料の額は、少ない日数である①の240日が対象日数となり、
日額4300円×240日=103万2000円となります。

※弁護士基準では、
重症の場合は入通院慰謝料【別表Ⅰ】
軽傷の場合は入通院慰謝料【別表Ⅱ】
を基準に算定します。

※通院期間が8ヶ月の場合、長引くむちうちや、骨癒合まで時間のかかる関節部(膝、腰、肩、肘など)の骨折などのケースが考えられます。

慰謝料以外にも請求できるものがある

交通事故に遭うと、怪我の治療費や病院までの交通費、休業を余儀なくされたことによる収入減、車の修理代など、様々な損害が発生します。
「損害賠償」は、これらの交通事故により発生した損害金の総称です。
「法律」に民法や刑法などたくさんの種類があるように、「損害賠償」のうちの1つとして、慰謝料や治療費、車の修理代などがあります。
「損害賠償」として加害者に請求できるお金は、慰謝料の他には何があるでしょうか。以下で解説します。

休業損害

交通事故に遭い怪我をすると、入院や治療のために、仕事を休んだり、勤務時間を短縮したりする必要性が生じる場合があります。休業損害とは、このように、事故が原因で仕事ができなかったり、仕事時間が減ったりしたために生じた収入減をいいます。
この点、会社員の方が有給休暇を使用して入通院した場合でも、休業損害は請求できます。また、専業主婦の方が事故に遭った場合も、家事は労働としてお金に換算することが可能なので、休業損害が請求できるケースがあります。

逸失利益

逸失利益とは、「この交通事故がなければ、本来なら将来にわたって得られたであろうお金」のことです。以下の2種類があります。

①後遺障害逸失利益 交通事故により後遺障害等級に認定される程の障害を負った場合、事故前と同じ仕事が全くできないか、仕事内容に制限が生じることがあります。その結果、事故前の収入水準を維持できずに、生涯年収の低下につながります。後遺症逸失利益は、このような、後遺障害を負ったせいで失った将来の収入を補償するものです。認定された等級により、金額が異なります。

②死亡逸失利益 交通事故の被害者が、死亡しなければ本来得られていたであろう、将来の収入相当額に対する補償です。死亡時点での年収や年齢などを基に算出されます。

その他に請求できるもの

交通事故の損害賠償として加害者に請求できるお金には、慰謝料、休業損害、逸失利益のほか、一例として、以下のものが挙げられます。

  • 治療費
    必要性、相当性が認められない過剰診療や著しく高額な診療は、補償の対象外です。
  • 付添費用
    被害者の入通院に親族などが付き添う際に発生する損害金です。
  • 雑費
    入院雑費は1日1500円、将来の雑費としておむつ代や介護用品代などが認められます。
  • 交通費、宿泊費
  • 子供の学習費、保育費、通学付添費
    事故を原因とする進級遅れや補習費などが認められます。
  • 装具、器具などの購入費
    義歯、義眼、義手、義足、車椅子介護支援ベッドなど、必要があれば将来の交換費用も含めて認められます。
  • 家屋や自動車の改造費
  • 葬儀関係費用
    原則150万円ですが、これを下回る場合は実際に支出した額となります。
  • 診断書などの文書料
  • 車の修理代

ただし、いずれも事故との因果関係と請求の相当性が認められる必要があります。

交通事故慰謝料を受け取るまでの流れ

交通事故が発生してから慰謝料を受け取るまでの流れは、次のとおりです。

①事故発生(警察への通報、保険会社への連絡など)

②治療開始

③治療の終了(治癒または症状固定)

④症状固定の場合、後遺障害等級の認定手続き
※後遺障害等級の認定申請をした場合、症状の重さによりますが、結果が出るまで1ヶ月から2ヶ月ほど要します。認定された等級に納得がいかない場合、異議を申し立てることができます。

⑤示談交渉
※スムーズにいけば3ヶ月ほどで終了しますが、争いがある場合は、1年以上、長期間にわたることもあります。

⑥示談成立
※示談が不成立となった場合、裁判やADR(裁判外紛争解決手続)などで争うことがあります。裁判になった場合、審理期間は平均12ヶ月位といわれているため、慰謝料を受け取るまで、さらに時間を要します。

⑦示談金の支払い
※示談成立後、一定の期間の後、保険会社から慰謝料を含む示談金が支払われます。

慰謝料の支払い時期について

交通事故に遭ってから実際に慰謝料を受け取るまでには、原則、治療が終了した後に、示談交渉を経て、金額を確定しなければなりません。
しかし、交通事故に遭うと、治療費の負担や休業による収入減など、被害者には大きな経済的負担がかかります。このような状況が何ヶ月(事案によっては1年以上)も続くことによる経済的困窮を避けるため、被害者は、任意保険会社に対し、損害金の一部(治療費や休業損害など)を示談交渉の成立前に先払いするよう、求めることができます。なお、この先払い請求に応じるかどうかは、各保険会社の判断によるうえ、慰謝料の先払いは不可能ではないですが、なかなか認められないのが実情です。

慰謝料の増減要素

自賠責基準による慰謝料の額は、画一的に定められています。任意保険基準に基づき保険会社が提示する慰謝料も、自賠責保険と同等の金額と考えられます。
一方で、弁護士基準に則れば、事故が起きた経緯や状況、加害者の態様、被害者の過失などの個別具体的な事情によっては、保険会社の提示した慰謝料の額から大きく変動する可能性があります。慰謝料が増額するケース、減額されるケースにはどのようなものがあるでしょうか。以下で解説します。

慰謝料が増額するケースとは?

基本的に、保険会社が提示する慰謝料の額は自賠責基準と同程度であり、最低限の水準の金額となります。しかし、加害者や事故の態様などにより、示談交渉で、保険会社が提示した慰謝料の額から増額できる可能性があります。過去の裁判例で増額が認められた例として、以下が挙げられます。

  • 加害者の態様が悪質である場合
    (運転中に違法薬物を使用していた、飲酒運転をしていた、ひき逃げをした…など)
  • 怪我や後遺障害の態様が、大きな精神的苦痛を伴うものである場合
    (生死をさ迷うほどの大きな怪我をした、つらい治療や手術を何度も受けなければならなかった…など)
  • 家族が精神的な苦痛を被った場合
    (兄が妹の死亡事故を目撃した、経済的支柱である夫が亡くなったために家族の経済状況が悪化した…など)

慰謝料が減額する要素

交通事故による慰謝料は、事故の内容や加害者の態様により、保険会社の提示額から増額できるケースがある一方で、被害者の元々の身体的、心因的な健康状態によっては、保険会社が、慰謝料を含む損害賠償の減額を主張してくる可能性があります。これを「素因減額」といいます、例えば、以下のようなケースです。

  • 被害者が元々患っていた椎間板ヘルニアが、交通事故が原因で悪化した場合
  • 被害者が元々患っていたうつ病が、交通事故後のPTSDの発症に寄与したと認められる場合

また、被害者の過失割合が高い(被害者の落ち度が大きい)場合にも、慰謝料を含む損害賠償金が減額される可能性があります。例えば、被害者(歩行者)が、酩酊中に横断歩道のない道路を横断している際に、走行中の自動車と接触し怪我をしたような場合には、被害者にも落ち度があるとして、損害賠償額が減額される可能性があります。

適切な慰謝料を請求するために

必ず整形外科で診てもらう

交通事故に遭った場合、目立った怪我や症状がなくても、まず、初診は必ず「医療機関」を受診しましょう。交通事故で多く見られる捻挫・骨折などの場合は「整形外科」を受診し、「医師」に診断書を交付してもらいましょう。事故直後に自覚症状がなくても、数日後に体の痛みが発症することがあります。そして、治療費や慰謝料を請求するためには、医療機関で治療を受けたという事実と、医師による診断書が必要となります。この点、「整骨院」は医療機関ではないため、医師による治療や診断書の交付を受けることはできません。そのため、整形外科を一度も受診しないまま整骨院での施術を受けるだけでは、慰謝料や治療費などの損害賠償が適切に請求できない場合があります。

人身事故で処理する

交通事故に遭遇した場合、直後に目立った外傷や自覚症状がなくても、痛みや違和感が発生すれば、警察には「物損事故」ではなく「人身事故」として処理してもらいましょう。
物損事故で処理されてしまっても、治療費や慰謝料の賠償を受けることは多くの場合できますが、不利益がないとは言えません。
特に、物損事故では実況見分調書が作られないため、事故状況に被害者と加害者との間で食い違いがある場合に揉めやすくなります。
また、物損事故で処理していることから、怪我自体が軽傷と判断され治療が早く打ち切られてしまうケースもあります。
むちうちなどで体に痛みや違和感がある場合には、警察に診断書を提出し人身事故へと切り替えをしましょう。

慰謝料が減額する要素

交通事故における加害者側の保険会社は、自社の利益のため、被害者の過失割合や既往症などを理由に、慰謝料を含む示談金の額を、大幅に減額した額で提示してくることがあります。必ずしも、被害者の目線に立ち、被害者の補償のために充分な金額を支払ってくれるとは限らないということです。
被害者は、保険会社の提示した額を鵜吞みにし、安易に同意してしまうと、本来請求可能であった金額が受け取れず、損をしてしまう可能性があります。一旦成立した示談交渉は、原則やり直せないからです。
この点、弁護士は、過去の裁判例の蓄積である弁護士基準に則り、保険会社と示談交渉を行います。そのため、慰謝料を含む示談金の減額を防ぐだけにとどまらず、事案によっては、保険会社が提示する金額からの増額も実現可能です。

 

交通事故に関して不安があれば、弁護士へご相談ください

交通事故に遭遇し損害賠償を受けるためには、事故後の処理から治療・通院、後遺障害等級の認定や示談交渉に至るまで、長期間にわたり、たくさんの段階を適切に経なければなりません。
また、後遺障害等級が思っていたより低い等級で認定されてしまったり、保険会社から治療の打ち切りを宣言されたり、自賠責保険の基準を超える額の保険金を出し渋られたりすることもあります。
この点、交通事故事件に精通した弁護士であれば、治療内容のアドバイス、後遺障害等級認定の異議申立て、休業損害や逸失利益の適正額の算定、被害者の代理人として保険会社との交渉及び最も高額な算定基準である弁護士基準に則った損害賠償金の獲得など、被害者の利益の最大化に向け、様々な局面からのサポートが可能です。
安易に示談交渉に同意する前に、保険会社から提示された金額が本当に適正なものなのか、弁護士の判断を仰ぐことをおすすめします。

横浜法律事務所 所長 弁護士 伊東 香織
監修:弁護士 伊東 香織弁護士法人ALG&Associates 横浜法律事務所 所長
保有資格弁護士(神奈川県弁護士会所属・登録番号:57708)
神奈川県弁護士会所属。弁護士法人ALG&Associatesでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。