監修弁護士 伊東 香織弁護士法人ALG&Associates 横浜法律事務所 所長 弁護士
交通事故に遭った後で、めまいに悩まされる方も少なくありません。事故によるめまいで通院が必要になったり、後遺症としてめまいが残ってしまった場合、事故の加害者に慰謝料を請求することはできるのでしょうか?
交通事故によるめまいで疑われる症状を踏まえて、本ページで詳しく解説していきます。
交通事故によるめまいで慰謝料はもらえるのか
交通事故によってめまいが生じた場合、慰謝料を請求できる可能性があります。 ただし、単に「めまいがする」と訴えるだけでは慰謝料を認めてもらうことはできません。
慰謝料とは、交通事故が原因で被害者の方に生じた精神的苦痛に対する賠償金のことで、事故によるめまいで請求できる可能性がある慰謝料は“入通院慰謝料”と“後遺障害慰謝料”の2種類です。
このうち、入通院慰謝料は事故が原因で通院・入院した場合に認められますが、後遺障害慰謝料を認めてもらうためには、事故とめまいの因果関係が証明されて“後遺障害等級”の認定を得る必要があります。
交通事故でめまいが起こる原因
交通事故後にめまいの症状があらわれた場合、次に挙げる症状が原因であることが考えられます。
- 良性発作性頭位めまい症
- 外リンパ瘻
- むちうち
- バレリュー症候群
- 軽度外傷性脳損傷
- 脳脊髄液減少症
このなかには重篤な後遺症に繋がるものもあるので、早めに医療機関で検査を受けることが大切です。 それぞれの傷病について、次項で詳しくみていきましょう。
良性発作性頭位めまい症
良性発作性頭位めまい症は、交通事故で頭部に衝撃を受けることで発症することが多い、耳の病気です。 衝撃ではがれた耳石が三半規管に入り込むことにより、めまいなどの症状を引き起こします。
【特徴】
頭を動かしたときに回転性のめまいが生じ、耳鳴りや難聴を伴わないのが特徴です。 めまいのほかには、頭痛、吐き気、しびれといった症状があります。 こうした症状があらわれた場合は、耳鼻咽喉科を受診しましょう。
【治療】
安静にしていれば自然治癒することが多いですが、症状が強い場合は耳石を戻すために耳石置換法という治療が行われることがあります。
外リンパ瘻
外(がい)リンパ瘻(ろう)は、交通事故の衝撃やエアバックに頭部を打ちつけることで発症することがある、耳の病気です。 内耳に穴があいてリンパ液が漏れてしまうことで、めまいなどの症状を引き起こします。
【特徴】
めまいのほかに、耳鳴り、難聴といった症状が生じます。 水の流れるような耳鳴りや、水の中にいるような耳鳴りがあらわれたら、外リンパ瘻の疑いがあるので、耳鼻咽喉科で精密検査を受けましょう。
【治療】
一般的には、安静にして穴が自然閉鎖するのを待ちます。 症状によっては、穴を塞ぐための手術が必要になる場合があります。
むちうち
むちうちは、交通事故による衝撃で首に強い負荷がかかることにより引き起こされる症状の総称です。 首まわりの骨、関節、筋肉、神経が傷ついて、痛みやしびれ、吐き気、めまいなどのさまざまな症状を引き起こします。
【特徴】
むちうちによるめまいは、画像検査などで異常がみつからないことも多く、診断が難しいという特徴があります。 一見すると交通事故とは無関係に思えるめまいでも、むちうちが原因である可能性が考えられるので、整形外科を受診しましょう。
【治療】
むちうちの症状の多くは、整形外科に通院してリハビリを行うことで改善します。 なかには症状が長引き、後遺症として残ってしまう場合があります。
バレリュー症候群
バレリュー症候群は、交通事故で首まわりを損傷することにより発症することがあります。 首に受けた衝撃により、交感神経に不具合が生じて、めまいなどの自律神経に関わるさまざまな症状を引き起こします。
【特徴】
めまいのほかに、頭痛、しびれ、耳鳴り、難聴、食欲不振、不眠、全身倦怠など、自律神経に関わる症状が主体となるのが特徴です。 むちうちと似た症状が多いので、まずは整形外科を受診しましょう。
【治療】
一般的には、むちうちの治療に準じて安静と消炎鎮痛剤による治療が行われますが、交感神経の働きを正常に戻すために、麻酔科医やペインクリニック科で星状神経ブロックなどの療法が行われる場合もあります。
軽度外傷性脳損傷
軽度外傷性脳損傷は、交通事故で頭部を強く打ったり、揺さぶられたりすることで発症することがあります。 脳に衝撃が伝わって脳損傷が起こり、めまいなどの症状を引き起こします。
<WHOの定義>
軽度外傷性脳損傷(MTBI)について、世界保健機関(WHO)では「30分以内の意識喪失、24時間未満の外傷後健忘症を示す軽度の脳損傷」と定義しています。
【特徴】
画像検査で異常がみつからないことが多いです。 事故後、数日から数週間後にめまいや頭痛、記憶障害、手足のしびれといった症状があらわれることがあるので、いつもと違うと感じたら、すみやかに脳神経外科や整形外科を受診してください。
【治療】
名称に「軽度」とつくものの、重度の意識障害がないというだけで、決して症状が軽いわけではなく、慢性化したり後遺症が残ったりすることもあります。 脳神経外科や整形外科など、複数の診療科による総合的な診断が必要になります。
脳脊髄液減少症
脳脊髄液減少症は、交通事故で頭部を損傷したり、身体に強い衝撃を受けたりして発症することがあります。 外傷などが原因で脳脊髄液が慢性的に減ることにより、めまいや頭痛、吐き気などの症状を引き起こします。
【特徴】
起立性頭痛、吐き気、めまいが主な症状です。 ほかにも、頚部痛、倦怠感、視覚や聴覚に関する異常が生じたら、脳神経外科や整形外科を受診し、画像検査を受けましょう。
【治療】
安静と、水便補給や点滴で自然閉鎖するのを待ちます。 改善しない場合は、ブラッドパッチという硬膜外に自己血を注入して漏れを止める治療が行われることがあります。
交通事故から数日後にめまいがした場合について
交通事故から数日後にめまいがした場合、明らかな外傷がみられないときは、むちうちが原因であることが疑われます。 むちうちの症状は首の痛みだけとは限りませんので、めまいを感じたら、整形外科を受診して、画像検査や神経学的検査を受けましょう。
《むちうちの主な症状》
- めまい、頭痛、耳鳴り、吐き気、倦怠感などの自律神経に関する症状
- 首や肩まわりの痛み、運動制限
- 手足のしびれ など
まずは交通事故チームのスタッフが丁寧に分かりやすくご対応いたします
めまいで後遺障害等級認定を受けるためには検査が必要
めまいの症状が後遺症として残ってしまった場合、後遺障害慰謝料や逸失利益を請求するために“後遺障害等級認定”を受けなければなりません。 等級認定を受けるためには、次のような検査で、めまいと交通事故の因果関係を医学的に証明する必要があります。
《めまいの症状を医学的に証明できる可能性がある検査》
- CTやMRIなどの画像検査など
- 眼球運動に関する眼振検査、迷路刺激検査、視刺激検査など
- 体のバランスに関する体平衡検査など
- 内耳機能に関する聴力検査など
めまいで認定される可能性のある後遺障害等級
交通事故によるめまいは、以下の認定基準に従って後遺障害等級に該当するかどうかが判断されます。
《失調、めまい及び平衡機能障害》
後遺障害等級 | 認定基準 |
---|---|
3級3号 | 生命の維持に必要な身のまわり処理の動作は可能であるが、高度の失調又は平衡機能障害のために労務に服することができないもの |
5級2号 | 著しい失調又は平衡機能障害のために、労働能力がきわめて低下し一般平均人の1/4程度しか残されていないもの |
7級4号 | 中等度の失調又は平衡機能障害のために、労働能力が一般平均人の1/2以下程度に明らかに低下しているもの |
9級10号 | 通常の労務に服することはできるが、めまいの自覚症状が強く、かつ、眼振その他平衡機能検査に明らかな異常所見が認められ、就労可能な職種の範囲が相当な程度に制限されるもの |
12級13号 | 通常の労務に服することはできるが、めまいの自覚症状があり、かつ、眼振その他平衡機能検査の結果に異常所見が認められるもの |
14級9号 | めまいの自覚症状はあるが、眼振その他平衡機能検査の結果に異常所見が認められないものの、めまいのあることが医学的にみて合理的に推測できるもの |
めまいが後遺障害等級認定された裁判例
交通事故により回転性めまいなどの後遺症が生じたとして、後遺障害等級が認定された裁判例をご紹介します。
【福岡地方裁判所 平成30年3月30日判決】
<事案の概要>
乗車していたバスが発進時に急ブレーキをかけた反動で左頭部を窓ガラスにぶつけ、左耳に傷害を負った事故において、被害者のめまいは、外リンパ瘻に対する手術により軽快した後、術後に再び症状が生じたという事案について、加害者側から被害者にめまいが残存しているとしても、事故以外による要因によるものである因果関係が争われたものです。
<裁判所の判断>
裁判所は、回転性めまいについて
- 外リンパ瘻以外の原因(ストレスなど)によるものと認めるに足る証拠はない
- 事故による受傷当初から症状が認められている
- 眼振そのほか平衡機能検査の結果に異常所見が認められる
と認定したうえで、めまいについて後遺障害等級12級13号と評価して、東急に応じた後遺障害慰謝料や逸失利益の支払うことを加害者に命じる判決を下しました。
交通事故後にめまいが続く方は弁護士にご相談ください
めまいの原因にはさまざまなものがあり、症状が交通事故によって生じているのか、事故以外の要因によるものなのかを評価することは簡単ではありません。
交通事故について適正な慰謝料を受け取るためにも、交通事故後にめまいがしたら、なるべくはやめに医療機関を受診して、症状と交通事故の関係性を確認しておくことが重要です。
弁護士法人ALGでは、これまでにも多くの交通事故問題に取り組んできました。
その経験と知識を生かして、事故によるめまいでお困りの方や慰謝料請求をお考えの方のお力になれるよう、通院の仕方や治療・検査の受け方、後遺障害等級認定の申請など、幅広くアドバイス・サポートいたします。
相手方の保険会社とのやりとりも任せていただけますので、まずは困っていること、不安に感じていることを、私たちにお気軽にご相談ください。
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保有資格弁護士(神奈川県弁護士会所属・登録番号:57708)