監修弁護士 伊東 香織弁護士法人ALG&Associates 横浜法律事務所 所長 弁護士
意図しない事故に遭ったのですから、「正当な慰謝料を受け取りたい!」と思われるのは当然です。
通常、事故被害者は慰謝料を受け取ることができますが、受取金額に注意しなければなりません。なぜなら、用いられる算定基準によっては本来受け取れる金額よりもはるかに少なくなっている可能性があるからです。
その背景には、慰謝料を計算する算定基準が3つあることが大きく関係しています。
本ページでは、【慰謝料の算定基準】を取り上げ、概要や相場などについて解説していきますので、正当な慰謝料を受け取るためにもぜひ最後までご一読ください。
交通事故の慰謝料の算定基準とは?
交通事故の慰謝料の算定基準とは、慰謝料の金額を計算するためのツールのことです。1つであればすぐに完結するのですが、3つあることが混乱を引き起こす原因ともいえます。なぜなら、それぞれに計算式や指標があり、算定結果の金額が異なるからです。
また、算定基準が影響してくる慰謝料には、次の3種類があります。
- 入通院慰謝料
- 後遺障害慰謝料
- 死亡慰謝料
もう少し掘り下げていきます。
そもそも、なぜ算定基準が必要なの?
警視庁の統計※によりますと、令和3年度の交通事故発生件数は、30万5424件にのぼります。
これだけの数の慰謝料を一人一人の事情を考慮しながら決定していくのは、相当な時間がかかるうえに、同じような事故でも金額にバラつきが出てしまい、現実的ではありません。
このような状況を避けるため、算定基準は、解決までの時間短縮や、金額のばらつきといった不公平性をなくすことを目的として設けられています。
※https://www.npa.go.jp/publications/statistics/koutsuu/toukeihyo.html
3つの算定基準の違い
ではここで肝心の“3つある算定基準”について、それぞれの概要や特徴を比べていきます。
ポイントは、それぞれの基準で算定した結果、基本的には【自賠責基準<任意保険基準<弁護士基準】の順に高額となるところにあります。
自賠責基準について
「自賠責基準=最低限度の補償=基本的に最も低額となる」ことを念頭に置きましょう。
本基準は、自賠責保険という強制加入保険が補償するために用いる指標です。被害者への補償を国が保障しているので、確実性が高い一方あくまでも怪我に対するものでかつ、最低限度に留まるのが最大の特徴です。
例えば、傷害部分の補償限度額は120万円までなど、あくまでも保険金の限度内で補償されることになります。
任意保険基準について
「任意保険基準=非公開=自賠責基準と同等または少し上乗せした程度の金額」が特徴です。
本基準は、保険会社という一企業が独自に設定している指標に過ぎません。基本的に社外秘扱いなので、詳細は伏せられています。とはいえ、営利目的の企業が定める指標なので、できるだけ自社の利益を追求した内容になっており、最低限度補償の自賠責に多少上乗せした程度の結果となることが多いです。
なお、最終的な支払いは、自賠責分も併せて任意保険会社から受け取るのが通常ですので、自賠責分とは別に二重取りできるわけではない点にご注意ください。
弁護士基準について
「弁護士基準=裁判所や弁護士が使用=最も高額かつ正当な金額」と押さえておきましょう。
本基準は、過去の裁判の実例をもとに設けられた指標です。3つの中で基本的に最も高額となるのが特徴といえます。(が、実際の裁判内容をもとにしていることからもわかるとおり、裁判をした際に認定される金額に近い基準です。)注意点としては、保険会社との交渉時には弁護士が用いないと通用しないことがあげられます。弁護士が裁判をも辞さない強気な姿勢で持ち掛けることで、裁判への発展を避けたい保険会社が渋々弁護士基準に近い金額での解決に応じるようになるのです。
赤本と青本とは?
交通事故でいう“赤本”、“青本”とは、裁判例や弁護士基準の具体的な内容が記載されている書籍のことです。
ちなみに主に関西地方で用いられる“緑本”もありますが、いずれも背表紙の色で表現しています。
それぞれの違いは、地域性と指標の具体性です。
基準とする裁判例について、赤本は首都圏、青本は全国、緑本は関西圏をまとめているので、自ずと内容が変わってきます。また、赤本は指標金額が決まっているのに対し、青本は上下の幅を持たせているのが特徴です。
なお、実務上は赤本をベースにすることが多いです。
まずは交通事故チームのスタッフが丁寧に分かりやすくご対応いたします
交通事故慰謝料の相場比較
ここからは、3種類ある交通事故慰謝料について、それぞれの相場を算定基準ごとに比較していきます。
より基準ごとの金額差が明らかになりますので、ぜひ算定結果にご注目ください。
入通院慰謝料の相場
まずは、入院・通院を強いられることで生じる精神的苦痛に対する入通院慰謝料の相場をみていきます。
入院が不要な怪我の場合、通院のみのケースでも請求できますのでご安心ください。
入通院慰謝料の算定には、入通院期間や実際の通院日数のほか、通院頻度、怪我の内容などが考慮されることになります。
同じ条件で算定基準別に比較していきますので、金額の開きにご着目ください。
※なお、任意保険基準については非公開のため省略させていただきます。
通院期間が2ヶ月、実通院日数が15日の場合の慰謝料の相場
自賠責基準の入通院慰謝料 | 弁護士基準の入通院慰謝料 |
---|---|
12万9000円 | 52万円 |
<自賠責基準>
入通院慰謝料=日額4300円×対象日数
上記が自賠責基準の計算式になります。
ポイントは“対象日数”で、以下のいずれか少ないほうを採用します。
①入院+通院期間
②(入院期間+実通院日数)×2
これらを例の条件にあてはめると、
①30日×2ヶ月=60日
②15日×2=30日
①と②を比較すると、②の方が少ないので、
入通院慰謝料=4300円×30日=12万9000円
<弁護士基準>
入通院慰謝料の別表Ⅰ、Ⅱを参照します。
今回のケースは、通常の怪我(別表Ⅰ)を想定しますので、「通院2ヶ月」の該当箇所を下表で確認すると、52万円となります。
入院1ヶ月、通院期間6ヶ月、実通院日数70日だった場合の慰謝料の相場
自賠責基準の入通院慰謝料 | 弁護士基準の入通院慰謝料 |
---|---|
86万円 | 149万円 |
<自賠責基準>
同じく計算式にあてはめて求めていきます。
② 30日+30日×6ヶ月=210日
② (30日+70日)×2=200日
入通院慰謝料=4300円×200日=86万円
<弁護士基準>
今回のケースは、通常の怪我(別表Ⅰ)を想定しますので、「入院1ヶ月、通院6ヶ月」の該当箇所を下表で確認すると、149万円となります。
むちうちで、通院期間5ヶ月、実通院日数70日だった場合の慰謝料の相場
自賠責基準の入通院慰謝料 | 弁護士基準の入通院慰謝料 |
---|---|
60万2000円 | 79万円 |
<自賠責基準>
同じく計算式にあてはめて求めていきます。
② 30日×5ヶ月=150日
③ 70日×2=140日
入通院慰謝料=4300円×140日=60万2000円
<弁護士基準>
むちうちなど軽傷の場合は、別表Ⅱを参照します。
「通院5ヶ月」の該当箇所を下表で確認すると、79万円となります。
後遺障害慰謝料の相場
まず、後遺障害慰謝料は、治りきらなかった後遺症について後遺障害等級の認定がされたら請求できるようになるとを押さえておきましょう。
下表のように、症状の内容、程度などに応じて1~14級までの等級ごとに慰謝料金額が決まっています。
算定基準別の差額にもご着目ください。
※なお、任意保険基準については非公開のため省略させていただきます。
後遺障害等級 | 自賠責基準 | 弁護士基準 |
---|---|---|
1級 | 1150万円 | 2800万円 |
2級 | 998万円 | 2370万円 |
3級 | 861万円 | 1990万円 |
4級 | 737万円 | 1670万円 |
5級 | 618万円 | 1400万円 |
6級 | 512万円 | 1180万円 |
7級 | 419万円 | 1000万円 |
8級 | 331万円 | 830万円 |
9級 | 249万円 | 690万円 |
10級 | 190万円 | 550万円 |
11級 | 136万円 | 420万円 |
12級 | 94万円 | 290万円 |
13級 | 57万円 | 180万円 |
14級 | 32万円 | 110万円 |
死亡慰謝料の相場
死亡慰謝料は、亡くなった被害者本人と遺族に対して支払われます。正確には、被害者は亡くなっていますので、被害者の請求権は相続人に受け継がれることになります。
自賠責基準と弁護士基準では、以下のように指標が異なります。
<自賠責基準>
被害者本人分は、年齢・性別などにかかわらず一律400万円です。
遺族分については、遺族(被害者の配偶者、父母、子)の人数によって異なり、さらに被害者に被扶養者がいた場合には200万円追加されることになります。
<弁護士基準>
被害者本人分と遺族分を分けて算出する概念がありません。
被害者の属性、家族の中での役割に応じて指標が決まっており、その他個別具体的な事情が考慮され調整されることもあります。
例えば、一家の大黒柱であれば2800万円、配偶者であれば2500万円などです。
弁護士に依頼しないと、弁護士基準での慰謝料獲得は難しい?
被害者としては、ぜひとも高額水準の弁護士基準で請求したいところですが、保険会社を相手に被害者自身で交渉を試みてもまず応じてもらえないでしょう。
相手方となる保険会社は、幾度となく交通事故事案の示談交渉を経験してきたいわば“示談交渉のプロ”です。自社の損失をなるべく抑えたい保険会社に対して、被害者本人が慰謝料の増額を持ち掛けても、歯が立たないと予想できます。
しかし、そこに弁護士が介入すると事態がかわる可能性があります。
弁護士が入ると裁判での解決も視野に入るため、裁判への発展を控えたい保険会社は弁護士基準での交渉に応じやすくなります。
弁護士の介入によって弁護士基準に近い金額まで増額できた解決事例
ここで、弁護士法人ALGが解決に導いた実際の事例をご紹介します。
本件は、青信号で交差点進入時、赤信号無視の相手方車両が追突してきたという事故態様でした。この事故で、依頼者は開放骨折という重傷を負ったうえに、PTSDを発症し長期間の治療を余儀なくされ、後遺障害等級も12級に認定されていました。相手方保険会社からは、すでに約600万円の示談金が提示された状態でご依頼を受けました。
受任後、早速精査したところ、事故の大きさや怪我・後遺障害の程度などを総合的にみても、提示額は極めて低いと判断しました。
そこで、事故の悪質性も考慮し、通常の弁護士基準よりさらに上乗せした金額で交渉に臨みました。
譲らない姿勢かつ強い態度で交渉を続けた結果、約1700万円もの賠償金を取り付けることに成功しました。通常の弁護士基準で予想される金額よりも高い水準での解決に、依頼者にも大変ご満足いただけた事案です。
交通事故慰謝料を適正な算定基準で計算するためにもまずは弁護士にご相談ください
不運にも交通事故に遭い、背負わされた精神的苦痛に対する慰謝料は、きちんと適正額を受け取るべきです。それを叶えるには、適正な算定基準である弁護士基準で請求するために、弁護士に依頼する必要があります。
「弁護士への相談はハードルが高い」、「弁護士費用がかかりそうで気が引ける」と、二の足を踏む方もいらっしゃると思います。
この点、弁護士法人ALGは、最初のお問い合わせを受付職員が行わせていただくことで、気軽にご相談いただける体制を整えています。交通事故専門の受付ですので、不安に思われることをお気軽にお伝えください。
また、弁護士費用特約を利用することで、基本的には弁護士費用の負担なくご依頼いただけます。ぜひご自身が加入している保険契約内容をご確認ください。
弁護士への依頼は、適正な慰謝料獲得だけでなく、“納得のいく解決”を目指すためにも非常に有用です。弁護士法人ALGは、万全の体制でお待ちしています。
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保有資格弁護士(神奈川県弁護士会所属・登録番号:57708)