監修弁護士 伊東 香織弁護士法人ALG&Associates 横浜法律事務所 所長 弁護士
交通事故の示談交渉で、相手方の保険会社から「1日8600円」の慰謝料を提示されたら、要注意サインですので、示談するのをちょっと待ってください。
1日8600円の話が出ているならば、最低水準の自賠責基準で慰謝料が計算されている可能性があり、ご自身が本来もらえるはずの慰謝料よりも、かなり低額となっているおそれがあります。
そこで、本記事では、交通事故の慰謝料が8600円と言われる理由、正しい慰謝料の計算方法、慰謝料を増額させる方法などについて解説していきます。適正な慰謝料を受けとるためにも、ぜひ最後までご一読ください。
目次
慰謝料が1日8600円(旧8400円)になるのはなぜ?
交通事故でケガをした場合、入院や通院を強いられた精神的苦痛に対する「入通院慰謝料」を加害者に請求することができます。この慰謝料の金額について、保険会社から「1日8600円」と提示されることが多い理由は何なのでしょうか?
これは、自賠責基準による慰謝料の計算過程で生じた誤解であると考えられます。
自賠責基準では、以下の①と②を比較して、金額の少ない方を入通院慰謝料の金額とします。
【自賠責基準による入通院慰謝料】
①入通院期間(初診日~治療終了日)×4300円
②実際に入通院した日数×2×4300円
※2020年3月31日以前に起きた事故:4200円で計算
②の下線部分をご覧ください。この部分だけを見ると、「2×4300円(旧4200円)」と見えるため、入通院慰謝料は8600円(旧8400円)と誤解される方が多いのでしょう。
しかし、実際には「実際に入通院した日数×2」が正しい計算方法となります。
また、②の実際に入通院した日数×2より、①の入通院期間の日数の方が短い場合は、①の式で計算した慰謝料が適用されます。
そのため、1日8600円という入通院慰謝料額は、そもそも何ら関係がないことになります。
通院回数を増やした分だけ慰謝料がもらえるわけではない
手当たり次第に通院回数を増やしても、慰謝料が増えるとは限りません。
これは、前述の自賠責基準の計算式にあてはめてみれば分かりやすいです。
(例1)入通院期間200日、実際に入通院した日数100日
①200日×4300円=86万円
②100日×2×4300円=86万円
①=②であるため、慰謝料は86万円になります。
(例2)入通院期間200日、実際に入通院した日数101日
①200日×4300円=86万円
②101日×2×4300円=86万8600円
①<②であるため、慰謝料は86万円となります。
つまり、自賠責基準では、入通院期間の半分の日数(2日に1回)通院した場合に、慰謝料が最大となり、それ以降は、通院回数を増やしても、慰謝料額は変わらないことになります。
また、ケガの症状に照らして必要以上に多く通院したり、湿布やマッサージだけの漫然治療を続けたりすると、過剰診療を疑われる場合があるため注意が必要です。
保険会社は、あくまでも「交通事故のケガの治療に必要だった治療分」の治療費や慰謝料しか支払いません。過剰診療と判断された治療費については自腹で支払わなければならなくなったり、入通院慰謝料が減額されたりするおそれがあります。
適切な通院頻度はどれくらい?
適切な通院頻度は、ケガの内容や症状の重さ、治療経過等により異なるため、まずは医師の指導に従って、通院を続けるのが望ましいでしょう。
仕事が多忙などの理由でなかなか通院ができない場合もあると思われますが、通院頻度が少なすぎると、「もう治療の必要はないのに、わざと通院期間を延ばしている」などと判断され、治療費の支払いが早期に打ち切られたり、慰謝料が減額されたりするおそれがあります。そのため、医師の指導に従って適切な頻度で継続的に通院をすることが治療の効果を上げるうえでも、適切な慰謝料を受け取るうえでも重要です。
骨折や重傷で自宅安静が必要な場合には無理して通院する必要はありませんが、捻挫、打撲系の事案等では週に2~3日程度の頻度が望ましいといえます。
自賠責には120万円の限度額がある
自賠責保険には支払われる損害賠償金に上限額が設けられており、例えば、被害者がケガをした場合に受領できる傷害部分の自賠責保険金の上限は120万円と決められています。
この120万円には、入通院慰謝料だけでなく、治療費や休業損害(ケガの治療のために仕事を休んだ分の補償)などの金額も含まれています。
つまり、入通院が長引いたことで、治療費が高額になったり、仕事を長期休んだことで休業損害が生じたりした場合には、自賠責保険から受け取れる慰謝料が、その分減ってしまう可能性があることを意味します。
弁護士基準なら自賠責基準の入通院慰謝料を上回る可能性大
交通事故の慰謝料を計算する基準には、以下の3つがあります。
①自賠責基準(自賠責保険が用いる最低補償の基準)
②任意保険基準(各任意保険会社が独自に定める基準)
③弁護士基準(過去の裁判例をもとに作られた基準で、弁護士や裁判所が用いる基準)
どの基準を使うかで慰謝料の金額が変わり、一般的には、①≦②<③の順で金額が上がり、弁護士基準が自賠責基準の入通院慰謝料を上回り、、多くの事案で最も高額の慰謝料の獲得することができます。そのため、弁護士に依頼することで自賠責基準のまま算定するよりも高額の慰謝料を獲得できる可能性が高いということです。
ただし、弁護士基準では、被害者にも過失がある部分については、その分慰謝料などの損害賠償金が減額されます。これを過失相殺といいます。
一方、自賠責基準では、被害者の過失が7割未満であれば、過失相殺による減額は行われません。よって、自賠責基準の方が高額になることもありえます。
そのため、多くの場合には弁護士基準で算定するのが最適となりますが、事案によってはどの基準で慰謝料を算定するべきを慎重に検討するべきことになります。
まずは交通事故チームのスタッフが丁寧に分かりやすくご対応いたします
1日8600円の慰謝料が貰えるのは治癒・症状固定までの「治療期間」のみ
入通院慰謝料は、初診日からケガの完治日まで、もしくは症状固定日※までの「治療期間」を対象して算定されることになります。
※症状固定日:これ以上治療を続けても、改善の見込みがない状態に達したと医師より診断を受けた日
症状固定と診断されると、これ以上の通院治療は必要がないと判断されるため、症状固定後の通院は、基本的には、入通院慰謝料の支払い対象から外れることになります。
なお、保険会社から「そろそろ症状固定ですね」「もう治療は必要ないでしょう」などと言われても、安易に応じないよう注意が必要です。症状固定を判断するのはあくまで主治医であって、保険会社ではありません。まだケガが治っていないのに治療を終えてしまうと、ケガが悪化したり、通院期間が短くなることで入通院慰謝料が低額になったり、後遺障害認定においても不利になったりする可能性があるからです。
後遺障害が残った場合は後遺障害慰謝料が請求できる
医師より症状固定の診断を受けた後も、痛みやしびれなどの後遺症が残っているケースがあります。このとき、ご自身の後遺症が「後遺障害」として認定されれば、入通院慰謝料とは別に、後遺障害慰謝料を請求することができるようになります。
後遺障害は1級から14級まで区分され、1級が最も重症、14級が最も軽症、傷害の程度が重症であればあるほど、慰謝料額も増えるよう設定されています。そのため、どの等級に認定されるかが重要ポイントになります。
適切な後遺障害認定を受けるには、通院の仕方や後遺障害診断書の作成が鍵となるため、それなりの戦略と医学的知識が求められます。後遺障害認定を希望される方は、できれば交通事故に精通した弁護士に相談して、今後の方針を立てることをおすすめします。
後遺障害等級認定についての詳細は、以下の各記事をご覧ください。
後遺障害等級認定の申請方法慰謝料が1日8600円から増額した事例
依頼者が交通事故の被害にあい、むちうちのケガを負ったという事例です。治療を続けた後も後遺障害が残ったため、事前認定を行った結果、後遺障害14級9号と認定されました。
加害者側の保険会社から、慰謝料などの損害賠償金として約130万円の提示(既払い分は除く)がありましたが、妥当な金額であるかどうか判断できなかったため、弁護士法人ALGにご依頼されました。
担当弁護士が保険会社の示談案を確認したところ、弁護士基準と比較すると、相当低い金額となっていました。そこで、保険会社に対し、弁護士基準で計算した賠償金額を提示し、応じないのであれば、すぐに裁判を起こす旨強く主張しました。
その結果、保険会社は当方の主張を認め、弁護士基準で計算した場合の満額に近い、約300万円の賠償金額で示談が成立し、当初の提示額より約170万円増額させることに成功しました。
保険会社から「1日8600円」と提示されたら、弁護士へご相談ください
保険会社から示談案を提示されても、すぐにサインせず、まずは交通事故に精通した弁護士に相談することをおすすめします。
保険会社からの「1日8600円」の提示には、金額の低い自賠責基準を基にした算定になっていることが多いです。この場合、被害者本人で慰謝料の増額を求めても弁護士基準と同程度までは増額されないことがほとんどです。
この点、弁護士が交渉に入れば、、弁護士基準による増額交渉に応じる可能性が高くなり、慰謝料の増額が叶うとともに示談交渉や保険関係の書類集めなどの面倒な手続きも一任できるため、心身の負担が軽くなり、治療に心置きなく専念できるという利点もあります。
示談案の妥当性を知りたい方や、慰謝料をできる限り増やしたいと考えている方は、ぜひ交通事故対応を得意とする弁護士法人ALGにご相談下さい。
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保有資格弁護士(神奈川県弁護士会所属・登録番号:57708)