監修弁護士 伊東 香織弁護士法人ALG&Associates 横浜法律事務所 所長 弁護士
近年では、働き方改革やコロナ渦等の影響によって働き方が多様化し、労働時間についてもフレックスタイム制を導入する企業が増えてきました。
そこで、フレックスタイム制について知りたいという方に向けて、このページでは、特にテレワークにおいてフレックスタイムを導入する場合に労働基準法上の取扱いで注意すべき点等について解説いたします。
目次
フレックスタイム制とは?
フレックスタイム制とは、一定の期間についてあらかじめ決められた総労働時間の範囲内で、日々の始業・終業時刻、労働時間を労働者の自由な決定に委ねる制度です。
フレックスタイム制を採用する場合でも、使用者は、コアタイムとフレキシブルタイムを設定することができます。
テレワークでフレックスタイム制を導入するメリット・デメリット
メリット
テレワークでフレックスタイム制を導入していない場合は、所定の始業時間に少しでも遅れた場合には遅刻となります。しかし、子の対応や介護などで時間がとられ所定の始業時間に5分だけ間に合わなかったということが起こる可能性があります。
フレックスタイム制を導入すればそれを遅刻扱いにすることなく就労することができますし、育児や介護の状況に合わせて就労をすることができます。
このように、労働者がさらに働きやすい環境を整備することができます。
デメリット
デメリットとしては、労働時間の実態把握が難しいという点が挙げられます。
テレワークでは自宅で業務を行うことからそもそも労働時間の実態把握が難しいですが、フレックスタイム制を導入することで、各労働者の労働時間は一律ではなくなるので、より労働時間の実態把握が難しくなってしまうというデメリットがあります。
テレワークでフレックスタイム制を導入するポイント
使用者は労働者の労働時間を管理する義務を負っているため、前述のように労働時間の実態把握が難しいというデメリットを解決することこそがテレワークでフレックスタイム制を導入するポイントとなります。
ここで、押さえておきたいのがコアタイムとフレキシブルタイムをうまく定めるということです。
フレキシブルタイム
フレキシブルタイムとは、労働者自らの選択によって勤務するか否かを決定することができる時間帯を言います。
コアタイム
コアタイムとは、全員が必ず勤務すべき時間帯を言います。
コアタイムを設定することで、労働者の勤務時間帯に、コアタイムを必ず含む時間とすることができ、労働時間の把握がしやすくなるだけでなく、会議時間の設定等も行いやすくなるメリットがあります。
テレワークでフレックスタイム制を導入する手順
フレックスタイム制を実施するためには、①労使協定において、清算期間(3か月以内)と、その期間における週あたりの平均が40時間を超えない範囲での総労働時間などの制度の枠組みを定め、②就業規則等に始業・終業時刻の決定を労働者に委ねる旨を定めることが必要となります。
なお、清算期間が1か月を超える場合には、所轄の労働基準監督署長への届け出も併せて必要になります。
フレックスタイム制の導入に対し起こりうるトラブルと事前対策
フレックスタイム制を導入するにあたって、フレキシブルタイムが極端に短いと、フレックスタイム制の趣旨を没却することになるため、フレキシブルタイムとコアタイムのバランスには注意が必要です。
フレックスタイム制では、労働時間が労働者の決定に委ねられるため、一律に休憩時間を設定してしまうと、労働者が決められた時刻に休憩をとるために出社せざるを得なくなり、フレックスタイム制を導入した意義がなくなってしまいますので、その点についても注意が必要です。
テレワークのフレックスタイム制に関する裁判例
事件の概要(最高裁判例令和6年4月16日判決)
本件は、外国人技能実習生の指導員としてYに雇用されていたXが、Yに対し、時間外労働、休日労働及び深夜労働に対する賃金の支払いを求めたものです。
Xは、自身のスケジュールを自身で管理し、タイムカード等による労働時間の管理を受けておらず、自己の判断で訪問先から直帰することもあるような状況で、Xは毎月月末に業務時刻等を記入した業務日報を会社に提出することで、会社はXの労働時間を把握しようとしていました。
そのため、本件では、このようなXの勤務状況が労働基準法38条の2第1項の「労働時間を算定し難いとき」に該当し、所定労働時間労働したものとみなされるかが問題になりました。
裁判所の判断
高等裁判所では、「労働時間が算定し難いとき」にあたるか否かについて、YがXの労働時間を把握することは容易ではなかったものの、Xは業務日報を通じて業務の遂行等についてYに報告しており、その記載内容について、Yは技能実習の実施者等に確認することもできたのであり、ある程度の正確性が担保されていたことに加え、Yも残業手当を支払う場合もあったのであるから、業務日報で労働時間を把握していたとしました。
その後、最高裁判所では、Xの業務は急な対応の必要なものもあり多岐にわたることに加え、所定の休憩時間とは異なる時間に休憩をとることや自らの判断により直行直帰することも許されており、随時具体的に指示を受けたり報告をしたりすることもないという事情のもとでは、事業場外における勤務の状況を具体的に把握することが容易であったと直ちには言い難いとして、再検討するよう高等裁判所へ差し戻しました。
ポイント・解説
本件は、テレワークの事案ではありませんが、テレワークでの労働時間の把握とみなし労働時間という問題に大きくかかわるものです。
テレワークは事業場外での労働ですので、労働基準法38条の2第1項の適用があり得ます。
使用者が労働者の労働時間を適正に把握し、賃金の支払いを適正に行わなければ訴訟等に発展するリスクがあります。それを事前に防ぐうえで、労働基準法38条の2第1項が適用されるのはどのような場合かを把握しておくことは非常に重要です。
ご紹介した裁判例は、単に業務日報での報告を受けたにとどまり、随時具体的に指示を受けたり、休憩時間等の報告をしていなかったりする事情のもとでは勤務の状況を具体的に把握することが容易であったとは言い難いとしており、勤務の状況を具体的に把握しなければ、所定労働時間働いたものとみなされてしまうことを示唆しています。
最高裁判所の林道裁判官は、補足意見として、「在宅勤務やテレワークの普及など働き方の多様化に伴い、被用者の勤務状況を具体的に把握する事の困難性について定型的に判断することは一層難しくなっており、裁判所としては個々の事例ごとの具体的な事情に的確に着目したうえで『労働時間を算定しがたいとき』に当たるか否かの判断を行っていく必要がある」と述べています。
このように、どの程度具体的に把握すべきかについては、事案によって異なり、その判断は難しいことも多いです。その際は、厚生労働省が公表している「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」を参考にされるとよいでしょう。
テレワークやフレックスタイム制の労務管理でお困りの際は弁護士にご相談ください。
テレワークやフレックスタイム制は労働者にとっては便利でうまく使えば労働環境をより働きやすいものにできる反面、制度設計を練らなければ、紛争に巻き込まれるおそれもあります。
制度設計に関してお悩みの際は、ぜひ法律の専門家である弁護士にご相談ください。

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保有資格弁護士(神奈川県弁護士会所属・登録番号:57708)
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