監修弁護士 伊東 香織弁護士法人ALG&Associates 横浜法律事務所 所長 弁護士
友人の車に乗っているときに、事故に遭ってしまい、ケガをしてしまった。そんなとき、いったい誰に、損害賠償請求をすればいいのでしょうか。事故を起こした相手のドライバーでしょうか。それとも、友人に対して損害賠償をするのでしょうか。また、そのような請求をする際に、注意することはあるのでしょうか。以下では、他人の車に乗っていて事故に遭遇してしまったとき、どのようにすべきかを述べていきます。
同乗中に事故に遭ったら、だれに慰謝料を請求すればいい?
事故を起こしたのは、相手のドライバーと、あなたが乗っている車のドライバーなので、そのどちらか、又は、その両方に損害賠償を請求できます。この違いは、誰に事故の過失があるかで異なってきます。
運転者に過失がない場合
運転者に過失がなければ、運転者に責任はないので、相手のドライバーに請求することになります。これは、ある意味当然といえば当然の結論と言えるでしょう。
運転者と加害者双方に過失がある場合
運転者と加害者に過失がある場合、その両方に請求することができます。過失割合というのもありますが、共同不法行為となるので、同乗者としては、どちらかに全額の損害賠償を請求できます。過失割合は、運転者と加害者の間で、求償という形で調整することになります。
単独事故、または相手に過失がない場合
単独事故、又は、相手方に過失がないときは、運転者以外に過失がある人がいませんから、運転者にのみ損害賠償請求できます。
家族が運転する車への乗車や好意同乗の場合でも慰謝料を請求できる?
家族の運転する車への乗車や、運転者の好意あるいは無償で乗車を許されていた場合(好意同乗)、車に乗っているという利益を享受しているとして、慰謝料を減額するという考え方が、かつては取られていました。その背景には、車が貴重品であり、車に乗れること自体が、高価な利益になるという事情がありました。しかし、今の状況を考えると、車が貴重品であり、乗車すること自体が高価な利益とは誰も思わないでしょう。そのため、現在では、単に好意・無償で同乗していた場合では、慰謝料は減額せず、後述のように、同乗者にも事故の責任の一端があると認められるような場合に慰謝料を減額するという運用をしています。
同乗者が子供でも慰謝料はもらえる?
同乗者が、まだ子どもであっても、慰謝料はもらえます。子どもがまだ幼くて、痛みをうまく伝えられない場合であっても、慰謝料は請求できます。そして、子どもであることを理由に、慰謝料の金額を減額されることもありません。
もっとも、未成年者は、制限行為能力者ですので、単独で慰謝料請求することができません。そのため、慰謝料の請求は、未成年者の親、未成年者後見人が行うことになります。
同乗者の慰謝料相場
慰謝料の算定は、運転者か同乗者かで変わることはありません。同乗者も運転者と同じ方法で、慰謝料を算定します。そのため、同乗者の慰謝料相場も、運転者と同じで、変わることはありません。
過失により慰謝料が減額されることもある
事故の原因が、同乗者にあるとき、同乗者にも責任を取ってもらうことになります。以下のようなことを同乗者がしていたときは、その分同乗者が請求できる慰謝料が低くなります。
運転者が飲酒運転だと知っていた
ご存じの通り、現行法では、飲酒運転を勧めた者や依頼同乗者に、刑事罰が科せられるようになっております。そのため、そのような犯罪行為に手を染めていたときは、最悪100%の減額となり、慰謝料請求できないのは、言うまでもありません。
しかし、単に飲酒運転であることを知っていただけの場合はどうでしょうか。
運転者とともに飲酒して、運転者が相当酔っていたことを知っていながら同乗
したときには、20%程度の減額をしています(東京地判平成7年6月21日交通民集28巻3号910頁)。
飲酒運転自体犯罪ですし、そのような行為をしていることを知って同乗した以上は、リスクを負うのもやむを得ないといえるでしょう。
運転者が無免許だと知っていた
無免許運転も、違法行為なのは知っての通りです。したがって、飲酒運転だと知っていたときと同様の結果になるのは当然です。
運転者が無免許であることを知っていながら、間接的に運転を促した事案で、30%の減額を肯定した事例もあります(鳥取地裁昭和50年2月26日判タ324号290頁)。
無免許運転自体危険行為ですから、そのような危険を知りながら乗っている以上、過失が認められるのは当然といえるでしょう。
危険な運転を止めなかった・煽った
飲酒運転・無免許運転だけが危険な運転ではありません。裁判例は、制限速度を30キロもオーバーして追い越した直後に急ブレーキをかけて追突された事案で、運転者の交際相手の同乗者は、このような危険な運転を容認していたことを理由の一つとして、40%もの減額を認めた事例があります(神戸地裁平成26年12月19日交民47巻6号1569頁)。
運転者が危険な運転を始めたら、すぐに止めるか、そもそもそのような危険な運転をする傾向のある運転者の車には乗らないようにしましょう。
まずは交通事故チームのスタッフが丁寧に分かりやすくご対応いたします
同乗者も弁護士費用特約を使える?
これに関しては、ご自身、ドライバーの加入する保険の特約によるとしか言えません。ご自身の保険会社は、同乗していた場合でも弁護士特約を使える場合が多いと思います。
一方で、ドライバーの場合、同乗者まで、弁護士特約を付けている場合は、なかなかないのではないでしょうか。
ご自身やドライバーの保険に弁護士特約があるかどうか不安なときは、加入する保険会社に問い合わせるのが確実でしょう。
同乗者の慰謝料に関する判例
同乗者の慰謝料が減額された判例
前述のように、危険行為をした場合は、大幅な減額がされています。しかし、シートベルトを締め忘れたときはどうでしょうか。
名古屋地裁一宮支部令和2年5月28日判決(ウェストロー2020WLJPCA05286001)は、シートベルト不着用と損害に因果関係があることを前提に、過失割合を10%としています。これは、シートベルトの着用義務は、同乗者のものも、運転者に課せられた義務であること、シートベルトを装着していても、ある程度のケガ自体は避けることはできなかったことなどの事情があったためです。
シートベルトの着用により、命が守られることもありますし、着用しない理由は、妊娠中の場合等のほかは、ほとんどないと思います。ご自身の身を守るためにも、車を運転しないときであっても、十分安全に気を付けて車に乗る必要があります。
同乗者の慰謝料が減額されずに済んだ判例
運転者が、最高約180キロ、事故直前には約144キロもスピードを出して、単独事故を起こし、同乗者が死傷した事案で、同乗者は運転者の無謀運転を止めることはしていませんでした。しかし、同乗者は、スピードを出すことを特段求めていたわけではなく、ほとんど運転者と話もせず、寝ていたために、好意同乗者としての減額を認めませんでした。また、この事案では、死亡した同乗者はシートベルトをしていませんでしたが、このような無謀な運転による事故であること、運転者がシートベルト着用を求めていないことから、減額はされませんでした(京都地裁平成29年7月28日交民50巻4号1001頁)。
止めようとしなかったのではなく、寝ていて止めることができなかったのだから、過失はないとされたのだと思います。また、シートベルトをしていても、同じ結果になるような酷い事故のときは、シートベルトをしていなくとも減額されないようです。
このような酷い事故に遭うことはまれですが、シートベルトをしておけば、死の結果発生の可能性を低減できますし、過失割合でも不利な認定をされることはありませんので、同乗する際にはシートベルトを忘れずにしてください。
同乗者の事故は揉めやすいので弁護士にご相談ください
運転者と同乗者、そして加害者と、当事者が複雑に絡み合い、しかも、誰に責任があるのかで、非常にもめやすい案件と言えます。そのため、同乗者がいるとき、事故車に同乗したときは、早めに弁護士などの専門家に相談するのが得策ではないかと思います。
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保有資格弁護士(神奈川県弁護士会所属・登録番号:57708)