監修弁護士 伊東 香織弁護士法人ALG&Associates 横浜法律事務所 所長 弁護士
労働基準法は、労働時間、休日等について規制を設けており、使用者が労働者を、法定労働時間を超えて労働させたり、法定休日に労働させたりすることを禁止しています。
この規制には2つの例外があり、うち1つがいわゆる「三六協定」ですが、もう一つの例外が労働基準法第33条の定める「災害等による臨時の必要がある場合の時間外労働等」というものです。
以下では、「災害等による臨時の必要がある場合の時間外労働等」について解説していきます。
目次
労働基準法第33条の「災害時の時間外労働等」とは?
労働基準法33条の「災害等による臨時の必要がある場合の時間外労働等」とは、「災害その他避けることのできない事由によって、臨時の必要がある場合」に、「使用者は、行政監督庁の許可を受けて」「その必要の限度において」労働基準法の法定労働時間を超えて労働させたり、法定休日に労働させたりすることができるというものです。
労働時間・休日の原則と上限規制
労働基準法は、基本的に、1日8時間・週40時間(法定労働時間)を超えて労働者を労働させてはならないと規定しています。
また、毎週1日又は4週間を通じて4日以上の休日(法定休日)を与えなければならないと規定しています。
原則として、使用者は、この規制を超えて労働者に労働させることは出来ません。
労働基準法第33条が適用されるケースとは?
このように労働時間・休日労働に対して規制がありますが、労働基準法第33条が適用された場合、この規制を超えて、労働者に労働させることができることになります。
労働基準法第33条が適用されるのは、「災害その他避けることのできない事由」が存在し、規制を超える労働について「臨時の必要」が認められる場合です。
「災害その他避けることのできない事由」とはどういった場合を指すか、以下紹介します。
地震、津波、風水害、雪害、爆発、火災等の災害が起きたとき
地震、津波、風水害、雪害、爆発、火災等の災害が起きたときには、それらの災害に対応するために必要な業務(例えば、地震等によりライフラインが混乱した際、ライフライン復旧のために行う業務等)を行う必要があります。
一般にこのような場合には、「災害その他避けることのできない事由」が認められるものと考えられます。
突発的な機械や設備の故障、システム障害が起きたとき
事業の運営を不可能ならしめるような突発的な機械や設備の故障、システム障害が起きたときも「災害その他避けることのできない事由」が認められるものと考えられます(例えば、サーバー攻撃によるシステムダウン時等です。)。
他方、通常想定される部分的な修理等は「災害その他避けることのできない事由」とは認められないものとされています。
新型コロナウイルスへの対応にも適用される
近年問題となったのは、新型コロナウイルスの急速な感染拡大が「災害その他避けることのできない事由」としてP認められるかどうかという点でした。
これについては、例えば、新型コロナウイルスの感染拡大を防止するためのマスクや消毒液を生産するような業務においては、原則として「災害その他避けることのできない事由」が認められるものと考えられていました。
労働基準法第33条を適用するときの注意点
労働基準法33条が適用される場合であっても、以下のとおりいくつか留意しなければならない点がありますので、注意が必要です。
労働基準監督署長の許可を得る
労働基準法33条第1項には、「使用者は、行政監督庁の許可を受け」又は「事態急迫のために行政監督庁の許可を受ける暇がない場合においては、事後に遅滞なく届け出」をすることを要求しています。
これは、災害その他避けることのできない事由について、完全に使用者の主観的な判断にゆだねてしまうと、労働時間・休日労働に対する規制が安易に違反されてしまう可能性があるため、行政監督庁の関与を要求したものです。
したがって、使用者は、事前に労働基準監督署長の許可を得るか、事態急迫で許可を受ける暇がない場合には事後的に労働基準監督署長に届出をしなければなりません。
時間外労働等には割増賃金が発生する
労働基準法33条は、法定労働時間を超えて労働させたり、法定休日に労働させたりすることを認めていますが、これは、割増賃金なしに労働させられるということではありません。当然のことながら、時間外労働や休日労働に対しては、割増賃金を支払う必要があります。
時間外労働等は必要範囲内にのみ認められる
また、災害その他避けることのできない事由によって、臨時の必要がある場合であったとしても、労働者を無制限に稼働させられるわけではありません。
労働基準法33条第1項は、「その必要の限度において」労働させられると定めており、必要の限度を超えて労働させることはできません。必要の限度内かどうかは、社会通念上判断されることになりますが、例えば工場火災の消火活動と後始末は必要の限度に含まれるものの、その後の復旧作業は範囲外とされることがあります。
従業員の健康にも十分配慮する
また、労働基準法33条が適用されるような緊急事態であっても、使用者が労働者の健康等に十分配慮しなければならない安全配慮義務は当然に認められます。
緊急時という状況ではあるものの、労働者の健康等に十分配慮し、可能なケアは行わなければなりません。
それを怠って労働者の健康を害した場合、労働基準法33条適用下であっても、安全配慮義務違反が問われる可能性はあります。
不測の事態に備えるためにも、不明点等があれば弁護士にご相談下さい。
三六協定は締結していても、労働基準法33条の適用については十分な知見がない場合もあるでしょう。
どういった場合に労働基準法33条が適用されるのか、そのときの注意点等、具体的な業務との関係では不明点も多いと考えられます。
不測の事態にも対応できるよう、平時から弁護士に相談されることをお勧めします。
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保有資格弁護士(神奈川県弁護士会所属・登録番号:57708)
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