労務

労働条件の明示をメールでする場合の明示すべき事項とは

横浜法律事務所 所長 弁護士 伊東 香織

監修弁護士 伊東 香織弁護士法人ALG&Associates 横浜法律事務所 所長 弁護士

平成31年4月より、雇用契約における労働条件の明示がメール等でも行うことが可能になりました。メール等での労働条件の明示を行う場合にあたっての注意事項を解説します。

「労働条件の明示」とは

使用者と労働者が労働契約を締結する場合には、使用者は、労働者に対し、賃金、労働時間、就労場所などを明示しなければなりません。明示しなければならない事項は、労働基準法や労働基準法施行規則に定められています(労働基準法施行規則5条1項柱書)。

2019年4月から電子メール等による労働条件の明示が可能に」

労働契約自体は、書面でのやりとりがなくてもお互いの合意だけでも成立はしますが、労働条件の明示が求められている特定の事項については、書面に記載し、その書面を労働者に交付する必要があります。労働条件を明示することで労働条件に関する紛争を防止し、労働者を保護するためです。

もっとも、平成31年4月に改正法が成功され、必ずしも書面である必要はなく、労働者が希望する場合には、メール、FAX(出力により書面の作成ができるツール)などでも明示することができるようになりました。

労働条件の明示をメール等でする場合の明示すべき事項とは

必ず明示しなければならない事項

労働条件をメール等などの書面ではない方法で明示する場合には、①労働契約の期間に関する事項、②有期労働契約の場合の更新の基準に関する事項、③就業場所、従事すべき業務に関する事項④労働時間等に関する事項⑤賃金等に関する事項、⑤退職(解雇も含む。)に関する事項です。

これ以外の事項については、口頭で伝えることも可能です。

労働契約の期間に関する事項

労働契約には、期間の定めのない労働契約と期間の定めのある労働契約があります。そのため、当該労働契約が期間の定めのない労働契約である場合にはその旨、期間の定めのある労働契約である場合には、その期間明示する必要があります。

また、期間の定めのある労働契約の場合には、期間満了後に当該労働契約を更新する場合がある場合には、更新する場合の機銃を明示する必要があります。

就業場所・従事すべき業務に関する事項

入社後に就労する場所及び従事すべき業務を明示することで足りると考えていますが、紛争防止のためには、将来従事する可能性のある場所や業務、出向や派遣などの内容も合わせて明示する方が良いです。

労働時間・休日・休暇等に関する事項

始業及び終業の時間、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇等の規定を明示する必要があります。

賃金に関する事項

賃金の金額、賃金の計算方法や支払い方法、賃金の締め切り日や支払い時期、昇給に関する事項について明示する必要があります。

退職に関する事項

退職に関する事項、解雇事由について明示する必要があります。

口頭のみの明示でもよい事項

これまで記載した事項は、必ず明示する必要がありますが、それ以外の事項については、必ずしも明示する必要はなく、口頭での明治でも良いとされています。その事項は、以下の通りです。

  • 退職手当の定めが適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払いの方法並びに退職手当の支払いの時期に関する事項
  • 臨時に支払われる賃金(退職手当を除く。)、賞与及びこれらに準ずる賃金並びに最低賃金額に関する事項
  • 労働者に負担させるべき食費、作業用品その他に関する事項
  • 安全及び衛生に関する事項
  • 職業訓練に関する事項
  • 災害補償及び業務外の傷病扶助に関する事項
  • 表彰及び制裁に関する事項
  • 休職に関する事項

パートタイマーへの明示の例外について

これまでは、正社員の場合の労働契約の明示についてご説明してきましたが、パートタイマーの労働者に対しては、上記の内容に加えて、昇給の有無、退職手当の有無、賞与の有無、短時間労働者の雇用管理の改善等に関する事項に係る相談窓口についても明示する必要があります(パート労働法6条1項、パート労働法施行規則2条1項)。

労働条件の明示をメール等で行う際の注意点

労働条件の明示をメール等は、使用者の判断で行うことができるわけでありませんメール等で労働条件を明示する場合には、以下の条件が整うことが必要ですので、注意が必要です。

労働者がメール等での明示を希望していること

労働条件をメール等で明示するためには、労働者がメール等の方法で明示することを希望していることが必要です。そのため、労働契約を締結する時点で、メール等で労働条件の明示を希望するか明示的に確認する必要があります。

書面として出力できるものに限られる

メール等を利用する場合、その記録を出力することにより書面を作成することができる者でなければなりません(労働基準法施行規則5条4項2号)。そのため、文字制限があったり、書面の出力ができなかったりする場合には、労働条件を明示したと評価されません。

本人のみが閲覧できるように送信すること

メール等を利用する場合、受信者を特定して情報を伝達するために用いられる電子通信であることが必要です(労働基準法施行規則5条4項2号)。そのため、ブログ等ではなく、労働者本人がメール等を確認できるアドレスに送信する必要があります。

メール等が到達したことを確認すること

本来書面で労働者に書面で労働条件を明示する必要があるわけですから、メール等で送信しただけでは足りず、労働者に到達している必要があります。

場合によっては、アドレスが異なっていたり、受信拒否をされていたりする危険があり、その場合には労働条件を明示ししていないと評価される危険があります。きちんと労働者にメール等が到達している確認をした方が良いです。

メール等で労働条件を明示するメリットとは?

メール等で労働条件の明示を行うことができると、①効率的に労働契約を締結することができる、②コストを削減できる、③オンライン上で一括して管理することができるなどのメリットがあります。

書面ですと、原本を印刷し、捺印したり郵送したりしなければならず時間がかかりますし、印刷代、郵送代、書面代等がかかります。しかし、メール等で労働条件の明示を行うことができれば、そのような時間やコストを削減することが可能となります。

また、募集から採用までの一連の手続きをオンライン上で行うことができれば、資料も一括して管理することができ、労働者の管理にも資することができます。そのため、今後、労働条件の明示をメール等で行う機会は増えていくものと推測されます。

明示義務に違反した場合の罰則

使用者が、労働条件の明示義務に違反した場合には、30万円以下の罰金(労働基準法120条)の罰則が課される危険があります。パートタイマーの労働契約については、10万円以下の罰金(パート労働法31条)です。

メール等による労働条件の明示でトラブルとならないよう、労働問題に強い弁護士がアドバイスいたします。

メール等で労働条件の明示ができると、会社にとってもメリットがありますが、簡単にできるからこそ注意をして実施しないと思わないところで不足があり、労働者とトラブルになったり罰則等の制裁を受けたりする危険があります。

弁護士にご相談いただければ、メール等により労働条件の明示でトラブルにならによう、明示が求めれられている事項や明示方法等について、アドバイスをすることが可能です。

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監修:弁護士 伊東 香織弁護士法人ALG&Associates 横浜法律事務所 所長
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