労務

メンタルヘルス不調社員対応のポイントについて解説

横浜法律事務所 所長 弁護士 伊東 香織

監修弁護士 伊東 香織弁護士法人ALG&Associates 横浜法律事務所 所長 弁護士

メンタルヘルスの不調を訴えている従業員に対して、会社はどのように対応すればいいのでしょうか。
メンタルヘルス不調は怪我と異なり外から見て状況が分かりにくく、また対応によっては取返しのつかないこともあるため慎重に対応する必要があります。

目次

労働安全衛生法改正によるメンタルヘルス対策の強化

近年の職場のメンタルヘルスに対する関心の高まりを受けて、2014年(平成26年)労働安全衛生法改正により、ストレスチェック制度が導入されました。目的は、ストレスによるメンタルヘルス不調の未然防止です。

メンタルヘルス不調社員への配慮は会社の義務

会社は、安全配慮義務の一環として、メンタルヘルス不調社員への配慮をする義務を負っています。

安全配慮義務違反に対する損害賠償責任

メンタルヘルス不調の放置等を含む安全配慮義務違反で、会社は損害賠償責任を負う可能性があります。
すなわち、会社はメンタルヘルスの問題について取り組む必要があり、メンタルヘルス不調者が出た場合には適切に対応をしなければなりません。

メンタルヘルス不調を早期発見する重要性

メンタルヘルスの問題は、外観上わかりにくく、場合によっては手遅れとなる可能性があるため、早期発見は極めて重要です。
また症状が進行する前段階で察知しリカバリーができれば全体でみた際の対応コストの省力化もはかれます。

職場におけるメンタルヘルス不調の兆候とは

様々なものが考えられますが、典型的には、
①理由のはっきりしない成績不良
②理由のはっきりしない勤怠上の問題の頻発
③従前と比較しての感情の起伏の激化
等です。

メンタルヘルス不調と休職時の対応

まず、医師による診断を受けてもらい、当該診断書の提出をしてもらいましょう。その上で現状を確認し、休職も含めて対応を検討しましょう。
休職が可能であるとしてその期間とその間の賃金の取り扱いについて、労働者と協議しましょう。
なお、休職中でも保険料が発生しますので、その扱いについて事前に労働者側と協議しておきましょう。

休職中の社員への対応

治療については、精神科主治医に任せるしかありません。
もっとも、休職期間中は継続的に診断書の提出をしてもらい、休職者の健康状況の把握に努めましょう。
健康状況の把握を通じて、休職者との接点を継続的に持つことが重要です。
※接触をもつ際には、発言や態度が休職者のストレスとならないよう細心の注意を払ってください。

復職可否の判断について

医師の診断によって復職の可否の判断をしてください。
その際には、そもそも医師から示されていた期間はどれくらいであったか等、休職に入る際の医師の診断も踏まえた判断が必要です。

主治医の診断書による判断

復職可否の判断については、産業医の先生の診断ではなく、あくまで主治医の先生の診断が必要となりますので注意してください。

職場復帰を支援する「リハビリ出勤制度」とは

職場への復帰をさせるにしても、いきなり従前の業務の100%でもどすのではなく、リハビリするように徐々に慣らしながら復帰をさせるようにしてください。この「リハビリ出勤制度」は対象者の性質やメンタルヘルス不調の内容によって、設計が変わってきますから、可能であれば主治医と協議しながらその対象者にあった制度にしていきましょう。

メンタルヘルス不調を理由とした解雇は認められるか?

結論から言うとリスクが高いため、解雇は避けた方がよいです。
ご質問の状況では通常、休職期間中であることが多いと思います。
この状況で解雇をした場合には、

①復職事由は本当に存在しないのか
②復職事由が発生していないとして現実に存在する軽易な業務に就かせることはできないか
の2点が厳しく司法によって審査され、解雇が無効と判断される可能性があります。

メンタルヘルスによる解雇の妥当性が問われた判例

以下に最高裁判例をご紹介します。

事件の概要

とある会社の従業員Xは、精神的不調により、約3年間にわたり加害者集団等から盗撮や盗聴等を通じて、日常生活を監視される等の嫌がらせを受けているとの妄想に苛まれていました。
Xは会社に休職を求めましたが、会社は休職を認めず、有給を使い切った後約40日間、欠勤を続けました。
会社はこの欠勤を理由に諭旨退職処分としました。

裁判所の判断(事件番号 裁判年月日・裁判所・裁判種類)

精神的な不調で欠勤を続けている労働者に対して、当該不調が解消されない限り引き続き出勤しないことが予想されるのであるから、使用者としては、精神科医による健康診断を実施するなどした上で、診断結果を踏まえて必要な治療を勧めた上で休職等の処分を検討し、その経過を見守ることをまずはすべきであって、直ちに諭旨退職の懲戒処分をとることは適切ではないと判断しました。
(最高裁平成24年4月27日第二小法廷判決)

ポイントと解説

裁判所は精神的な不調で欠勤を続けている労働者に対しては、その性質を踏まえた会社側の対応を求めており、休職や医師への受診を勧める等の対応をまず求めていることが、この判例によって明らかとなりました。

メンタルヘルスケアで会社に求められる対応

メンタルヘルスケアについては、会社で以下の点が要求されています。

厚生労働省が提唱する4つのケア

厚生労働省は、
「職場における心の健康づくり~労働者の心の健康の保持増進のための指針~」を公表しています。
その中でメンタルヘルスの「4つのケア」として

① セルフケア(労働者自身)
② ラインによるケア(管理監督者等)
③ 事業場内産業保健スタッフ等によるケア(産業医等)
④ 事業場外資源によるケア(事業場外の専門家等)
を掲げています。

ストレスチェック制度の導入

事業者は,1年以内ごとに1回,定期に,労働者に対し,
①職場における労働者の心理的負担の原因,
②心理的負担による心身の自覚症状,
③他の労働者による当該労働者への支援に関する項目
について,医師等による心理的な負担の程度を把握するための検査(ストレスチェック)を行わなければなりません。常時使用する労働者が50人未満の事業場においては,当分の間,その実施は努力義務とされています。
なお、この検査については,労働者の受検義務は規定されておらず,これに応じるか否かは労働者の選択に委ねられています。

産業医との連携による適切な対応

産業医の先生には衛生委員会に出席して意見を述べていただき、ストレスチェック制度の実施状況を確認するなど、何らかの形でストレスチェックや面接指導の実施に関与してもらいましょう。

メンタルヘルスに関するQ&A

長時間労働者の面接指導でうつ病が疑われた場合、会社にはどのような対応が求められますか?

医師の診察を早急に受けてもらい、必要に応じて休職に入ってもらいましょう。

診断書にメンタルヘルス不調のため就労不能と記された場合、必ず休職させなければならないのでしょうか?

必ず休職させてください。就労不能と診断がなされていることを会社側が認識している状況下で就労させていた場合、安全配慮義務違反を理由に責任追及される可能性が高まります。

派遣社員がメンタルヘルス不調を抱えている場合、派遣先としていかなる対応をなすべきでしょうか?

派遣先としては、派遣元にメンタル不調の事実を速やかに伝え、対応を求めましょう。
派遣元の対応とは別に、派遣先としても通院を勧める等記録を残しておきましょう。
裁判所は、「派遣先だから」という理由だけで、安全配慮義務を免除するような判断は基本的にしていません。

うつ病の発症を理由に、退職勧奨を行うことは法的に認められますか?

認められません。厳密に言えば、私傷病の場合には可能ですが、通常は私傷病か否か判然としないため、うつ病を理由に退職勧奨することは危険です。

うつ病の社員が休職から職場復帰する場合は、元の職場に戻すべきでしょうか?

復帰を検討する場合に必用なのは、当該社員にとってその職場が適切かどうかという視点です。 元の職場でのストレスが原因である可能性があるならば、別の職場への配置転換も視野に入れるべきでしょう。

メンタルヘルス不調が疑われる社員に受診を勧めましたが、応じてくれない場合はどうしたらいいですか?

就業規則に基づき、休職処分とすることを検討ください。

ストレスチェックを実施しない会社への罰則はあるのでしょうか?

まず、常時50人以上の労働者を抱える事業場であるかどうかで分岐します。
常時50人以上の労働者を抱える場合は、罰金が定められています。
常時50人以上の労働者を抱えるわけではない場合は、現時点ではそもそもストレスチェックは義務ではないので罰則もありません。

メンタルヘルス不調による再休職を予防するにはどうしたらいいでしょうか?

従前と同じペースで働かせるのではなく、労働者とよく協議して、徐々に慣らすように復帰してもらうことが肝要です。

職場のメンタルヘルス不調における、管理職の役割を教えて下さい。

まず①管理する部下の異常をなるべく早く正確に検知し、
②より上位者へ性格に報告、
③当該労働者の性質を踏まえた対応の検討と実施
等、それぞれで主要な役割を担うことが求められます。

メンタルヘルス不調で遅刻・欠勤を繰り返す社員を解雇することは違法ですか?

当該メンタルヘルス不調が業務に由来するものである場合は違法となる可能性がありますので、基本的には解雇は避けるべきです。

うつ病が疑われる社員に対し、会社が指定した医師の診察を受けさせることは可能ですか?

(1)就業規則上で規定されている場合
規定の内容が合理的であれば、労働者に対して受診命令を下すことは可能です。

(2)就業規則上で規定されていない場合
こちらも命令の内容が使用者にとっても、労働者にとっても合理的かつ相当な措置であれば、労働者に対して受診命令は可能です。
むしろ、命令を出さない状態を漫然と続けていた場合は安全配慮義務を怠ったとして損害賠償責任を負う可能性があります。

ストレスチェックを受けさせる時間についても、賃金を支払う必要がありますか?

労働者の健康の確保は事業の円滑な運営の不可欠な条件であることから、賃金を支払うことが望ましいと言えます。

社員の主治医からメンタルヘルスについて情報を得る場合、従業員本人の同意は必要ですか?

必須です。
医師は患者に対して守秘義務を負っており、従業員本人の同意なく、従業員のメンタルヘルスについての情報を取得することはできません。

メンタルヘルス不調社員への対応でお悩みなら、労働問題を専門とする弁護士にご相談下さい。

従業員の精神的安定性は、重要な経営課題です。
一方で、メンタルヘルスの問題は、誰にとっても避けられない課題とも言えます。
メンタルヘルス不調社員の対応は、法的観点からも注意が必要です。適切なプライバシー保護や関連法の遵守、適切なコミュニケーション戦略の確立などが求められますので、労働問題を専門とする弁護士に相談ください。

横浜法律事務所 所長 弁護士 伊東 香織
監修:弁護士 伊東 香織弁護士法人ALG&Associates 横浜法律事務所 所長
保有資格弁護士(神奈川県弁護士会所属・登録番号:57708)
神奈川県弁護士会所属。弁護士法人ALG&Associatesでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。

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