監修弁護士 伊東 香織弁護士法人ALG&Associates 横浜法律事務所 所長 弁護士
- 団体交渉、労働組合対策
団体交渉は、交渉の中でも、一方当事者が法的に保護されている類型の珍しい交渉であり、対応には一定の法的知識と段取りについての経験が求められます。以下で概要を説明します。
目次
団体交渉の流れと進め方について
団体交渉の申し入れがあった場合の初動対応
まず「初回の団体交渉の場を、どのように設定するのか」について検討を行います。
具体的には、会社側、使用者側双方の窓口設定および連絡方法の決定が主となるでしょう。この段階での会社側の事務連絡窓口としては、人事担当職員が担い、人事についての責任を持つ部長級と連絡を密にすることが多いと思われます。
対応そのものを行わないという選択肢はありません。
申し入れがあったことについて、社長を初めとするマネジメント層及び顧問弁護士へ直ちに報告してください。
団体交渉の事前準備と予備折衝
事前準備・予備折衝としては、以下の項目についての検討が最低限必要です。
□会社側及び相手方双方の主担当者の設定
連絡窓口が一本化されていないと情報が錯そうし、交渉そのものがなりたたなくなってしまいます。
□連絡手段
現在では、メールでのやりとりを中心とすることになるかと思います。
□第1回目交渉期日
労働者側からの要望を踏まえて、事前検討をする時間を確保できるスケジュールにしましょう。
労働者側からしても会社側が事前検討を得ないまま第1回目の交渉期日を迎えても実りが少ないため、比較的調整は容易です。
団体交渉に向けて決めておくべき事項
少なくとも以下の内容については、事前に取り決めておく必要があります。
団体交渉の出席者・発言者
社長等のマネジメント側トップを出席させることは適切ではありません。
社長は最終意思決定者であり、団体交渉時の言動がそのまま基準として独り歩きする可能性があるからです。もっとも、交渉としての実態を担保するため、会社側の出席者には労働条件についての決定権限が必要です。
団体交渉の場所
会議室含めた社内施設は、企業の目的達成のための施設であり、団体交渉のための場所ではありませんので、一般論としてお勧めしません。
また、社内施設を交渉場所として指定した場合、出入りする社外の人に見られたり、時間が押しているにも関わらず占有し続けることもあり得ます。
団体交渉の日時
所定労働時間外でかつ、常識的な時間帯に指定することが必要です。
また、終了時間についても厳密に定めておきましょう。
団体交渉の費用負担
費用負担について、会社側と労働者側とで折半するという考え方もありますが、お勧めしません。
労働者側で、費用発生を理由に、労働者側に有利な場所に誘導される可能性があるからです。
基本的には、会社側がすべて負担することが望ましいと考えます。
弁護士への依頼の検討
団体交渉は、その交渉経過において、誠実交渉義務違反と評価される行動を極力とられないように注意する必要があります。一方で、誠実に交渉するということと、先方の要望を単純に受け入れるということについての峻別も求められるため、交渉そのものについての熟練が要求されます。
交渉について習熟している弁護士を早い段階で介入させましょう。
団体交渉当日の進め方
団体交渉の協議内容
団体交渉の申入書等に要求事項として記載がなされていることがありますので、事前に検討を行いましょう。例としては、未払い残業代の支払い等の賃金に関する内容や、非正規職員の正規採用等、労働者の処遇に関する内容が挙げられます。
団体交渉申入れの際に明らかにされない場合は、事前折衝時に要望を具体的に上げるよう、説明を求めることが考えられます。
録音や議事録の作成
労働者側が録音を申し出てきた場合、会社側も録音を行いましょう。
会社側から事前に、内容について双方録音することについて申し入れを行うということでもよいでしょう。
なお、相手方に黙って録音することは避けるべきと考えます。
団体交渉は一度すれば終わりというものではなく、会社が存続する以上、ずっと積み重ねられていきます。したがって、中長期的にみて、先方に交渉のやり方自体に対する不信感を与えることは極力避けるべきです。
議事録については、労働者側・使用者側双方が記録するという方法が、双方の納得を得やすいと考えます。議論の経過より、決まった内容を詳細に記載するようにしてください。
団体交渉の場で会社がやってはいけないこと
大きく分けると以下に分けられます。
⑴誠実な交渉
道徳上の要請というよりは、不当労働行為と評価されることを回避するための、いわば法的な要請です。以下のように具体化できます。
ア 組合側の要求を理解しようとしない。
交渉の第一歩は、要望の理解です。要求をのむということと、理解しようとすることは別です。組合側の要求を理解できるよう、具体的に話を聞いてください。その際には、要望の根拠や、なぜその要望をするに至ったのかの経緯についてもヒアリングが必要です。話が要領を得ないようであれば、ホワイトボードに書き出したり、会社側から質問する等、整理を試みてください。
イ 交渉継続となった場合に、交渉継続日を極端に先延ばしにしない
意味もなく先延ばしにすることは誠実交渉義務違反と指摘される可能性を高めます。なるべく柔軟にスケジュール調整を試みるべきでしょう。
ウ 無断録音しない
無断録音が判明した場合、組合側との最低限の信頼関係が失われかねません。
無断録音をしないという、その裏がえしとして、組合側にも無断録音を避けるように説明できますし、場合によっては、双方合意の上で録音をする提案もよいと思います。
エ 高圧的な発言/声を荒げる
双方感情的になっても得られるものはありません。団体交渉は法的な問題であり、感情の発露によって解決する性質の問題ではないからです。また、威圧的な言動は誠実交渉義務違反と捉えられる可能性があります。
オ 権限を一切持たない人間のみ出席させる
交渉の体をなしていないとして、誠実交渉義務違反であると指摘される可能性があります。
カ 労働組合からの脱退と引き換えの交渉
不当労働行為そのものとなりますので、絶対に避けるべきです。
⑵インパクトを精査しない上での合意
団体交渉において合意が成立した場合、その合意は、労働協約という強力な効果を帯びることとなります。したがって、合意に先立って社内での影響度を精査しなければなりません。例えば、賃上げが要望であれば、そもそも可能なのか、代替手段はないか、可能であればどの程度可能なのか、事前に経営層において検討しておく必要があります。
労働組合との団体交渉の終結
終結のパターンとしては、以下に大別できます。
労使間で合意に至った場合
「労働協約」(労働組合法14条)を締結することとなります。
この労働協約は、協約に反する個別の労働契約や就業規則を、必要な範囲で無効にする効力を有するため、内容については、慎重に精査する必要があります。
団体交渉が決裂した場合
労働者側から労働委員会にあっせんの申立てや労働審判、訴訟等の法的手続を開始することとなります。
会社側から積極的に問題解決をはかる方法としては、労働委員会にあっせんの申請をすることも考えられます。
団体交渉に関する裁判例
事件の概要
自動車教習所職員が会社に対し、春闘要求として、基本給一律の賃上げ要求書を提出しました。 約1か月間にわたり、8回の団体交渉を会社の小会議室で実施したものの、合計40名が出席し、大声を出す者がいたり等、自動車教習所の授業に支障が生じていたという状況でした。
そこで会社側は著しく喧噪で業務に支障を生じさせるような団体交渉には応じられないとして、一切の団体交渉を拒否し、「団体交渉ルール確立に関する申入書」を題する書面をもって、①時間を原則2時間以内として、超過する場合は、打ち切りの上次回継続とすること、②教習所の目的を損なうことなく十分に交渉できる場所を教習所施設外に指定すること、③交渉人員は、組合側5名以内、教習所側4名以内 の以上3点のルール確立がなければ団体交渉に応じないとの対応をしました。
裁判所の判断(事件番号・裁判年月日・裁判所・裁判種類)
「原告の態度は、場所の点は格別、時問及び交渉人員の点について、原告提案の条件の維持を一貫して主張して、譲らず、とくに右三条件を一体として、直ちにルール化しようとして、右ルールを設定した後でなければ、団体交渉には応じられないとし、その結果、両組合員に対し、昭和四七年度の賃上げ実施や夏季一時金の支給をもしないのであって、とうてい首肯し難」いとして、誠実団交義務違反を認めました。
(昭51(行コ)22号 東京高裁昭和62年9月8日判決)
ポイント・解説
この裁判例は、上述のルール①②③そのものの妥当性というよりは、一方的にルールを示し、維持するという頑なな態度そのものが問題とされた事案です。
前提条件についても交渉の一環として一方的にルールを押し付けるのではなく、あくまで交渉してルールをつくっていくという対応が求められているといってよいでしょう。
解決には冷静な対話と一貫した方針が必要
団体交渉は、労働者という相手方のいる交渉であり、早期解決を目指してできるものではありません。
求められるのは、相手方の要望を冷静に見極めるための対話と、ブレない一貫した方針です。
交渉途中でもしも方針が動揺した場合、相手方は動揺につけこみ、交渉は、泥沼化していきます。
団体交渉を有利に進めるためには、専門的な知識が必要となります。まずは弁護士にご相談下さい。
団体交渉は対応を誤ると企業に与える影響が甚大です。
また、団体交渉は決裂・合意いずれの顛末となっても、交渉過程は、先例として会社を事実上拘束しかねない性質のものであり、場当たり的な対応は望ましくありません。
会社の実情を踏まえ、過去の決裂例(裁判例)・法令を分析した上で対応が求められるため、平時の業務をこなしながらの対応は困難を極めます。したがって、団体交渉申入れがなされた段階から弁護士の関与が望ましいと言えます。
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