監修弁護士 伊東 香織弁護士法人ALG&Associates 横浜法律事務所 所長 弁護士
労働者が体調不良等で一定期間働けないことが見込まれる場合、労働者を休職させるということがあります。
会社としては業務に耐えられるように労働者に休職してもらい、回復につとめてもらいたいと考えていても、労働者側が休職命令を拒否することがあります。
そのような労働者に休職命令を強制することは出来るでしょうか。また、休職命令を拒否する労働者にはどのように対応したらよいでしょうか。
以下、解説をしていきます。
労働者が休職命令を拒否する理由とは?
労働者の中には、休職命令を拒否する人がいることもあります。
例えば、
- 休職期間中の収入面での不安
- 昇給や昇格、給与等への影響を懸念
- 仕事を長期的に休むことにより他の労働者に迷惑を掛けてしまうことへの罪悪感
- 職場での自身の居場所や存在感がなくなってしまうというような心配
等の理由から、休職命令を拒否する労働者がいます。
会社は休職命令を強制することができるのか?
休職命令を拒否する労働者に対して、会社は休職命令を強制することが出来るでしょうか。
休職命令を出すために就業規則に休職命令について規定すること等は必要ですが、休職“命令”である以上、会社は労働者に休職を強制することができます。
そのため、休職命令を出したにもかかわらず、労働者が労務提供を行なおうとする場合、会社は労務提供を拒否することが可能です。
休職命令を出す目的とは
休職は、労働者が体調不良等により約束どおりの労務提供ができない場合に、約束どおりの労務提供が出来る状態になるまで、労務提供の義務を免除することです。
休職命令を出すのは、いくつかの目的があります。例えば、私傷病による体調不良の場合であれば、
- 体調回復に専念させて復帰できるようにする目的
- いきなり解雇をするのではなく、回復するか否かを見定める解雇(又は当然退職)の猶予期間としての目的
が考えられます。
労働者側にも健康を保つ義務がある
労働契約上、労働者は契約により定められた労務提供を行う義務があります。したがって、労働者側にも健康を保ち、契約により定められた労務提供を行えるようにする義務があります。
そのため、私傷病により労務提供ができないというのは、労働者側の義務違反という整理になります。
しかしながら、労働者側の義務違反であるとはいっても、いきなり会社として解雇することは難しく、解雇(又は当然退職)前の猶予期間(労務提供ができる状態に戻れるかを見定める期間)を設けるために、休職命令を出すことになります。
労働者としても、休職命令が適法に出されたのであれば、休職期間中は回復に努めなければなりません。
休職命令を強制する方法
休職命令を適法に出すことができれば、休職を強制することができます。
そこで、休職命令を適法に出すために必要な準備について、以下解説します。
休職命令について就業規則に規定する
休職命令は、特段根拠となる規定が存在しなくても発することができるという考え方もありますが、実務的には、就業規則で休職命令について規定しておくことが無難であると考えられます。
そこで、まずは就業規則に休職に関する規程を設け、そこに休職を会社が「命じる」ことが出来る旨を記載しておくべきです。
休職するか否かを労働者の判断に委ねるような記載では、会社として休職を「命じる」ことが出来ない可能性もあるため、文言には注意が必要です。
産業医や主治医の意見を聞く
例えば体調不良による休職の場合であれば、本当に体調不良か否か、休職の必要性が認められるかについて、産業医や主治医の意見を聞くのが無難です。
実際には体調不良ではないとか、若干の体調不良はあっても労務提供は行える程度のものに過ぎないということであれば、そもそも休職命令を出すことができないと考えられますので、注意が必要です。
労働者に休職の必要性を説明する
労働者の中には休職に難色を示す人もあります。会社としては、契約に定められた労務提供ができていないということや、体調不良を改善するためにも一定期間療養に専念する必要があるということ等の休職の必要性を十分に説明しましょう。
また、労働者からも休職に関する意見等は十分に聞き取りを行うことが重要です。
労使双方が納得の上で休職とすることが本来的には望ましいですし、仮に労働者は休職に難色を示したとしても、十分な説明の機会や意見陳述の機会が与えられていたことにより、紛争化が避けられる可能性も高まります。
紛争となった場合でも、休職命令が有効であると判断されるためにこれらの事情は重要と考えられます。
休職命令に応じない労働者を懲戒処分にできるか?
休職命令も就業規則に基づいて適法になされたものであるのであれば、労働者としては休職命令に従わなければなりません。そのため、休職命令に応じない労働者に対しては、懲戒処分を行うことが可能です。
ただし、当然の前提として、懲戒処分を行うためには、懲戒処分に関する規程が就業規則上設けられていること等は必要です。
また、懲戒処分一般の問題と同様ですが、いきなり懲戒処分から入るのではなく、まずは注意や指導等を行い、次に、懲戒処分としての軽い処分から段々と重い処分としていく必要があります。
休職命令が無効となるケースもあるので注意!
休職命令自体が裁判所に無効と判断されるケースもあります。
仮に休職命令が無効と判断されたのであれば、労務提供ができなかった期間について、労務提供できていないことは会社側の責任ということになります。
その場合には、労務提供していないにもかかわらず賃金が発生しており、賃金を支払わなければならない可能性があることになりますので、注意が必要です。
休職命令の有効性が問われた裁判例
実際に休職命令の有効性が裁判で争われることがあります。以下、休職命令の有効性が争われた実際の裁判例を紹介します。
事件の概要
この裁判例では,労働者が、会社は休職を命じるべき事由がないのに休職命令を発し,原告の提供した労務の受領を拒絶したと主張して,本件休職命令が無効であることの確認を求めるとともに,休職期間中の未払賃金等を求めた事案です。
裁判所の判断(事件番号・裁判年月日・裁判所・裁判種類)
この裁判は、東京地方裁判所平成30年3月13日判決の裁判例です。
裁判所は、労働者が、休職命令当時,通常の労務提供ができない状態にあったとはいえず,就業規則上の休職事由は認められず休職命令は無効と判断しました。
ポイント・解説
会社の就業規則には、「従業員が・・・業務外の傷病により通常の労務提供ができず、その回復に一定の期間を要するときは、3か月以内の範囲で会社は期間を指定した休職を命じることがある」との記載がありました。
労働者である原告は、従前、パチンコ店の清掃及び警備に係る“営業業務”に従事していましたが、会社からは“営業業務”から“警備部門”(長時間の立ち仕事が予定されている)への配置転換を示唆されていました。
労働者は警備部門への配置転換を避けるために、「警備等の長時間の立位で就労する業務は腰痛が悪化するおそれが強いので避けるべきであり、そのような業務に就くことはできない」という趣旨の記載のある診断書を会社に提出しました。
会社はそれに対し、同診断書によれば労働者は上記就業規則の定めに該当するとして休職命令を発しました。
裁判所は、
- 休職命令までに、労働者が腰痛により現に欠勤したという事実が認められないこと
- 医師の診断はあくまで、長時間の立ち仕事が予定されている“警備部門”の業務遂行ができないというものであり、従前の“営業業務”の業務も遂行できないというものではないこと
- 休職命令当時、労働者が警備部門に配置転換されることが確定していたわけではないこと
以上の事情に鑑みて、休職命令当時、通常の労務提供ができない状態にあったとは認められないと判断し、休職命令を無効としました。
休職命令についてお悩みの際は、人事労務に詳しい弁護士にご相談ください。
体調不良等により長期に欠勤したり、メンタルヘルスに問題があり、安定した業務遂行ができなかったりする労働者がいる場合には、実際に会社の業務に支障がでることも多く、対応に頭を悩ませることも多いと思われます。
そういった場合の対応は、休職命令や解雇等を見据えながらの対応にならざる得ないこともあり、裁判所でも実際に争われる部分ですので、是非人事労務に詳しい弁護士への相談をお勧めいたします。
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保有資格弁護士(神奈川県弁護士会所属・登録番号:57708)
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