監修弁護士 伊東 香織弁護士法人ALG&Associates 横浜法律事務所 所長 弁護士
経営にあたって、就業規則を変更する必要がでてくる場面というのは意外と多いものです。
では就業規則を変更する場合、何に気を付けなければいけないのでしょうか。就業規則に手を加える場合、常に注意をしなければいけないのが、いわゆる「不利益変更」の場面です。
就業規則の不利益変更とは
労働者に不利な内容で、就業規則を変更することをいいます。
典型的には、給与や退職金を、現行よりも低い金額にする場合が不利益変更にあたります。
会社が就業規則を一方的に不利益変更することはできない
原則として、会社は、労働者の合意なく、就業規則を労働者に不利な内容で変更することはできません。
就業規則の変更により不利益変更を行う方法
変更内容を労働者に周知し、かつ、変更の内容が合理的であれば、労働者との合意なく、就業規則の変更は可能です。
就業規則を不利益変更する場合の「内容面」での注意事項
原則として、不利益変更の場合は、労働者と使用者の合意なく変更することはできません。しかし、労働者への周知がなされ、内容に合理性があれば、例外的に、労働者との合意なしで、就業規則を不利益に変更することができます。
就業規則の不利益変更に合理性がある
「合理性」を判断する基準とは?
- 労働者の受ける不利益の程度
- 労働条件の変更の必要性
- 変更後の就業規則の内容の相当性
- 労働組合等との交渉の状況
- その他の就業規則の変更に係る事情
の各点に照らして、合理的なものであるか否か等の観点から判断がされます。
法令や労働協約に反する内容であってはならない
法令や労働協約に反する内容に変更する場合、合理性があるとの判定がされることはなくなります。
法令については、遵守すること自体が合理的であるとされ、
労働協約については、労働組合との取り決めを反故にすること自体が不合理とされているからです。
就業規則を不利益変更する場合の「手続面」での注意事項
内容に合理性があったとしても、就業規則の変更にあたって、手続が尽くされていない場合は、不利益変更が認められない可能性があります。
従業員代表者の意見書が必要
意見書の提出を求めましょう。
意見書は、事後的に紛争が生じた際、適正な手続きを踏んだことを証明する証拠となります。
変更後の内容を従業員に周知しなければならない
変更後の内容は、従業員に周知しなければなりません。
周知がされなければ、労働者において不合理であるか否かの判断ができないからです。
就業規則の適切な周知方法とは?
- 紙で配布
- ファイルに綴じて特定の場所に備え付ける
- 電子化する
等々様々な方法がありますが、ポイントは「何時でも誰でも見ることができる」方法かどうかです。
一方的な不利益変更や周知義務を怠った場合は罰則の対象?
不利益変更にしたからといって直ちに罰則の対象になるわけではないですが、そもそも周知義務を果たせていない場合は、就業規則の周知義務(労働基準法106条)自体に違反し、労働基準法上の罰則(30万円以下の罰金 労働基準法120条1号)の対象となることがあります。
就業規則の不利益変更でトラブルにならないためには
実際の変更前に、変更内容の予告と、変更する理由の説明を行っておきましょう。
不利益変更の場合、変更の周知と、変更内容の合理性の2点は遅かれ早かれ必ず問題となりますので、説明を後回しにする実益はありません。むしろ、変更後に初めて説明する場合、不利益変更が認められなくなるリスクを無意味に高めます。
なるべく早い時期に説明をすることが望ましいです。
就業規則の不利益変更について争われた裁判例
事件の概要
60歳定年制を採用していた銀行が、就業規則を変更し、55歳に達した行員の基本給を55歳到達直前の額で凍結し、各種手当の不支給や業績給の半減により、退職時までの賃金を3割前後削減した事例です。
裁判所の判断(事件番号・裁判年月日・裁判所・裁判種類)
最高裁は、就業規則の変更のうち、賃金減額の効果を有する部分につき、これに同意しない行員に対しては効力を生じないと判断しました。
(最高裁判所 平成8年(オ)第1677号・平成12年9月7日第一小法廷判決)
ポイント・解説
注目すべきは、就業規則の変更の全てについて効力を生じないとしているわけではない点です。あくまで、賃金減額の効果を有する部分(不利益変更部分)についてのみ、同意をしていない行員に効力を生じないとしている点に注目しましょう。
就業規則の不利益変更で労使トラブルとならないよう弁護士がサポートいたします。
就業規則の不利益変更にあたっては、変更内容と手続面の両にらみで進めていかなければならず、労働者側の不安といった心理面での配慮も必要となります。
法律面を含めた多方向への配慮と検討が必要となりますので、経験ある弁護士への相談をお勧めします。
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保有資格弁護士(神奈川県弁護士会所属・登録番号:57708)
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