労務

副業禁止なのに副業している従業員への対応と注意点

横浜法律事務所 所長 弁護士 伊東 香織

監修弁護士 伊東 香織弁護士法人ALG&Associates 横浜法律事務所 所長 弁護士

会社として副業を禁止しているにもかかわらず、副業をしている従業員がいた場合、会社としてはどのように対応をするべきでしょうか。

ここでは、副業禁止を巡る法律上の問題や従業員への対応等について解説していきます。

従業員の副業禁止は法的に問題ないのか?

そもそも、従業員の副業を会社が禁止するということは、法的に問題ないのでしょうか。基本的に、従業員が会社に対して負っている義務は、勤務時間中に労務提供するというものです。

逆に、勤務時間外は本来的に自由(会社に拘束されるものではない)と考えられます。そのため、副業禁止について、法的に問題がないとはいえず、副業禁止についてはその有効性を慎重に検討しなければなりません。

就業規則における副業禁止規定の有効性

副業禁止の有効性について、参考になる裁判例(京都地裁平成24年7月13日判決)があります。この裁判例では、

・労働者は、雇用契約の締結によって一日のうち一定の限られた勤務時間のみ使用者に対して労務提供の義務を負担し、その義務の履行過程においては使用者の支配に服するが、雇用契約及びこれに基づく労務の提供を離れて使用者の一般的な支配に服するものではない

・労働者は勤務時間以外の時間については、事業場の外で自由に利用することができるのであり、使用者は、労働者が他の会社で就労(兼業)するために当該時間を利用することを、原則として許さなければならない

・もっとも、労働者が兼業することによって、労働者の使用者に対する労務の提供が不能又は不完全になるような事態が生じたり、使用者の企業秘密が漏洩するなど経営秩序を乱す事態が生じることもあり得るから、このような場合においてのみ、例外的に就業規則をもって兼業を禁止することが許されるものと解するのが相当である。

と判示されています。

この裁判例を参考に、就業規則の規定も整えなければなりません。例えば、兼業による疲労等により本業に支障が生じるおそれがある場合や、兼業により企業秘密が漏洩するおそれがある場合等に限って、副業は禁止するというような規定にすることで、規定自体の有効性は認められやすくなると考えられます。

従業員が副業禁止に違反している場合はどう対応すべきか?

従業員が副業禁止に違反している場合、会社としてはどのように対応すべきでしょうか。会社としていきなり懲戒処分を下してよいのか等、注意すべき点があります。

副業禁止違反時の対応方法・流れ

副業禁止に対する違反が発覚したら、緊急性のある場合は別ですが、基本的には、まず当該従業員に直接面談等で事情を確認すべきでしょう。従業員の説明を聞いた上で、具体的に当該従業員の副業を禁止できる状況か否か(本業に支障が生じるか、情報漏洩等が起きる状況か等)を検討することになります。

仮に副業を禁止できる具体的状況ではないということであれば、会社としては副業を許可せざるを得ません。他方、副業を禁止できる具体的状況であった場合には、副業を辞めるように当該従業員に任意の申し入れを行うことになります。

当該従業員がそれでも副業を辞めない場合には、会社として、就業規則に基づき、副業を辞める命令を出すことになります。当該命令に反して副業を辞めない場合、会社として懲戒処分を下すことを検討することになります。

副業している従業員を懲戒処分にできる?

副業禁止に関する有効な就業規則があり、かつ、具体的状況からも副業を禁止することが許されるような場合、当該従業員を懲戒処分できるでしょうか。

懲戒処分一般にいえることですが、多くのケースでは、いきなり懲戒処分を下すのではなく、事情の聴取、意見陳述の機会の付与、注意・指導等を事前に行うこと等、懲戒処分に至るまでの手続き的段階を経る必要があると考えられます。

そのような段階を経たうえで、なお、具体的に副業を禁止できる状況にある場合には、当該従業員に懲戒処分を下すことが可能と考えられます。

副業で懲戒処分が認められるケース

副業で懲戒処分が認められるケースの代表例としては、本業の業務が危険性を伴うため、安全な作業が必要になることから、十分な休息が必要であるにもかかわらず、副業により十分な休息が取れず、本業の作業に影響が出てしまうケースであると考えられます。このようなケースでは、副業を禁止しなければ、本業で重大な危険を発生させてしまう可能性があります。

懲戒解雇が「不当解雇」とみなされる場合もあるため注意!

副業禁止違反による懲戒解雇が、不当解雇と評価される場合も当然考えられます。

懲戒解雇に至るための必要な段階を経ていない場合はもちろん、実際の副業の状況を踏まえれば、本業の業務遂行に支障が生じないと評価できるような場合には、副業禁止規定自体は設けられていたとしても、当該懲戒解雇は不当解雇であり、無効と評価されてしまうでしょう。

副業に関する労使トラブルを防止するための対策

副業の意識も高まっている現在、副業に関する労使トラブルは増加してくるでしょう。今後、会社としては、どのようにしてトラブルの防止を図っていくべきでしょうか。以下では、副業に関する労使トラブルを防止するための対策を解説していきます。

就業規則の整備と周知

副業を禁止するには、少なくとも就業規則上明記することは必要です。

他方で、一切の副業を一律に禁止するということでは、当該規定の有効性に疑義が生じますので、本業に重大な支障が生じる場合や機密情報の漏洩等が起こり得る場合に限定して副業を禁止できる規定にする必要はあると考えられます。

就業規則を整備し、きちんと従業員に周知することも重要です。その際は単に副業が禁止されているということを周知するのではなく、その理由や趣旨を説明することも重要でしょう。

解雇ではなく退職勧奨を行う

副業を行っている従業員がおり、会社として看過できない場合でも、いきなり解雇を行うのではなく、退職勧奨を行うのがよいでしょう。

いきなり解雇をすると従業員への影響も大きく、反感を買って法的有効性を争われることも多いです。退職勧奨であれば最終的には合意退職をすることが多く、後日の紛争防止に繋がります。

副業を解禁することも検討する

上記のとおり、裁判所は(会社の業務内容にもよりますが)副業の一律禁止を認める可能性は高くないと考えられます。したがって、副業に関しては、禁止すべき場合を限定し、それ以外の場合に関しては副業を解禁することも検討してもよいでしょう。従業員のモチベーション向上につながる可能性もあります。

副業禁止と懲戒処分に関する裁判例

副業禁止と懲戒処分に関する裁判例を紹介します。紹介するのは、仙台地方裁判所平成元年2月16日判決です。

事件の概要

タクシー会社で運転手として稼働する原告が、非番の日を利用して、風呂釜や湯沸器等ガス器具の修理販売業を行っていたことについて、会社から副業禁止違反等を理由に懲戒解雇された事例です。原告は懲戒解雇を無効として争いましたが、懲戒解雇は有効と判断されました。

やや古い事例ですが、参考になる事例です。

裁判所の判断

仙台地方裁判所平成元年2月16日判決では、

・乗客の生命、身体を預かるタクシー会社にとって事故を防止することは企業存続上の至上命題であり、社会的に要請されている使命でもあるから、従業員たる運転手が非番の日に十分休養を取り体調を万全なものとするように期待し、且つ、心労や悩みの原因となる事由をできるだけ排除し、もって安全運転を確保すると共に、従業員の会社に対する労務提供を十全なものたらしめようとすることは当然であり、このような趣旨から被告が従業員の副業を懲戒解雇事由として禁止していることには十分な合理性があるものと解すべきである。

・しかるところ、前記認定によれば、原告が従事していた副業は、曽ては本業としていた程の営業であり、売上高や利益は原告自身か述ベるとおり現在でも相当額に達し、単なるアルバイトからの臨時収入といえない程原告の生計にとって不可欠な規模に達しており、原告自身がその販売、配達、据付、修理等の労務に従事することにより、非番等の日における心身の休養時間が少なくなるのみならず、経営上の悩みや心労を伴うことが不可避であるといわなければならない。しかも、原告は、被告会社において副業か禁止されていることを十分認識していながら、就職後も継続して右の副業に従事していたのである。

・したがって、原告が右のとおり副業を行いながら被告会社の運転業務に携ることにより、事故防止というタクシー会社に課せられた使命の達成が危うくなると共に、従業員の会社に対する労務提供の確保という目的も達せられなくなることは明らかであるから、原告が右のどおり副業を行っていたことは懲戒解雇事由に該当する。

以上のとおり判断し、副業禁止違反を理由に、懲戒解雇を有効としています。

ポイント・解説

この事例のポイントは、やはりタクシー運転手というのは、顧客を乗せての安全に運転するということが強く求められる職種であり、体調管理や十分な休息を必要とするという点だと考えられます。副業により十分な休息をとることができない場合には、安全な運転という業務遂行に支障がでて、重大な事故に発展する可能性もあるため、副業禁止もやむを得ないところと考えられます。

副業に関する従業員対応でお困りの際は弁護士までご相談下さい。

副業を行っている従業員がいる場合、会社としてはどのように対応すべきか、悩ましい場合もあるでしょう。個別の事情を踏まえて判断する必要もあり、副業禁止の法的有効性の判断も難しいところです。お困りの場合は、是非弁護士にご相談ください。

横浜法律事務所 所長 弁護士 伊東 香織
監修:弁護士 伊東 香織弁護士法人ALG&Associates 横浜法律事務所 所長
保有資格弁護士(神奈川県弁護士会所属・登録番号:57708)
神奈川県弁護士会所属。弁護士法人ALG&Associatesでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。

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