監修弁護士 伊東 香織弁護士法人ALG&Associates 横浜法律事務所 所長 弁護士
保険会社より事故の慰謝料を提示されたとき、「これは本当に妥当な金額なの?」と疑問を持たれた方は多くいらっしゃると思います。
しかし、「交通事故を数多く扱っているプロだから妥当な金額を提示しているだろう」、「よくコマーシャルなどで聞く名前の保険会社が言うのだから間違いないだろう」と思って、なんとなく提示金額を受け入れていませんか?
実は、交通事故の慰謝料の算定基準には、3つの基準があり、同じ事故の慰謝料でも、どの基準を選ぶかにより、慰謝料の相場が変わります。
相手方の保険会社より提示された額が、実際には妥当な金額ではなかったという可能性は大いにあります。
本記事では、算定基準別の慰謝料の相場、適正な相場で慰謝料を獲得するためのポイントなどについて、説明していきたいと思います。
慰謝料額の相場について気になっている方はぜひご覧ください。
目次
算定方法によって慰謝料の相場は大きく変わる
慰謝料の算定基準には、①自賠責基準、②任意保険基準、③弁護士基準の3つの基準があります。同じ慰謝料でも、どの基準を選ぶかにより、慰謝料の金額が変わります。
自賠責基準は被害者を最低限救済するための基準であるため、被害者側に過失が無い事故では、最も低額となります。次に任意保険基準ですが任意保険基準は各保険会社が独自に設定する基準で、非公表であり、自賠責基準とほぼ同額か多少高い程度と言われています。
ぜひ知っていただきたいのは、3つ目の基準である弁護士基準です。弁護士基準は過去の交通事故問題の裁判例をもとに作られた基準で、弁護士が代理人となって示談交渉する場合や裁判などにおいて用いられる基準であり、3つの基準の中で、最も高額になります。
具体的には、「損害賠償額算定基準」(通称:赤本)という本に弁護士基準額が記載されています。
まずは交通事故チームのスタッフが丁寧に分かりやすくご対応いたします
実際に慰謝料の相場を比較してみよう
それでは、具体例をもとに、3つの算定基準により慰謝料相場にどの程度の差が出るのか、比較していきたいと思います。
怪我をした場合の慰謝料相場
下記の具体例をそれぞれの算定基準にあてはめ、慰謝料相場を算出してみたいと思います。(例)入院1ヶ月(30日)、通院3ヶ月(90日)、実通院日数40日
① 自賠責基準
入院1か月、通院3か月で治療期間が120日になるため、自賠責基準での入通院慰謝料の相場は、51万6000円となります。
自賠責基準での慰謝料の計算方法は、
- 4300円×対象日数=入通院慰謝料
とされているのですが、実際は非常に特殊な計算となっています。
対象日数は、原則的には治療期間となりますが、実際に入院及び通院した日数(実通院日数)が治療期間の2分の1に達しない場合は、計算方法が異なり、実通院日数×2をした日数となります。
分かりにくいと思いますので、
- 入院期間+通院期間(治療期間)
- (入院期間+通院期間の中で実際に入院、通院した日数)×2
を比較し、小さい方の数に4300円を掛けると考えてください。
※2020年3月31日以前に発生した事故の場合は、4200円×対象日数を適用します
②任意保険基準
任意保険基準は非公表ですが、以前使用されていた慰謝料算定表(旧基準)を参照すると、入院1ヶ月、通院3ヶ月の入通院慰謝料額は60万4000円とされており、現在もこれに近い金額を設定する保険会社が多いとされています。
③弁護士基準
弁護士基準では、通常の怪我(別表Ⅰ)と軽症(別表Ⅱ)に分かれた「慰謝料算定表」を参照し、入院期間と通院期間の交わる部分が入通院慰謝料です。
入院1ヶ月、通院3ヶ月で、
- 通常の怪我(骨折など)➡別表Ⅰより115万円
- 軽症(他覚所見のないむちうちなど)➡別表Ⅱより83万円
となります。
よって、上記例の場合、弁護士基準の慰謝料額が最も高額になります。
入院 | 1月 | 2月 | 3月 | 4月 | 5月 | 6月 | 7月 | 8月 | 9月 | 10月 | 11月 | 12月 | 13月 | 14月 | 15月 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
通院 | AB | 53 | 101 | 145 | 184 | 217 | 244 | 266 | 284 | 297 | 306 | 314 | 321 | 328 | 334 | 340 |
1月 | 28 | 77 | 122 | 162 | 199 | 228 | 252 | 274 | 291 | 303 | 311 | 318 | 325 | 332 | 336 | 342 |
2月 | 52 | 98 | 139 | 177 | 210 | 236 | 260 | 281 | 297 | 308 | 315 | 322 | 329 | 334 | 338 | 344 |
3月 | 73 | 115 | 154 | 188 | 218 | 244 | 267 | 287 | 302 | 312 | 319 | 326 | 331 | 336 | 340 | 346 |
4月 | 90 | 130 | 165 | 196 | 226 | 251 | 273 | 292 | 306 | 316 | 323 | 328 | 333 | 338 | 342 | 348 |
5月 | 105 | 141 | 173 | 204 | 233 | 257 | 278 | 296 | 310 | 320 | 325 | 330 | 335 | 340 | 344 | 350 |
6月 | 116 | 149 | 181 | 211 | 239 | 262 | 282 | 300 | 314 | 322 | 327 | 332 | 337 | 342 | 346 | |
7月 | 124 | 157 | 188 | 217 | 244 | 266 | 286 | 304 | 316 | 324 | 329 | 334 | 339 | 344 | ||
8月 | 132 | 164 | 194 | 222 | 248 | 270 | 290 | 306 | 318 | 326 | 331 | 336 | 341 | |||
9月 | 139 | 170 | 199 | 226 | 252 | 274 | 292 | 308 | 320 | 328 | 333 | 338 | ||||
10月 | 145 | 175 | 203 | 230 | 256 | 276 | 294 | 310 | 322 | 330 | 335 | |||||
11月 | 150 | 179 | 207 | 234 | 258 | 278 | 296 | 312 | 324 | 332 | ||||||
12月 | 154 | 183 | 211 | 236 | 260 | 280 | 298 | 314 | 326 | |||||||
13月 | 158 | 187 | 213 | 238 | 262 | 282 | 300 | 316 | ||||||||
14月 | 162 | 189 | 215 | 240 | 264 | 284 | 302 | |||||||||
15月 | 164 | 191 | 217 | 242 | 266 | 286 |
入院 | 1月 | 2月 | 3月 | 4月 | 5月 | 6月 | 7月 | 8月 | 9月 | 10月 | 11月 | 12月 | 13月 | 14月 | 15月 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
通院 | A’B’ | 35 | 66 | 92 | 116 | 135 | 152 | 165 | 176 | 186 | 195 | 204 | 211 | 218 | 223 | 228 |
1月 | 19 | 52 | 83 | 106 | 128 | 145 | 160 | 171 | 182 | 190 | 199 | 206 | 212 | 219 | 224 | 229 |
2月 | 36 | 69 | 97 | 118 | 138 | 153 | 166 | 177 | 186 | 194 | 201 | 207 | 213 | 220 | 225 | 230 |
3月 | 53 | 83 | 109 | 128 | 146 | 159 | 172 | 181 | 190 | 196 | 202 | 208 | 214 | 221 | 226 | 231 |
4月 | 67 | 95 | 119 | 136 | 152 | 165 | 176 | 185 | 192 | 197 | 203 | 209 | 215 | 222 | 227 | 232 |
5月 | 79 | 105 | 127 | 142 | 158 | 169 | 180 | 187 | 193 | 198 | 204 | 210 | 216 | 223 | 228 | 233 |
6月 | 89 | 113 | 133 | 148 | 162 | 173 | 182 | 188 | 194 | 199 | 205 | 211 | 217 | 224 | 229 | |
7月 | 97 | 119 | 139 | 152 | 166 | 175 | 183 | 189 | 195 | 200 | 206 | 212 | 218 | 225 | ||
8月 | 103 | 125 | 143 | 156 | 168 | 176 | 184 | 190 | 196 | 201 | 207 | 213 | 219 | |||
9月 | 109 | 129 | 147 | 158 | 169 | 177 | 185 | 191 | 197 | 202 | 208 | 214 | ||||
10月 | 113 | 133 | 149 | 159 | 170 | 178 | 186 | 192 | 198 | 203 | 209 | |||||
11月 | 117 | 135 | 150 | 160 | 171 | 179 | 187 | 193 | 199 | 204 | ||||||
12月 | 119 | 136 | 151 | 161 | 172 | 180 | 188 | 194 | 200 | |||||||
13月 | 120 | 137 | 152 | 162 | 173 | 181 | 189 | 195 | ||||||||
14月 | 121 | 138 | 153 | 163 | 174 | 182 | 190 | |||||||||
15月 | 122 | 139 | 154 | 164 | 175 | 183 |
引用元:「民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準」
軽傷(擦り傷、打撲等)の慰謝料相場
擦り傷程度の軽傷でも、被害者にとって怖い思いをしたことに変わりありません。
怪我の治療のために通院をしたならば、たとえ通院日数が少なかったとしても、慰謝料を請求することが可能です。
例えば、擦り傷を負い、通院1ヶ月、実通院日数10日の場合、自賠責基準による慰謝料は、4300円×2×10日=8万6000円となります。また、弁護士基準による慰謝料は、算定表の別表Ⅱを参照すると、19万円となります。
後遺障害が残った場合の慰謝料相場
後遺障害が残った場合の慰謝料相場は、下記表のとおり、後遺障害等級別に定められています。
自賠責基準よりも弁護士基準による慰謝料の方が高額になります。なお、任意保険基準は非公表ですが、自賠責基準より多少高い金額を設定する保険会社が多いです。
後遺障害等級 | 自賠責基準 | 弁護士基準 |
---|---|---|
1級 | 1,150万円 (1,650万円) | 2,800万円 |
2級 | 998万円 (1,203万円) | 2,370万円 |
3級 | 861万円 | 1,990万円 |
4級 | 737万円 | 1,670万円 |
5級 | 618万円 | 1,400万円 |
6級 | 512万円 | 1,180万円 |
7級 | 419万円 | 1,000万円 |
8級 | 331万円 | 830万円 |
9級 | 249万円 | 690万円 |
10級 | 190万円 | 550万円 |
11級 | 136万円 | 420万円 |
12級 | 94万円 | 290万円 |
13級 | 57万円 | 180万円 |
14級 | 32万円 | 110万円 |
複数の後遺障害が残った場合の慰謝料相場は?
複数の後遺障害が残った場合、4級と5級など、複数の後遺障害等級が認定される可能性があります。その場合、認定された等級を併合し、併合後の等級に応じた後遺障害慰謝料を請求することになります。後遺障害等級の併合のルールは下記のとおりです。
①5級以上の後遺障害が2つ以上→最も重い等級を3級繰り上げ
②8級以上の後遺障害が2つ以上→最も重い等級を2級繰り上げ
③13級以上の後遺障害が2つ以上→最も重い等級を1級繰り上げ
④14級の後遺障害が2つ以上→14級のまま
死亡事故の慰謝料相場
自賠責基準による死亡慰謝料は、被害者本人に対する慰謝料と遺族に対する慰謝料の合計額です。
死亡慰謝料を請求できる権利をもつ遺族は、被害者の父母、配偶者、子となります。
なお、下記表は被害者本人と遺族を合わせた死亡慰謝料の合計額になります。
遺族 | 扶養家族なし | 扶養家族あり |
---|---|---|
1名 | 950万円 | 1150万円 |
2名 | 1050万円 | 1250万円 |
3名以上 | 1150万円 | 1350万円 |
一家の支柱 | 2800万円 |
---|---|
母親・配偶者 | 2500万円 |
その他 | 2000万~2500万円 |
弁護士基準の相場がこんなに高額なのはなぜ?
算定基準別の慰謝料相場をみて、弁護士基準の相場がなぜ高額なのか疑問に思う方もいらっしゃるでしょう。弁護士基準は過去の交通事故事件の裁判例をもとに作られた一応の目安の基準であり、被害者にとっての「一応の相場」といえます。すなわち、弁護士基準が高額なのではなく、他の基準が低いということになります。
弁護士基準で慰謝料を獲得したい場合、どうしたらいい?
事故の被害者が弁護士基準の相場で慰謝料を獲得するためには、どうすればいいのでしょうか。適正な慰謝料を請求するためのポイントをいくつか挙げたいと思います。
弁護士へ依頼をする
適正な慰謝料を獲得するためには、弁護士基準により、慰謝料を算定することが必要です。
弁護士基準で慰謝料を請求したい場合は、弁護士に依頼することをおすすめします。弁護士が介入すれば、弁護士基準での賠償に相手方が応じる可能性が高くなるでしょう。
通院中の人ができること
適正な慰謝料を請求するためには、怪我の治療に必要な範囲で、適切な通院頻度を保つことが必要です。通院頻度が低すぎたり、もしくは、高すぎたり、症状固定の時期が早かったりすると、入通院慰謝料が低額になり、後遺障害等級認定の際にも不利になるおそれがあるからです。
また、後遺症が残りそうな場合は、後遺障害等級認定を見据えた治療や検査を受けておくことも必要になるでしょう。
適正な通院頻度を保つ
適正な通院頻度は、怪我の状態や治療状況などにより異なります。仕事や家事でなかなか通院できないという方もいらっしゃるかもしれませんが、主治医と相談しながら、怪我の治療に必要な範囲で、適切な通院頻度を保つことが必要です。
例えば、交通事故で最も多いとされる、むち打ち症の場合は、主治医の指示のもと、週2~3回、1ヶ月に10日程度、怪我が完治または症状固定まで通院することをおすすめします。
なお、過剰に通院日数が多いと、治療の必要性を疑われ、治療が早期に打ち切られたり、通院日数としてカウントされなかったりという可能性もあるので注意が必要です。
後遺障害等級を認定してもらう
後遺症について、自賠責保険の後遺障害認定を受けると、後遺障害慰謝料の請求が可能になります。後遺障害等級が上級になるほど慰謝料も増額するため、いかなる等級に認定されるかが重要になります。
まずは交通事故チームのスタッフが丁寧に分かりやすくご対応いたします
弁護士なら、適正な慰謝料相場に向けて様々な場面でサポートが可能です
これまで、慰謝料の相場についてみてきましたが、弁護士基準を適用すると、大半のケースで慰謝料が増額することがお分かりいただけたと思います。
しかし、被害者自身で弁護士基準による慰謝料を計算し、保険会社に提示したとしても、「これは裁判で使う基準です」などと言われ、拒否される可能性が高いでしょう。
一方、弁護士が示談対応する場合は、基本的には弁護士基準での交渉となるため、高い基準である弁護士基準での賠償金額になる可能性が高まりますので、適正な慰謝料を請求したい場合は、弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士が介入すれば、慰謝料の計算や示談交渉、必要な資料の収集や手続きなどを代行して行いますし、慰謝料請求に必要な通院頻度や検査のアドバイス、後遺障害診断書作成の際のサポートなどをすることも可能です。
慰謝料の請求についてお困りの場合は、交通事故問題に精通した弁護士が所属する弁護士法人ALGまでお問い合わせください。
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保有資格弁護士(神奈川県弁護士会所属・登録番号:57708)