
監修弁護士 伊東 香織弁護士法人ALG&Associates 横浜法律事務所 所長 弁護士
他の従業員よりも作業の能率が低かったり、多くのミスをしてしまったりするローパフォーマーの社員について、会社はどのように対応すべきでしょうか。対応する際の注意点や解雇可能か否か等、以下、解説をしていきます。
目次
ローパフォーマー社員の特徴
ローパフォーマー社員には、例えば以下のような特徴が見受けられます。会社としては、このような特徴のある社員の取り扱いには苦慮してしまうところです。
仕事に主体性がない
ローパフォーマー社員には、仕事に主体性がないという特徴があります。自ら考えて仕事を見つけたり、仕事をより質の高いものにするために積極的に工夫したりするということがなく、指示された仕事を行うだけというようなものです。
指示された仕事をしっかりとこなせることも重要ですが、主体的に仕事を行うことも、会社としては社員に期待したいところです。
同じミスを繰り返してしまう
ローパフォーマー社員には、同じミスを繰り返すという特徴もあります。ミスをすること自体は致し方ないとしても、繰り返し指導を行っても同様のミスを行ってしまうということでは、会社としても困ってしまいます。
ただ、ローパフォーマー社員の中には、せっかく指導を受けても真摯に受け止めず、改善しようとしない結果、同様のミスを繰り返してしまう人も多いです。
勤務態度に問題がある
ローパフォーマー社員には、勤務態度に問題がある場合もあります。明らかに後ろ向き・消極的な態度で、例えば、挨拶をしない、返事をしない、コミュニケーションをとろうとしないというような場合が考えられます。
これでは業務遂行に支障をきたしてしまいます。他にも、堂々と仕事を怠っているということであれば、他の社員の士気が大きく下がってしまうことも考えられます。
コミュニケーション能力が著しく低い
ローパフォーマー社員には、コミュニケーション能力が著しく低いという特徴もあります。コミュニケーション能力が著しく低い場合、指示されている仕事内容を理解できなかったり、自身の状況を十分にそれを伝えることが出来なかったり、同僚に協力を求められず質の低いものしかできなかったり等、様々な問題が生じる可能性があります。
なぜローパフォーマー社員が生まれるのか?
このような特徴のあるローパフォーマー社員がなぜ生まれるのでしょうか。様々な原因が考えられますが、以下、いくつか要因を考えてみます。
仕事に対する成長意欲がない
何かしらの理由で仕事に対する成長意欲がない場合、当該社員はローパフォーマー社員となる可能性が高いと考えられます。
仕事に対する成長意欲がなければ、仕事の質が向上していくことがないため、同じようなミスを繰り返したり、入社時からさほど能率が上がっていなかったり、主体性が見受けられなかったりという形となって現れるでしょう。ローパフォーマー社員となってしまう根本的な原因ともいえるでしょう。
知識やスキルが不足している
知識やスキルが不足している場合にも、ローパフォーマー社員となりやすいでしょう。そもそも必要とされる能力が備わっていなければ、どうしても仕事の能率は低いものとなってしまいます。
その状態で仕事をしてもうまくいかず、結果としてやる気を失ってしまうということも考えられます。知識やスキル不足の場合には、早急に知識やスキルを身に着けさせることが重要となるでしょう。
採用段階でミスマッチが生じている
近頃は、入社前の段階で、どういった仕事を入社後に行いたいか、ある程度想定(期待)して入社することも増えてきていると思います。実際に入社して従事する業務内容が、本人が想定・期待していたものとは違ったり、想定とは一致していたものの、実際に従事してみて期待するほどの満足感は得られなかったりした場合には、やる気を失ってローパフォーマー社員となってしまうこともあり得ます。採用段階でのミスマッチを最大限防いでいくことも重要であると考えられます。
会社側の指導に問題がある
会社側の指導に問題がある場合もあります。未経験であるにもかかわらず十分な指導を行わず放置したり、指導の範囲を超えてパワーハラスメントに該当するような状態になったりしている場合には、社員としてモチベーションを維持することが難しくなってしまいます。適切な指導を行うよう配慮することが必要となってきます。
ローパフォーマー社員を放置するリスク
ローパフォーマー社員を放置すると、会社として、どのようなリスクが生じるでしょうか。
致命的なミスを犯して取引先等に多大な損害を与え、会社として損害賠償義務を負ってしまうというようなリスクがまず考えられます。他にも以下のようなリスクが生じる危険があります。
組織としての生産性が低下する
ローパフォーマー社員は仕事の質・量とも十分ではないため、当然ながら、十分な成果を上げることが出来ません。本人の仕事が十分でないのであればまだしも、ローパフォーマー社員は仕事を怠ったり、勤務態度に問題があったりする場合もあるため、他の社員の士気を下げてしまうことがあります。
職場全体の士気が下がってしまうと、組織全体の生産性が下がり、その損失は大きなものになると考えられます。
他の従業員の負担が増える
ローパフォーマー社員がミスを犯したり、仕事を十分に果たさなかったりした場合には、当然他の社員がフォローやケアをしなければなりません。そうすると、他の社員の負担も増え、不満も蓄積してしまうことになります。それにより優秀な社員が辞めてしまうようなことになれば、会社としては大きな損失を被ることになります。
ローパフォーマー社員に対してまずやるべき対応
このように、ローパフォーマー社員による影響は大きく、会社として対応しなければなりません。以下、会社としてどのように対応していくべきか、解説していきます。
本人に問題点を伝える
まず、本人に、社員として期待される業務遂行が出来ていないということを明確に伝える必要があります。具体的に生じている問題を伝えたうえで、パフォーマンスの低さを改善する必要があることを本人に分かってもらいましょう。
本人が達成すべき目標を設定する
具体的な問題点を伝えたうえで、本人が達成すべき具体的な目標を、当該社員と面談の上で決定しましょう。漫然と本人に仕事をしてもらうよりも、具体的な目標を定めた方がやる気も出やすく、また、適正に評価することも出来ます。なるべく客観的な目標を設けるのが望ましいでしょう。
評価・報酬制度を見直す
ローパフォーマー社員の目標を具体的に定め、その目標を達成できたという場合には、きちんと会社として評価し、報酬を与えることができれば、ローパフォーマー社員のモチベーションも高まることでしょう。評価を適切に行うことが出来るような体制になっているか、報酬は適正に与えることができる制度になっているか、改めて確認をした方がよいでしょう。
定期的な面談の機会を設ける
目標を定めても、その後に放置してしまうということでは、ローパフォーマー社員の状況を正確に把握することが出来ません。適切な指導を行うためにも、ローパフォーマー社員との定期的に面談を設けるのがよいでしょう。
ローパフォーマーの社員を解雇できるのか?
では、ローパフォーマー社員を解雇することは出来るでしょうか。解雇は、会社から一方的に雇用契約を終了させることです。
結論としては、当該社員の業務能率が悪いということだけでは、直ちに解雇することは難しいと考えられます。社員によって能力等に差があることは当たり前のことであり、能力不足の社員に対して指導をしていくことも会社の責任であると考えられます。そのため、能力不足等による解雇が認められることはあるとしても、基本的にはハードルが高いと考えた方がよいです。
ローパフォーマー社員を解雇する際の注意点
解雇一般にいえることですが、会社は、最大限解雇を回避する義務があります。ローパフォーマー社員を解雇するときも同様です。そのため、ローパフォーマー社員を解雇前提として、会社として十分に指導したことや、それでもパフォーマンスが改善しなかったということが必要です。また、他の職務への配置転換を検討したかどうか等も考慮されることになります。
このような回避措置を取らずに、いきなり解雇をしても、その解雇は無効と判断される可能性が高いでしょう。
指導が十分されているか
ローパフォーマー社員に対しては、なぜパフォーマンスが低いといえるのか、きちんと説明できるようにするとともに、記録に残しておくことが重要です。例えば、他の社員と比較して業務のミスがどれほど多いのか等は記録を残しておくとよいでしょう。
その上で、その問題点が改善されるよう指導や面談を行うわけですが、このときも、指導であれば指導書、面談であれば面談の概略を記載した書面を残すようにしましょう。
このような形で指導をし、その後のパフォーマンスについても観察、記録をしていきます。状況が改善されていないようでは、再度指導等を行います。
指導等は粘り強く行い、それでもパフォーマンスが改善しないかどうかを観察、記録しましょう。
このように、まずどのような点でパフォーマンスに問題があるのか、どういった指導をどれだけ行ってきたのか、パフォーマンスは改善したのか等の点をきちんと記録に残し、会社として十分に指導を行ってきたことを示すことができるようにしておく必要があります。
指導をしても改善されなかった証拠が残っているか
指導をしてもパフォーマンスが改善しなかったという事情も、解雇をする上では必要になってきます。どのような指導を行い、その後パフォーマンスが改善したのか、きちんと記録に残すようにしましょう。一定期間はパフォーマンスが改善したものの、また元に戻ってしまったということもあるかもしれませんので、比較的長期間、観察、記録を続ける必要があります。
可能であれば配置転換を検討する
指導をしても、その仕事についてはパフォーマンスが改善しないという場合、会社として可能であれば、すぐに解雇するのではなく、配置転換を検討すべきです。その仕事を遂行する能力には欠けているものの、他の仕事であれば十分な水準で業務を遂行できるということもあり得ます。このように配置転換を検討したかどうかも、裁判所は考慮しています。
解雇の前に退職勧奨を行う
会社として解雇を回避するために手を尽くしてもなお、パフォーマンスが改善しない場合に、解雇を考えることになります。ただし、解雇はやはり最後まで、最大限回避すべきものであるため、解雇の前に、退職勧奨を行うべきです。退職勧奨をしても社員が退職をしない場合には、最終的に解雇を実行するのか、もうしばらく指導等を行ってみるのか検討することになります。
ローパフォーマー社員の解雇に関する裁判例
ローパフォーマー社員の解雇は実際に裁判例ではどのように判断されているか、以下紹介していきます。
事件の概要(事件番号・裁判年月日・裁判所・裁判種類)
ローパフォーマー社員を解雇したものの、裁判所から解雇は無効であると判断された事例があります(東京地裁平31.2.27判決)。本件は、組織変更される前の被告会社との間で雇用契約を締結し、プロジェクト・コーディネーターとして勤務していた原告が、業務成績は不良であることなどを理由に解雇されたため、被告に対し、当該解雇が無効であると争った事件です。
裁判所の判断
裁判所は、
「原告にはその職位に照らして職務遂行上必要とされる能力等が不足しており,このため期待された職務を適正に遂行することができず,その業務成績は客観的にみて不良であるとの評価を免れず,平成23年から平成26年までの4年間のうちの2年間はいずれも最低評価(下位5%)を受けていることも併せて考慮すれば,上記能力等の不足は,解雇を検討すべき客観的な事情として一応認められるものであるといわざるを得ない」職務遂行能力について評価したうえで、
「原告がこれまでの業績評価についても2回は最低評価を免れていること,平成26年以前の業績評価は相対評価であって,同年以前の2回の最低評価から直ちに解雇に値する重大な能力不足が推認されるわけではないこと,平成25年までは業績評価に関与した直属の上司らから改善点の指摘が多いながらも肯定的な評価を受けている箇所も散見されること,被告に貢献しようとする一応の意欲がみられること,業務成績不良等を原因とするものも含めてこれまで懲戒処分を受けたことはないことをも併せて考慮すれば,原告は,その業務成績は不良であるものの,改善指導によって是正し難い程度にまで達していると認めることはできない。」と改善可能性について言及しています。
そして「被告は原告の職務等級(降級)や役職の引き下げを検討ないし実施して,業績改善を試みる必要があるとの判断には消長を来さないというべきである。すなわち,就業規則の定めを見ても,配置転換や降級等の措置を執るために本人の同意が不可欠であるとは解されないから,被告は,上記面談の拒絶をもって原告がその処遇について要望を述べる機会を放棄したとみなして,そのような態度も考慮の上,上記各措置を講じれば足りるのであって,原告の面談拒絶をもって解雇回避措置を検討ないし実施することの必要性までもが否定されるとは認め難い。被告は,本件解雇に先立って上記の解雇回避措置を実施するなど業務成績改善の機会を与えていないのであって,前記に説示したように原告の能力不足に関する客観的な事情が直ちに解雇しなければならないほどのものとまではいえない以上,そのような状況でされた本件解雇が社会的に相当であるともいえない。」
と判断をして、解雇を無効であると結論付けています。
ポイント・解説
この裁判例は、社員の能力不足等があるという点は認めたうえで、未だ改善可能性があるということを指摘しており、そのような状況で、例えば配置転換や降級等の措置により業務改善を試みる機会を与えることなく解雇したのでは、社会的相当性が認められないと判断しています。
すなわち、能力不足が認められるような状況でも、最大限解雇を回避するべく措置を講じなければならないということです。
ローパフォーマー社員の対応でお困りなら弁護士法人ALGにご相談下さい。
仕事のパフォーマンスが低い社員がいる場合、その影響は目に見えにくいものの、会社として大きな損失が生じていることがあります。他方で、解雇に至るまでも相当程度必要なステップがあります。
ローパフォーマー社員に対して会社としてどのように指導を行い、どのように記録に残していけばよいのか等ローパフォーマー社員に対する対応には専門的な知見が必要となることが多いですので、お困りの場合にはぜひ弁護士法人ALGにご相談下さい。
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保有資格弁護士(神奈川県弁護士会所属・登録番号:57708)
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