監修弁護士 伊東 香織弁護士法人ALG&Associates 横浜法律事務所 所長 弁護士
親会社は子会社の上部にある会社ですが、どういった場合に親会社、子会社というのでしょうか。また、通常、団体交渉は、従業員が直接所属する会社に対して行うものですが、子会社の従業員が、「親会社」に対して団体交渉を持ち掛けてきた場合、親会社としてはどのように対応することになるでしょうか。
以下、解説していきます。
「親会社」と「子会社」の関係とは?
会社法上には親会社と子会社の定義規定がありますが、親会社とは、会社(子会社)の議決権総数の過半数を有するような会社のことをいいます。
このような親会社は、子会社の経営方針等を決定することが可能となります。つまり、「親会社」と「子会社」との間には、親会社が子会社の経営を支配するという関係性があることになります。
子会社の従業員からの団体交渉に親会社は応じる義務があるか?
通常、団体交渉は、その従業員の直接の雇用主である会社に対して行います。他方、中には、子会社の従業員が直接の雇用主である子会社ではなく、その親会社に対して団体交渉を持ち掛けるケースがあります。
このような場合に、親会社としては団体交渉に応じなければならないのでしょうか。以下で解説していきます。
労働組合法における親会社の「使用者性」
親会社が団体交渉に応じる義務があるか否かは、その親会社が、労働組合法7条に定める「使用者」に該当するかどうかにより決まります。
そのため、その親会社が、「(子会社の)労働者の基本的な労働条件等について雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位」にある場合には、当該親会社も「使用者」に該当すると考えられます。
①労働組合法上の使用者性が肯定された事例
親会社について、労働組合法7条の使用者性を肯定したと考えることができる事例(東芝アンペックス事件 神奈川地労委 昭和59年3月31日命令)を紹介します。
事件の概要
本件は、東芝アンペックス(子会社)の従業員が、親会社である東芝にも、東芝アンペックスの解散に関する団体交渉の申し入れを行ったのに対して、東芝は東芝アンペックスの労働組合と団体交渉を行う当事者ではないとして団体交渉を拒否した事案です。
東芝アンペックスの労働組合側は、東芝の団体交渉拒否が不当労働行為に当たるとして申し立てを行いました。
労働委員会の判断(神奈川地労委 昭和59年3月31日命令)
労働委員会は、「(東芝は)株主としての立場からする以上に、会社(東芝アンペックス)の経営を左右しており、特に会社の労働関係については、実質的にその支配力を行使していた」ことから「東芝もまた会社(東芝アンペックス)とともに団体交渉の当事者たる責任を負うべき立場にある」とした上で、「組合が申し入れた団体交渉を東芝が拒否したことに正当な理由は認め難い」「不当労働行為と言わねばならない」と判断しています。
ポイント・解説
この事案では、親会社が、いかに子会社の経営、特に労働関係に実質的な支配力を有していたかが検討されています。多くの事実が認定・評価されていますが、そのいくつかを列記していきます。
- 親会社は子会社の議決権の68%を有していた。
- 会社の歴代社長は親会社から派遣されており、役員や管理職のほぼ全員も親会社から派遣されていた。
- 親会社は、労務関係として考えられる全ての事項について関連会社に報告させていた。
- 労働組合関係の調査項目はより細かく報告させていた。
- 関連会社の労使間の一時金交渉についても、親会社は関わっていた。
- 親会社は東芝アンペックス子会社の組合役員選挙にまで介入していたことが窺われる。
- 子会社は個別組合員の処遇についてまで親会社との協議をまってその措置を実施している。等の事実が認定され、いずれも、親会社の支配力を認める方向で評価しています。
②親会社及び持ち株会社の使用者性が否定された裁判例
親会社について、労働組合法7条の使用者性を否定した事例(タワーセミコンダクターリミテッド事件 兵庫県労委 平成30年3月22日命令)を紹介します。
事件の概要
子会社の100%株式を有するタワーセミコンダクターリミテッド(親会社)に対し、子会社の従業員が、就業規則で定める以上の退職一時金の要求を行った事案です。この事案では、タワーセミコンダクターリミテッドが労働組合法7条の使用者に該当するかどうかが争われました。
労働委員会の判断(兵庫県労委 平成30年3月22日命令)
労働委員会は、「会社(タワーセミコンダクターリミテッド)がY2(子会社)の従業員の退職条件について、Y2会社と同視できる程度に現実的かつ具体的に支配決定することができる地位にあったとは認められないから、会社は、本件において労組法第7条所定の使用者には当たらず、また、本件について不当労働行為責任を負う者にも当たらないと判断するのが相当である」と判断しています。
ポイント・解説
本件では、
- 100%子会社であること
- 親会社の役員4人が子会社の代表取締役を兼ねていること
- 子会社の従業員の働く工場の閉鎖を決定したのは、株主としての会社であること
という事実が認められることから、資本関係や役員派遣等を通じて親会社が子会社の経営に一定の支配力を有していたと評価しています。
また、
- グループのブランド名において工場の閉鎖がプレスリリースされたこと
- 子会社の従業員に対する退職金の支払資金を、親会社が子会社に貸し付けていたこと
という事実について、子会社の運営についても一定の関与をしていたと評価しています。
他方で、これらの支配力や関与は、企業グループの経営戦略的観点から親会社が子会社に対して行う管理・監督の域を超えないと判断しています。
そして、子会社の退職条件自体は、親会社の役員を兼ねている代表取締役ではない、子会社の別の代表取締役が中心となって独自に決められている点を踏まえ、親会社として子会社における労働関係を支配し、従業員の退職条件について雇用契約上の使用者と同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することのできる地位にあったと認定することはできない、と判断しています。
子会社の従業員から団体交渉を求められた場合の適切な対応
子会社の従業員から団体交渉を求められた場合、親会社としてはどのように対応するかについて裁判例を踏まえて検討する必要があります。
雇用関係がなくても誠実に対応する
直接の雇用関係がないことから直ちに団体交渉に応じる義務がないということにはなりません。そのため、直接の雇用関係がなかったとしても、団体交渉の申し入れがあったこと自体は真摯に受け止め、何ら検討することなく団体交渉を拒否するといった対応はしないようにしましょう。
団体交渉の議題を十分に精査する
親会社として団体交渉に応じる義務があるかどうかを判断するためにも、どのような内容が団体交渉の議題となっているかを十分に精査する必要があります。
親会社の決定権・影響力を調査する
団体交渉の議題となっている事項について、親会社として具体的にどのように関与してきたかを精査しましょう。全く関与していないのか、報告だけは受けていたのか、報告を受けるだけでなく具体的な指示までしていたのか等を決定権への関与度合いを整理する必要があります。また、持株割合、役員や管理職の構成(親会社からの派遣の有無)等の事情も調査する必要があります。
その上で、一般的な観点からはもちろん、特に団体交渉の議題となっている事項に関して、親会社としての決定権、影響力の大きさを調査し、それが直接の雇用主である子会社と同視できる程度のものなのであれば、団体交渉に応じなければなりません。
子会社の従業員からの団体交渉でお困り際は弁護士にご相談下さい。
子会社の従業員から団体交渉の申し入れがされた際、直接の雇用主ではないことから安易に団体交渉を拒否するケースも散見されるところです。しかしながら、ケースによっては、不当労働行為との認定を受けてしまう可能性があり、慎重に判断する必要があります。是非専門家である弁護士にご相談ください。
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