労務

入社前の研修中に事故で負傷した場合の労災と安全配慮義務

横浜法律事務所 所長 弁護士 伊東 香織

監修弁護士 伊東 香織弁護士法人ALG&Associates 横浜法律事務所 所長 弁護士

入社前研修中に事故で負傷した場合、労災保険は適用されるのか?

入社前研修中に研修に参加していた労働者として入社予定の者(内定者等)が、事故で負傷した場合、労基法上の労働者に該当し、労災の適用があるのかどうかが問題となります。本記事では、以下で入社前研修と労災の適用について説明していきます。

内定者に「労働者性」が認められるかどうかがポイント

入社前研修中である内定者は、雇用契約の開始時点から検討した場合、当該企業の従業員には該当しないものとも思えます。もっとも、雇用契約の開始時点からの考慮だけではなく、労災の適用が認められるには、労基法上の「労働者」に該当するかどうかがポイントになります。

入社前研修中の事故で労災適用が認められる3つの要件とは?

入社前研修中の事故について、労災適用が認められるには、以下の3つの要件が検討されることになります。

①支払われる賃金が一般の労働者並みの賃金であり、少なくとも最低賃金を上回っている

入社前研修において支払われる賃金が一般の労働者並みの金額であり、少なくとも最低賃金を上回っている必要があります。つまり、研修の対価として受領している内容が、「労働者」と評価しうる程度のものである必要があります。

②実際の研修内容が本来業務の遂行を含むものである

入社前研修の研修内容が、本来の業務の遂行を含むものである必要があります。つまり、入社前から、実質的には、アルバイトなどの形態で、会社において「労働者」が遂行すべき業務を担っているような場合を意味します。

③研修が使用者の指揮命令の下に、契約上の義務として行われている

入社前研修が、「労働者」と同じように、使用者の指揮命令の下に、契約上の義務として行われている必要があります。使用者の指揮命令下に置かれているかどうかは、労働者性の判断において非常に重要なポイントであり、入社前研修における「労働者」か否かの判断でも重要であることは同様だといえます。

企業は入社前の研修中においても「安全配慮義務」を負う

入社前研修における事故に労災の適用があるかどうかとは別の視点として、使用者は、入社前研修においても、内定者に対して、使用者が労働者に対して負っているのと同じように、安全配慮義務を負っています。

安全配慮義務を怠った場合のリスクとは?

安全配慮義務の履行を怠ったことが原因となって、入社前の研修を受ける内定者が事故等で損害を受けた場合には、使用者は、内定者に対する損害賠償責任を負う可能性がありますし、安全配慮義務違反を怠っていた事実が広まってしまうことによる企業のイメージダウンといったリスクもあります。

入社前研修中の労働災害に備えて企業がしておくべきこと

入社研修中の事故の発生に備えて、使用者は、内定者に対して、十分な安全配慮義務の履行を果たす必要がありますし、労災が適用される事案にあっては、必要な手続き等を案内しておく必要もあります。また、万が一、事故が生じてしまった場合に備えて、保険等に加入しておくことも賠償金等の負担を軽減する方法だといえます。

研修中の労災保険の適用に関する裁判例

入社前研修中の労災適用については、主だった裁判例は見当たりませんが、行政解釈においては、否定例がありますので、以下で紹介します。

事件の概要

大学等の実習生の労働者性について、各大学等の教育目的で、教育機関から委託費が支払われていて、実習内容も教育機関での実習規程等に従うものであって、支給される実習手当も一般労働者の賃金や最低賃金と比較して低く、実費補助又は恩恵的な納付であると認められる場合には、交通費などの一定の金銭が支給されていても、労災保険の適用はないとされています(昭和57・2・19基発121)

ポイント・解説

上記の行政解釈は、本記事でも紹介した3つの要件である、①支払われる賃金が一般の労働者並みの賃金であり、少なくとも最低賃金を上回っていること、②研修内容が、本来業務の遂行を含む研修期間中であり、③使用者の指揮命令の下に契約上の義務として支払われているものであることが労働者性の認定にいずれも必要であると判断しており、入社前研修中の労災適用については狭く判断しているといえます。

入社前の労災や安全配慮義務について不明点があれば、一度弁護士にご相談ください。

入社前研修中の労災適用等については、一般の労働者とは異なる検討を要する部分もありますので、使用者側で労働事件の取り扱いの多い弁護士に一度ご相談ください。

横浜法律事務所 所長 弁護士 伊東 香織
監修:弁護士 伊東 香織弁護士法人ALG&Associates 横浜法律事務所 所長
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