労務

不当労働行為救済命令とは?会社側の適切な対応方法

横浜法律事務所 所長 弁護士 伊東 香織

監修弁護士 伊東 香織弁護士法人ALG&Associates 横浜法律事務所 所長 弁護士

不当労働行為とは、労働者が労働組合を結成したり、団体交渉することを拒否したりする行為であり、使用者によるこれらの行為は、労働組合法によって、禁止されています。

不当労働行為があった場合、労働者や労働組合は、労働委員会に対して、救済を申し立てることができ、申立てが認められると、労働委員会から損害賠償などの救済命令が出されることになります。

この記事では、不当労働行為救済命令について説明したうえで、命令が出た場合に、どのように対処すべきかを解説します。

不当労働行為救済命令とは?

不当労働行為救済命令とは、使用者の行った不当労働行為について、労働委員会が発する是正命令のことです。

労働委員会とは、労働組合法によって設置された独立行政委員会で、各同数の使用者委員、労働者委員、公益委員によって構成されます。

労働者や労働組合が不当労働行為の救済申立てをおこなうと、労働委員会が調査、審問などの審査手続きを行い、不当労働行為の該当性を判断します。審査の結果、不当労働行為に該当すると判断した場合、労働委員会は救済命令を発し、該当しないと判断した場合は、棄却命令を出します。

不当労働行為には、不利益取扱や支配介入など、複数の類型があるため、救済を求められた不当労働行為に応じた救済命令が発令されます。

不当労働行為救済命令の内容とは?

労働委員会は、個々の事案に応じて、適切な是正措置を決定し、命令することができます。各不当労働行為の類型に対応した、救済命令の内容をご紹介します。

不利益取扱に対する救済命令

不利益取扱とは、労働組合に参加したことや、労働組合を結成したことなどを理由に、減給や解雇をするなど、不利益な取り扱いをする行為です。労働組合活動を理由に、不利益に取り扱うことが条件になっています。

不利益取扱に該当する解雇に対しては、元の職に戻らせることを命じる原職復帰命令や、解雇期間中の賃金相当額の支払いを命じるバックペイなどの命令が出されることがあります。

支配介入に対する救済命令

支配介入とは、使用者が、組合員に組合脱退を働きかけたり、組合幹部を解雇・出向させたりして、労働組合の勢力を弱めるために、活動に介入することです。労働組合結成を非難することも、支配介入に含まれます。

支配介入に対しては、支配介入禁止命令や、不当労働行為を陳謝する文書の提示を命じられることがあります。後者のような文書提示命令を、ポスト・ノーティスともいいます。

団交拒否(不誠実団交)に対する救済命令

労働者からの団体交渉の申入れを、使用者が正当な理由なく拒否することは、団交拒否として、不当労働行為に該当します。正当な理由とは、組合員からの暴言・暴力がある場合などであって、例えば、使用者が提示した、オンラインでしか交渉には応じないといった合理性のない開催条件に労働者が応じなかったというだけでは、正当な理由があるとは評価されません。

また、使用者は、団体交渉の申入れに対して、誠実に応じる義務があるため、交渉のテーブルにはつくものの、不誠実な交渉態度で臨んだ場合も、団交拒否とみなされます。

団交拒否に対しては、誠実に交渉するよう命令が出されます。

条件付救済命令

不当労働行為が認められた場合でも、労働者側にも行き過ぎた行動があったと判断される場合には、労働者側の陳謝などを条件として、救済命令が出されることがあります。

これを、条件付救済命令と言って、使用者側のみを非難するのではなく、使用者と労働者の公平を図るものです。

不当労働行為救済命令に対する会社側の適切な対応

不当労働行為救済命令が出された場合、内容に納得できるのであれば、命令に従って、適切な是正措置を行う必要があります。

他方、労働委員会の判断に不服がある場合は、再審査又は決定の取消しを求めて、不服申立てをすることができます。

①中央労働委員会に対する「再審査請求」

都道府県の労働委員会の行った救済命令に対しては、中央労働委員会に再審査請求を求めることができます。中央労働委員会では、改めて調査や審問を行い、再審査請求に理由があると認められた場合には、都道府県労働委員会の行った命令の全部又は一部を変更します。

再審査請求は、救済命令が交付されてから、15日以内に申し立てる必要があります。

②裁判所に対する「取消訴訟」

都道府県労働委員会の発出した救済命令や、中央労働委員会による救済命令に不服がある場合は、命令が交付されてから30日以内に、裁判所に取消しを求めて、訴訟を提起することができます。

ただし、都道府県労働委員会の救済命令に対して、取消訴訟を提起する場合は、再審査請求をすることはできないため、使用者はどちらかを選ぶ必要があります。

救済命令に違反したらどうなる?罰則はある?

再審査の申立てや取消訴訟を提起せず、救済命令が確定した場合、使用者は遅滞なく命令を履行しなければなりません。命令を履行しない場合、50万円以下の過料が課されます。

また、裁判所に提起された取消訴訟が棄却され、救済命令を認める判決が確定したにもかかわらず、命令を履行しない使用者には、1年以下の禁固又は100万円以下の罰金という重い罰則が課されます。

不当労働行為の救済命令に関する裁判例

事件の概要

国立大学が、人事院勧告にならい、55歳を超える労働者に対する給与引き下げを求めて、労働組合に団体交渉を行ったところ、合意が成立せず。上記の給与引き下げを実施しました。

これに対して、労働組合は、団体交渉における大学側の対応が、説明不足・資料の不提示など不十分な態様であり、不当労働行為に該当するとして、誠実交渉命令とポスト・ノーティスを求めて、県の労働委員会に救済命令の申立てをしました(なお、ポスト・ノーティスの申立ては棄却されました。)。

労働委員会が誠実交渉命令を出したため、合意成立の見込みがないにもかかわらず、誠実交渉を命じることは、労働委員会の裁量権を逸脱しているとして、当該部分の取消しを求めて、取消し訴訟が提起されました。

裁判所の判断(事件番号・裁判年月日・裁判所・裁判種類)

第一審(山形地判令和2年5月26日)では、すでに給与の引き下げが実施され、団体交渉の目的を達成することは明らかであるから、労働委員会の救済命令は、裁量権を逸脱して違法と判断しました。

第二審(仙台高判令和3年3月23日)も、命令発令時点で、合意は不可能だったと推認できるから、原審の判断は妥当と判断しました。

しかし、最高裁判所(最二小判令和4年3月18日)は、誠実交渉命令を発しても、合意の成立を期待することができない場合でも、労働組合は交渉により十分な説明や資料を請求することができ、労働組合の交渉力の回復や労使間のコミュニケーションの正常化が図られるとして、原審を破棄・差戻ししました。

ポイント・解説

最高裁は、誠実に団体交渉が行われることの意義を理由に、団体交渉の目的を達成する見込みがない場合でも、正常な労使関係秩序を形成するために、労働委員会は、誠実交渉を命令できると判断しました。

使用者側としては、団体交渉の目的は達成できないことだけをもって、労働者からの団体交渉を拒むことが、訴訟リスクに繋がることに注意する必要があるでしょう。

不当労働行為の救済命令でお悩みなら、労使問題を得意とする弁護士にご相談下さい。

会社の不当労働行為に対して救済申立てが出されると、会社は適切な対応を取らなければ、救済命令が発出され、罰金や訴訟などのリスクを抱えることになります。適切に対応しなければ、会社の信用や評判を落とすことに繋がりかねません。

不当労働行為に対して、救済申立てや救済命令が出された時は、当法人にご相談ください。企業法務経験豊富な弁護士が、適切な対応をアドバイスいたします。

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監修:弁護士 伊東 香織弁護士法人ALG&Associates 横浜法律事務所 所長
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