監修弁護士 伊東 香織弁護士法人ALG&Associates 横浜法律事務所 所長 弁護士
定時を設定せず、労働者が、出勤時間と退勤時間を自由に決められる「フレックスタイム制」。
では、フレックスタイム制度下では「時間外労働」という概念は存在しないのでしょうか。
今回は、フレックスタイム制における時間外労働の考え方について説明します。
目次
- 1 フレックスタイム制における時間外労働の考え方
- 2 フレックスタイム制の残業時間の計算方法
- 3 特例措置対象事業場の法定労働時間
- 4 労働時間に過不足があった場合の対処法は?
- 5 働き方改革による時間外労働の上限規制
- 6 フレックスタイム制における休日労働と深夜労働の取り扱い
- 7 よくある質問
- 7.1 総所定労働時間の超過分を、翌月の総所定労働時間から差し引くことは可能ですか?
- 7.2 フレックスタイム制のもとで、休日労働を行った場合の割増賃金率を教えて下さい。
- 7.3 フレックスタイム制の清算期間は、会社が自由に決めることができるのでしょうか?
- 7.4 時間外労働の上限を超えた場合、会社には罰則が科せられるのでしょうか?
- 7.5 フレックスタイム制を導入した場合、従業員に残業命令を下すことは可能ですか?
- 7.6 フレックスタイムにおける時間外労働について、就業規則にはどのように規定すべきでしょうか?
- 7.7 法定内残業が発生した場合でも割増賃金の支払いは必要ですか?
- 7.8 フレックスタイム制においても、時間外労働が月60時間を超えた場合の割増賃金は、50%以上となるのでしょうか?
- 7.9 総労働時間の不足分を繰り越した結果、翌月の総労働時間が法定労働時間を超えることは問題ないですか?
- 7.10 フレックスタイム制で休日労働を命じた場合、代休を付与することは可能ですか?
- 8 フレックスタイム制で時間外労働を適正に管理するなら、労務問題に強い弁護士にご相談ください。
フレックスタイム制における時間外労働の考え方
結論から言えば、フレックスタイム制のもとでも「時間外労働」は発生します。
そして、時間外労働が発生する以上、36協定の締結、残業代の支払い等は、通常と変わらず行う必要があります。
時間外労働が発生する場合は36協定の締結が必要
36(サブロク)協定とは、労働基準法(以下、「法」といいます)で決められた労働時間、すなわち「法定労働時間(1日8時間・1週間40時間以内)」を超えて労働者に働かせる場合に、所轄労働基準監督署長への提出が求められる、法36条に基づく労使協定のことです。
36協定では、「時間外労働を行う業務の種類」や、「1日、1ヶ月、1年あたりの時間外労働の上限」等を決める必要がありますが、フレックスタイム制においては、「同制度が適用される対象者の明示」も求められます。
フレックスタイム制の残業時間の計算方法
定時が存在しないフレックスタイム制においては、何時まで働いても労働者の自由ということになります。それでは、残業時間はどのように計算するのでしょうか。
清算期間が1ヶ月以内の場合
フレックスタイム制を採用するにあたっては、労使協定によって、「3か月以内の清算期間」を決める必要があります(法32条の3第1項2号)。
そして、清算期間内における法定労働時間の総枠を超えた時間が時間外労働時間となります。
清算期間が1か月以内の場合、清算期間における法定労働時間の総枠は、
40時間×清算期間の暦日数÷7日
で計算することができます。
清算期間が1ヶ月を超える場合
清算期間が1ヶ月を超える場合には、
- ①労委協定に有効期間を定めること
- ②清算期間開始後1か月ごとに区分した期間ごとに、平均した1週間あたりの労働時間が50時間を超えないこと
- ③労使協定の届出
という3つの要件を満たす必要があります。
法定労働時間の総枠の計算方法については、清算期間が1ヶ月以内である場合と基本的には変わりませんが、清算期間が1ヶ月を超える場合は、この総枠のみを守ればよいというわけではありません。
要件②があるので、各月ごとに週平均50時間を超過した時間についても時間外労働に該当します。
特例措置対象事業場の法定労働時間
特例措置対象事業場とは、特定の業種に該当する、常時10人未満の労働者を使用する事業場です。特例措置対象事業場に当たる場合は、法定労働時間が、「1日8時間・1週間44時間以内」になります。
特例措置対象事業場がフレックスタイム制を採用する場合には、この法定労働時間を前提に残業時間を計算することになります。
ただし、清算期間が1ヶ月を超える場合には、特例措置対象事業場であっても、週平均40時間を超えて労働させる場合には、36協定の締結・届出と、割増賃金の支払いが必要になるため、注意が必要です。
労働時間に過不足があった場合の対処法は?
フレックスタイム制においても、上記の計算によって、法定労働時間の総枠から過不足があるかどうかはわかります。
それでは、労働時間に過不足があった場合、どのように対処することになるのでしょうか。
総労働時間に過剰があった場合
フレックスタイム制においては、清算期間における法定労働時間の総枠を計算し、清算期間内の総労働時間のうち、その総枠を超えた部分が時間外労働になります。
したがって、その部分については割増賃金を支払う必要があります。
総労働時間に不足があった場合
同様に、清算期間内の総労働時間が、清算期間における法定労働時間の総枠に満たない場合は、欠勤扱いとして欠勤控除を行うことができます。
そのほか、不足時間分を次の清算期間に繰り越し、次の清算期間内において、総枠を超過した部分と合算するという方法も考えられます。こうすることで、割増賃金支払いの負担を軽減することができます。
働き方改革による時間外労働の上限規制
「働き方改革による時間外労働の上限規制」とは、残業時間の上限は、原則として月45時間・年360時間とし、臨時的な特別の事情がなければこれを超えることはできないという規制であり、大企業については2019年4月から、中小企業も2020年4月から施行されています。
また、臨時的な特別の事情があって労使が合意する場合でも、年720時間以内、複数月平均80時間以内、月100時間未満に収めなければなりません。これを超えた場合、違法となります。
フレックスタイム制を採用しても、この規制の適用を受けますので、これにも注意が必要です。
フレックスタイム制における休日労働と深夜労働の取り扱い
フレックスタイム制においても、休日割増賃金と深夜割増賃金は支払わなければなりません。
法定休日や深夜に労働をした場合は、実労働時間が清算期間の法定労働時間の総枠を超えないときでも、その時間についてそれぞれ、3割5分増し及び2割5分増しの割増賃金を支払う必要があります。
したがって、使用者は、労働者の総労働時間以外にも、休日労働や深夜労働についても把握しなければなりません。
よくある質問
総所定労働時間の超過分を、翌月の総所定労働時間から差し引くことは可能ですか?
できません。
法で賃金全額払原則が定められているため、そのような対応を取ると、前清算期間の超過分について賃金が支払われていないことになり、違法です。
ただし、総所定労働時間の不足分を翌月に繰り越すことは可能です(前記4-2)。
フレックスタイム制のもとで、休日労働を行った場合の割増賃金率を教えて下さい。
3割5分増し(0.35)です(前記6)。
フレックスタイム制の清算期間は、会社が自由に決めることができるのでしょうか?
法32条の3、同施行規則12条の3第1項により、3か月以内と決められています。また、1ヶ月を超える場合には、さらに要件を満たす必要があります(前記2-2)。
時間外労働の上限を超えた場合、会社には罰則が科せられるのでしょうか?
6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が科せられる可能性があります(法119条)。
フレックスタイム制を導入した場合、従業員に残業命令を下すことは可能ですか?
労働者が自由に労働時間を定められるというのがフレックスタイム制の趣旨であるため、残業命令を下すことは基本的にはできません。
使用者が決めた時間に出勤してもらいたい場合は、労働者に対し事情を説明して、同意を得る必要があります。
フレックスタイムにおける時間外労働について、就業規則にはどのように規定すべきでしょうか?
フレックスタイム制において時間外労働がどのように定義され、どのように計算するのかを定めます。割増賃金の支払いについても定める必要があります。
また、36協定の締結・届出が必須であることも明記してください。
法定内残業が発生した場合でも割増賃金の支払いは必要ですか?
必要ありません。
フレックスタイム制においても、時間外労働が月60時間を超えた場合の割増賃金は、50%以上となるのでしょうか?
50%以上となります。
総労働時間の不足分を繰り越した結果、翌月の総労働時間が法定労働時間を超えることは問題ないですか?
問題があります。
合算後の時間(総労働時間+前の清算期間における不足時間)は、法定労働時間の総枠の範囲内である必要があります。
フレックスタイム制で休日労働を命じた場合、代休を付与することは可能ですか?
可能です。
代休を清算期間内に消化できなかった場合は、時間外労働として割増賃金を支払う必要があります。
フレックスタイム制で時間外労働を適正に管理するなら、労務問題に強い弁護士にご相談ください。
フレックスタイム制を採用する場合でも、時間外労働は発生し、割増賃金を支払う必要があります。
残業時間等の計算のためには、フレックスタイム制の概要を正確に理解しなければなりませんし、就業規則等にも、詳細に定めておかなければなりません。
また、フレックスタイム制においては、労働者が自由な時間に出勤・退勤するため、労働時間の把握が非常に困難です。
そのため、労働者の労働時間を正確に把握する仕組みについても考えなければなりません。
時間外労働に対して適切に割増賃金を支払わなかったり、上限を超えたりすると、労働者から未払い賃金請求を受けたり、罰則が科せられたりする可能性があります。
弁護士法人ALG&Associatesの弁護士は、豊富な経験で、フレックスタイム制度下における時間外労働の対応についてアドバイスすることができます。まずはお気軽にご相談ください。

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保有資格弁護士(神奈川県弁護士会所属・登録番号:57708)
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