労務

フレックスタイム制においてコアタイム外での就業命令

横浜法律事務所 所長 弁護士 伊東 香織

監修弁護士 伊東 香織弁護士法人ALG&Associates 横浜法律事務所 所長 弁護士

働き方の一つとして、フレックスタイム制という制度があります。
フレックスタイム制は、一定の期間についてあらかじめ定めた総労働時間の範囲内で、労働者が日々の始業・終業時刻、労働時間を自ら決めることができるという制度です。

そして、コアタイムというのは、1日のうち、その時間は必ず勤務しなければならないという時間帯を指します。では、コアタイムが定められている場合に、それ以外の時間帯に、会社は就業を命じることができるでしょうか。

以下、解説していきます。

目次

コアタイム外の時間帯に就業命令を下すことは可能か?

通説的な見解、及び行政解釈においては、コアタイム以外の時間帯において、就業命令を下すことはできないとしています。

労働時間の指定はフレックスタイム制の趣旨に反する

フレックスタイム制は、始業・終業時刻を労働者自身に決定させることにより、労働者がその生活と業務の調和を図りながら、効率的に働くことを可能とし、労働時間を短縮しようとする点にその趣旨があります。

仮にコアタイム以外の時間帯を、始業・終業時刻として指定して就業命令を下すことは、フレックスタイム制の趣旨に反してしまいます。そのため、通説的見解においては、コアタイム外の時間帯を始業・終業時刻として指定して就業命令を下すことはできないと考えます。

労働者本人の同意を得ることができれば可能

他方で、労働者本人が、コアタイム以外の特定の時間帯に就業することに同意した場合には、コアタイム以外の時間帯でも勤務させることが可能です。
労働者が同意している以上、フレックスタイム制の趣旨に反しないためです。

フレックスタイム制における就業命令について

フレックスタイム制においても、当然ながら、特定の業務に従事するように就業命令を下すことができるのは当然です。
ただ、「コアタイム以外の特定の時刻に始業せよ、その時刻までは就業せよ」という命令は下せないということです。そうだとすると、現実には注意しなければならない問題もあります。

会議等がコアタイムをまたぐ場合

例えば、コアタイムが午後1時から午後3時までだったとします。
そして、その日は、重要な会議があり、午後2時30分から午後3時30分までは、当該労働者に会議に出てもらう必要があったとします。

このとき、あくまで会社としては、午後3時から午後3時30分までの間、当該労働者に一方的に就業命令を下すことはできません。
労働者が退社したとしても、それは欠勤や早退とは扱われないことになります。

そうだとすると、会社としては、午後3時30分までの就業義務を課すためには、午後3時から午後3時30分の間は就業するように当該労働者に依頼をし、当該労働者の同意を得たうえで、午後3時30分までの就業命令をする必要となります。

フレックスタイム制の仕組み

ここで、改めてフレックスタイム制の仕組みについて、簡単に解説をします。
通常の労働時間制度であれば、始業時刻と終業時刻が会社によって定められています。

しかし、フレックスタイム制の場合には、例えば、1か月の総労働時間を160時間などと決めて、その範囲内で、労働者が自ら日々の始業時刻・終業時刻を決めることとなります。
例えば月曜日は午前11時に出社して午後8時に退社する一方、火曜日は午前8時に出社して午後4時に退社する等、柔軟性の高い働き方ができます。

フレキシブルタイムとコアタイム

フレックスタイム制を採用するにあたり、フレキシブルタイムとコアタイムというものを定めることがあります。
まず、コアタイムというのは、1日のうち労働者が必ず労働しなければならない時間帯を言います。コアタイムの間は休憩時間を除き、就労義務を負います。

フレキシブルタイムというのは、1日のうち労働者がその選択により労働することができる時間帯を言います。

例えば、午前7時から午前10時まではフレキシブルタイム、午前10時から正午まではコアタイム、正午から午後1時までは休憩時間、午後1時から午後3時まではコアタイム、午後3時から午後7時まではフレキシブルタイムというように定めることができます。

労働者はコアタイムの時間は就労しなければなりませんが、フレキシブルタイムにおいては、その時間帯に労働するかどうか、また、労働する場合の労働時間は自由に選択することができます。

法定労働時間を超える場合は割増賃金の支払いが必要

フレックスタイム制を採用していても、時間外労働を行った場合には、割増賃金の支払いが必要となります。フレックスタイム制の場合の時間外労働となるのは、清算期間における実際の労働時間のうち、清算期間における法定労働時間の総枠を超えた時間数となります。

時間外労働時間は、具体的には、次の計算式により求めます(清算期間が1か月以内の場合)。

  • 【清算期間における実際の労働時間】-【清算期間における法定労働時間の総枠】=時間外労働時間
  • 【清算期間における法定労働時間の総枠】=1週間の法定労働時間(40時間)×清算期間の暦日数÷7日

時間外労働に応じた割増賃金の支払いが必要となります。

なお、フレックスタイム制を採用していても、休日労働した時間については、清算期間における総労働時間や時間外労働とは別個のものとして取り扱うことになりますので、注意が必要です。
深夜割増の適用もあります。

フレックスタイム制の就業命令に関する判例

フレックスタイム制において始業・終業の時刻を会社側に指定されたという問題について、裁判例を紹介します。

事件の概要

会社から解雇を通告された労働者が、その解雇は無効であるとして、労働者の地位にあることの確認と解雇以降の賃金の支払いを求めた事案です。
その中で、フレックスタイム制において始業・終業時刻の指定の問題も扱われました。

具体的には、会社ではフレックスタイム制が導入され、始業・終業時刻は労働者の自主管理に委ねられていた一方で、原告となった労働者については、「毎日午前九時には必ず出勤し、いかなる理由があろうとも遅刻しない」といった旨の誓約項目が存在する誓約書を書かせていました。
フレックスタイム制であるものの、始業時刻を指定していることになるため、その是非が問われました。

裁判所の判断(事件番号・裁判年月日・裁判所・裁判種類)

事件の表示:平成11年12月15日 東京地裁 平8(ワ)20054号

裁判所の判断として、解雇自体は、他の解雇事由も考量した結果、有効と判断されています。

フレックスタイム制の始業時刻の指定について、裁判所は、「被告がコアタイムないしのフレックスタイム制を採用している以上、このような誓約項目を記載しても原告に無遅刻を義務付けることはできないものと考えられるから、午前九時までに出勤しなかったこと自体は、何ら非難されるべき事柄ではなく、これを理由として不利益な処遇を受けるべきものではない」と判断しています。

ポイントと解説

フレックスタイム制を採用している以上は、コアタイム以外の時間帯を始業・終業時刻として会社が一方的に指定しても、労働者はそれに応じる義務はありません。
労働者が指定に応じなかったことを理由に懲戒処分を下したり解雇したりすることは、違法・無効と考えられますので、注意が必要です。

フレックスタイム制に関するQ&A

以下では、フレックスタイム制に関していくつかQ&Aを紹介します。

会議の終了時刻がコアタイムを超えてしまった場合、どのような対応が必要ですか?

会議の終了時刻がコアタイムを超えてしまう場合、コアタイム以後は労働者が勤務を終了するとした場合、それを拒否して就業を命じることはできません。
そのため、会議の終了時刻がコアタイムを超えてしまう場合には、事前に、労働者の同意を得ておくべきです。労働者の自らの判断によりコアタイム以後も就業を継続した場合も何ら問題はありません。

従業員がコアタイム外の就業命令に応じてくれない場合、懲戒処分を下すことは可能ですか?

コアタイム以外の時間帯での就業命令に服さなかった場合、基本的には、そのことを理由に懲戒処分を下すことはできないものと考えられます。
フレックスタイム制の趣旨からすれば、使用者は、コアタイム以外の時間帯で一方的に就業を命じるということができません。
そのため、従業員がそういった就業命令に応じなくとも、何ら規律違反にはならないため、懲戒処分を下すことはできません。

コアタイム以外の時間帯に、労働を強制することは違法ですか?

コアタイム以外の時間帯において、始業・終業時刻を指定して労働を強制することはフレックスタイム制の趣旨に反するため違法と考えられます。
もちろん、清算期間中に労働すべき総労働時間は定められているため、総労働時間に達するよう労働せよと命じることは当然可能です。
ただ、コアタイム以外の時間帯を始業・終業時刻として指定して労働させることは、一方的にはできません。

週1の頻度で実施される会議に合わせ、フレックスタイム制を週1日適用除外とすることは可能ですか?

フレックスタイム制について例えば週1日適用除外とするということは、認められないものと考えられます。
最低でも週に1度は特定の時間帯に就業させたいということであれば、その時間帯をコアタイムとすることにより就業義務を課すのが適当と考えられます。

なお、やや複雑になりますが、始業・終業時刻の一方又は双方を固定すべき日・期間については通常の労働時間制の下での労働と解し、それ以外の期間についてはフレックスタイム制と解することもできる可能性はあります。
ただ、少なくとも複雑な処理になると思われます。

会社の許可なくコアタイムを超えて残業した場合も、残業代の支払いは必要ですか?

会社の許可なくコアタイムを超えて稼働した場合でも、会社が明示的に時間外労働を禁止するような対応をとっていなければ、稼働した分の賃金を支払う義務がある可能性があります。

会議に参加させるため、コアタイムを繰り上げ・繰り下げることは可能ですか?

コアタイム以外の時間帯での就業を命じることはできませんが、コアタイムを変更することは可能です。
その場合労働契約の内容を変更することになるため、労働者の合意が必要です。個別に当該労働者と合意をしたり、労使協定を締結したりすることが考えられます。

必要に応じてコアタイム外の勤務が発生する旨を、就業規則に定めることは問題ないですか?

業務の必要に応じて、コアタイム以外の時間帯において、会社が始業・終業時刻を指定することができるという趣旨の規定は、フレックスタイム制の趣旨に反するため、かかる就業規則の規定には問題があると考えられます。

フレックスタイム制の従業員に対し、休日出勤を命令することは可能ですか?

法定休日は、フレックスタイム制の範囲外であるため、就業規則に、フレックスタイム制の従業員であっても休日労働を命令することがある旨を記載し、休日労働を命令することは可能と考えられます。

コアタイム外の就業命令について、あらかじめ労使協定を締結することは可能ですか?

これも6-7と同様に、コアタイム以外の時間帯において、会社が始業・終業時刻を指定することができるという趣旨の規定は、フレックスタイム制の趣旨に反するため、かかる労使協定の規定には問題があると考えられます。

フレックスタイムを導入していますが、特定の曜日のみ始業時刻を指定することは可能ですか?

フレックスタイム制である以上、コアタイムを設けるのでないならば、始業・終業時刻は労働者が自由に決定できることとなりますので、特定の曜日のみであっても、始業時刻を指定することはできないと考えられます。
コアタイムを設けて対応することが適当と考えられます。

フレックスタイム制における就業命令でトラブルにならないよう、弁護士が最善な方法をアドバイスさせて頂きます。

フレックスタイム制は理解が難しい部分があったり、現場で適切な対応をとることが難しいこともあったります。フレックスタイム制を採用する場合にトラブルにつながらないよう、事前に弁護士に相談されることをお勧めします。

横浜法律事務所 所長 弁護士 伊東 香織
監修:弁護士 伊東 香織弁護士法人ALG&Associates 横浜法律事務所 所長
保有資格弁護士(神奈川県弁護士会所属・登録番号:57708)
神奈川県弁護士会所属。弁護士法人ALG&Associatesでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。

来所・zoom相談初回1時間無料

企業側人事労務に関するご相談

  • ※電話相談の場合:1時間10,000円(税込11,000円)
  • ※1時間以降は30分毎に5,000円(税込5,500円)の有料相談になります。
  • ※30分未満の延長でも5,000円(税込5,500円)が発生いたします。
  • ※相談内容によっては有料相談となる場合があります。
  • ※無断キャンセルされた場合、次回の相談料:1時間10,000円(税込み11,000円)

顧問契約をご検討されている方は弁護士法人ALGにお任せください

※会社側・経営者側専門となりますので、労働者側のご相談は受け付けておりません

ご相談受付ダイヤル

0120-406-029

※法律相談は、受付予約後となりますので、直接弁護士にはお繋ぎできません。

メール相談受付

会社側・経営者側専門となりますので、労働者側のご相談は受け付けておりません