労務

業務命令が無効になるケースとは?業務命令権の濫用を判断する基準

横浜法律事務所 所長 弁護士 伊東 香織

監修弁護士 伊東 香織弁護士法人ALG&Associates 横浜法律事務所 所長 弁護士

会社は従業員に対して様々な命令を発することがあります。
この命令が無効になるということはあるのでしょうか。
また無効となった場合、どのような問題が生じるのでしょうか。
以下でみていきます。

業務命令が無効になるケースとは?

具体的にはどのような場合に業務命令は無効となるのでしょうか。

法令や社内規則に違反するケース

法令に違反する命令や、社内規則に違反する命令は無効となります。

権利の濫用に該当するケース

法令や社内規則に違反しない命令であっても、権利の濫用と評価された場合は、無効となります。
例えば、懲罰目的での業務命令や、労働者へ著しい不利益を与えるような業務命令は無効となりやすいとされています。

そもそも「業務命令」とは?

労働協約の定めや、就業規則の合理的な規定を含む労働契約そのものを根拠としています。
つまり労働者と会社との間の契約(合意)を基礎とするものです。

業務命令権の範囲はどこまで認められる?

業務命令権は、それを基礎づける労働者との間の契約を根拠としています。
契約として合意がなされているのであれば、労働者の本来的な職務を超え、出張、研修、健康診断、自宅待機などにも及びうるものです。

業務命令が権利の濫用にあたるかどうかの判断基準

一言でまとめると、業務遂行との関連性が疑わしい命令は、権利の濫用と評価されやすいです。

①業務上の必要性

業務命令そのものが、企業の業務遂行に必要なものであると言える場合には、権利の濫用とは言いにくくなります。

逆に言えば、企業の業務遂行上、全く必要性がなかったり、業務遂行と関連がない業務命令については権利の濫用との評価がされやすいと言えます。

②不当な動機・目的

命令自体から、事業を遂行する上での必要性や合理性が認められない場合、例えば懲罰的目的等が認められるような場合には権利の濫用として扱われることとなります。

就業規則(全142条)を一字一句違わず書き写すことを命じた事案で、当該書き写し命令はみせしめを兼ねた懲罰的目的からなされたものであり、権利の濫用にあたると判断された事例があります(最二小判平成8・2・23)

③労働者への著しい不利益

例えば危険海域への就航命令など、労働者の生命や身体に予測困難な危険をもたらす命令は無効となり、労働者を拘束しないとした事例があります。

業務命令権の濫用について争われた裁判例

事件の概要

顧客の事業場でのデータベース構築業務につき、会社に無断で、体調不良のため業務を終了する旨を顧客に伝えたことは業務命令違反にあたるかが争われた事件です。

裁判所の判断(事件番号・裁判年月日・裁判所・裁判種類)

就労場所に関する業務命令違反を理由とする出勤停止処分を有効と判断しました。
東京地判平成15・7・25労判862号58頁

ポイント・解説

この裁判例では、労働者が他社の社員とのやり取りを総合的に見て、業務命令違反を認定している点が特徴的です。

裁判所は、単に言葉一つ一つを捉えて個別に違反している/していないとの認定をしているわけではないことがわかる裁判例であるため、むしろ、会社側がどういった業務上の必要性に基づき業務命令を発しているのか命令を出す度に検討できているか確認する必要性を強調するものといえます。

業務命令違反があった場合の懲戒処分について

会社が発した業務命令が有効な場合、その命令に労働者が従わない場合には、業務命令違反として懲戒の対象となります。

懲戒処分をするには業務命令が有効であることが前提

懲戒処分をするためには、そもそも業務命令自体が有効であることが必要です。
業務命令が無効である場合には、懲戒処分を行うことができなくなってしまいます。

業務命令の違法性が疑われた場合の企業リスク

まず、労働者側の離職リスクが高まります。
また、違法な業務命令に労働者が従うことはありません。

一度違法な命令が出されたならば、命令一般に対して従業員は従わなくなっていく可能性があり、企業秩序の維持ができなくなっていきます。
究極的には命令の違法性を法的手続きで争う従業員が出てくることとなり、訴訟リスクを負うことになっていきます。

業務命令についてお悩みなら、労務問題に詳しい弁護士にご相談下さい。

業務命令は時と状況によって意味合いがかわることもあり、日々の経営の中、常に適切な命令を発することは難しいです。
出す前はもちろん、出した後の対応等、お困りなら是非弁護士にご相談ください。

横浜法律事務所 所長 弁護士 伊東 香織
監修:弁護士 伊東 香織弁護士法人ALG&Associates 横浜法律事務所 所長
保有資格弁護士(神奈川県弁護士会所属・登録番号:57708)
神奈川県弁護士会所属。弁護士法人ALG&Associatesでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。

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