監修弁護士 伊東 香織弁護士法人ALG&Associates 横浜法律事務所 所長 弁護士
就業規則を従業員の不利益に変更する場合、どのような点について気をつければよいのでしょうか。
労働条件を不利益変更する際に合意書(同意書)は必要?
労働条件は、基本的には会社と従業員との間の契約が前提となっています。一度定めた契約の内容に手を入れるのですから、一方的な変更はできず、合意書という書面の形をとるかはともかくとして、原則として従業員の同意は必要です。
従業員ごとに合意を得る「個別的合意」の場合
従業員の人数が少ない会社では、従業員ごとに同意を得る個別的合意を目指していくことになるでしょう。
労働組合との合意を得る「包括的合意」の場合
会社内に労働組合が存在する場合、その労働組合の同意を得る方法があります。
具体的には労働協約というものを締結することで以下の一定の条件を満たせば、従業員全員の労働条件を変更することができます。
①書面に署名押印すること
②労働組合に労働者の4分の3以上が加入していること
不利益変更における合意書の効力とは?
書面そのものも大事ですが、「作成の経緯」の方がより重要です。
不利益変更が適切になされるためには、従業員との間での契約の本質(従業員も会社も双方納得の上で合意すること)を特に意識する必要があります。
具体的には、書面が存在すれば、従業員が不利益変更について納得していたことが読み取れるため、不利益変更が有効と判断されやすい一方、書面を作成するにあたって、会社側から脅しや事実上の強制があったとわかる音声・画像・メール等が存在してしまうと、合意書があっても不利益変更は認められなくなります。
合意書なく不利益変更を強行した場合のリスク
「作成の経緯」に問題がなかったことを端的に説明するのに必要なのが「合意書」です。合意書をとらずに不利益変更をしてしまうと、変更後、従業員から「不利益変更には納得していない。だから合意書も存在していない。」と言われ、不利益変更が無効となってしまうリスクを負ってしまいます。
不利益変更について合意書を取り交わす際の注意点
不利益変更をする際、単純に合意書を取り交わせばよいというわけではありません。
以下のような注意点があります。
従業員に対して十分な説明が必要
従業員自身、何がどのように変更となり、それが自分にとってどういう意味を持つのか、会社側がしっかり説明をする必要があります。
この部分の説明をしっかり行うことで、「従業員が理解・納得した上で同意をした」との説明を事後に第三者に対ししやすくなります。
強制や強要による合意は無効
同意をせざるを得ない状況に追い込み、事実上同意を強制したり、強要したりすることで合意が成立しても、そのような合意は無効です。
合理性のない不利益変更は認められない
これまでの裁判所の判断の傾向から、合意書が存在したとしても、合理性のない不利益変更は認められないことがわかっています。このことから、裁判所は、従業員の「本意」を事後的に様々な要素から推測した上で、不利益変更の内容を審査していることが読み取れます。
従業員から合意書が得られない場合の対処法
労働組合との間で労働協約締結を目指す包括的同意に手続きを切り替えることがまず考えられます。
また、例えば軽微な不利益変更を実施する場合には、同意を得ずに実施するという方法も現実的な場面があります。
不利益変更において合意の有効性が争われた判例
事件の概要
経営破綻をしかけたとある信用組合Aは、他の信用組合Bに吸収合併してもらうこととしました。
この時、AはBから、従業員の退職金引き下げ(従前のものの2分の1以下とする案)を吸収合併の条件として示されました。
Aの管理職らはやむなく退職金を引き下げる旨の同意書に署名押印しました。
その後、Aの管理職らは退職金の不利益変更の同意は無効であるとして、退職金の支払いを求めた事件です。
裁判所の判断(事件番号・裁判年月日・裁判所・裁判種類)
一審、二審は、不利益変更の同意書の存在を理由に、Aの管理職らの請求を棄却しました。
しかし、最高裁は、控訴審判決に間違いがあるとして、控訴審に破棄差戻しとしました。
(平成28年2月19日 最高裁第二小法廷判決)
ポイント・解説
同意書があるか否かという形式的な判断で、従業員の同意を判定しているのではなく、その同意によってどの程度の不利益が生じるのか、同意に至った経緯や説明の内容等を様々な観点から同意が従業員の自由な意思に基づいてされたものかどうかを裁判所が判断していることがわかります。
労使トラブルを防ぐために適正な合意書案について弁護士がアドバイスいたします。
不利益変更のルールについてはかなり複雑ですので、弁護士にご相談ください。
-
保有資格弁護士(神奈川県弁護士会所属・登録番号:57708)
来所・zoom相談初回1時間無料
企業側人事労務に関するご相談
- ※電話相談の場合:1時間10,000円(税込11,000円)
- ※1時間以降は30分毎に5,000円(税込5,500円)の有料相談になります。
- ※30分未満の延長でも5,000円(税込5,500円)が発生いたします。
- ※相談内容によっては有料相談となる場合があります。
- ※無断キャンセルされた場合、次回の相談料:1時間10,000円(税込み11,000円)