監修弁護士 伊東 香織弁護士法人ALG&Associates 横浜法律事務所 所長 弁護士
土地などの不動産を相続する場合、相続後に固定資産税の支払いや不動産の管理などをしなければなりません。遺産を相続するつもりがなく、こうした負担も負いたくない場合には、相続放棄をする必要があります。
今回は、遺産に土地などの不動産がある場合に、相続放棄しないことのリスクや、相続放棄をする際の注意点をご紹介していきます。
目次
土地や建物などの不動産は相続放棄できるのか?
遺産の中に、土地・建物・空き家などの不動産があり、遺産を相続するメリットよりもデメリットの方が大きいと判断した場合には、相続放棄をすることによって、不動産の相続を免れることができます。
相続放棄を行うと、相続権は次順位の法定相続人に移ります。法定相続人とは、民法で相続権が認められた相続人のことで、相続順位も法律で決まっています(民法886条~895条参照)。
相続放棄をすれば、最初から相続人ではなかったとみなされるので、固定資産税を支払う必要がなくなります。また、基本的には、相続人として不動産を管理する責任からも免れることができます。
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相続放棄せずに土地を所有し続けるリスクとは?
相続放棄をせずに土地を所有し続けた場合のリスクは、以下のようなものがあります。
固定資産税を支払わなければならない
相続放棄をしなかった場合は、遺産を相続したことになり、相続財産だった土地の所有者になります。土地の所有者になれば、その土地にかかる固定資産税を毎年支払わなければなりません。土地は資産価値のある財産であり、所有者に納税義務があるからです。
不要な土地や使っていない土地でも、所有者になれば固定資産税を払い続けなければなりません。固定資産税は、所有者である限り毎年払わなければならないので、その負担は小さいとは言えません。
空き家問題と固定資産税について
近年、所有者の分からない、管理のされていない空き家が多数発生し、社会問題になっています。そのため、平成26年に「空家等対策特別措置法」が成立しました。この法律により、相続した空き家を放置し続けると、「特定空家」に指定されてしまいます。そうなると、行政機関から改善のための指導や勧告がされ、改善がされない場合は、過料の制裁や建物解体の行政代執行などがされる可能性があります。また、「特定空家」に指定されると、税制上の優遇措置を受けることができなくなり、最大で通常の6倍の固定資産税を払わなければなりません。
共有名義にするとトラブルに発展することも
相続人が複数いる場合、不動産を相続人たちの共有名義とすることがあります。共有にすれば負担も分担できるのではないかとも考えられますが、固定資産税をどのように負担するのかという問題や、誰が実際に不動産を管理するのか、管理のために発生した経費をどう清算するのかといった点で、トラブルが発生するリスクがあります。
また、不動産を売却する際には、共有者全員の同意が必要です。そのため、共有にすることで、将来不動産を簡単に処分できなくなってしまうというリスクも抱えることになります。
土地を相続放棄する際の注意点
これらの負担を避けるために、土地の相続を放棄するという方法があります。しかし、土地の相続放棄には、いくつか注意しなければならないポイントがあります。
土地だけ相続放棄することはできない
必要がないからといって、他の財産を相続して、土地だけを相続放棄することはできません。相続放棄をすると、初めから相続人とならなかったものとみなされるので、その他の財産に関する相続権もなくなるからです。
そのため、土地の相続放棄をする場合は、相続財産の中に預貯金などの本来プラスになる財産があったとしても、それらを相続することはできなくなってしまいます。
相続放棄しても土地の管理義務は残る
また、相続放棄したからといって、土地の管理を一切しなくても良くなるわけではありません。
相続放棄によって所有権を放棄しても、他の相続人又は清算人に引き渡すまでの間、自己の財産に対するものと同一の注意をもって、その財産を管理しなければなりません(民法940条1項)。例えば、近隣住民が土地や建物の損壊や崩落によって被害を受けないように、土地建物を管理する責任は残り続けるということです。
土地の名義変更を行うと相続放棄できなくなる
相続放棄をする前に、土地の名義変更などの手続を行わないように注意しなければなりません。
相続放棄の判断に迷っている間に、土地の名義変更などの土地の処分行為を行ってしまうと、相続をしたものとみなされます。これを、単純承認といいます(民法921条1号)。
単純承認をしたと認められると、その後相続放棄をする意思があったとしても、相続放棄ができなくなってしまうので注意してください。
相続放棄には3ヶ月の期限がある
相続放棄をするためには、自分が相続人になったのを知った時から、3か月以内に家庭裁判所に相続放棄の申立てをしなければなりません。この期間を過ぎてしまうと、相続を承認したとみなされて、相続放棄ができなくなってしまいます。
ただし、3か月の間に遺産の調査が終わらず、相続放棄の判断をすることが難しい場合には、裁判所にこの期間を延長してもらうように申請することができます。延長期間は、通常1~3か月程度認められるので、この間に追加の調査を行う必要があります。
相続放棄した土地はどうなるのか?
法定相続人が全員相続放棄をした場合は、相続されなかった土地は国庫、つまり国に帰属することになっています。しかし、全員が相続放棄をしたからといって、すぐに国庫に帰属するわけではありません。検察官や利害関係人らの申立てによって、相続財産を管理する「相続財産清算人」が選任され、債務の清算を行った後に、残った土地を国庫に帰属させます。相続財産清算人の選任を申し立てるためには、申立ての手続や、費用の負担をしなければいけないので、簡単に利用できる制度ではありません。
こうした問題を踏まえて、令和5年4月27日から、「相続土地国庫帰属法」が施行されます。一定の条件を満たした場合には、相続した土地の所有権を放棄して、国庫に帰属させることができます。
土地を相続放棄する手続きの流れ
土地の相続放棄をするためには、家庭裁判所に相続放棄の申立てを行います。申立てを行うには、申述書に加えて、戸籍謄本等の必要書類を添付する必要がありますが、戸籍謄本の取寄せには時間がかかるので注意してください。
その後、家庭裁判所から届いた質問状などの書類に回答し、返送します。家庭裁判所から相続放棄申述受理通知書が届いたら、相続放棄の手続は完了です。
相続放棄以外で土地を手放す方法はある?
土地以外に、預貯金などのプラスの財産が多い場合等、相続放棄をしたくないケースもあります。そのような場合には、遺産を相続したうえで、土地だけを手放すという方法もあります。
もっとも、一旦遺産を相続するため、土地の名義変更が必要になることにはご注意ください。
売却する
まず、土地の処分方法として、売却という方法が一般的です。ただし、土地がある場所が田舎であったり、古い家屋が立っていたりすると、なかなか買い手がつかないということもあります。
こうした場合には、価格を下げて売りに出したり、費用はかかりますが建物を壊して更地にしたりしたうえで買い手を探します。また、自力で買い手を見つけることが困難な場合には、不動産会社に仲介を依頼したり、空き家バンクに登録したりすることで、専門家のネットワークを介して広く買い手を募ることになります。
寄付する
次に、土地を寄付するという方法があります。寄付の相手としては、①自治体、②個人、③法人が候補になります。
注意しなければならないのは、個人や法人に寄付する場合には、土地を贈与したとみなされて、寄付をした者に贈与税が課されるという点です。
土地活用を行う
自分では使い道のない土地でも、賃貸などの土地活用を行うことも考えられます。
例えば、土地の上に建物を建築して賃貸に出したり、トランクルームを設置して貸し出したりすることで、継続的に収入を得ることができます。
そのため、土地を処分してしまう前に、立地調査をして、これらのような使い道がないか検討してみるのも良いでしょう。
土地の相続放棄に関するQ&A
被相続人から生前贈与された土地を相続放棄できますか?
生前贈与とは、被相続人が亡くなる前に、特定の財産を贈与することを指します。
生前贈与は、文字通り、被相続人が生前に行った贈与行為なので、相続とは直接関係がありません。そのため、生前贈与を受けた場合でも、相続放棄することはできます。
なお、生前贈与に対しては贈与税がかかるため、贈与を受けた側は申告が必要となります。
土地の共有持分のみを相続放棄することは可能ですか?
複数人で土地を共有するとき、自分が持つ土地の割合を、共有持分といいます。相続の際に、自分の共有持分だけを相続放棄して、他の遺産を相続することはできません。なぜなら、相続放棄をすると、最初から相続人ではなかったとみなされるため、土地以外の遺産についても相続人としての資格がなくなってしまうからです。
もし、土地の共有持分だけを相続放棄して、その他の預貯金だけを相続したいという事情があるなら、他の相続人とそのような遺産分割協議をするという方法もあります。
農地を相続放棄した場合、管理義務はどうなりますか?
農地を相続放棄した場合、所有権を放棄したからといって、土地に関する負担を一切免れるわけではありません。
相続放棄をした場合でも、次の相続人等が農地を管理できるようになるまで、自分の土地に対する注意と同一の注意をもって、農地を管理し続けなければなりません(民法940条1項)。
相続に強い弁護士があなたをフルサポートいたします
土地を相続放棄するかどうかで迷ったら、一度弁護士にご相談ください。
相続放棄をすれば、固定資産税などを負担する義務はなくなりますが、土地の管理義務は一定期間残ります。また、相続放棄をすることのメリットやデメリットは、十分に遺産を調査しなければ分からないうえに、3か月という短い間に判断しなければなりません。
弁護士に任せていただければ、遺産の調査や検討期間の延長などの手続を全て代わりに行ったうえで、相続放棄すべきか否かのご提案をすることができます。相続放棄は一度受理されてしまうと撤回ができないので、ご自身で対応して問題が発生する前に、まずは弁護士にご相談ください。
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保有資格弁護士(神奈川県弁護士会所属・登録番号:57708)