相続放棄したのに管理義務?誰がいつまで?人に任せる方法とは

相続問題

相続放棄したのに管理義務?誰がいつまで?人に任せる方法とは

横浜法律事務所 所長 弁護士 伊東 香織

監修弁護士 伊東 香織弁護士法人ALG&Associates 横浜法律事務所 所長 弁護士

被相続人が借金を残したまま死亡した場合や、相続に関して揉めそうな場合等には、相続人が「相続放棄」を選ぶことがあります。
もっとも、相続放棄の手続きをしたとしても、それだけで全ての負担から逃れられるとは限りません。相続しなくても管理が必要な財産がある等、注意すべき点があります。
以下では、相続放棄後の相続人の管理義務について説明します。

目次

相続放棄をしても残る管理義務とは

相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけると同一の注意をもってその財産の管理を継続しなければならない義務を負います。

相続放棄しても管理費用と労力はかかる

例えば、相続財産が既に誰も住んでいない空き家だった場合、そのまま放っておけば、誰かが住みついたりして、周囲の治安に影響を及ぼすおそれがあります。違法な植物の栽培や放火等の犯罪の温床となるおそれさえあります。また、放置された建物や土地は、不法投棄がされる等、周囲の環境の悪化をもたらすおそれもあります。さらに、老朽化した建物が倒壊して事故が起こる可能性もあります。
こうしたことが起こると、近隣住民等に迷惑をかけ、管理者が苦情を受けるおそれがあるだけでなく、場合によっては管理者が損害賠償請求を受ける可能性もあります。そうならないためにも、相続人は、相続放棄をしたとしても、他の相続人が管理を始められるまでは、相続財産の管理を怠らないでいる必要があります。

管理義務の対象となる遺産

  • 空き家
  • 空き地、農地、山林

管理って何をすればいい?管理不行き届きとされるのはどんなケース?

例えば、空き家に関しては、老朽化した建物や塀を修繕しないまま放置した結果、それらが倒壊して通行人に怪我を負わせた場合や、隣地の家屋等に被害が発生した場合は、管理不行き届きとされ、損害賠償請求されるおそれがあります。そのため、倒壊の危険を回避するための補強工事や、状況によっては瓦礫の撤去等をしておく必要があるといえるでしょう。また、建物等の状態を確認したり、他人の入り込み等を防いだりするためには、定期的な見回り等による状況把握も必要となります。
土地の場合であれば、庭木が倒れて通行人や隣地等に被害が発生するおそれがあるような状況や、雑草が生い茂って害虫が発生するような状況を放置していれば管理不行き届きとされるおそれがあり、剪定や除草、害虫駆除をする必要があると考えられます。

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管理義務は誰にいつまであるの?

現行民法は、「相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意義務をもって、その財産の管理を継続しなければならない。」と規定しています(民法940条1項)。
したがって、相続人は、たとえ相続放棄をしたとしても、次順位の相続人が相続財産の管理を始められるまでは、相続財産の管理義務を免れることができません。

もっとも、この規定の解釈上、相続人全員が相続放棄をし、次順位の相続人が存在しない場合や、相続放棄した者が不動産を占有していない場合等において、相続を放棄した者が管理義務を負うかどうかや、その義務の内容については、必ずしも明らかではありませんでした。これらの点について、改正民法(令和5年4月1日施行)では、規定の見直しが図られました。

管理を始めることができるようになるまでとは?

「次の相続人が管理できるようになるまで」とは、次順位の相続人に相続財産を引き継ぎ、その相続人が管理できる状態になるまでということです。
改正民法では、相続を放棄した者が財産管理の義務を負う終期について、「相続人又は相続財産の清算人に対して当該財産を引き渡すまで」と規定され、具体化、明確化されました。

民法改正の2023年4月1日以降は誰に管理義務があるのか明確になる

改正民法では、「相続の放棄をした者は、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人又は第九五二条第一項の相続財産の清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければならない。」と規定されました。
相続放棄時に「現に占有」している相続放棄者であることが要件となるため、相続人が実際に占有していない相続財産については、管理義務の対象外となります。
例えば、相続財産が不動産であれば、離れて暮らしていた相続人が相続放棄をしたときは、この不動産を管理する義務はありません。

民法改正以前に起きた相続でも適用される?

改正民法の適用開始時期は、2023年(令和5年)4月1日です。施行日後に相続放棄された場合に適用されます。

管理義務のある人が未成年、または認知症などで判断能力に欠ける場合

未成年者や重度の認知症で判断能力に欠ける方は、相続放棄の手続きをご自身で行うことができず、法定代理人、後見人等が本人に代わってする必要があります。
相続放棄者の管理義務について、未成年者や重度の認知症等で判断能力に欠ける方等、現実には自身で管理を行えない者であっても、相続放棄者である以上、本人が管理義務を負うのかといったことや、その代理人が管理義務を負うかどうかについては、規定上、明確ではありません。
しかし、法定代理人等の趣旨に照らすと、代理人等の責任が肯定される可能性がありますので、損害賠償等のリスクを避けるためにも、本人に代わって管理しておく必要があるといえます。

管理義務のある人が亡くなった場合

相続放棄後は、当該財産について相続放棄者の相続人に相続されることはありません。
相続放棄後の管理義務は、「相続を放棄した者」が、次順位相続人等に対して負う保存義務ですから、相続放棄者の相続人が、管理義務だけを相続するということはありません。
ただし、相続財産である不動産を次順位相続人等に未だ引き渡さず占有しているような場合は、別途、土地工作物の占有者の責任を負う等といったことはあり得ます。そのような場合は、損害賠償責任を問われないよう管理をする必要があるといえるでしょう。

遺産の管理をしたくないなら相続財産管理人を選任しましょう

これまで述べたように、相続放棄した元相続人は、相続財産に関して損害賠償義務を負わされてしまう可能性があります。こうした負担から解放されるためには、家庭裁判所に相続財産管理人の選任申立てをする必要があります。相続財産管理人に相続財産を引き渡せば、相続放棄者は相続財産の管理から解放されることになります。

相続財産管理人とは

相続財産管理人とは、被相続人の相続財産の管理をする人です。
相続人がいるのかが明らかでない場合や、すべての相続人が相続する権利を放棄して相続人がいなくなった場合等に、相続に関して利害関係がある人等の申立てによって家庭裁判所で審理されます。そして、家庭裁判所によって相続財産管理人が必要だと判断されれば、相続財産管理人が選任されます。
相続財産管理人となる人に特段の資格は必要なく、申立の際に候補者をあげることもできます。 ただし、その候補者が相続財産管理人に選任されるとは限りません。実際上は、弁護士や司法書士などの専門職に委嘱されることも多くあります。

選任に必要な費用

相続財産管理人選任を申立てる際は、収入印紙800円と連絡用の郵便切手数千円程度がかかるほか、「予納金」を支払う必要があります。
予納金は、相続財産管理人が遺産の清算を進めるのに必要な経費や相続財産管理人の報酬に充てられるお金です。予納金の額は、裁判所が事案の内容に応じて決めますが、概ね、30万円から100万円程度です。
相続財産が十分にあれば、最終的には、相続財産の中から予納金も返還されます。しかし、相続財産が少ないときは、返還される原資がないことになりますので、申立人が費用を自ら負担せざるを得ない結果となります。

選任の申立・費用の負担は誰がする?

相続人全員が相続放棄して、結果として相続する者がいなくなったときは、利害関係人または検察官の請求によって相続財産管理人を選任することができます。
相続放棄をした元相続人は「利害関係人」に当たりますので、相続放棄した者は、相続財産管理人の選任申立をすることができます。
相続財産管理人選任を申立てる際は、収入印紙800円と連絡用の郵便切手数千円程度がかかるほか、「予納金」を支払う必要があります。

相続財産管理人の選任方法

相続財産管理人を選任したいときには、被相続人の住所地を管轄する家庭裁判所での選任の申立てを行います。
相続財産管理人選任の申し立てがなされると、家庭裁判所は審理を行い、被相続人との関係や利害関係の有無、相続財産の内容などを考慮して、相続財産を管理するのに最も適任と認められる人を選びます。
相続財産管理人となる人に特段の資格は必要なく、申立人が候補者をあげることもできます。候補者がある場合には候補者がそのまま選ばれる場合もありますが、弁護士や司法書士などの専門職が選ばれることが少なくありません。

管轄の裁判所の調べ方

相続放棄をした財産に価値がない場合、相続財産管理人が選任されないことがある

相続財産管理人を選任した場合、その報酬等の費用がかかり、申立人がその費用及び予納金を支払います。予納金は、相続財産の中から返還されますが、相続財産が少ないときは予納金が返還される原資がないことになり、申立人が費用を自ら負担せざるを得ない結果となることから、相続放棄者が相続財産管理人の選任をしないことがあり得ます。
債権者等の利害関係人も、相続財産から弁済を受けるために相続財産管理人の選任を申し立てることができますが、そもそも、相続財産に価値がなければ、債権者は弁済を受けることができませんし、むしろ報酬等の費用がかかることになります。そのため、相続財産管理人を選任しないことがあります。

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管理義務に関するQ&A

相続放棄した土地に建つ家がぼろぼろで崩れそうです。自治体からは解体を求められていますが、せっかく相続放棄したのにお金がかかるなんて…。どうしたらいいですか?

家の解体は、処分行為といって、相続を承認したとみなされて相続放棄が無効になる可能性があるため、相続放棄者において行うことは避ける必要があります。市町村等から命令を受けた場合であっても、これに従うことができない正当な理由がある場合がありますから、行政代執行にかかる空き家の解体費用などを負担しないですむ可能性があります。
また、この管理義務は、後に相続人となる者等に対する義務であって、地域住民などの第三者に対する義務ではありません。
とはいえ、空き家の倒壊や放火等により第三者に損害を与えた場合には、損害賠償責任を負うこともあり得ます。

他方で、相続財産管理人を選任した場合、既に述べたように、場合によっては100万円程度の予納金が必要となる上、相続財産の財産価値がなければ予納金の返還がなされず、実質的に申立人が負担することになります。もっとも、相続財産管理人は、定期的な管理業務というものがないことから、相続財産管理人に対する報酬は初めに納付した予納金の範囲内で認められ、追加の納付を命じられることは考え難いといえます。
以上からすると、本件のような場合、予納金については結果的に申立人が負担せざるを得ないことも承知の上で、損害賠償責任等のリスクを回避するために、相続財産管理人の選任の申立てをすることも選択肢の1つとして考えられます。

全員相続放棄しました。管理義務があるなんて誰も知らなかったのですが、この場合の管理義務は誰にあるのでしょうか?

法定相続人全員が放棄した場合は、相続放棄の時に現に相続財産を占有している者であって、最後に相続放棄した者に、相続財産管理人に対して当該財産を引き渡すまでの間、管理義務があります。

相続放棄したので管理をお願いしたいと叔父に伝えたところ、「自分も相続放棄するので管理はしない」と言われてしまいました。私が管理しなければならないのでしょうか?

このようなケースでは、現行民法では、相談者と叔父のどちらに管理義務があるのか明らかではありません。
改正民法では、相談者が相続放棄の時に相続財産を現に占有していて、その相続財産を叔父に引き渡した場合は、叔父が管理義務を負い、相談者は管理義務を免れます。
しかし、叔父が当該財産を占有しておらず、相談者からの引渡しも受けないまま相続放棄した場合は、叔父は管理義務を負わず、相談者が引き続き管理義務を負います。
相談者は、他の相続人又は相続財産清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間、管理義務を負い、これらの者に引き渡せば、引き渡しのときに管理義務が終了します。

相続放棄したのに固定資産税の通知が届きました。相続しないのだから、払わなくても良いですよね?

固定資産税の課税では、課税者等を決定する期日に登記簿等に登録されていた人を土地の所有者として扱います。そのため、相続放棄をしても、課税者等を決定する期日に登記簿等に登録されていた人には、固定資産税の納税通知が届きます。
固定資産税を免れるためには、相続放棄をしたことを証明する書面を役所に提出する必要があります。

相続放棄後の管理義務についての不安は弁護士へご相談ください

相続放棄後の管理義務は、これまで述べたように、複雑な面があります。その仕組みや内容、具体的にどのような手続をすべきか等について、しっかりと把握した上で判断するためにも、法律の専門家である弁護士に相談することをお勧めします。ご不明な点や不安なこと等、どうぞお気兼ねなくご相談ください。

横浜法律事務所 所長 弁護士 伊東 香織
監修:弁護士 伊東 香織弁護士法人ALG&Associates 横浜法律事務所 所長
保有資格弁護士(神奈川県弁護士会所属・登録番号:57708)
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