
監修弁護士 伊東 香織弁護士法人ALG&Associates 横浜法律事務所 所長 弁護士
被相続人が所有していた家が遠方にあり、経済的な価値がほとんどないケース等において、他に有益な相続財産がなければ、相続放棄して受取を拒否したいと考える方は少なくないでしょう。しかし、相続放棄すると、その家がどうなるのか気になるかもしれません。
そこで、この記事では、相続放棄すると家がどうなるのか、相続放棄した家に住みたい場合にはどうするべきか、空き家を相続放棄すべき理由、相続放棄する場合の注意点等について解説します。
目次
相続放棄をしたら家はどうなる?
次の順位の相続人が相続する
唯一の相続人が相続放棄すると、次順位の法定相続人がいる場合、その者が家を含めた財産を相続することになります。
相続には「相続順位」が設けられており、より高い順位の相続人がいる場合、後順位の者は相続人になることができません。しかし、より高い順位の者が相続放棄すると、相続放棄した者は最初から相続人ではなかったものとして扱われるので、次順位の者に相続権が移ることになります。
相続順位について詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
相続の順位と相続人の範囲全員が相続放棄した場合・相続人がいない場合は国のものになる
後順位の法定相続人を含めた全員が相続放棄した場合、相続人がいなくなります。このとき、被相続人の債権者等の利害関係人または検察官の申立てにより、相続財産清算人が選任されることがあります。
選任後は、相続人に名乗り出ることを求める公告や、遺贈を受けた者や被相続人の債権者に申し出を求める公告を行います。
それらの申し出がなかった場合において、特別縁故者等がいなければ、最終的に家を含めた相続財産は国庫に帰属することになります。
空き家になる場合、相続財産清算人の選任が必要
相続放棄しても、相続財産である家に住んでいる等、その家を占有していた者には保存義務が課せられます。一方で、遠くに住んでいる等、相続財産である家を占有していない者は、相続放棄しても保存義務が課せられることはありません。
また、相続放棄した者の全員が家を占有していなかった場合、家庭裁判所によって選任された相続財産清算人が家を管理することになります。
相続放棄をしても家に住みたい場合の対処法
相続財産に高額な借金等が含まれており相続放棄する場合、相続財産である家に住み続けることは基本的にできません。ただし、主に以下のような場合には、住み続けることが可能です。
- 相続放棄後に相続財産清算人から買い戻す
- 限定承認する
これらの場合について、次項より解説します。
相続放棄後に相続財産清算人から買い戻す
相続人の全員が相続放棄すると、被相続人の債権者等によって相続財産清算人の選任の申立てが行われることがあります。
相続財産清算人は、被相続人の債権者に対して、相続財産から返済を行うために家等を売却するケースがあります。このとき、競売よりも高額で任意売却を申し込むと、債権者が認めれば応じてもらえる可能性があります。
限定承認する
限定承認とは、相続財産に含まれるプラスの財産の範囲内で、マイナスの財産を相続する方法です。どれだけ調べても借金等がいくらあるのか分からない場合や、どうしても残したい相続財産がある場合等に利用されることがあります。
限定承認した相続人には「先買権」という権利があります。先買権を行使すると、家庭裁判所が選任した鑑定人による評価額を支払うことによって、相続財産に含まれる家などを買い戻すことができます。
ただし、限定承認は手続きの負担が重く、かなりの時間が必要であり、税金が発生してしまうおそれがある等の理由から、あまり利用されていません。
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空き家を相続放棄すべき理由
空き家は、一等地にあるなどの特別な事情がない限り、相続放棄する等して受け取らないことが望ましいと考えられます。なぜなら、空き家を相続すると以下のような不利益を被るおそれがあるからです。
- きちんと手入れをしなかったために壁が崩れる等、周辺住民に損害を与えて賠償請求を受ける
- 景観が悪くなったり害虫が発生したりして、周辺住民とトラブルになる
- 浮浪者が住み着いてしまい、立ち退いてもらうための手間がかかる
- 修繕費や固定資産税を負担させられる
相続放棄する場合の注意点
家の片づけや遺品整理はNG
相続放棄をしたい場合には、経済的な価値のある相続財産を捨てたり、売却したりしてはいけません。なぜなら、相続放棄が無効となり、すべての財産を相続することになってしまうリスクがあるからです。
生ごみを捨てる等、経済的な価値のないものを処分することに問題はありません。ただし、ガラクタだと思ったものが価値のある骨とう品であった場合等は問題となるおそれがあるため、なるべく遺品整理等は行わないのが望ましいでしょう。
また、形見分けについても、新品のコート等を受け取ってしまうとリスクが生じるので、なるべく行わないようにしましょう。
他の相続人に相続放棄することを連絡する
相続放棄する場合には、他の相続人や次順位の法定相続人等に対して、事前に連絡しましょう。もしも、相続放棄する旨を伝えなければ、後でトラブルに発展するおそれがあります。
相続財産に、自分にとって負担にしかならない家が含まれている等の理由で相続放棄すると、次順位の法定相続人に相続権が移るケース等があります。このとき、次順位の法定相続人にとっても、その家が不要で相続したくない場合が少なくありません。
結果的に、不要な家を押し付けられたと思われてしまうと、後で親族間の感情的な対立を招くおそれがあります。このような事情から、相続放棄については、なるべく親族間で共有するのが望ましいでしょう。
家の相続放棄に関するQ&A
家だけ相続放棄できますか?
家だけを相続放棄することはできません。なぜなら、相続放棄は家庭裁判所で行う手続きであり、申立てが認められれば、最初から相続人ではなかったとみなされるからです。
そのため、家を含めたすべての財産を相続できなくなります。
なお、相続人の1人として他の相続人と話し合い、自分は預貯金や有価証券等を相続して、家は他の相続人が相続する等のケースがあります。これは、相続放棄とは異なる手続きです。
このような場合には、相続財産に高額な借金等が含まれていると、債権者から請求を受けるおそれがあるので注意しましょう。
亡くなった父は賃貸に住んでいました。家の鍵を返すよう言われているのですが、返しても大丈夫でしょうか。それとも次順位の父の兄弟に渡すべきでしょうか?
賃貸物件は相続の対象なので、被相続人が借りていた家を借りる権利も相続されます。そのため、勝手に賃貸契約を終わらせて鍵を返す行為は、相続財産を処分する行為とみなされるおそれがあります。
相続財産を処分すると、相続放棄が無効となるリスクが生じてしまいます。そのため、賃貸契約は終わらないことを前提として、他の相続人に引き渡す等するのが望ましいでしょう。
ただし、賃貸契約を継続すると家賃の支払いが必要となり、家賃を相続財産から支払うことも処分行為に該当するおそれがある等、不都合が生じる場合もあります。大家との話し合いが必要なケース等については、弁護士に相談することをおすすめします。
相続放棄した家が倒壊したら誰の責任になりますか?
相続放棄した家を現に占有していた者は、保存義務があるので家が倒壊した場合の責任を負います。保存義務とは、自己の所有物と同一の注意で保存する義務です。
保存義務を免れるためには、次順位の相続人に引き渡すか、家庭裁判所に相続財産清算人を選任してもらう方法が考えられます。
しかし、次順位の相続人も相続放棄することがあります。また、相続財産清算人を選任してもらうためには、100万円程度になることもある予納金を支払わなければならないおそれがあることに注意しましょう。
相続放棄した家の解体費用は誰が払うべきですか?
そもそも、相続放棄した者は、相続財産である家を解体する権限を有していません。もしも解体してしまうと、単純承認したことになって、相続放棄が無効となるおそれがあります。
家が老朽化しており、周辺住民に損害を及ぼすおそれがある場合に、必要な範囲で修繕することは保存行為とされているため可能です。
ただし、家が激しく老朽化している場合や、家の立地が悪い場合等では、修繕費用が高額になるおそれがあります。そのような場合には、相続財産清算人を選任してもらうときの予納金と比較して、選任申立てを行うか判断する方法が考えられます。
家の相続放棄についてお困りなら、弁護士へご相談ください
被相続人の子の全員が都会に住んでいるような場合には、実家の相続が負担になってしまい、相続放棄を検討することがあるかもしれません。しかし、相続放棄をすると家以外の財産も相続できなくなってしまいます。また、保存義務が発生すると、家を修繕する負担が生じるかもしれません。
そこで、家の相続放棄を考えている方は弁護士にご相談ください。弁護士であれば、相続放棄したときのリスク等についてアドバイスできます。
また、自分の子に負担を与えず、家を有効活用してもらうために、地元の親戚に遺贈したい等の希望のある方は、弁護士にご相談いただければ遺言書の作成についてサポートいたします。
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保有資格弁護士(神奈川県弁護士会所属・登録番号:57708)