寄与分を主張する方法

寄与分を主張する方法

横浜法律事務所 所長 弁護士 沖田 翼

監修弁護士 沖田 翼弁護士法人ALG&Associates 横浜法律事務所 所長 弁護士

各相続人の法定相続分は法定されているとおりであり、遺産分割においては、原則として、法定相続分に従って遺産を取得することになります。
もっとも、相続人の中には、病気の被相続人を看護した、家業に従事して被相続人を助けた、金銭を出資して被相続人の財産を増やした、収入が得られない被相続人と同居し生活費を負担してきたといった事情のある人もいます。このような場合には、「寄与分」が認められることにより、法定相続分どおりに遺産分割するより、多く遺産を取得できる可能性があります。
では、そのような「寄与分」はどのように主張していけばよいか、以下で説明して行きます。

寄与分の主張に必要な要件

寄与分は、いくつかの類型に区分され、どの類型にも共通する要件と、それぞれに必要な要件があります。例えば、被相続人の介護をした点について、寄与分を主張したい場合であれば、

  • 相続人自身が被相続人に対し介護で寄与したこと
  • 療養看護が必要な状態であること(疾病や障害)
  • 特別な貢献であること
  • 無償であること
  • 寄与行為が一定の期間存在すること
  • 片手間でなくかなりの負担を要していること
  • 寄与行為と財産の維持・増加との因果関係があること

が満たされる必要があります。

特別寄与料について

寄与分が認められるためには、相続人自身が寄与行為をしなければなりません。例えば、相続人である夫は忙しく被相続人の介護ができなかったものの、妻がかわりに介護をしていたような場合、原則として(例外はありますが)、夫の寄与分は認められません。
もっとも、相続法改正により、「特別寄与料請求権」という制度が法定されました。これは、被相続人の親族のうち、相続人ではない人が、療養看護を「特別」な程度、無償で行ったような場合に、相続人に対して、一定の金額を請求することができるというものです。この制度により、妻がかわりに療養看護し、請求の要件を満たすような場合には、妻の相続人に対する金銭請求が可能となりました。

寄与分はどう主張したらいい?

寄与分を主張する際は、まずは協議又は遺産分割調停の場で主張をすることになります。合意に至らず遺産分割審判に移行する場合には、寄与分を定める処分の審判を申し立てる必要があります。
具体的な主張にあたっては、単に、どれだけ苦労したかを主張すればよいのではなく、寄与分の要件を満たしていることを、要件ごとに主張していく必要があります。また、裁判所が寄与分を判断する場合には、その裏付け資料が必須となります。
また、結論として、各類型の計算式を用いて、具体的に寄与分として主張する金額を算出する必要があります。

証拠がないと寄与分の主張は認められにくい

寄与分の主張がされたとして、他の相続人がそれに同意するのであれば、特段証拠は不要です。もっとも、他の相続人からすれば、寄与分を認めると自身の最終的な取り分が減るため、容易には同意しないでしょう。そのため、協議であっても裏付けの証拠は必要なことが多いと考えられます。
他方、裁判所が、寄与分が認められるかどうかを判断する場合には、必ず、裏付けの証拠が必要です。

寄与分の証拠になるもの

寄与分の主張に際し、証拠が必要だとして、どのような証拠を提出すればよいでしょうか。寄与分の各類型ごとに、提出すべき証拠は異なります。以下、提出すべき証拠を説明していきます。

介護していた場合(療養看護型)

療養看護型の場合には、療養看護が必要であったこと、特別な貢献をしたこと、無償性、継続性、専従性、財産の維持との因果関係を主張・立証する必要があります。
そこで、

  • 要介護認定に関する資料
  • 介護サービスに関する資料
  • 医療記録
  • 写真、日記、家計簿等
  • 介護に要したサービス、物品の購入レシート等
  • 報告書

等を証拠として提出することが考えられます。全てが客観的証拠によって立証することは非常に困難だと考えられますが、なるべく、当時の状況を客観的に記録している証拠を収集することが重要です。

事業を手伝っていた場合(家業従事型)

家業を手伝ったことにより、被相続人の財産の増加・維持に貢献したという寄与(家業従事型)の場合には、特別な貢献、無償性、継続性、専従性、財産の増加・維持との因果関係を主張・立証する必要があります。
そこで、

  • 確定申告書や帳簿等
  • 賃金台帳、給与台帳等
  • 報告書

等を証拠として提出することが考えられます。労務の提供内容・期間や無償であったことがなるべく客観的な証拠によって立証できることが望ましいです。

お金を出していた場合(金銭出資型)

被相続人に対して財産上の利益を給付したことにより、被相続人の財産が増加・維持されたという寄与(金銭出資型)の場合、特別な貢献であること、無償性、財産の増加・維持との因果関係を主張・立証する必要があります。
そこで、

  • 送金記録、預金通帳、領収書等
  • 不動産購入費用を支出したような場合であれば、売買契約書、登記簿謄本、預金通帳等
  • 報告書

等を証拠として提出することが考えられます。金銭出資型は客観的な証拠が残っていることも多く、財産増加・維持との因果関係も分かりやすいため、寄与分の類型の中でも、最も認められやすい類型だと考えられます。

生活費を負担していた場合(扶養型)

介護が必要なわけではないものの、生活費を負担するなど、被相続人の生活の面倒をみており、被相続人の財産の増加・維持に貢献したという寄与(扶養型)の場合には、扶養の必要性、特別な貢献、無償性、継続性、財産の増加・維持との因果関係を主張・立証する必要があります。
そこで、

  • 被相続人の収入資料(課税証明書や年金に関する資料等)
  • 家計簿、相続人と被相続人の預金通帳等
  • レシートや領収書等
  • 報告書

等を証拠として提出することが考えられます。
扶養型は、扶養の必要性、すなわち、被相続人が無収入、低収入であり、単独では生活がままならない状態であることが必要です。

相続に強い弁護士があなたをフルサポートいたします
相続問題ご相談受付 24時間予約受付・年中無休・通話無料

寄与分主張の流れ

遺産分割協議での主張

遺産分割は通常、相続人同士だけで行う協議から始まります。寄与分の主張も、まずは協議の場ですることが通常です。話し合いで寄与分を認めてもらうためにも、裏付け資料は開示した方がよいでしょう。第三者が協議に介入すると揉めやすいという側面がありますので、夫が相続人で、妻が介護による寄与をしていたような場合でも、妻ではなく、夫自身が、妻は夫の履行補助者であるとして、協議の場で寄与分を主張した方がトラブルになりにくいと思われます。

合意が得られない場合は調停で主張する

相続人だけでの遺産分割協議がまとまらない場合、遺産分割調停の申し立てをすることになります。遺産分割調停は、裁判所での話し合いをする手続きですが、通常は、この手続きの中で、寄与分についても主張し、証拠を提出することになります。
なお、寄与分の処分を定める調停という、内容を寄与分に限定した調停手続きもあり、遺産分割調停と一緒に申し立てをすることもあります。

調停不成立の場合は審判に移行する

遺産分割調停がまとまらなかった場合には、自動的に遺産分割審判に移行します。審判手続きは、遺産分割の内容を、相続人の合意によって決めるのではなく、裁判官が決定する手続きです。遺産分割調停の中で寄与分を主張し、寄与分の処分を定める調停の申し立てをしていない場合には、遺産分割審判に移行するタイミングで、寄与分を定める処分審判の申し立てをする必要があります。
両方の調停を申し立てていた場合には、両方とも、自動的に審判手続きに移行しますので、審判の申立は不要です。

寄与分の主張が認められた事例・判例

寄与分が認められるハードルは、一般には相当程度高いものと考えられていますが、寄与分が認められた審判例を紹介します。
横浜家庭裁判所川崎支部審判【審判日】平成29年5月31日の事案です。
母親が被相続人で、長男及び次男が相続人であった事例です。
認定された事実は概ね以下のとおりです。

  • 被相続人は平成22年に要介護4と認定され、同年中に要介護5と認定された。平成26年に死亡した。
  • 二男は被相続人と同居しており、平成22年から被相続人の介護を開始した。
  • 朝夕2回の訪問介護を受けていた。
  • 週1回通所介護(デイサービス)を受けていた。
  • 2週に1回訪問診療、週に1回訪問看護を受けていた。
  • 次男は,被相続人の介護をヘルパー任せにせず,食事や給水の際は1口ずつ被相続人の口に運んで介助をし,摘便を行い,素人には難しい痰の吸引も行っていた。

この事案では次男の寄与分が認められました。
具体的な寄与分の金額については、介護報酬基準額の報酬相当額×療養看護日数×修正(0.7)=655万0145円と認定しました。

寄与分の主張は認められにくいので弁護士にご相談ください

寄与分は一般に認められにくいと言われており、統計上も、寄与分が認められる割合は低いです。
そもそも寄与分は、親孝行な相続人が恩恵を受けるべきだという制度ではなく、遺産の中に、相続人の寄与により形成された財産があることから、それを当該相続人に取得させるという制度です。
制度理解が乏しいと、単に「これだけ苦労したのだから遺産を多くもらえるべきだ」という程度の主張にとどまってしまいます。加えて、どのような証拠を揃えたらよいかについても、法律家でなければ判断が難しく、専門家の知見なく寄与分を主張・立証するのは困難でしょう。
寄与分の主張をしたい場合には、是非弁護士にご相談ください。

相続ページへ戻る 相続 コラム一覧
横浜法律事務所 所長 弁護士 沖田 翼
監修:弁護士 沖田 翼弁護士法人ALG&Associates 横浜法律事務所 所長
保有資格弁護士(神奈川県弁護士会所属・登録番号:53524)
神奈川県弁護士会所属。弁護士法人ALG&Associatesでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。