監修弁護士 伊東 香織弁護士法人ALG&Associates 横浜法律事務所 所長 弁護士
民法904条の2は、財産の維持又は増加について特別の寄与がある相続人に対し、寄与分を認めています。寄与の類型には家業従事型や財産給付型、療養看護型等、いくつかの類型があります。今回は、その中でも、被相続人の財産管理をしたことにより、遺産が維持又は増加された場合(財産管理型)の寄与分について、紹介していきます。他の寄与分の場合と同様ですが、どのような寄与行為をしたのか、なるべく客観的証拠を残しておくことが重要です。
目次
財産管理型の寄与分とは
財産管理型の寄与分は、相続人が、被相続人の財産を管理することで財産の維持形成に寄与した場合の寄与分のことです。どういった財産管理行為が、財産管理型の寄与分として認められるかはケースバイケースですが、様々な態様が考えられます。
財産管理型の寄与分が認められるためには、財産管理の必要性、特別な貢献、無償性、継続性、財産の維持・増加との因果関係が必要です。
具体例
具体例としては、以下のものがあげられます。
被相続人所有の土地の売却の際、土地上の家屋の借家人との立退き交渉、家屋の取壊し、滅失登記手続き、土地の売買契約の締結等に努力した相続人について、寄与分を認めた例(長崎家諫早出昭62・9・1家月40・8・77)
被相続人が遺産である不動産関係の訴訟の第1審敗訴後、特定の相続人が証拠の収集に奔走し、控訴審で逆転勝訴の結果を得たことについて、その相続人に寄与分を認めた例(大阪家審平6・11・2家月48・5・75)
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寄与分と特別寄与料の違い
法改正により、「特別寄与料請求権」というものが法定されました。
これは、寄与分とは全く別の制度です。
特別寄与料請求権というのは、
- 被相続人の親族のうち、相続人、相続放棄をした者及び相続権を失った者以外の者が
- 被相続人に対して無償で療養看護その他の労務の提供をしたことにより
- 遺産の維持又は増加に特別の寄与をした場合に
- 相続人に対し
- 特別寄与者の寄与に応じた金銭の請求をすることができる
というものです。
寄与の態様として、労務の提供を伴わないような寄与では、特別寄与料請求権は認められません。
財産管理型の寄与分の計算式
あくまで財産管理型として寄与分が認められた場合の、計算式の一例にすぎませんが、例えば以下のような考え方で計算をします。
①不動産の賃貸管理等の場合
相当思われる財産管理費用×裁量割合=寄与額
相当と思われる財産管理費用については、例えば、賃料の3%、5%等といった数字です。
裁量割合は、0.5、0.7といった数字です。
いずれも、寄与分を定める処分の審判においては、裁判官が判断をすることになります。
②火災保険料、修繕費、不動産の公租公課等を負担している場合
現実に負担した額×裁量割合=寄与額
相続人が現実に負担した額に、上記裁量割合を掛けます。
寄与分を認めてもらう要件
寄与分全般として、寄与分が認められるためには、以下の要件を満たす必要があります。
- 寄与行為
- 被相続人の財産の維持又は増加
- 寄与行為と財産の維持又は増加との因果関係
- 無償性
- 特別の寄与
- 継続性、専従性等
相続財産管理型の場合、特に、以下の要件を満たす必要があります。
- 財産管理の必要性(寄与行為)
- 被相続人の財産の維持又は増加
- 寄与行為と財産の維持又は増加との因果関係
- 無償性
- 特別の寄与
- 継続性
例えば、相続人が、長年にわたり、被相続人所有の収益不動産の管理全般を無償で行い、適切に管理した結果被相続人の財産の維持又は増加が図れた場合には、寄与分が認められる可能性があります。
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成年後見人として財産を管理していた場合
被相続人に判断能力がなくなってしまい、成年後見人が就任することがあります。成年後見人の業務として、被相続人の財産の管理を行うことになります。
成年後見人が相続人の中から選任されているのであれば、成年後見人の財産管理を寄与行為とみて、寄与分が認められる余地も一応はあります。しかし、成年後見人には通常であれば報酬も発生していますし、公的な職務として行っているのであり、特別の貢献といえるか等も問題となると思われます。基本的には、成年後見人の財産管理行為について寄与分を認めてもらうのは困難と考えられます。
なお、寄与分が認められるのは相続人だけですが、成年後見人は相続人以外からも選任されることがあります。
財産管理型の寄与分はどう主張すれば良い?
寄与分は、一般的に、裁判所に認めてもらうハードルは高く、適切な主張・立証が必要です。具体的な寄与行為の態様によって、主張・立証のポイントは異なりますが、とにかく重要なのは、なるべく客観的な証拠に残しておくことです。
主張するための重要なポイント
財産管理型の寄与分を主張する際は、要件に沿って、重要な事実に絞って主張するのが重要です。
財産管理をした場合には、いつから、どのような管理行為をしてきたのかを時系列にまとめるようにしましょう(寄与行為、特別の貢献、継続性)。また、どのような経緯で管理行為をするようになったかも主張する必要があります(財産管理の必要性)。無償であることも十分に説明する必要があります(無償性)。管理行為をして以降の被相続人の財産の推移についても整理しておく必要があります(財産の維持又は増加とその因果関係)。財産管理に伴い費用を負担した場合は、その経緯と内容を主張します。
有効となる証拠
寄与分の主張においては、上記主張を裏付ける客観的な証拠をなるべく残すようにしておくことが最も重要です。例えば、金銭出納帳や具体的な管理行為を行っていたことが窺われる様々な資料等を用意しておくことが重要です。裁判官は、まずは事実認定をしなければなりませんが、証拠がなければ、十分な認定を期待することはできません。
財産管理型の寄与分に関する裁判例
財産管理型の寄与分に関する裁判例は多くはありませんが、以下、いくつか紹介していきます。どのような寄与行為に寄与分が認められ、又は寄与分が認められていないか参考になります。
財産管理型の寄与分が認められた裁判例
被相続人が遺産である不動産関係の訴訟の第1審敗訴後、特定の相続人が証拠の収集に奔走し、控訴審で逆転勝訴の結果を得たことについて、その相続人に寄与分を認めた例(大阪家審平6・11・2家月48・5・75)があります。
訴訟の内容にもよるでしょうが、例えば、当該不動産の所有権をめぐる訴訟において、第1審で敗訴した後、証拠収集に相続人が奔走した結果、控訴審で逆転勝訴したのであれば、相続人の行為が遺産の維持又は増加につながったといえそうです。そして、証拠収集に奔走した時間や手間、集めた証拠の内容次第では、特別の貢献も認められ、寄与分が認められる可能性があります。
財産管理型の寄与分が認められなかった裁判例
被相続人が行っていた駐車場管理を相続人が引き継いで管理・経営していたことについて、相続人が報酬を毎月5万円取得していたことから、寄与分を否定された例(大阪家審平19・2・8家月60・9・110)があります。
財産管理行為について、相続人が有償で業務を行っていたことから、無償性が否定されたものと考えられます。他方、管理業務に対する報酬として、毎月5万円では著しく低額であるというような管理業務であれば、「無償」と評価してもよく、寄与分が認められる可能性もあります。
財産管理型の寄与分に関するQ&A
父の資産を株取引で倍増させました。寄与分は認められますか?
被相続人の財産管理行為として、投資行為をすることがあります。例えば、父の資産を株取引で倍増させたというような場合、寄与分が認められるかどうか、問題となります。
最終的な判断は、具体的な行為態様や結果により、異なり得るところですが、通常であれば、寄与分は認められないものと考えられます。投資には資産減少のリスクもありますが、資産減少の場合には相続人はリスクを負わず、被相続人の財産が減少するだけです。他方で、資産が増加したときに寄与分を認めてしまっては、公平ではないと考えられます。したがって、寄与分は認められにくいと考えられます。
母が介護施設に入っていた間、実家の掃除を定期的に行い、家をきれいに保ちました。寄与分は認められますか?
それぞれの要件において問題になる点があると思われますが、一般的には、寄与分は認められないものと考えられます。親と子という身分であれば、実家の掃除をして清潔に保つということは、被相続人との身分関係に基づいて通常期待される程度の負担であると思われますので、特別の貢献とは評価されないと思われます。また、具体的な費用の支出がなく、単に掃除をしていたということであれば、被相続人の財産の維持又は増加があったと立証することも困難と思われます。
父の所有するマンションの一室に住みながら、管理人としてマンションの修繕等を行った場合、寄与分は認められますか?
父の所有するマンションに無償で居住していたのであれば、修繕等に対して有償の対価(無償で居住できる利益)があったものと評価される可能性があります。修繕等の内容に比して、その対価が著しく低額であるという事情がなければ、寄与分としては認められないものと考えられます。
また、管理人としての報酬をもらっていた場合でも、同様に、無償性が否定される可能性があります。
最終的には修繕等の具体的内容や賃料相当額、管理人報酬等の金額によって結論は変わり得ますが、有償の場合には、寄与分は認められにくいと考えられます。
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財産管理型の寄与分請求は弁護士にご相談ください。
寄与分の主張・立証は専門家でも難しいことがありますので、少なくとも専門家に一度相談されることをお勧めいたします。既に相続が発生している場合はもちろんですが、将来的に相続が生じる際、自分の寄与分が認められるようにしておきたいという場合でも、今からアドバイスできることは多くあります。ぜひ一度、弁護士にご相談ください。
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保有資格弁護士(神奈川県弁護士会所属・登録番号:57708)