監修弁護士 伊東 香織弁護士法人ALG&Associates 横浜法律事務所 所長 弁護士
被相続人の生前、その財産の維持や増加について特別に貢献した相続人は、他の相続人に対し、法定相続分に寄与分をプラスするよう主張することができます。もっとも、相続人間の話し合いで、寄与分の合意が成立しないこともあります。
その場合、家庭裁判所に遺産分割調停、寄与分を定める処分調停を申し立てることができます。調停では、感情的な主張は避け、法律上どのような場合に特別の寄与が認められるかを意識しながら、主張や立証を行うことが大切です。本記事では、寄与分の調停におけるコツを分かりやすく解説します。
寄与分とは
寄与分とは、被相続人の生前、被相続人の介護や看護を行う、被相続人の事業を手伝うなど財産の維持または増加について特別に貢献した相続人について、法定相続分にその貢献分をプラスしますが、その貢献分をプラスさせる制度のことをいいます。
寄与分が認められる条件として、①相続人であること、②被相続人の財産の維持または増加に貢献したといえること、③法律上の義務の範囲を超えて貢献したこと、④継続的に貢献行為をしたこと、⑤無償または無償と評価できるような貢献をしたことの5つを満たさなくてはいけません。その中でも、③については争われることが多く、「特別の寄与」をしたか否かで対立が生じやすいです。そもそも、対象行為が寄与といえるのかどうかも判断の分かれ目になり、以下の表にまとめてあります。
類型 | 寄与行為 |
---|---|
家業従事型 | 被相続人の自営する店舗で手伝いをした場合(但し無償の場合に限る) |
金銭出資型 | 被相続人の自宅のリフォーム費用を支払った場合など資金援助をした場合 |
療養看護型 | 被相続人の介護を毎日した場合や介護士を雇うのに費用を支出した場合 |
扶養型 | 病気やケガで働けない被相続人に対し生活費を援助した場合 |
財産管理型 | 被相続人の賃貸不動産を管理するなどその財産形成に貢献した場合 |
法改正により新設された「特別寄与料」との違いは?
寄与分 | 特別寄与料 | |
---|---|---|
対象となる人 | 相続人 | 相続人以外の被相続人の親族 |
寄与となる行為 | 被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付、被相続人の療養看護その他の方法 | 被相続人の療養看護その他の労務提供 |
相続人以外の被相続人の親族が、被相続人の生前、介護や看護によりその財産の維持や増加に貢献した場合に、相続人に対し、その貢献度に応じて支払いを請求できる金額のことをいいます。
寄与分と異なり、特別の寄与を主張するのは相続人以外の親族です。また、被相続人に対する財産上の給付行為が寄与行為に当たらない点も寄与分とは異なるため注意が必要です。
特別寄与料の目的は、相続人でなくとも、被相続人の世話を献身的に行った親族に対し、公平な保護を図ることにあります。
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寄与分を主張する方法と流れ
相続が開始すると、相続人同士で遺産分割協議を行い、各々の相続分について話し合いをします。その話し合いの中で寄与分を主張することができます。
話し合いで寄与分について合意ができなかった場合、家庭裁判所に遺産分割調停、寄与分を定める処分調停の申立てができ、併せて申し立てることも可能です。それでも話合いがまとまらず、調停が不成立になれば、自動的に遺産分割審判に移行します。審判では、当事者が家庭裁判所に集まり、主張書面や証拠を提出しますが、追加で意見を述べることも可能です。そして、一通り提出が終われば、審判が下されることになります。
寄与分を主張する調停には2種類ある
遺産分割調停 | 遺産分割の方法を全般的に決める調停 |
---|---|
寄与分を定める処分調停 | 寄与分の具体的金額を決める調停 |
相続人同士の遺産分割協議で話し合いがまとまらない場合、調停を申し立てることができます。
調停には、遺産分割調停、寄与分を定める処分調停の2種類がありますが、前者は寄与分も含む全般的な遺産分割方法を決めるものであり、後者は寄与分の具体的金額を決めるものです。調停は当事者双方が資料を提出し合い、調停委員を介して話し合いが行われます。月に1回、2時間程度の頻度で行われますが、合意に至ればすぐに終結することもあります。
それでも話がまとまらず調停が不成立になると、「審判」という手続きに移行し、裁判官が当事者双方の主張、立証を踏まえて最終的な判断を下すことになります。ただし、自動的に審判に移行するには、上記の調停を両方とも申し立てていなければならないため、一方の申立てしかしていない場合、別途追加で申立てが必要になります。
「寄与分を定める処分調停」の申立て方法
寄与分を定める処分調停の手続きについては、よくわからないという人も多いでしょう。
以下、具体的な手続きについて解説していきます。
申立人
申し立てることができるのは、寄与分があると主張したい相続人になります。よって、申立ての相手方は、申立人以外の他の相続人全員ということになります。
申立先
調停の申立ては、原則として相手方である相続人の住所地を管轄する家庭裁判所または相続人間で合意した家庭裁判所です。もっとも、既に遺産分割調停を行っている場合には、その裁判所に申し立てることになります。
申立てに必要な書類
寄与分を定める処分調停の申立てには、以下の書類の提出が必要です。
- 申立書
- 申立書の写し(相手方の人数分)
- 被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍謄本
- 相続人全員の戸籍謄本、住民票または戸籍附票
- 遺産に関する資料の写し(不動産登記事項証明書及び固定資産評価証明書、預貯金の通帳又は残高証明書など)
寄与分の証拠となる資料とは?
寄与分を主張するには、相続人がどのような貢献をしたのか立証する必要があります。寄与の内容により、収集する証拠も変わるため、寄与行為がどの類型にあてはまるのか確認しましょう。一般的には以下の5つの類型に分けられます。
類型 | 証拠となる資料 |
---|---|
家業従事型 | 家業への従事の期間、従事の態様を示す資料、家業の所得、規模の分かる資料 |
金銭出資型 | 給付額・時期またはその期間を示す資料 |
療養看護型 | 療養看護の必要性が分かる資料、相続人による看護介護の内容・期間を示す資料 |
扶養型 | 被相続人の生活状況を示す資料、扶養の内容・期間が分かる資料 |
財産管理型 | 財産管理の必要性を示す資料、相続人が期待を超える貢献をしたことを示す資料 |
申立てにかかる費用
調停の申立てには、申立人1人につき収入印紙1200円分、連絡用の郵便切手(裁判所ごとに金額は異なります。)分の費用が必要になります。
寄与分の請求に時効はあるのか?
寄与分自体に時効はありません。寄与分は、債権ではなく、遺産分割における相続分の1つにすぎないと考えられているためです。もっとも、遺産分割は一度決定すると、原則としてそれを覆すことはできないため、実際には遺産分割の合意が成立するまでに寄与分の主張をする必要があります。
これに対し、特別寄与料は相続分ではなく、金銭の請求なので時効があります。特別寄与料の請求をできるのは、特別寄与者が相続の開始および相続人を知った時から6カ月間です。
寄与分の主張が認められた判例
脳梗塞で入院した被相続人の退院後、相続人が約7年間にわたり、半身麻痺が残る被相続人の介助を行った事例で、相続人に寄与分が認められた裁判例があります。この事例では、相続人が起き上がりや立ち上がりの補助、入浴の手伝い、深夜にトイレに付添い排泄を手伝うなど身の回りの世話を行っていました。退院当初の介助に不慣れな時期や被相続人の体調が悪化した晩年の頃には、介助の負担も相当重かったであろうこと、約7年間にもわたり継続的に行ってきたことから、無償で行った相続人の当該行為は特別の寄与にあたると判断されました。裁判では、調停で提出した資料ももとに、裁判所が相続人の行為が特別の寄与にあたるかを判断することになります。
寄与分に関するQ&A
寄与分の調停を経ずに、いきなり審判から申立てることは可能ですか?
寄与分については、審判を先行することは原則としてできません。寄与分は調停で話し合いを尽くすことが前提とされています(これを調停前置主義といいます)。調停で合意ができず不成立になった場合に初めて、審判へと移行し裁判官が判断を下すことが予定されています。まずは、寄与分を定める処分調停を申し立てましょう。
他の相続人が「調停証書」の内容に従わなかった場合はどうなりますか?
調停手続きにおける話し合いの結果を記載したものを調停調書といい、調停が成立した場合に作成されます。調停調書は確定的なものであり、判決と同様の効力をもちます。そのため、調停調書の内容に従わない相続人に対しては、他の相続人はその財産を差し押さえることにより、遺産相続を完成させることができます。
寄与分は遺留分侵害額請求の対象になりますか?
寄与分とは、被相続人の生前、被相続人の介護や看護を行う、被相続人の事業を手伝うなど財産の維持または増加について特別に貢献した相続人について、法定相続分にその貢献分をプラスしますが、その貢献分をプラスさせる制度のことをいいます。
これに対し、遺留分とは、被相続人の兄弟姉妹以外の相続人が、最低限度取得できる相続分のことをいい、遺留分侵害額請求の対象は、遺贈及び贈与です。
寄与分は、被相続人の死亡後に評価されるものであり、被相続人の意思に基づき生前に行う遺贈や贈与とは性質が異なります。そのため、寄与分を有する相続人が遺贈や贈与を受けていない限りは、遺留分侵害額請求をすることはできません。
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寄与分の調停を有利に進められるよう、弁護士が全力でサポートいたします。
このように、寄与分を得るためには、遺産分割協議または、遺産分割調停及び寄与分を定める処分調停で他の相続人から合意を得るか、裁判において寄与分の主張が認められる必要があります。
過去の裁判例を踏まえて、どのような主張や立証を行うべきであるかは、やはり法律の専門家である弁護士が詳しく知っており、収集すべき証拠や寄与分の認定にとって有効な証拠についても適切なアドバイスを求めることができます。相続は手続きも複雑であり、何をしていいかと悩む人も多いでしょう。寄与分にかかわらず、相続については、全般的にサポートしてくれる弁護士に依頼する方が、無駄な徒労に終わるといったことを避けられるでしょう。
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保有資格弁護士(神奈川県弁護士会所属・登録番号:57708)