監修弁護士 伊東 香織弁護士法人ALG&Associates 横浜法律事務所 所長 弁護士
後遺障害が残るような事故や死亡事故に遭われた方は、 “逸失利益” についても正当な賠償を受けるべきです。事故がなければ不自由なく生活できていたはずなのに、それが絶たれてしまったことは大きな「損害」といえます。この先後悔しないためにも、こうした損害は妥協することなく賠償請求しましょう。
逸失利益は、きちんと請求すれば何十万、何百万、場合によっては何千万円単位で損害賠償金額を左右しかねない費目です。ただし、内容を理解していないときちんと請求しようにもできません。
ここでは、【交通事故の逸失利益】について取り上げ、概要や計算方法、増額するポイントなどについて解説していきますので、ぜひ参考になさってください。
目次
交通事故の逸失利益とは
交通事故でいう逸失利益とは、交通事故に遭わなければ得られたであろう利益のことをいいます。つまり、事故がなければ日常生活を送れていたはずで、働いて収入を得られていたはずなのに、事故のせいで制限がかかったり絶たれてしまったりしたことを指します。いわば、「将来の可能性を奪われた」として立派な損害といえるのです。
交通事故の逸失利益には、大きく後遺障害逸失利益と死亡逸失利益の2つがあります。
これらについて大枠を捉えておきましょう。
後遺障害逸失利益
後遺障害逸失利益とは、事故による後遺障害が残った場合に発生し請求できる逸失利益のことです。
不本意な事故で怪我を負い、さらに後遺障害を抱えることになった事態は、できていた仕事ややりたかったことに制限がかかりますから、その分を「損害」として請求できます。
請求上は、個々人で損害の程度をはかることは現実的ではないので、後遺障害等級ごとに定められている“失われた労働能力の数値”にしたがって算出していくのが基本です。
そのため、後遺障害等級の認定を得ること、何級に認定されるかは、後遺障害逸失利益の金額を左右する重要なポイントとなります。
死亡逸失利益
死亡逸失利益とは、死亡事故により発生し請求できる逸失利益のことです。
事故により死亡したその瞬間から被害者の将来の可能性が奪われることになるので、この分を「損害」として相手方に請求します。
請求金額を算出するには、被害者の年齢や性別のほか、個別具体的な事情を考慮していくことになります。
逸失利益の計算方法
逸失利益を請求するには、具体的な金額を導き出さなくてはなりません。
交通事故の損害賠償請求上、決まった計算式によって算出できますのでここでしっかり押さえておきましょう。
●後遺障害逸失利益
基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に応じたライプニッツ係数
●死亡逸失利益
基礎収入×(1‐生活費控除率)×就労年数に応じたライプニッツ係数
どれも普段目にしない用語かと思います。
ただ、逸失利益の算出時にはすべて重要な意味をなしますので、理解しておくべきです。
一つ一つ取り上げてご説明します。
基礎収入
基礎収入とは、基本的に被害者が事故前に得られていた年収のことをいいます。
会社員であれば源泉徴収票で確認できますし、自営業者であれば確定申告書や納税証明書などで提示します。この際、会社員の方は手取りではなく額面の金額となる点、自営業者の方は固定経費を除く諸経費を控除する必要がある点にご注意ください。
また、事故前に実際収入のない子供や学生、主婦(主夫)であっても、逸失利益は認められ得ます。請求上は、前年の収入がないので賃金センサスを用いて計算していきます。
賃金センサスについて
賃金センサスとは、厚生労働省が全国規模で行っている賃金に関する統計調査結果を指します。毎年実施している結果は、厚労省HPや簡略化されたまとめサイトなどでも確認することができます。
内容としては、国民の賃金について、性別や年齢のほか、学歴、職種、企業規模などとの関係を比較するために、分類ごとの平均賃金額が確認できるようになっています。
交通事故以外にも医療事故などで起きた逸失利益の算出時においても用いられるものです。
実務上は、収入のない子供や学生、主婦(主夫)の基礎収入として適用しますが、収入があっても兼業主婦や新入社員などの場合には、実収入と賃金センサスを比べて高いほうを基礎収入とすることも可能です。
労働能力喪失率
逸失利益でいう労働能力喪失率とは、後遺障害を抱えることによって失われる労働能力をパーセンテージで表したものです。後遺障害等級ごとに数値が決められており、障害が重ければ重いほどパーセンテージが上がるので、前提として認定されること、何級に認定されるかは非常に重要です。
実際、どのくらい仕事に支障が出るか、減収が生じ得るかは、一人ひとり異なるところですが、膨大な交通事故案件を一律に処理するために設けられている基準という背景があります。このため、仕事内容や後遺障害の症状などにより、個別的な争いが生じる可能性も否めません。
労働能力喪失期間
逸失利益でいう労働能力喪失期間とは、労働能力が失われる期間を指し、定義上就労可能とされる67歳から症状固定時の年齢を差し引くことで求められます。ただし、被害者の年齢や後遺障害の内容によっては、扱いが異なってきます。
例えば、子供や学生の場合には、症状固定時ではなく一般的な就労開始年齢である18歳や22歳を差し引いた年齢を対象とします。また、67歳間近やそれ以上の高齢者の場合には、平均余命の2分の1とされるケースもあります。
くわえて、後遺障害が比較的軽いとされるむちうちの症状であれば、労働能力喪失期間に年齢が考慮されないことが多いです。傾向として、14級であれば5年程度、12級であれば10年程度とされがちです。
ライプニッツ係数
逸失利益におけるライプニッツ係数とは、いわゆる中間利息控除を指します。
逸失利益の賠償を受けるということは、“将来”得られるであろう利益(=お金)を“今”まとめて受け取ることを意味します。すると、まとまった将来分のお金を銀行に預けておくだけで利息が発生しますし、人によっては運用することで資産を増やすこともできるでしょう。
この点は、賠償する加害者側との公平性に欠けるとされます。双方のバランスを図ることを目的として、法定利率による控除をするために用いられるのがライプニッツ係数となります。
算出上は、労働能力喪失期間に応じた数値があらかじめ一覧表になっていますので、当てはまる数値を計算式に用いることになります。
死亡逸失利益の場合は生活費控除率と就労可能年数が必要
死亡逸失利益の算出には、生活費控除率と就労可能年数が必要です。
後遺障害逸失利益の計算式を見比べると、基礎収入をベースに以下の違いがみられます。
●労働能力喪失率の代わりに生活費控除率
●労働能力喪失期間の代わりに就労可能年数
それぞれどういうことか、違いを詳しくみていきましょう。
生活費控除率
生活費控除率とは、「死亡すれば収入が得られなくなるが、生活費もかからなくなる」という賠償上のバランスを図るために逸失利益から生活費分を控除するために用いられる数値です。死亡した被害者の労働能力喪失率は100%である代わりに、死亡後の生活費がかからなくなるためその分を控除することを目的としています。
とはいえ、個別に計算するのは現実的ではないため、実務上は下表のように「被害者の家庭内における役割・属性」に応じて決められたパーセンテージを活用するのが一般的です。
被害者の家庭内における役割・属性 | 生活費控除率 |
---|---|
一家の支柱(被扶養者1人の場合) | 40% |
一家の支柱(被扶養者2人以上の場合) | 30% |
女性(主婦、独身、幼児等を含む) | 30% |
男性(独身、幼児等を含む) | 50% |
※年金受給者の場合は、受給年金に占める生活費の割合が大きいとして例外的に50~70%とされるケースが多いです。
就労可能年数
就労可能年数とは、事故で死亡していなければ働けていたはずの年数のことで、基本的に後遺障害逸失利益でいう労働能力喪失期間と同じ考え方をします。
就労可能な上限年齢が67歳とされているので、死亡時から67歳までの年齢を差し引いて求めます。子供や学生の場合には、死亡時ではなく18歳や22歳を始期とすることや、高齢者(67歳間近、それ以上の方)の場合には、平均余命の半分とされるケースもあるというのは、労働能力喪失期間の考え方と同じです。
計算上は、就労可能年数に値するライプニッツ係数を乗じて金額を求めるようになります。
まずは交通事故チームのスタッフが丁寧に分かりやすくご対応いたします
交通事故の逸失利益を請求できるのは誰?
交通事故の逸失利益を請求できるのは、被害者または遺族と覚えておきましょう。
後遺障害逸失利益は、基本的に被害者本人が請求することになります。しかし、被害者が意識障害といった重度の後遺障害を負っている場合には、成年後見人を立てて、選定された成年後見人が請求することになります。
一方、死亡逸失利益の場合は、被害者の遺族が請求するのが基本です。「本来請求権を持っている被害者本人が死亡しているので、その請求権は相続される」という判例上の考え方によるものです。内縁関係の場合はどうなるのかなど、死亡事故のケースは、相続に絡む問題に発展することもありますので、お困りの際は弁護士に相談することをおすすめします。
減収しなくても逸失利益が認められるケース
後遺障害が残っても実際には減収せずに事故前どおり収入を得られている人もいるでしょう。この場合、相手方からすると「減収がないのだから逸失利益はないはずだ」と反論したくなるのは当然で、逸失利益の存否について争いに発展しやすくなります。
この点、最高裁判例では、「特段の事情のない限り、労働能力の一部喪失を理由とする財産上の損害を認める余地はない」としています(最高裁 昭和56年12月22判決第3小法廷判決)。つまり、裏を返せば「特段の事情が認められれば、逸失利益が認められ得る」ということです。
ここでいう“特段の事情”とは、以下に挙げるようなことで、これらが認められれば一定程度の逸失利益が認められる可能性があります。
- 生活上、業務上において、実際に支障がある
- 被害者本人による特別な努力によって収入を維持している
- 将来の昇進、昇給、転職などにおいて、不利益を受けるおそれがある
- 勤務先での特別な配慮・温情があった
- 勤務先の規模や存続可能性 など
逸失利益が増額するポイント
交通事故の逸失利益を増額させるには、いくつかポイントがあります。
これらを踏まえて、相手方保険会社と交渉していくのが効果的です。
●正しい後遺障害等級の認定を受ける
後遺障害逸失利益の金額は、等級が高ければ高いほど高額になります。
後遺症が残り申請手続きをしたからといって、必ずしも正当な等級が認定されるとは限りません。後遺障害等級認定を得ることもさることながら、正しい等級の認定を受ける必要があります。
●正しい基礎収入を適用する
基礎収入は、逸失利益の金額を左右するとても重要な計算の根拠となるものです。
事故前の収入がベースとなりますが、そこに個別の事情が絡む場合は、きちんと主張・立証しつつ正しい基礎収入が適用されるように交渉していく必要があります。
●弁護士基準で算定する
「算定基準が弁護士基準になっているか」という点は、逸失利益だけでなく慰謝料やその他の損害賠償費目を増額させるポイントにまで通じてきます。最低限度の補償を目的とする自賠責基準と、実際の裁判を想定し弁護士が使用する弁護士基準とでは、最終的に受け取れる損害賠償金額が雲泥の差となり得ますので、重要なチェックポイントとなります。
逸失利益の獲得・増額は、弁護士へご相談ください
逸失利益は、交通事故に遭わなければそもそも発生し得ないものです。本来ないほうがいいに決まっているのに、意図せず事故に遭ったことで将来の可能性を奪われてしまったことは、とてもお辛いことだと思います。正当な賠償を受けましょう。
とはいえ、初めての交通事故に遭い、ご自身の逸失利益は果たしていくらが正当なのか、保険会社を相手取ると不安に思われるのも当然です。ぜひ、弁護士にご相談してみてはいかがでしょうか。
交通事故事案の経験を積んできた弁護士であれば、「適正額」をきちんと見極められるだけでなく、交渉にまで持ち掛けることができます。ひいては、逸失利益だけでなく慰謝料なども含めた正当な損害賠償請求を実現させます。
少しでも迷いやお困りごとがあれば、ぜひ一度弁護士法人ALGにご相談ください。
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保有資格弁護士(神奈川県弁護士会所属・登録番号:57708)