主婦の逸失利益について

交通事故

主婦の逸失利益について

横浜法律事務所 所長 弁護士 伊東 香織

監修弁護士 伊東 香織弁護士法人ALG&Associates 横浜法律事務所 所長 弁護士

逸失利益とは、「得べかりし利益」と表現されるように、将来得られるはずだった利益(=お金)のことをいいます。交通事故に遭ったために生じる逸失利益は、損害として相手方に補償を求めることができます。交通事故の損害賠償請求上では、何十万、何百万、程度によっては何千万円にもなり得るものです。

とはいえ、主婦(主夫)の方は、今まで家事や育児によって収入を得られていたわけではなく、将来もそれは変わりません。逸失利益を請求できるのか不安に思うところですが、どうぞご安心ください。
ここでは、【主婦(主夫)の逸失利益】に着目し、認められるポイントや、計算方法、その根拠などについてわかりやすく解説していきます。

主婦の逸失利益は認められるのか

交通事故における逸失利益には、後遺障害によるものと死亡によるものがあります。
現実収入のない主婦(主夫)が行っている家事は、立派な“労働”として評価されますので、サラリーマンと同じように金銭評価できるものです。この点、最高裁判例でも示されています(最高裁 昭和49年7月19日第2小法廷判決)。
事故による後遺障害によって家事を行うことに支障が出ている、死亡したことでそもそもできなくなってしまったなどの損害は、きちんと賠償を求めるべきといえます。

主婦・主夫の逸失利益の計算方法

では、実際どうやって損害分を導き出して相手方に請求するのでしょうか?
主婦(主夫)といっても、専業の方もいれば兼業の方もいますので、まずはそれぞれの考え方のちがいを把握しておきましょう。
また、年齢が高齢に差し掛かってくると特別な計算にもなってきますので、ケース別に紹介していきます。

専業主婦の場合

まずは、計算式をおさえておきます。

後遺障害逸失利益=基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に応じたライプニッツ係数

死亡逸失利益=基礎収入×(1-生活費控除率)×就労可能年数に応じたライプニッツ係数

ポイントは、基礎収入です。
専業主婦の家事労働は、賃金センサスの“女性”の全年齢平均賃金をベースにするのが基本です
主婦業は給料制ではないうえに、家庭によって負担量もさまざまですので個別に判断するのは実務上難しいため、統計に則った指標に統一することで評価する運用になっています。
平均賃金は毎年更新されるのものですので、計算するときには、「症状固定または死亡した年」の分を確認するようにしましょう。

専業主夫の場合の基礎収入はどうなる?

男性が主婦業を行ういわゆる「専業主夫」の場合も、基礎収入は“女性”の全年齢平均賃金を用います
賃金センサスの男性と女性を比べると、どうしても平均賃金には差があります。この点、同じ主婦業なのに性別によって差が出るのは不公平だと思いませんか?こうした不公平感を取り除くために、主婦(主夫)の基礎収入は女性の分に統一することになっています。

兼業主婦の場合

兼業主婦の場合も、逸失利益を求める計算式は専業主婦の場合と同じです。

後遺障害逸失利益=基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に応じたライプニッツ係数

死亡逸失利益=基礎収入×(1-生活費控除率)×就労可能年数に応じたライプニッツ係数

ただし、仕事と家事を兼ねているので、実収入もある状態なのが兼業主婦の特徴ともいえます。
この点、基礎収入の考え方としては、「実収入」と「女性の全年齢平均賃金」の金額が大きいほうを採用します。キャリアを重ねている方であれば実収入のほうが高くなる場合もあるでしょうし、扶養の範囲内で働いている方であれば賃金センサスのほうが高くなるケースが多いです。 兼業主婦の方は、どちらが高くなるかの確認を怠らないようにしましょう。

基礎収入には家事労働分が加算されないの?

「仕事もバリバリこなして家事も行っているのだから、2つを掛け合わせた基礎収入としたい」と考える方もいらっしゃるかもしれません。しかし、損害賠償請求上、二重取りできないことになっています。

すべての時間を家事に費やせる専業主婦と、働いている分限られてしまう兼業主婦の家事労働分を、同じものとみなすのは公平ではないとの見方から、家事労働分と就業分のどちらか高いほうを採用することで調整を図られているのが実情です。

高齢主婦の場合

高齢主婦の場合も、基本的な計算式は変わりありません。

後遺障害逸失利益=基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に応じたライプニッツ係数

死亡逸失利益=基礎収入×(1-生活費控除率)×就労可能年数に応じたライプニッツ係数

ただし、基礎収入を求めるうえでは、注意が必要です。
高齢になってくると、体力面や健康面から家事労働の範囲も制限されるとみなされる傾向にあるため、賃金センサスも「年齢別の平均賃金」や「全年齢平均賃金からの減額」などを適用し、調整されることがあります。
また、家事労働は“誰かのために行うこと”で評価されるものなので、老後一人で暮らしていている場合などでは、そもそも主婦(主夫)としてみなされない点にもご注意ください。

労働能力喪失率

労働能力喪失率とは、後遺障害によって失われた労働能力を後遺障害等級別に割合で示したものです。主婦(主夫)の場合は、家事ができなくなったことを指しますが、下表のように等級ごとにあらかじめ決まっているのが特徴です※。

※あくまでも目安であり、後遺障害の内容や年齢、職業、性別などによって変更されることもあります。

労働能力喪失率表(国土交通省)

労働能力喪失期間とライプニッツ係数

労働能力喪失期間とは、交通事故の後遺障害によって労働能力が失われた期間のことです。定義上、労働可能年齢が67歳までとされているので、67歳から症状固定の年齢を差し引いて求めます。
ただし、むちうちなどの症状では、14級で5年程度、12級で10年程度とされるなど、後遺障害の内容や個別の事情に応じて調整される場合もあります。
なお、67歳以上やその付近の年齢の方は、平均余命の2分の1とされることもあるのでご注意ください。

ライプニッツ係数とは、中間利息を控除するための数値と覚えておきましょう。
逸失利益は、未来に受け取る分を一括して今受け取ることになるため、利子がついたり、運用したりするなどして、実際未来に受け取るよりも増やすことも可能になります。こうした不公平は取り除く考えのもと、労働能力喪失期間に見合った分を控除するために用いられるという目的があります。

生活費控除について

生活費控除とは、死亡した被害者の生活費は実質かからないことから、その分を逸失利益の金額から差し引くとするものです。家庭内の役割、属性などによって下表のように割合が決められています。
主婦(主夫)の場合には、30%とみなされることが多いですが、個別具体的な事情により変動し得るものですので、要チェック項目といえます。

一家の支柱の場合かつ被扶養者1人の場合40%
一家の支柱の場合かつ被扶養者2人以上の場合30%
女性(主婦、独身、幼児等を含む)の場合30%
男性(独身、幼児等を含む)50%

主婦の逸失利益に関する解決事例

主婦(夫)としての適切な後遺障害逸失利益と後遺障害等級14級が認定された事例

事故でむちうちを受傷した被害者(男性)は、仕事に就いておらず、妻や子供と暮らし、家事をしていたいわゆる主夫でした。
ただ、妻や子供と住民票住所が異なる点が揉め事のキーポイントとなったのです。
主に、基礎収入が絡んでくる休業損害や逸失利益の請求において争いとなりました。

交渉においては、主婦業の実態をいかに主張・立証していくかがカギとなりました。
担当弁護士はあらゆる手段をつくし、同居の実態を示す根拠となる資料をかき集めました。
その結果、主婦(主夫)としての請求が認められたのです。

このほか、むちうちの治療は一般的に「3ヶ月」とされているところ、「8ヶ月」まで治療延長を認めさせ、14級の後遺障害等級をも獲得することができました。
最終的に、主夫として認められたことで約120万円もの賠償金額を引き延ばすことができた事案です。

後遺障害等級12級と専業主婦の逸失利益が認められた事例

本事例の被害者は、事故で右鎖骨遠位端骨折を受傷し、右肩痛の症状で後遺障害等級12級の認定を受けていた専業主婦の方です。
相手方の賠償案は、労働能力喪失期間が5年に設定されているなど、納得できないところが多々あったためご依頼くださいました。

事情を詳しく聴いたところ、症状により長きにわたり家事労働に支障が出ていたことがわかり、後遺障害等級は非該当になりつつも肩関節にいくらかの可動域制限もみられました。
この点、担当弁護士は、カルテや診断書といった医療記録の精査を行い、適切な労働能力喪失期間の主張・立証を行いました。

結果として、労働能力喪失期間は5年から14年に引き伸ばし、賠償金額も約150万円から800万円にまで増額させることに成功しました。
専業主婦でも、家事労働ができないことは立派な損害です。この点を妥協せずに主張し、交渉ができた事案といえます。

主婦の逸失利益についてご不明点があれば弁護士にご相談ください

主婦(主夫)の方でも、逸失利益を請求できることがおわかりいただけたでしょうか。
逸失利益が認められるか否かで、最終的な賠償金額に雲泥の差が生まれる可能性もあるため、実態と実損に見合った賠償はきちんと受けるべきです。

ただ、実際に保険会社とやりとりを進めると、うまく反論できなかったり、提出された賠償案の妥当金額がわからなかったりすることも考えられます。一度合意してしまった示談は、基本的にやり直すことができません。取り返しがつかなくなる前に弁護士に相談することをおすすめします。

弁護士法人ALGには、交通事故事案を多数取り扱っている実績があります。
今までの経験・ノウハウをフル活用してサポートさせていただきますので、まずはお気軽にお問い合わせください。

横浜法律事務所 所長 弁護士 伊東 香織
監修:弁護士 伊東 香織弁護士法人ALG&Associates 横浜法律事務所 所長
保有資格弁護士(神奈川県弁護士会所属・登録番号:57708)
神奈川県弁護士会所属。弁護士法人ALG&Associatesでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。