監修弁護士 伊東 香織弁護士法人ALG&Associates 横浜法律事務所 所長 弁護士
交通事故で残ってしまう可能性がある後遺障害のひとつに「運動障害」があります。
今回は、運動障害とは具体的にどのような症状をいうのか、症状の出る部位やその原因、もらえる慰謝料の相場などについて解説していきます。
目次
後遺障害における運動障害とは?
運動障害とは、交通事故による怪我が原因で身体を思うように動かせなくなる後遺障害です。
運動障害が残る可能性のある身体の部位はいくつかありますが、関節を曲げにくくなったなど、特に関節部分に運動障害の症状が現れた場合には「可動域制限」と呼ばれます。
治療が終了した後も症状が続くなど、運動障害が残ったことが疑われる場合は、後遺障害等級認定を申請しましょう。
そのためにも、病院で検査を受けて後遺障害診断書を作成してもらう必要があります。
今回は、関節の可動域制限を除く、他の運動障害についてお話しします。
病院での治療について
医師が症状固定を診断した後も症状が残るようなら、病院で適切なリハビリ治療を受けるとともに、下記の検査を受けましょう。
なお、症状のある部位によって、必要な検査が異なることもあるので医師の指示に従ってください。
- X線やCTによる画像検査
- 可動域検査
運動障害になる可能性がある部位と原因
関節の可動域制限以外の部位で運動障害が残る可能性のある身体の部位は、「脊柱」、「目(眼球)」、「目(まぶた)」の3箇所に分けられます。
交通事故で負った怪我により神経や筋肉が傷ついたり、骨が変形したりすることによって、眼球の運動やまぶたの開閉、脊柱の可動域に不都合が生じ、運動障害が発生します。
脊柱
脊柱の運動障害は、程度に応じて下記の2等級に分類できます。
なお、脊柱の複数の箇所に運動障害が認められる場合、最も程度が重い部分を対象として後遺障害等級を認定します。
後遺障害等級 | 障害の程度 |
---|---|
6級5号 | 脊柱に著しい運動障害を残すもの |
8級2号 | 脊柱に運動障害を残すもの |
こうした運動障害は、主に脊柱の骨折や、骨折後の治療(脊椎固定術など)が原因で発生します。
また、脊柱には多くの神経が通っているため、運動障害が残る場合には神経症状も併発しているケースが多いです。
後遺障害等級6級5号
6級5号に該当する「脊柱の著しい運動障害」とは、下記のいずれかが原因で、頚部および胸腰部の関節が完全に強直※しているか、それに近い状態にあることをいいます。
※強直とは、関節を完全に曲げ伸ばしできなくなるか、主要運動の可動域が平均の10%程度以下に制限されている状態を指します。
①X線写真などで確認できる、頚椎および胸腰椎それぞれの圧迫骨折、破裂骨折、または脱臼
②頚椎および胸腰椎それぞれに行われた脊椎固定術
③項背腰部軟部組織の明らかな器質的変化
後遺障害等級8級2号
8級2号に該当する「脊柱の運動障害」とは、次のどちらかにあてはまるものをいいます。
①下記のいずれかが原因で、頚部および胸腰部の可動域が平均の2分の1以下に制限されている状態
- X線写真などで確認できる、頚椎および胸腰椎それぞれの圧迫骨折、破裂骨折、または脱臼
- 頚椎および胸腰椎それぞれに行われた脊椎固定術
- 項背腰部軟部組織の明らかな器質的変化
②頭蓋から上位頚椎の間の可動域が明らかに異常な状態
目(眼球)
交通事故によって、眼球を正常な位置に保っている6本の筋肉のどれかに麻痺などが起こると、眼球を思うように動かせなくなり、運動障害が発生します。 目(眼球)に起こる運動障害は、一般的に「斜視」と呼ばれます。
目(眼球)の運動障害は、下記の2等級に分類できます。
後遺障害等級 | 障害の程度 |
---|---|
11級1号 | 両目の眼球に著しい運動障害を残すもの |
12級1号 | 1眼の眼球に著しい運動障害を残すもの |
「眼球の著しい運動障害」とは、眼球の注視野が2分の1以下に狭まってしまった状態をいいます。
注視野とは、頭を固定して眼球を動かしたときに直視できる範囲です。注視野の広さの平均は、片目で見たときには各方面について約50度、両目で見たときには各方面について約45度とされています。
目(まぶた)
交通事故によってまぶたを怪我したり、神経の麻痺が起こったりした場合、まぶたの開閉やまばたきに不都合が生じる運動障害が残る可能性があります。
目(まぶた)の運動障害には、下記の2等級があります。
後遺障害等級 | 障害の程度 |
---|---|
11級2号 | 両目のまぶたに著しい運動障害を残すもの |
12級2号 | 1眼のまぶたに著しい運動障害を残すもの |
「まぶたの著しい運動障害」とは、
- まぶたを閉じたとき:まぶたで角膜を完全に覆うことができない状態
- まぶたを開いたとき:まぶたが完全に瞳孔を覆ってしまう状態
を指します。
運動障害の後遺障害慰謝料について
運動障害が残った場合、認定された後遺障害等級に応じて後遺障害慰謝料を請求できます。
等級ごとに認められる慰謝料の相場は、下表のとおりです。
後遺障害等級 | 自賠責基準 | 弁護士基準 |
---|---|---|
6級5号 | 512万円 | 1180万円 |
8級2号 | 331万円 | 830万円 |
11級1号 | 136万円 | 420万円 |
11級2号 | 136万円 | 420万円 |
12級1号 | 94万円 | 290万円 |
12級2号 | 94万円 | 290万円 |
まずは交通事故チームのスタッフが丁寧に分かりやすくご対応いたします
後遺障害に関する解決事例
脊柱の運動障害として8級2号が認められた解決事例
本事例は、依頼者が車両運転中に相手方車両に衝突され、以下の怪我を負い、約1年間の入通院治療が必要になった事例です。
- 胸椎破裂骨折
- 多発肋骨骨折など
治療終了後も、背部痛・胸腰椎部の可動域制限といった後遺症が残っていたため、適切な等級認定を受けたいと望まれ、弁護士法人ALGにご依頼くださいました。
受任後、依頼者からこれまでの治療経過の細かい聴き取りを行いました。
そのうえで作成済の後遺障害診断書を精査したところ、等級認定を獲得するためには十分とは言えない後遺障害診断書となっていました。
そこで、まず、依頼者に対して胸腰椎部の可動域を測定する正しい方法などをレクチャーしました。
担当医に相談してきちんと可動域を測定してもらったうえで、その結果を後遺障害診断書に追記してもらうよう助言しました。
その結果、想定どおり、脊柱の運動障害について8級2号の等級認定が得られました。
この結果を受け、弁護士基準に照らして算出した賠償金額を提示のうえ相手方と交渉したところ、約4250万円の賠償金を支払ってもらう内容の示談を成立させることができました。等級認定の通知を受けてから約1ヶ月で解決でき、依頼者にも大変ご満足いただけた事例です。
腰椎圧迫骨折の後遺障害等級認定と過失割合の修正に成功した解決事例
続いて、横断歩道ではない箇所を歩いて道路を横断していた依頼者が、相手方車両に衝突され、腰椎圧迫骨折の怪我を負った事例をご紹介します。依頼者は約6ヶ月間の入通院治療を受けましたが、腰背部に痛みなどの症状が残ってしまいました。
依頼者は、事故後に退職して収入が途絶えていたため、経済的に厳しい状況でした。そこで、弊所が主導で後遺障害等級認定申請を行うことで、取り急ぎ自賠責保険金を回収することにしました。
申請の結果、依頼者には後遺障害等級11級7号が認定され、自賠責保険金として331万円を回収することができました。
その後、相手方から賠償案が提示されましたが、逸失利益や過失割合について依頼者に不利な内容が含まれていました。そこで弊所は、離職票などの客観的な資料を集めたうえで、法的な根拠をもって主張を重ねたところ、当初の提示額から約420万円増額した約758万円を支払ってもらう内容で示談を成立させることに成功しました。
運動障害の後遺障害が残ってしまったらまずは弁護士にご相談ください
運動障害をはじめ後遺障害が残ってしまった場合には、賠償金として慰謝料を請求することができます。しかし、適正な慰謝料を受け取るためには、症状に見合った適切な後遺障害等級の認定を受ける必要があります。
後遺障害等級認定では、後遺症の程度や治療経過などについて医師が記載した、後遺障害診断書の内容が特に重視されます。そこで、医師に正しい後遺障害診断書を作成してもらうためにも、交通事故問題に精通した弁護士にアドバイスを受けることをおすすめします。
その際には、医療分野にも特化した弁護士を選びましょう。後遺障害等級認定には医療に関する知識も欠かせないからです。
弁護士に相談・依頼するメリットは、後遺障害診断書の作成に関するアドバイスをもらえること以外にもたくさんあります。
運動障害の後遺障害が残ったことが疑われる場合には、まずは弁護士にご相談ください。
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保有資格弁護士(神奈川県弁護士会所属・登録番号:57708)