監修弁護士 伊東 香織弁護士法人ALG&Associates 横浜法律事務所 所長 弁護士
交通事故の怪我により、後遺症として、手にしびれが残ってしまう場合があります。
細かい動きを必要とする手にしびれが残ると、日常生活が不自由になるため、被害者の方にとっては、大変辛いことだと思います。その分の補償をしっかり受けたいと思うのは当然のことです。
手のしびれが、自賠責保険の定める後遺障害として認定されれば、後遺障害慰謝料や逸失利益が発生し、損害賠償額が増額する可能性があります。
ここでは、手のしびれの原因と考えられる傷病、手のしびれがある場合の後遺障害等級と慰謝料の相場などについて、ご紹介します。
交通事故後に手のしびれが起こる原因
交通事故によって、手にしびれなどの症状が出てくる場合があります。これは、事故の衝撃や怪我により、末梢神経が損傷したり、圧迫を受けたりしたことが主な原因であると考えられます。
事故ごとに損傷部分が異なりますので、手のしびれが続く場合は、なるべく早めに医師による診察や検査を受け、損傷部分を特定し、最適な治療を受けることが必要となります。
以下では、手のしびれの原因となる傷病について、いくつかご紹介します。
むちうち
むちうち症とは、事故などの衝撃で首がむちのようにしなった結果、頚椎(首の骨)、頚部の筋肉、神経、血管などが損傷を受けることで生じる症状の総称です。医師の診断を受けると、「頚椎捻挫」「外傷性頚部症候群」などといった傷病名が診断書に記載されます。
首の痛みやだるさはもちろんのこと、手のしびれなどの症状も一緒に出ている場合は、神経根症状型のむちうちになっている可能性があります。
むちうちにより、頚部の脊髄から枝分かれする神経根(末梢神経の一部)が損傷、もしくは、周辺が腫れて神経根を圧迫し、神経根が伸びている手の支配領域において知覚障害などが生じ、手のしびれや握力の低下などの症状が引き起こされると考えられます。
胸郭出口症候群
胸郭出口とは、鎖骨と第一肋骨の間にある隙間のことで、その中に神経の束や血管が通っています。事故による衝撃で、胸郭出口にある手を司る神経や血管が、筋肉や骨により圧迫されたり、引っ張られたりすることで、手のしびれや握力の低下が生じます。特に、腕を上げる動作をしたときに、手にしびれが生じる場合は、胸郭出口症候群の可能性があります。
ただし、胸郭出口症候群はなで肩や筋肉質などの体格的素因や、ストレスなどが原因で生じる可能性もあり、症状の医学的な証明や説明が難しい類型であるため、胸郭出口症候群という病名での後遺障害等級認定は下りにくいという現状があります。
椎間板ヘルニア
頚椎は、ブロックの形をした7つの椎骨が積み重なってできています。椎間板ヘルニアとは、椎骨と椎骨の間にあって、クッション材の役割を担っている椎間板の一部が外に飛び出してしまった状態のことです。事故による衝撃で頚椎の椎間板が突出すると、その周辺にある、手を司る神経を圧迫するため、手のしびれなどの症状が現れるようになります。
ただし、椎間板ヘルニアは、交通事故を原因とするものであれば、かなりの強い衝撃が必要とされ、加齢によっても発症する可能性があるため、事故との因果関係で争いになるケースが多いです。
脊髄損傷
脊髄とは、脳から背中、腰にかけて通っている神経の束のことをいいます。
人が体を動かそうと思ったとき、脳からの指示が、脊髄→末梢神経→手足へと伝わります。物が触れた感覚も、末梢神経→脊髄→脳へと伝わりますので、脊髄は我々が生きていくうえで大変重要な組織であるといえます。
脊髄は頚椎の脊柱管の中を通っていて、事故による衝撃で脊髄が損傷すると、様々な症状が引き起こされます。手のしびれについては、頚部にある手を司る神経が損傷した結果、生じたものであると考えられます。脊髄の損傷がひどい場合は、半身や全身麻痺、呼吸障害、歩行障害などの重篤な症状が残ります。
まずは交通事故チームのスタッフが丁寧に分かりやすくご対応いたします
手のしびれがある場合の後遺障害等級と慰謝料
事故により、手にしびれが残ってしまった場合、後遺障害等級認定を受けると、後遺障害慰謝料や逸失利益などが発生し、損害賠償額が増額する可能性があります。
目安として、6ヶ月間治療を尽くしても、手のしびれが残っている場合は、後遺障害等級認定の申請を検討するべきでしょう。
手にしびれが残った場合に認定されやすい後遺障害等級は12級13号と、14級9号です。それぞれの級について説明します。
①12級13号 「局部に頑固な神経症状を残すもの」
手のしびれについて、MRI検査等の画像により神経の圧迫が認められたり、筋電図検査等で陽性が出たりするなど、他覚的所見があり、「局部に頑固な神経症状」が残っていることが医学的に証明された場合に、12級13号に認定されます。
②14級9号 「局部に神経症状を残すもの」
手のしびれについて、MRI検査等の画像で症状が確認できなくても、事故状況や治療の経過などから、「局部に神経症状」が残っていることが医学的に説明可能であると判断されれば、14級9号に認定されます。
例えば、事故直後から一貫して手のしびれの症状の訴えがあり、6ヶ月以上治療しても、手にしびれが残っているような場合に、認定される可能性があります。
下記表のとおり、後遺障害等級に応じ、後遺障害慰謝料の金額が定められていますが、自賠責基準よりも、弁護士基準の方が高額になることが確認できます。
後遺障害等級 | 自賠責基準 | 弁護士基準 |
---|---|---|
12級13号 | 93万円 | 290万円 |
14級9号 | 32万円 | 110万円 |
手のしびれで後遺障害が認められた裁判例
手のしびれが後遺障害として認められた裁判例をご紹介したいと思います。
下記判決において、事故により負った手のしびれは、後遺障害等級14級9号に該当するとの判断が下されています。
特に、裁判所が画像所見等の客観的資料ではなく、事故直後からの症状の一貫性などに基づき、後遺障害を認定したという点に着目するべきでしょう。
【東京地方裁判所 令和2年2月28日判決】
(事案)加害者の運転する車両が、信号待ちで停止中の被害者の車両に後方から追突。被害者は頚椎捻挫等の傷害を負い、約10ヶ月の通院治療を受けたが、症状固定後も、右手のしびれが残っている。
(争点)本件事故により負った後遺症(手のしびれ)は、後遺障害として認定できるか。
(結論)被害者の頚椎捻挫に関しては、神経圧迫などの画像所見がなく、目立った神経学的所見もないため、他覚的所見があるとはいえない。しかし、被害者は首の痛みや手のしびれを受傷時より一貫して訴えており、約10ヶ月の治療を経ても、いまだ手のしびれが残存していることから、本件事故により負った頚椎捻挫により、手のしびれが残ったことは医学的に説明可能である。よって、被害者の手のしびれは、局部に神経症状を残すものとして、後遺障害14級9号に該当するものと認められる。
まずは交通事故チームのスタッフが丁寧に分かりやすくご対応いたします
交通事故後の手のしびれは弁護士にご相談ください
事故による手のしびれは、明らかな外傷がないケースがほとんどです。また、レントゲンやMRIなどの画像所見が出ないことも多く、後遺障害等級認定を受けるのが難しい類型になります。
そのため、適正な後遺障害等級認定や慰謝料などの賠償金を得るためには、交通事故および医学的知識に精通した弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士に依頼すれば、症状に見合った後遺障害等級に認定されやすくするための、適切な治療や検査の受け方などのアドバイスを受けることが可能です。また、後遺障害等級認定の申請や保険会社との示談交渉も代行して行いますので、被害者の方の負担も軽くなります。
「手のしびれが残っているが、今後どのように対応すればよいのかわからない」
「後遺障害等級認定の申請を専門家にお任せしたい」と思われるような場合は、ぜひ弁護士法人ALGにご相談ください。
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保有資格弁護士(神奈川県弁護士会所属・登録番号:57708)