監修弁護士 伊東 香織弁護士法人ALG&Associates 横浜法律事務所 所長 弁護士
交通事故によりケガを負い、後遺症が残ってしまった場合に、後遺障害等級認定が得られれば、後遺障害慰謝料や逸失利益などの補償が受けられるようになります。
後遺障害等級認定においては、医師の作成する後遺障害診断書が最も重要な医療証拠となるため、適切な内容で後遺障害診断書を作成することが必要になります。
ここでは、後遺障害診断書の入手方法、記載内容や注意点などについて、解説していきたいと思います。
目次
後遺障害診断書とは
交通事故後に治療を継続したにもかかわらず、症状の改善が見込めなくなった場合に、後遺障害として自賠責保険に対して、後遺障害等級の認定申請を行うことになります。後遺障害診断書は、後遺障害等級の認定申請に不可欠な書類のことをいいます。
後遺障害診断書は、主治医に作成を依頼し、後遺症の部位や程度、検査結果や治療期間などを記載してもらうことになりますが、後遺障害等級の認定は後遺障害診断書の記載を基に判断されることになります。そのため、適切な賠償金を得るためには、不備のない、正確な後遺障害診断書の作成が求められます。
後遺障害診断書のもらい方
後遺障害診断書は、医師のみが作成できるものですが、どの医師に書いてもらってもよいというわけではありません。症状の経過を把握している主治医に作成してもらうことが基本となります。
しかし、時には、トラブルに巻き込まれたくないなどの理由で後遺障害診断書の作成を頑なに拒否されてしまうケースもあります。そのような場合には、後遺障害診断書を作成してくれる病院を探して転院をして、一定期間通院し、その治療経過をもとに、後遺障害診断書を作成してもらうのが良いでしょう。
整骨院や接骨院では作成できない
整骨院や接骨院で施術を行う柔道整復師は医師でなく、後遺障害等級認定に必要な後遺障害診断書を作成することはできません。
早めに整形外科への通院に切り替えるか、または、医師の指示のもと、整形外科と整骨院を並行して通院して、後遺障害診断書の作成は医師に依頼する形にするべきといえます。
まずは交通事故チームのスタッフが丁寧に分かりやすくご対応いたします
後遺障害診断書の取得方法
後遺障害診断書は、保険会社から郵送してもらうか、インターネットからダウンロードする方法でも取得することができます。なお、醜状障害や歯牙障害の場合には、専用の用紙があることに注意が必要です。
後遺障害診断書の作成料金や作成時期について、以下、説明したいと思います。
後遺障害診断書の作成料
後遺障害診断書の作成料は病院により異なりますが、基本的には、5000円~10000円が相場となります。ただし、相場より高額な病院もあるため、後遺障害診断書の作成を依頼する前に、金額を確認した方がよいでしょう。作成料は一旦自己負担になりますが、後遺障害等級認定を受ければ、後日、加害者側の保険会社より支払われることになります。
しかし、残念ながら、後遺障害等級が非該当となった場合は、基本的には、被害者の負担となります。
後遺障害診断書の作成のタイミング
後遺障害診断書を医師に作成してもらうタイミングは、症状固定になったときです。
症状固定とは、「これ以上治療を続けても、改善の見込みがない状態」のことをいいます。症状固定になるまでは、完治する可能性もあるため、後遺障害がどの程度残るのかを判断できません。
症状固定になるまでの期間はケガの部位や症状により異なります。例えば、むち打ち症の場合は、事故から半年程度で症状固定となるのが一般的です。
後遺障害診断書の書き方
後遺障害診断書には「自覚症状」、「他覚症状及び検査結果」等記載すべき項目が複数あり、記入漏れや誤記があると、適正な後遺障害等級認定を受けられない可能性があります。
後遺障害診断書にどのような項目が記載されるのか、説明していきたいと思います。
被害者の基本情報
被害者の氏名、性別、生年月日、住所、職業などの基本情報が記載されます。
後遺障害等級認定の申請者を特定するための項目ですので、誤記がないかどうか確認しましょう。
受傷年月日
交通事故に遭った日付が記載されます。
事故後すぐに病院に行かず、翌日以降に病院に行った場合、医師が誤って初回の通院日を記載している可能性もあるため、よく確認しましょう。
入院期間・通院期間
後遺障害診断書を作成してもらう病院に入院した期間と通院期間が記載されます。通院期間については、実際に通院した日数も記載されます。複数の病院に通院していた場合であっても、すべての治療歴が診断書に記載されるわけではありませんので注意が必要です。
傷病名
症状固定時に残存する症状の傷病名が記載されます。なお、治療中に完治したケガについては、記載されません。
症状名は、「首が痛い」などの抽象的な記載ではなく、「頸椎捻挫」「外傷性頸部症候群」などの具体的な傷病名を正確に記載してもらう必要があります。
既存の障害
既存の障害とは、交通事故以前から被害者が持っていた精神的、肉体的障害のことです。既存障害があるならば、その障害の部位や程度が記載されます。後遺障害等級認定では、今回の交通事故で後遺症が残ったと証明することが必要になるため、既存障害の欄が設けられています。
自覚症状
「頚部痛」など、被害者自身が感じている症状が記載されます。自覚症状は後遺障害等級認定において重要なものですので、痛みのある部位、痛みの程度、医師に訴えていた内容が正確に記載されているかを確認しておくようにしましょう。
なお、後遺障害等級認定においては、常時痛があるかどうかが重要な判断要素となっていることから、常時症状があるのであれば、その点を後遺障害診断書に記載してもらうことが重要です。
他覚症状および検査結果
後遺障害等級認定において、最も重要な項目となります。
レントゲンやMRI、CTなどの画像検査やスパーリングテスト、ジャクソンテストなどの神経学的検査等の結果と、それに基づく医師の見解を記載してもらうことになります。何らかの異常所見が記載されれば、後遺障害として認定される可能性が高まります。
ただし、交通事故案件に不慣れな医師の場合、そもそも、後遺障害等級認定に必要な検査をしていない場合もありますので、等級認定申請の前に、一度、弁護士などに相談し、確認してもらうことをおすすめします。
障害内容の増悪・緩解の見通し
後遺症について、医学的所見をもとに、今後、症状が悪くなるのか、同じ症状が変わらず続くのか、症状が軽くなるのか等、今後の見通しを記載してもらうことになります。
ここでは、「上記の症状を残し、症状固定とする」「今後も治る込みがない」など記載してもらうことが理想的です。
「今後、改善の見込みがある」「予後不明」などと記載されてしまうと、後遺症が残っているわけではないのではと判断され、等級非該当になってしまう可能性がありますので、注意が必要です。
医師が後遺障害診断書を書いてくれないときの対処法
後遺障害診断書の作成を医師に依頼しても、拒否される場合があります。そのような場合、医師が後遺障害診断書を書けないと主張する理由に応じた対応方法を、以下、ご紹介したいと思います。
治療の経過がわからないから書けないと言われた場合
転院したことによって治療経過が分からず書けないと言われた場合、転院先の病院に一定期間通院し治療経過を診てもらったり、転院前の病院から診断書や診療録などを取り寄せ、改めて転院先の病院に後遺障害診断書の作成を依頼することが必要になるでしょう。
後遺障害はないと言われた場合
後遺障害診断書は後遺障害が残っていることを前提に作成されるものです。よって、医師が「ケガは完治した。後遺症はない」と判断した場合、後遺障害診断書の作成を拒否される可能性があります。
しかし、重い障害ではなく、軽い痛みやしびれなどの症状であっても、自賠責上の後遺障害として認められる可能性があります。そのような場合は、具体的な症状を医師に伝え、これでも後遺症がないと判断できるのか、再度確認することが必要です。
症状を訴えても、後遺症はないと医師が固持した場合は、転院して、別の医師に作成を依頼するという方法も考えられるでしょう。
健康保険で治療しているので書けないと言われた場合
健康保険を使って通院している場合、「健康保険を使った治療だから、自賠責保険用の書類を書くことはできない」と医師より後遺障害診断書の作成を断られる場合があります。
これは、自賠責保険の手続きには健康保険を利用できないという誤解があるからです。
しかし、交通事故によるケガの治療でも、健康保険を利用することは可能ですし、後遺障害等級認定を申請しても問題はありません。
医師に、後遺障害診断書の作成に健康保険の利用の有無は無関係であることを伝え、作成を依頼しましょう。
まずは交通事故チームのスタッフが丁寧に分かりやすくご対応いたします
後遺障害診断書の注意点
後遺障害診断書に不備や誤記がある場合、本来得られるべき後遺障害等級に認定されなかったり、非該当になったりする可能性がありますので、適切な後遺障害診断書を作成してもらうためのポイントを、いくつか挙げたいと思います。
自覚症状は正確に伝える
通院をしている段階から、自覚症状は主治医と細かく共有しておくことが重要です。どの部位がどのように痛むのか、痛み以外の症状(しびれ、めまいなど)があるかなどなるべく詳細に伝えることが充実した後遺障害診断書の作成につながります。診察時に自覚症状を隈なく伝えることは難しいと思いますので、あらかじめ、メモなどに症状を書いてから、医師に伝えるという方法が望ましいでしょう。
一貫性、連続性がある症状を医師に伝える
医師に症状を伝える際には、事故によって生じた症状が、事故から一貫して継続的に存在していることを把握してもらうことが重要になります。
具体的には、「事故直後から首の痛みがずっと続いている」というように、事故直後から一貫性、連続性を後遺障害診断書に記載してもらうことが有効です。
診断書の記載内容に不備がないか必ず確認する
後遺障害等級認定申請の前に、後遺障害診断書に必要な事項が記載されているか、または、不利な事項が記載されていないか、必要資料が添付されているか等、確認することが必要になります。
具体的には、症状固定日、入院期間、通院期間、実治療日数、自覚症状、後遺症について実施した検査とその結果(陽性など)、医師による所見が記載されているか等をチェックします。
しかし、医学的知識のない被害者が記載内容の不備を判断することは困難ですので、等級認定申請の前に、交通事故案件に詳しい弁護士に相談されることをおすすめします。
後遺障害診断書の書き直しは弁護士に依頼する
後遺障害診断書に不備や誤記がある場合は、医師に修正を依頼しましょう。
もちろん、事実に反する事項を記載してもらうことはできませんので、修正箇所や修正が必要な理由を医師に明確に伝える必要があります。
修正を依頼するべきか判断に悩む場合や医師に修正を頼みにくい場合は、交通事故案件に精通した弁護士に相談することをおすすめします。弁護士であれば、医学的根拠に基づき、修正の必要性を医師に説明することができますので、診断書の書き直しが認められる可能性が高まります。
後遺障害診断書入手後の流れ
医師に後遺障害診断書を作成してもらい、内容の確認も終えたら、後遺障害等級認定の申請手続きに進むことになります。後遺障害等級認定の申請手続きには、以下のとおり、2つの方法があります。
①被害者請求
被害者が自ら、加害者側の自賠責保険会社に、後遺障害等級認定に必要な書類を提出し、申請手続きを行う方法です。必要書類を自ら収集する必要があるため、手間はかかりますが、自分に有利な証拠(医証、文書)を提出できるため、適切な後遺障害等級に認定される可能性が高まります。
被害者請求を行いたいが、申請手続きに不安がある場合は、弁護士に相談することをおすすめします。
②加害者請求
加害者側の保険会社に申請手続きを代行してもらう方法です。
後遺障害等級認定に必要な書類の収集や申請手続きは保険会社が行ってくれるため、被害者の手間はかかりませんが、申請が保険会社任せになるので、後遺障害診断書の不備や添付資料などの確認を行えませんし、等級認定に有利な証拠を提出することもできません。よって、適切な後遺障害等級認定がなされない可能性があります。
後遺障害診断書に関する解決事例
後遺障害診断書作成のフォローを弁護士が行った結果、後遺障害等級認定を得られた事例
ALGの弁護士が後遺障害診断書作成のフォローを行った結果、後遺障害等級認定を得られた事例をご紹介します。
【事故概要】
依頼者は小型バイクで走行中、交差道路から直進してきた相手方車両と接触し負傷されました。
依頼者は本件事故により頚椎捻挫等を負い、約1年間の通院治療後、主治医に後遺障害診断書を作成してもらいましたが、今後の進め方がわからずALGにご依頼されました。
【事件の経過】
①担当弁護士が後遺障害診断書を確認したところ、「他覚的所見」欄の記載が乏しく、自覚症状中心の内容で後遺障害等級認定を得ることは難しいと判断しました。
②主治医に対し、医学的知識に基づき、後遺障害診断書の修正を依頼したところ、一部追記をしてもらうことができました。
③修正した後遺障害診断書に基づき、被害者請求で後遺障害等級認定申請をした結果、後遺障害等級併合14級が認定され、慰謝料など含めた賠償金の増額に成功しました。
後遺障害診断書を新たに作成し直した結果、後遺障害等級認定を得られた事例
【事件の概要】
依頼者が駐車場内で停車中、後方から相手方車両に追突されるという事故が発生しました。
依頼者は、本件事故により頚椎捻挫などを負い、約1年間の通院治療後、後遺障害等級認定申請を行いましたが、非該当となり、異議申し立てをするため、弁護士法人ALGにご依頼されました。
【事件の経過】
①担当弁護士が後遺障害診断書を確認したところ、「自覚症状」や「医師の所見等」欄の記載が不十分であったため、新たな後遺障害診断書を作成してくれる病院を探し出しました。
②転院先の医師に頸椎捻挫の症状の判断に必要な検査を行ってもらうよう要請し、検査結果が記載された後遺障害診断書を作成してもらいました。また、依頼者の通院日数が少なかった経緯(子供の監護により時間がとれなかった)や症状固定までの治療経過などを説明した書面を作成し、異議申立てを行いました。
③修正した後遺障害診断書を基にした後遺障害等級認定申請をした結果、、頚部痛について、後遺障害等級14級9号が認定され、慰謝料などの賠償金の増額に成功しました。
まずは交通事故チームのスタッフが丁寧に分かりやすくご対応いたします
後遺障害診断書の確認から作成後の流れなど弁護士にご相談ください
医師の作成する後遺障害診断書は、後遺障害等級認定の可否を左右する、最も重要な資料となります。
しかし、医師は治療のプロですが、交通事故のプロではないため、後遺障害等級認定に有効な後遺障害診断書の作成に長けているわけではありません。医師が作成した診断書でも、等級認定に必要な情報が漏れていたり、そもそも必要な検査がなされていなかったりする場合もあります。
被害者に有利な内容の後遺障害診断書を作成したい場合は、交通事故に詳しい弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士法人ALGであれば、医学博士が在籍する医療事故チームと交通事故チームが連携し、事件解決にあたっているため、医学的知識に基づき、後遺障害診断書の内容を精査し、修正箇所があれば、医師に修正を依頼することも可能です。
「医師が作成した後遺障害診断書が適正なものなのか判断できない」「後遺障害等級認定の申請をお任せしたい」と思われるような場合は、ぜひ、一人で悩まず、弁護士法人ALGにご相談ください。
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保有資格弁護士(神奈川県弁護士会所属・登録番号:57708)