監修弁護士 伊東 香織弁護士法人ALG&Associates 横浜法律事務所 所長 弁護士
交通事故に遭うと、首や腰、顔など複数の部位に後遺症が残ってしまうことがあります。
この場合、後遺障害等級認定では「併合」というルールが適用され、等級の繰り上げを行うのが一般的です。
併合が行われると、被害者が受け取れる賠償金も増額するため、適切な等級獲得を目指すことがとても重要です。
そこで本記事では、後遺障害の併合の基本ルールや慰謝料の算定方法、併合が適用されない例外的なケースなどをわかりやすく解説していきます。
目次
後遺障害の併合とは
後遺障害の併合とは、2つ以上の部位に後遺症が残ったとき、それぞれの後遺障害等級を繰り上げて1つの等級とみなす手続きです。
交通事故では、首や腰、腕、顔など複数の部位に後遺症が残ることも珍しくありません。
しかし、それでは慰謝料や逸失利益を算定しづらいため、1つの等級に調整する併合という方法がとられています。
基本的は、「最も重い等級をより高い等級に繰り上げる」方法によって調整を図ります。
加重との違い
併合と混同しやすいものに「加重」がありますが、2つは別の手続きです。
加重とは、事故前に後遺障害が認定されていた部位に新たな障害を負った場合、既存の後遺障害を考慮し、保険金額を調整する手続きです。
通常、加重後(今回)の後遺障害に対しては、過去に支払われた保険金額を差し引いた金額のみ支払われます。
例えば、過去に頚椎捻挫で後遺障害等級14級が認定され、今回同じ部位で12級が認定された場合、今回は2つの等級の差額分のみが支払われます。
つまり、1度の事故で2つ以上の後遺障害を負った場合は「併合」が、複数の事故で同じ部位に受傷した場合は「加重」が適用されるのが主な違いです。
後遺障害の併合の基本ルール
併合の方法については、自賠責法で以下4つのルールが定められています。
- ①5級以上の後遺障害が2つ以上ある場合、重い方の等級を3つ繰り上げる
- ②8級以上の後遺障害が2つ以上ある場合、重い方の等級を2つ繰り上げる
- ③13級以上の後遺障害が2つ以上ある場合、重い方の等級を1つ繰り上げる
- ④14級の後遺障害が2つ以上ある場合、繰り上げは行わず14級のままとする
後遺障害の併合の例
併合のルールについて、具体例を用いて紹介していきます。
| 認定された後遺障害等級 | 併合の結果 |
|---|---|
|
4級を3つ繰り上げ →併合1級 |
|
7級を2つ繰り上げ →併合5級 |
|
12級を1つ繰り上げ →併合11級 |
|
繰り上げは行わない →併合14級 |
まずは交通事故チームのスタッフが丁寧に分かりやすくご対応いたします
併合の例外|ルールが変更されるケース
併合の基本ルールは、すべてのケースで適用されるわけではありません。
例えば、以下4つのケースでは、例外的に併合のルールが変更されることがあります。
- ①同一部位に後遺障害が残った場合(みなし系列)
- ②序列を乱す場合
- ③組み合わせ等級がある場合
- ④併合によって1級以上になる場合
同一部位に後遺障害が残った場合(みなし系列)
みなし系列とは、系列が異なる2つ以上の後遺障害が認められた場合も、同一部位に障害が残っている場合は“同一系列”とみなす方法です。
この場合、より重い方の等級が適用されることになります。
例えば、以下の怪我は系列こそ異なりますが、同一部位での受傷となるため、みなし系列が適用されます。
- ①両眼球の視力障害・調節機能障害・運動障害・視野障害
- ②同一上肢の機能障害と、手指の欠損または機能障害
- ③同一下肢の機能障害と、足指の欠損または機能障害
〈例〉「左腕の肘の機能障害(12級6号)」と「左手小指の機能障害(13級6号)」が認定された場合
→より重い12級6号が適用される
序列を乱す場合
序列の乱れとは、基本ルール通りに繰り上げを行った結果、等級が高くなりすぎてしまい、実態とそぐわない状況になることをいいます。
この場合、本来認定されるべき等級よりも高い等級となり、適切な補償がなされないおそれがあるため、基本ルールとは異なる調整が行われるのが一般的です。
少しわかりにくいため、以下で具体例をみていきましょう。
左足を膝関節以上で失った+右足が使えなくなった
〈例〉「左足の膝関節以上を切断(4級5号)」と「右足の用の全廃(5級7号)」が認定された場合
→ 基本ルールだと、5級以上が2つあるため、より重い4級を3つ繰り上げて「併合1級」となる
→ しかし、1級の要件は「両足の膝関節以上の切断」または「両足の用の全廃」のため、今回の怪我ではどちらの要件も満たさない
→ 少し軽い「併合2級」に調整する
組み合わせ等級がある場合
組み合わせ等級とは、系列の異なる複数の後遺障害を組み合わせ、ひとつにまとめて評価する方法です。
この場合、併合ではなく、組み合わせ等級の結果を優先することになります。
例えば、上肢、下肢、その左右は通常別系列ですが、以下の怪我については組み合わせ等級が適用されます。
- 両上肢を肘関節以上で失ったもの
- 両手の手指の全部の用を廃したもの
- 両下肢の用を全廃したもの
- 両足をリスフラン関節以上で失ったもの
〈例〉「右上肢の肘関節以上の切断(4級4号)」と「左上肢の肘関節以上の切断(4級4号)」が認定された場合
→ 基本ルールに従うと「併合1級」ですが、組み合わせ等級が優先されるため、「両上肢の肘関節以上の切断(1級3号)」が適用されます。
併合によって1級以上になる場合
複数の部位に重傷を負った場合、併合によって1級を上回る結果になることがあります。
しかし、この場合も後遺障害等級の上限は1級なので、それを超える等級が認められることはありません。
例えば、両手足の切断でそれぞれ2級が認定された場合、基本ルール通りに繰り上げを行うと1級を超えますが、認定される等級は「併合1級」に留まります。
後遺障害の併合が適用されないケース
【要介護の後遺障害】
後遺障害のうち特に重度なものについては、「要介護」として“別表Ⅰの1級または2級”が認定されます。
要介護の後遺障害等級が認定された場合、併合は行われず、より重い等級が適用されます。
〈例〉「常時介護が必要(別表Ⅰの1級1号)」と「両上肢の用の全廃(別表Ⅱの1級4号)」が認定された場合
→ 併合は行わず、要介護の等級(別表Ⅰの1級1号)が適用されます。
【同系列の後遺障害】
後遺障害は、身体の“部位”だけでなく、運動障害や機能障害といった“系列”ごとに等級が決められています。
同部位の同系列で複数の後遺障害が認定された場合、併合による繰り上げは行われません。
〈例〉「右肘関節の著しい機能障害(10級10号)」と「右肩関節の機能障害」が認定された場合
→ どちらも“右上肢の機能障害”で同系列なので、併合は行われません。
ただし、実務上は、より重い方の等級(10級)を繰り上げて「9級相当」などと認定されるのが一般的です。
後遺障害等級を併合した場合の慰謝料はどうなる?
併合が行われた場合、慰謝料は「併合後の等級」を基準に算定されます。
例えば、弁護士基準の場合、併合12級であれば290万円、併合14級であれば110万円が後遺障害慰謝料の目安となります。
なお、「併合」だからといって慰謝料が相場より高くなることはありませんが、個別事情によっては慰謝料の増額も可能です。
例えば、複数の部位に後遺障害が残ったことで、日常生活や仕事に大きな支障が出たことを証明できれば、慰謝料の増額が認められる可能性があります。
後遺障害の併合についてご不明な点がございましたら弁護士にご相談ください
複数の部位に後遺症が残ると、その分苦痛や日常生活への影響も大きくなると考えられます。そのため、併合によってできるだけ等級を上げ、適切な補償を受けることが重要です。
しかし、併合のルールはややこしく、基本ルール以外にもさまざまな手法があります。
また、併合が適用されないケースもあるため、ご自身で適切な等級を判断するのは難しいでしょう。
「こんなものか」と不満を持ったまま示談すると、十分な補償を取り逃がしてしまうおそれもあります。
弁護士であれば、後遺障害等級申請の手続きを任せられるだけでなく、認定された等級が適切なのか、異議申立ての余地はないかといった点も法的に判断できます。
弁護士法人ALGは、交通事故事案の解決実績や経験がたいへん豊富ですので、お悩みの方はぜひお気軽にご相談ください。

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保有資格弁護士(神奈川県弁護士会所属・登録番号:57708)
