監修弁護士 伊東 香織弁護士法人ALG&Associates 横浜法律事務所 所長 弁護士
交通事故で肘や膝などの関節部分を怪我した場合、治療しても、交通事故に遭う前のようには動かなくなってしまうことがあります。このような場合、交通事故による後遺障害として「可動域制限」が認定される可能性があります。
今回は、この「可動域制限」について、後遺障害等級認定を受けるための要件や認定され得る等級、もらえる慰謝料の相場などを解説していきます。
可動域制限とは
可動域制限とは、怪我をした関節の動きが正常な関節と比べて悪くなっている状態をいいます。
例えば、交通事故により右膝の半月板という組織を損傷してしまい、治療後も右膝が曲げにくいという症状が残ったようなケースで、可動域制限と認められる可能性があります。
このようなケースでは、怪我をした右膝の関節の可動域(関節を動かせる範囲)が、正常な左膝の関節の可動域と比べてどれだけ狭まったかを測って、可動域制限の程度を判断します。
交通事故による可動域制限の原因
交通事故による可動域制限は、原因別に3種類に分けられます。
- 器質的変化を原因とするもの
骨折や脱臼により関節自体が破壊されたり、関節の動きを安定させる靭帯が強く伸び縮みしたりすることで、関節や周辺部の骨組織や軟部組織が損傷した結果、可動域が制限される可能性があります。 - 機能的変化を原因とするもの
神経麻痺による筋力の低下や動かすと痛むといった理由から、関節の曲げ伸ばしが難しくなり、可動域制限が起こることもあります。 - 人工関節などの挿入を原因とするもの
関節の状態や痛みを改善するために、治療の一環として人工関節や人工骨頭を挿入することがあります。このような施術を受けた場合、可動域が制限されたと判断されます。
上記のいずれの可動域制限も、関節周辺部を骨折・脱臼する事故や神経麻痺を引き起こすような事故に遭った場合に、発生することが多いといえるでしょう。
可動域制限の後遺障害認定に必要な要件
事故で関節に可動域制限が残ってしまった場合でも、それだけで必ず後遺障害として認められるとは限りません。
可動域制限で後遺障害等級認定を受けるには、
①可動域制限の症状の重さが一定以上であること
②可動域制限の原因が、医学的な検査によって明らかになっていること
という2つの要件を満たさなければなりません。
後遺障害として認定され得る可動域制限は、症状の重い順に、
- 関節の「用を廃したもの」
- 関節の「著しい機能障害」
- 関節の「機能障害」
の3段階に分けられます。以下、詳しくみていきましょう。
関節の「用を廃したもの」
関節の「用を廃したもの」とは、関節がまったく動かせないか、または怪我をした側の関節の可動域が正常な側と比べて10%程度以下になっている場合を指します。
一般的に、関節内の筋肉組織が壊れ、固まって動かなくなってしまう「関節強直」や、筋肉につながる末梢神経の機能が損なわれたことによる「完全弛緩性麻痺」などが原因となっていると考えられます。
また、人工関節や人工骨頭の挿入・置換術を受け、怪我をした側の可動域が正常な側の2分の1以下になった場合にも、関節の「用を廃したもの」として扱われます。
関節の「著しい機能障害」
関節の「著しい機能障害」とは、怪我をした側の関節の可動域が正常な側の2分の1以下になっている場合、または人工関節や人工骨頭の挿入・置換術が行われた場合を指します。
例えば、正常な左膝の可動域が130度であるにもかかわらず、怪我をした右膝の可動域が50度に留まるケースでは、右膝の可動域が左膝の2分の1以下に狭まっているので、関節の「著しい機能障害」にあたると判断されます。
関節の「機能障害」
関節の「機能障害」とは、怪我をした側の関節の可動域が正常な側の4分の3以下になっている場合を指します。可動域制限の中では一番程度が軽いものをいいます。
具体例としては、怪我をした右肩の上下運動の可動域が20度であるのに対して、正常な左肩の可動域が30度であるケースなどが挙げられます。
まずは交通事故チームのスタッフが丁寧に分かりやすくご対応いたします
動域制限の後遺障害等級と慰謝料
後遺障害等級が認定されれば、認定された等級に応じた金額の後遺障害慰謝料を受け取ることができます。
可動域制限の場合、認定される後遺障害等級は、可動域制限の症状の重さ(後遺障害の内容)に応じて異なるので、後遺障害慰謝料の金額も可動域制限の程度によって変わることになります。
具体的な後遺障害慰謝料の金額を知りたい方は、可動域制限として認定される可能性のある後遺障害等級とその慰謝料の相場をまとめた下表をご覧ください。
上肢
等級 | 後遺障害の内容 | 後遺障害慰謝料 (弁護士基準) |
---|---|---|
1級4号 | 両上肢の用を全廃したもの | 2800万円 |
5級6号 | 1上肢の用を全廃したもの | 1400万円 |
6級6号 | 1上肢の3大関節中の2関節の用を廃したもの | 1180万円 |
8級6号 | 1上肢の3大関節中の1関節の用を廃したもの | 830万円 |
10級10号 | 1上肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの | 550万円 |
12級6号 | 1上肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの | 290万円 |
下肢
等級 | 後遺障害の内容 | 後遺障害慰謝料 (弁護士基準) |
---|---|---|
1級6号 | 両下肢の用を全廃したもの | 2800万円 |
5級7号 | 1下肢の用を全廃したもの | 1400万円 |
6級7号 | 1下肢の3大関節中の2関節の用を廃したもの | 1180万円 |
8級7号 | 1下肢の3大関節中の1関節の用を廃したもの | 830万円 |
10級11号 | 1下肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの | 550万円 |
12級7号 | 1下肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの | 290万円 |
可動域制限が認められた事例
ここで、弁護士法人ALGがご依頼を頂戴し、解決に導いた実際の事例をご紹介します。
依頼者がバイクで直進中、わき道から出てきた自動車と衝突して右肩付近を骨折し、治療後も肩関節の可動域制限と痛みが残ってしまった事例です。
保険会社から提示された賠償金額は、特に後遺障害逸失利益の金額がかなり低く見積もられていたため、適正な賠償金額を巡って争いになりました。
受任後、弁護士は、依頼者の可動域制限等の後遺症が仕事に与える影響といった点を踏まえて賠償金額を算定し直し、将来的に依頼者に大きな減収が生じる可能性などを指摘しつつ交渉を行いました。その結果、後遺障害逸失利益を当初の3倍近くの金額に引き上げることができました。
また、慰謝料の増額にも成功し、最終的に全体で約530万円の増額に成功しました。
可動域制限の後遺障害が残ってしまったらご相談ください
医師は後遺障害等級認定の専門家ではないので、たとえ整形外科医であっても、等級認定に欠かせない可動域の測定を誤ることがあります。しかし、可動域を正確に測れなければ正しい等級認定が受けられないので、適正な賠償金を受け取れない可能性があります。
十分な賠償を受けるためにも、可動域制限などの後遺症がみられる場合は、交通事故に詳しい弁護士などの専門家の意見を聴くことが重要です。
特に弁護士法人ALGには、交通事故分野や医療分野をはじめ、各法律問題に特化した事業部があるので、専門性の高いサービスを提供できます。また、事業部を超えて連携して問題の解決にあたるので、交通事故に関する知識はもちろん、後遺障害の問題を解決するうえで欠かせない医療分野の知識も活用することができます。
可動域制限の後遺症が疑われる方は、まずはお電話で状況をお聴かせください。専任のスタッフが対応させていただきます。
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保有資格弁護士(神奈川県弁護士会所属・登録番号:57708)