監修弁護士 伊東 香織弁護士法人ALG&Associates 横浜法律事務所 所長 弁護士
ある程度年齢を重ねると、相続の準備として遺言書の作成を検討される方も多いかと思います。
今回は公正証書遺言という、手間がかかる一方で確実に残せる方式の遺言をご紹介します。
公正証書遺言とは
公正証書遺言とは、公証役場において、証人、本人、公証人立ち合いのもと作成される遺言書です。
公証人は元裁判官等といった人であるため、遺言書が不備により無効となることはありません。また、厳重に保管されますので、偽造や改ざんのおそれがありません。
公正証書遺言のメリット
公正証書遺言には他の遺言と比較してどんな長所があるのでしょうか。
紛失、偽造、変造のおそれがない
まず、公正証書遺言は作成後、厳重に保管されるため、第三者による紛失、偽造、変造のおそれがありません。
遺言書開封時の検認手続きが不要
公正証書遺言は作成にあたり公証人のチェックを受けるため、家庭裁判所での検認手続が不要というメリットがあります。
自筆できない人でも作成できる
公正証書遺言の内容は事前に文案を公証役場に提出しチェックを受けた上で、作成当日は確認のみが基本です。 したがって、自筆ができない人でも遺言書を作成できるというメリットがあります。
公正証書遺言のデメリット
作成に時間や費用がかかる
公正証書遺言を作成するにあたっては、公証役場に、文案を提出し、公証人のチェックを経なければなりません。
そしてチェックをパスしたとしても、本人や証人、公証人が一同に会する日の日程調整をしなければなりませんので、実際の作成日はどうしても数か月先ということになりやすいです。
2名以上の証人が必要となる
公正証書遺言の作成にあたっては2名以上の証人が必要となりますので、この証人たちの手配と、公証役場に集まる日程を調整しなければなりません。
少なくとも、本人、公証人、証人2人の合計4人の日程を調整するため、大変です。
公正証書遺言を作成する流れ
①証人2人の手配
②必要書類を整える(戸籍謄本や、印鑑証明、財産に関する書類等)
③遺言をする人(遺言者)と証人とで公証役場へ出向き打合せをする。
④公正証書遺言を公証人に作成してもらう。
⑤間違いがないことを確認し、遺言者、証人、公証人にて署名押印する。
⑥手数料を公証人に支払う
遺言書に書きたい内容のメモを作成する
まず、公証人と打合せをするために、どんな内容の遺言としたいか、メモを作成してまとめておきましょう。
必要書類を集める
公正証書の作成にあたり、以下のような書類が必要となります。
詳細は公証役場にご確認ください。
内容 | 必要書類 |
---|---|
遺言者本人を証明するもの |
・遺言者本人の印鑑登録証明書や運転免許証、マイナンバーカード等写真付証明書 ・遺言者本人の実印 |
相続人との続柄が分かるもの | 戸籍謄本、受遺者の住民票 |
証人の確認書類 | 住民票の写し、職業がわかる資料 |
不動産がある場合 | 登記簿謄本、固定資産税納税通知書等 |
預貯金がある場合 | 預貯金通帳のコピー |
有価証券等がある場合 | 有価証券等のコピー |
2人以上の証人を探す
公正証書遺言の作成には証人が2名必要です。
証人になれない人
証人は誰でもよいわけではなく一定の条件があります。
以下の①~③いずれかに該当する方は証人になれません。
①未成年者
遺言の内容を理解する力がないためです。
②推定相続人等
遺言そのものに利害関係があり、証人として相応しくないためです。
③公証人の配偶者、四親等内の親族、書記、使用人
公証人の関係者が証人となってしまうと、公証人が万一不正をしようとした場合に防ぐことができません。
証人と一緒に公証役場に行き、遺言書を作成する
いよいよ証人と一緒に公証役場に出向き、遺言を作成します。
どんなことに気を付けたらよいでしょうか。
遺言書を作成する公証役場はどこ?
公証役場であれば、どこでも作成できます。
もっとも、遺言をする方は高齢である場合が多く、可能な限りお住いから近いところで遺言書の作成をなさった方がよいでしょう。
公正証書遺言の作成が困難なケースと対処法
言語機能や聴覚に障害がある場合
公正証書遺言の作成には、原則として、遺言の内容を遺言者から公証人に「口述」すること、
そして、公証人は遺言の内容を遺言者に「読み聞かせ」で確認することが必要です。
しかし、遺言者に言語機能や聴覚の障害がある場合には、以下の対応が可能です。
「口述」 ⇒代わりに、遺言の内容を通訳人が手話又は筆談で公証人に伝える
「読み聞かせ」 ⇒代わりに、通訳人が手話で通訳することで遺言の内容を確認
署名できない場合
遺言者が病気や高齢のため、自分で署名ができない場合、公証人がその旨遺言書に付記することで署名にかえることができます。
公証役場に行けない場合
遺言者が病気や高齢のため、公証役場に行けない場合はどうすればよいでしょうか。
この場合は公証人が遺言者のもとに出張し、公正証書遺言を作成することができます。
公正証書遺言の作成を弁護士に依頼するメリット
遺言内容の相談ができる
遺言書の作成にあたっては、法的な観点からその内容をしっかり吟味しなければなりません。
公証人のチェックは方式(書式)のミスで遺言が無効になることを防ぐ観点から行われるものであり、
遺言者の希望を実現するためにはどうすればいいかといった、遺言の中身についての実質的な相談には応じてくれません。
加えて自分で法律について都度調べて遺言書を作成するとなると膨大なリサーチの時間と手間がかかってしまいます。
弁護士に依頼することで、早い段階から内容を練って万全の状態で遺言の作成ができるでしょう。
書類準備などの手間が省ける
特に戸籍謄本等は弁護士にて効率的に取り付けることができ、書類準備の手間が一部省ける場合があります。
もっとも、財産に関係する書類は弁護士に依頼するよりもご自身で取り付けた方が基本的には早く安く集めることができます。
遺言執行者として選任できる
依頼した弁護士を遺言執行者として選任できます。
遺言執行者とは、「遺言に記載されているとおり」に相続が実現できるよう、相続人のために動き回る人です。遺言の内容によっては、遺言執行者の選任により、遺言の実行可能性を高めることができる場合があります。
任意後見契約を結ぶことができる
任意後見契約とは、被後見人が後見人としたい人を事前に選び、被後見人が後見を必要とする事態となった場合に、後見人に面倒をみてもらうという契約です。
この任意後見契約を締結するにあたっては公正証書によることが必要です。
相続に強い弁護士があなたをフルサポートいたします
公正証書遺言に関するQ&A
公正証書遺言にすれば確実に効力がありますか?
方式(書式)の不備が理由となって遺言が無効となることは考えにくいです。
その意味で他の遺言をする方法より確実と言えます。
しかし、公証人は中身に踏み込んでまでチェックをしてくれるわけではなく、内容まで保証してくれるわけではありません。
このような理由から、確実に効力があるとは言い切れません。
一度作成した公正証書遺言の内容を変更することはできますか?
作成した公正証書遺言は、いつでも、何度でも内容の変更が可能です。
この場合は基本的には最後に作成したものが優先します。
もっとも、最初に作成した時と同様、書類や手数料、証人を都合する必要があります。
公正証書遺言があることは死亡後通知されますか?
亡くなったことに紐づけて公証役場の方から通知がなされるわけではありません。
遺言書を見せてもらえません。公証役場で開示請求はできますか?
前提として、公証役場で(又は公証人の出張先で)遺言書が作成されていることが必要です。
その上で、相続人等、法律上の利害関係がある方は、公証役場に対して遺言の開示を求めることができます。
公正証書遺言の有無については、公証役場全体で検索することができるため、少なくとも遺言があるかないかについて確認するにあたって、どこの公証役場にすべきかを気にする必要はありません。
公正証書遺言に関する不安、不明点は弁護士にご相談ください
公正証書遺言は、普段馴染みのない、公証役場も絡んでの作成となるため、いざ作成をしようと思っても躊躇される方が多いのではないでしょうか。 加えて公証人がチェックするのは方式(書式)であり、遺言の中身まで公証人が相談にのってくれるわけではありません。 公正証書遺言の作成を検討されている方は是非弁護士にご相談ください。
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保有資格弁護士(神奈川県弁護士会所属・登録番号:57708)