遺言書の効力

相続問題

遺言書の効力

横浜法律事務所 所長 弁護士 伊東 香織

監修弁護士 伊東 香織弁護士法人ALG&Associates 横浜法律事務所 所長 弁護士

今後、相続件数は増えていくと予想されます。遺産が少ない場合、相続紛争とは無縁だと思いがちですが、実際にはそんなことはありません。遺産が少ない場合でも、紛争につながっている相続案件は数多くあります。自分の死後、家族が相続で争うことは避けたいものです。相続紛争の予防策として、代表的なものが、遺言書の作成です。ここでは、遺言書の効力について説明します。

遺言書の効力で指定できること

遺言書に記載したことの全てに法的効力が認められるわけではありません。遺言で決められる事項については、法律上定められており、それ以外の記載内容は、法的には効力のないものとして扱われます。
ここでは、遺言書に記載することで法的効力が認められるもののうち、代表的なものを紹介していきます。

遺言執行者の指定

遺言執行者とは、遺言書に記載されている内容を実現させるべく、各種の手続きを行う人のことを指します。例えば、遺言執行者は、不動産の登記名義を受遺者に移転させたり、預金の解約・払戻等をして受遺者に預金を交付する手続きを行ったりします。
そして、遺言者は、「Aを遺言執行者として指定する」等と遺言書の中に記載することで、遺言執行者の指定をすることが可能です。

誰にいくら相続させるか

遺言者は、法定相続分と関係なく、誰にいくら相続させるかを指定することができます。
その指定の方法にはいろいろな定め方があります。
例えば、「妻の相続分を10分の7、長男の相続分を10分の1、長女の相続分を10分の2とする」といったように、遺産全体について割合を決めることも可能ですし、特定の財産の取得割合を個別に定めることも可能です。この割合を100%として指定することも可能です。

誰に何を相続させるか

遺言者は、誰に何を分配するかも指定できます。
例えば、「遺言者は、遺産分割において、長女がA不動産、長男が預貯金、二男がB株式会社の株式全部を取得するように、分割の方法を指定する。」というように記載することがあります。
他に、実務上頻繁に用いられる工夫として、「A不動産を長女に相続させる、預貯金を長男に相続させる」というように記載をして、後の遺産分割協議を不要にすることも可能です。

遺産分割の禁止

相続案件の中には、様々な事情から、死後すぐに遺産分割をすることを避けたいということがあります。そのような場合、遺言者は、遺言書に記載することにより、5年を超えない期間を定めて、遺産分割を禁止することができます。
永遠に遺産分割できないとすると相続人の不利益は大きいものとなってしまうため、5年を超えない期間に制限されています。また、遺言による分割禁止の更新規定も無効です。期間が記載されていない場合も、遺産分割の禁止自体は有効ですが、禁止されているのは5年間に限られます。

遺産に問題があった時の処理方法

遺産分割の際に考慮されていないかった権利又は物に関するリスク(取得した財産に不適合があったり、他人の権利であったというような場合等)が、遺産分割後に明らかとなった場合に、共同相続人が、相続分に応じて、そのリスクを負担し合うというのが、民法911条に定められている担保責任です。 この規定は任意規定であり、遺言者の意思により、その内容や責任の範囲を変更することが可能です。例えば、相続人が3人いるうちの一人には、担保責任を負わせないようにする旨の遺言をすること等が可能です。

生前贈与していた場合の遺産の処理方法

例えば、相続人の一人が、被相続人から不動産の生前贈与を受けていたような場合(生前贈与が特別受益に該当する場合)、通常の遺産分割においては、他の相続人との公平をはかるため、特別受益があったことを考慮して、各相続人の相続分を計算します。 他方、被相続人が「特別受益の持戻し免除の意思表示」をすれば、その特別受益を、今回の相続の際に考慮しないようにすることが可能です。この意思表示は、遺言書に記載するのが明確でお勧めです(特に、遺贈の場合は、遺言で持戻し免除の意思表示をすることが必要だと考えられています。)。

生命保険の受取人の変更

保険法は、遺言によって、保険金受取人の変更をすることができる旨を規定しています。例えば、被相続人が契約者兼被保険者である生命保険について、保険金受取人が妻であったところ、遺言により、保険金受取人を長女に変更するというようなことが可能です。
もっとも、実際にこの手続きを行う場合には、保険会社との関係でスムーズに手続きが進むように、事前に、保険会社に遺言書の記載文言や具体的な手続き等を確認した方がよいでしょう。

非嫡出子の認知

法律上の婚姻関係にない父母の間に生まれた子を非嫡出子といいます。非嫡出子と父親とは、認知という手続きにより、法律上の親子関係が生じます。法律上の親子関係が生じると、その子は、相続人としての立場を得ることになります。
遺言者は、遺言によって認知をすることができます。
その場合、他の相続人からすれば、突然相続人が増えるということになりますので、認知を知らなかったことにして、遺産分割することを考えることもあるでしょう。しかし、遺言認知された者を除いて遺産分割してしまった場合、被認知者から価額支払請求(民法910条)を受ける可能性がありますので、被認知者を無視するのは適切とはいえません。

相続人の廃除

遺留分を有する推定相続人が、被相続人に対して虐待等をした場合には、「廃除」によって相続権が剥奪されることがあります。
遺言者は、特定の相続人を廃除することを遺言書に記載することができます。もっとも、廃除の与える不利益は非常に大きく、遺言書において廃除の意思表示をしても、直ちに廃除の効力が生じるわけではありません。遺言書で廃除の意思表示がされた場合には、遺言執行者が、遺言の効力が生じた後、遅滞なく、家庭裁判所に推定相続人の廃除の請求をすることになります。廃除の審判が確定した又は調停が成立した場合に、廃除の効力が生じることになります。

未成年後見人の指定

例えば、離婚して単独親権者として未成年者を育てている被相続人が死亡した場合、親権者が存在しないことになり、その後の未成年者の生活に支障が生じることになります。そこで、親権者に代わって未成年者を監護し、財産を管理する人(未成年後見人)が必要となります。
遺言者は、遺言によって、未成年者の未成年後見人を指定することができ、未成年後見人に指定された人は、遺言者の死亡と同時に未成年後見人となります。

遺言書が複数ある場合、効力を発揮するのはどれ?

遺言書が複数ある場合、最新の日付のものが有効です。通常は、新しい遺言書に、以前の遺言書を撤回する旨を記載し、最新のものが有効であることを明確にします。仮に、最新の遺言書に、以前の遺言書を撤回する旨の記載がない場合でも、以前の遺言書と最新の遺言書の内容が抵触するときは、最新の遺言書の内容に、遺言内容が変更されたことになります。
なお、自筆遺言証書が2通あり、うち1通にのみ日付の記載があり、もう一通に日付の記載がないような場合、日付の記載がない以上、(内容からして明らかに最新の遺言書であったとしても)その遺言書は無効なため、日付のある遺言書が有効ということになります。

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遺言書の効力は絶対か

遺言書が存在する場合でも、それに従わなくてもよい場合があります。
代表的には、①遺言が無効である場合、②記載事項が法定遺言事項ではない場合が考えられます。
①について、遺言は、法の定める方式を満たしていることを厳密に要求されており、形式的な不備があるだけで、無効となってしまいます。例えば、自筆遺言証書において、日付の記載がなかったり、署名を自書していなかったりする場合は、遺言は無効です。
②について、遺言書に記載することで効力が生じるものは、法律上定められており、それ以外の記載については、法的な効力は生じません。例えば、「長男は遺留分を放棄すること」というような記載には、法的な効力はありません。
これらの場合には、遺言書の内容に従う必要はありません。

遺言書の内容に納得できない場合

遺言書の内容に納得できない場合もあります。例えば、遺言が無効であると考える場合には、遺言に任意に従う必要はなく、民事訴訟で解決を図ることができます。また、他の相続人との協議により、遺言書の内容とは異なる内容で遺産分割をすることも可能です。
もっとも、遺言書の内容に納得できない場合というのは、特定の相続人に有利で、他の相続人に不利な内容の遺言書であることが多いため、遺言の効力をめぐっては主張が対立することが多いと思われます。

勝手に遺言書を開けると効力がなくなるって本当?

自筆遺言証書(遺言書保管制度を利用するものを除きます)と秘密証書遺言の場合には、遺言の保管者は、相続開始を知った後、遅滞なく家庭裁判所に検認の請求をしなければなりません。検認というのは、裁判所において、遺言書を開封し、その内容を確認し、その状態を保存する手続きです。この手続きを経ることで、遺言書の改ざん等を防止することができます。
検認の手続きを経ずに遺言書を開封してしまう場合もありますが、それによって遺言が無効になるということはありません。もっとも、検認の手続きを経ずに開封した場合、5万円以下の過料に処されることがあります。

効力が発生する期間は?

遺言の効力は、遺言者が死亡したときから生じます。遺言の有効期限はなく、遺言書の効力は、相続開始時以降、ずっと生じていることになります。
例えば、30年前に発生した未解決の相続について、遺言書が50年前に作成された非常に古いものだったとしても、それが有効要件を満たしている限り、その遺言は有効です。したがって、その相続問題については、その遺言書の内容にしたがって処理をすることになります。

認知症の親が作成した遺言書の効力は?

遺言をするには、遺言能力が必要です。遺言能力とは、自分のする遺言の内容と、その結果生じる法律効果を理解・判断できる能力を指します。民法上は、満15歳以上に達すれば、遺言能力が備わることが定められていますが、満15歳以上でも、十分な判断能力がない場合には、遺言能力がないと判断され、遺言が無効となることがあります。
実務的には、認知症の場合に遺言能力が問題となることが多いです。認知症であるというだけで遺言が無効と判断されるわけではなく、有効な遺言として扱われることもあります。他方、重度の認知症である場合等は、遺言が無効と判断されることがあります。

記載されていた相続人が亡くなっている場合でも効力を発揮するの?

遺贈については、遺言の効力が生じる前に受遺者が死亡している場合について、明文で、遺贈の効力が生じないと定められています(民法994条1項)。また、遺産を特定の相続人に「相続させる」と記載されている遺言についても、遺言効力発生前に当該相続人が死亡している場合には、原則として効力を生じません。
そのような場合には、無効となった部分について、遺産分割をすることになります。

遺留分を侵害している場合は遺言書どおりといかないことも

兄弟姉妹以外の相続人(配偶者、子、直系尊属)には、遺留分というものが認められています。遺留分というのは、その相続人に、最低限保障された取得分を指します。例えば、父が死亡し、母、子の2人が相続人であり、遺産総額が1000万円というケースでは、母の遺留分は4分の1に相当する250万円ということになります。
上記のケースで、遺言書に、「全ての遺産を子に相続させる」と記載されている場合、母の遺留分は侵害されていることになります。そのような場合でも、遺言自体は有効です。もっとも、母は、子に対して、遺留分侵害額請求という請求をすれば、250万円の支払いを受けられることになります。

遺言書の効力についての疑問点は弁護士まで

遺言の有効・無効については、個別のケースで判断が分かれるため、専門家の意見を聞くことをお勧めします。また、遺言が有効だとしても、専門家の関与にもかかわらず十分とはいえない遺言書であったり、全く想定していなかった問題が生じていたり、最終的な解決まで一筋縄ではいかないことも多いです。
これから遺言書を作成したいという場合にも、注意点は多岐にわたりますので、弁護士と十分に打ち合わせすることをお勧めします。

横浜法律事務所 所長 弁護士 伊東 香織
監修:弁護士 伊東 香織弁護士法人ALG&Associates 横浜法律事務所 所長
保有資格弁護士(神奈川県弁護士会所属・登録番号:57708)
神奈川県弁護士会所属。弁護士法人ALG&Associatesでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。