監修弁護士 伊東 香織弁護士法人ALG&Associates 横浜法律事務所 所長 弁護士
家族が亡くなって遺言書を発見したら、内容を確認したくなる人が多いでしょう。しかし、遺言書が封筒に入っている場合、勝手に開けてはいけないと聞いたことのある人がいるかもしれません。
実は、遺言書には、勝手に開けることが禁止されているものがあります。そのような遺言書については、家庭裁判所において「検認」という手続きを行わなければなりません。
この記事では、遺言書の検認手続きが必要となるケースや、検認手続きの流れ等について解説します。
遺言書の検認とは
遺言書の検認とは、以下のようなことを目的とした手続きです。
- 相続人に遺言書の存在や内容を知らせること
- 遺言書の内容を明らかにして偽造や変造を防止すること
検認は、遺言書の現状を保全する効力のある手続きです。つまり、遺言書の書き換え等を防止するための手続きなので、検認は遺言書の有効性とは無関係です。
有効性を判断されるものではない
検認は、あくまでも遺言書の現状を保全するための手続きなので、遺言書に効力があること等の確認はしません。そのため、検認の手続きを行った遺言書であっても、無効となることはあり得ます。遺言書が無効となるのは、主に以下のようなケースです。
- 遺言書に形式的な不備があるケース
- 前の遺言書が撤回されて新たな遺言書が作成されていたケース
- 遺言書を作成したときに認知症等によって意思能力が失われていたケース
- 誰かに騙されたり、遺言の内容について勘違いをしたまま遺言を作成したケース
遺言書の検認が必要になるケース
遺言書の検認は、次のケースで必要となります。
- 自筆証書遺言が作成されて、法務局で保管されていないケース
- 秘密証書遺言が作成されたケース
一方で、次のケースにおいては、検認は不要です。
- 自筆証書遺言が作成されて、法務局で保管されているケース
- 公正証書遺言が作成されたケース
検認せずに遺言書を開封してしまったらどうなる?
検認が必要な遺言書を、検認を受ける前に開封してしまうと5万円以下の過料に処せられるおそれがあります。また、他の相続人から改ざん等を疑われる原因になるおそれもあります。
しかし、検認しないままで開封した遺言書であっても無効となるわけではありません。そのため、開封した状態で検認を受けることになります。
遺言書の検認に期限はある?
遺言書の検認に、明確な期限は設けられていません。しかし、検認が必要な遺言書を発見した場合、相続放棄や相続税の申告の兼ね合いもありますので、なるべく早く検認手続きを行う必要があります。
まず、相続放棄とは、相続人としての立場を放棄して、権利や義務を相続しないようにするための手続きです。
相続放棄の期限は、自己のために相続が開始されたことを知ってから3ヶ月以内とされていることから、遺言書を発見した後、検認手続きをしないまま3か月が経過してしまうと、遺言書の内容を知らなくても相続放棄ができなくなる可能性があります。
また、相続税の申告や納税についても、自己のために相続が開始されたことを知ってから10ヶ月以内とされています。遺言書の内容が分からなければ正しく納税できないので、早く検認を受けて遺言書の内容を把握する必要があります。
遺言書の検認手続きの流れ
遺言書の検認手続きは、主に以下のような流れで行われます。
- 申立書を作成する
- 検認を申し立てる
- 期日が決まったら家庭裁判所から連絡が来る
- 期日に家庭裁判所に行く
- 検認済証明書の申請をする
申立書は、裁判所が公開している「家事審判申立書」の書式を用いて作成できます。申立先は、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所です。
家庭裁判所から期日の連絡が来たら、申立人は当日に遺言書を持参しなければなりません。申立人が欠席してしまうと、検認手続きは行われないので必ず出席しましょう。
検認が終わると、遺言書には「検認済証明書」が添付されます。検認済証明書の発行には150円分の収入印紙と申立人の印鑑が必要となるので、忘れずに持参しましょう。
手続きをする人(申立人)
遺言書の検認を申し立てるのは、以下のいずれかの人です。
- 遺言書の保管者
- 遺言書を発見した相続人
必要書類
遺言書の検認申立ての必要書類として、主に以下のようなものが挙げられます。
- 申立書
- 当事者目録
- 被相続人が生まれてから亡くなるまでのすべての戸籍謄本
- 相続人全員の戸籍謄本
なお、相続人になる予定だった人が被相続人よりも先に亡くなっているケース等では、追加で必要になる書類があります。
必要書類をそろえるためには相続人調査が必要となります。相続人調査については以下のページをご確認ください。
相続人調査について詳しく見る申立先
遺言書の検認の申立先は、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所です。 管轄裁判所を調べたい方は、以下の裁判所のサイトでご確認ください。
裁判所の管轄区域|裁判所について検認手続きにかかる費用
検認手続きにかかる費用は、主に以下のとおりです。
- 遺言書1通あたり800円分の収入印紙
- 連絡用の郵便切手代(相続人の人数によって金額が変動するため、裁判所の事件受付係へお問い合わせください)
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遺言書の検認が終わった後の流れ
遺言書の検認が終わったら、検認済証明書を発行してもらい、遺言書の原本に添付してもらいます。 有効な遺言書があれば、遺産分割協議を行う必要がないケースもあります。しかし、主に以下のような場合については、遺産分割協議を行うことになります。
- 遺言書に相続分などが指定されているが、具体的な遺産分割方法が明記されていない場合
- 相続人全員が遺産分割協議を行うことに同意している場合
- 遺言書で分配方法が書かれていない相続財産がある場合
- 遺言書に形式的なミスがある場合
遺産分割協議について、詳しくは以下のページをご確認ください。
遺産分割協議について詳しく見る遺言書の検認に関するQ&A
遺言書の検認に行けない場合、何かペナルティはありますか?
遺言書の検認期日は、欠席してもペナルティはありません。ただし、申立人は遺言書を持参して提出しなければならないため、出席が義務づけられています。
検認が行われる裁判所が遠くて行けない場合や、体調を崩してしまった場合等であっても、相続することは可能であり、罰せられることはありません。
また、裁判所への欠席連絡も不要です。ただし、検認期日に出席しないと、遺言書の内容を知るのが遅れてしまいます。不安な方は、弁護士等の代理人に出席を依頼する方法があります。
検認できない遺言書はありますか?
検認できない遺言書は、検認の必要のない遺言書を除けば基本的にないので、封印されていない遺言書や、誤って開封してしまった遺言書等であっても検認を受けることができます。 検認の必要のない遺言書は、以下のようなものです。
- 公正証書遺言
- 法務局で保管されている自筆証書遺言
遺言書の検認を弁護士に頼んだら、費用はどれくらいになりますか?
遺言書の検認を弁護士に依頼した場合、10万~15万円程度かかる場合が多いです。
弁護士法人ALGでは、依頼料として「手数料11万円+諸経費3.3万円(税込)」がかかります。また、相談料や実費等は別途かかるケースもあります。
弁護士費用を抑えたい場合には、被相続人が生まれてから亡くなるまでのすべての戸籍謄本や、相続人全員の戸籍謄本を自分で収集すれば、費用が抑えられる可能性があります。
ただし、被相続人が何度も転居していた場合等、自分で収集するのが難しいケースも少なくないため、手に負えないと感じたら弁護士を頼ることをおすすめします。
検認せずに開けてしまった遺言書は無効になりますか?
遺言書の検認を行わずに開けてしまっても、遺言書は無効になりません。開封してしまった場合には、そのままの状態で検認を受ける必要があります。
間違って開封してしまっても、遺言書を捨ててしまうと「相続欠格」に該当して、相続権を失うおそれがあるので注意しましょう。
相続欠格とは、相続によって不正に利益を得ようとした人について、相続権を自動的に失わせる制度です。相続欠格に該当するのは以下のような人です。
- 故意に被相続人等を殺害した人(未遂も含む)
- 被相続人が殺害されたのを知って告発や告訴を行わなかった人
- 詐欺や脅迫によって、被相続人の遺言を取り消す等させた人
- 詐欺や脅迫によって、被相続人が遺言を取り消すこと等を妨害した人
- 被相続人の遺言書を破棄する等した人
遺言書の検認手続きは専門家にお任せください
遺言書の検認手続きを行わなければ、封印された遺言書の内容を確認できず、相続登記等の手続きを遺言書によって進めることもできません。そのため、遺言書を発見したら、すぐに検認手続きを進める必要があります。
しかし、慣れない人にとっては、検認手続きに必要な書類を作成したり、集めたりするだけでも大変なことです。そこで、遺言書を発見したら弁護士にご相談ください。
弁護士であれば、必要書類の作成や収集についてアドバイスできます。また、検認手続きが終わった後のことについても、前もって相談しておくことが可能です。
相続人に関係の悪い人がいるケース等、相続や遺言書に関連する相談についても併せて対応できますので、不安のある方はお気軽にご相談ください。
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保有資格弁護士(神奈川県弁護士会所属・登録番号:57708)