監修弁護士 伊東 香織弁護士法人ALG&Associates 横浜法律事務所 所長 弁護士
不動産の相続についての話し合いがまとまらないときには、不動産を共有する形で公平な相続を実現できるため、一旦は争いを収めることができます。しかし、不動産を共有することはデメリットが目立ち、トラブルを招いてしまうケースが多いため、争いの先送りにしかならないのでおすすめはできません。
この記事では、不動産の共有名義が生み出す問題や相続との関係、共有名義を相続したくないときの対処法、共有名義を解消する方法等について解説します。
共有名義とはどんな状態のこと?
共有名義とは、1つの不動産について、2人以上の名義人が存在する状態のことです。このとき、登記記録の「権利者その他の事項」欄には、名義人の住所と氏名、そして持分が記載されます。
共有名義で勘違いされやすいのは、共有者の全員が不動産の全体について権利を有していることです。例えば、土地の持分が1/2である場合、土地の面積の半分について権利を有しているわけではなく、土地全体の権利の1/2を有していることになります。
共有名義のメリット
不動産を相続するときに共有名義とすることは、基本的におすすめできません。ただし、わずかに以下のようなメリットも考えられます。
- 相続人の間で、不動産の分割について話し合う必要がなくなる
- 相続登記のときに、遺産分割協議書を用意する必要がなくなる
しかし、不動産を共有名義とすることはこれらのメリットをはるかに上回るデメリットが考えられるため注意しましょう。
共有名義のデメリット
不動産を相続するときに共有名義にすると、後でトラブルの原因となるリスクが高いといえます。
共有名義のデメリットとして、以下のようなものが挙げられます。
- 自分だけの判断では、不動産の全体を売却することができない
- 自分の持分だけでは売却先が見つけにくく、売れたとしても金額が安くなるおそれがある
- 共有者が持分を売却すると、見ず知らずの人と共有することになる
- 共有者による不動産の利用を止めるのが難しい
- 持分が過半数でないと、不動産の貸し出しや大規模なリフォームができない
- 共有者の1人が亡くなると、その共有者の相続人と共有することになってしまうおそれがある
- 固定資産税や修繕費等の支払いについて、共有者とトラブルになるおそれがある
共有名義で不動産を相続する場合の手続き
共有名義で不動産を相続する場合には、以下のように、遺産分割協議が必要な場合と不要な場合があります。
- 遺産分割協議が必要:法定相続分や遺言書の指定とは異なる割合で共有する場合
- 遺産分割協議が不要:法定相続分や遺言書の指定に従った割合で共有する場合
相続登記では、遺産分割協議書か遺言書による場合にはそれらを必要書類として提出します。法定相続分による場合には、戸籍謄本で相続分を証明します。
自分が相続した持分だけ名義変更したい場合
自分が相続した持分だけについて、相続登記を申請することはできません。なぜなら、相続による所有権の一部移転ができるなら、被相続人と相続人が不動産を共有している名義となってしまうため、好ましくないからです。
例えば、相続人の一部が相続登記に協力してくれない場合には、自分だけで不動産全体の相続登記を実行することができます。
なお、不動産が相続の前から共有名義になっていた場合には、共有名義人の全員が同時に亡くなったとしても、自分が相続した持分だけについて相続登記を申請できます。
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共有名義で不動産を相続したくない場合の対処法
相続のときに、不動産の取得を希望する相続人がいて、自分も不動産の相続を主張すると共有になってしまいそうな場合や、共有名義を相続したくない場合等で考えられる対処法として、主に以下のようなものが挙げられます。
- 預貯金や有価証券等だけを相続して、不動産は相続しない
- 不動産以外の相続財産が少ない場合には、不動産を相続した人に、自身の相続分に相当する金銭等を支払ってもらう
- 不動産の全体を売却してお金に換え、分配する方法で相続する
- 共有物分割請求を行い、分筆等を行う
- 誤って共有名義を相続してしまった場合には、持分を放棄する
- 他の共有者に持分を買い取ってもらう
- 共有名義の買取を行っている業者に相談する
共有名義の相続登記を解消する方法は?
不動産が、相続登記によって2人の名義人による共有になっている場合、共有を解消するためには次のような対策が必要です。
【共有者が生きている場合】
- 自身の持分を共有者に買い取ってもらう
- 共有名義の買取を行っている業者に相談する
- 共有持分を放棄する
- 共有物分割請求を行い、分筆等を行う
【共有者が亡くなっている場合】
- 共有者に相続人がいる場合には、持分の買取や、不動産全体の売却等を持ちかける
- 共有者に相続人がいなければ、相続財産清算人の選任を申し立てる
【共有者が双方亡くなっている場合】
- 双方の相続人全員による遺産分割協議により、1人が不動産を相続するか、不動産全体を売却する等して処分する
- 双方の相続人全員のうち、1人を除く全員が相続放棄する
共有名義での相続登記に関するQ&A
共有名義の不動産の固定資産税は、どう課税されるのですか?
共有名義の不動産の固定資産税は、共有者が連帯して支払う義務があります。しかし、請求は代表者に対してのみ行われます。
請求を受けた代表者は全額を納税し、他の共有者の持分に応じた求償権を獲得します。
代表者の決定方法は自治体ごとに決まっており、市内に居住している人を代表者とする等の方法で決められます。代表者を変更したい場合には、代表者変更届を提出することによって変更が可能です。
なお、代表者が税金を滞納すると、他の共有者に対して請求が行われることがあります。このとき、代表者から徴収することを自治体に要求することはできないため、代わりに全額支払う義務が生じます。
親と長男の共有名義の不動産は、親が死亡したらどうなる?
ここでは、以下のような例を用いて解説します。なお、相続は法定相続分によります。
【家族構成】
父、母、長男、二男
【相続前の不動産の持分】
・父:50%
・長男:50%
【父が死亡して、相続後の不動産の持分】
・母:50%×1/2=25%
・長男:50%×1/4+50%=62.5%
・二男:50%×1/4=12.5%
このように、法定相続分によって相続すると、共有者の人数が増えてしまいます。長男は持分の過半数を保有しているため、不動産を賃貸できる可能性は高いですが、売却するためには基本的に3人による合意が必要です。
仮に、この後で二男が亡くなって、二男の妻や長男、長女等が相続すると、共有者がさらに増えてしまいます。
そのため、なるべく不動産の共有持分は長男だけが相続し、不動産の共有は解消することが望ましいでしょう。
共有持分を相続する場合の登録免許税はいくらですか?
相続登記をするときに支払う登録免許税は、通常であれば固定資産評価額の0.4%に相当する金額とされています。例えば、2000万円の土地を相続する場合には、登録免許税は8万円となります。
2000万円の土地の持分1/2を相続する場合には、「2000万円×1/2×0.4%=4万円」により、登録免許税は4万円となります。
共有名義の相続登記についてご心配な点は、ぜひ弁護士にご相談ください
相続人に自身の取り分を強硬に主張する人がいて、話し合いがまとまらなかったとしても、不動産を共有名義にすることは問題の先送りにしかなりません。
そこで、不動産の共有名義にすることについて悩んでいる方は弁護士にご相談ください。弁護士であれば、共有せずに話し合いをまとめるためのアドバイスをすることができます。
また、すでに不動産を共有名義にしてしまった方は、共有者の相続の開始や共有持分の売却といった事態を迎える前に、共有を解消するのが望ましいでしょう。共有を解消するために考えられる方策についても、ご相談いただければ検討いたします。
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保有資格弁護士(神奈川県弁護士会所属・登録番号:57708)