監修弁護士 伊東 香織弁護士法人ALG&Associates 横浜法律事務所 所長 弁護士
亡くなった人が遺した財産に預貯金が含まれている可能性は高いです。
しかし、預貯金を自由に引き出せるようにしておくと、その後の相続トラブルを招くこと等から、名義人が亡くなったことを把握すると、金融機関は口座を凍結してしまいます。
そこで、この記事では、口座の凍結を解除する方法や預貯金を相続する場合の注意点、相続手続きの流れ等について解説します。
目次
亡くなった人の口座は凍結される
被相続人が亡くなったことを、被相続人が口座を開設している金融機関が把握すると、その口座は凍結されることになります。
口座が凍結されてしまうと、金額を変更させる手続きが基本的にできなくなってしまいます。そのため、入出金や解約だけでなく、引き落としすること自体もできなくなります。
被相続人の口座を生前と同じように利用できるようにするためには、金融機関で凍結を解除する手続きを行う必要があります。
凍結を解除するには
口座の凍結を解除するためには、金融機関ごとに凍結解除の手続きを行う必要があります。
凍結解除の手続きは、遺言書や遺産分割協議書等の必要書類を集めて行います(詳しくは後述いたします)。
預貯金を放置したらどうなる?
凍結された口座の預貯金を放置すると、その口座は休眠口座となります。
【休眠口座とは】
最後の取引から10年以上、入出金等が行われていない口座です。この期間について、相続が発生したタイミングは影響しません。
2009年1月以降に最後の取引が行われた口座については、預金保険機構に移管されて公益活動に利用されます。
窓口で手続きを行えば休眠口座を復活させることができますが、最近利用されていない口座から手数料を取る金融機関があるため、残高が減ってしまうおそれがあります。
預貯金を相続する場合の注意点
預貯金を相続する場合には、以下のような点に注意しましょう。
- 遺産分割手続きが完了するまで口座からお金を引き出さない
- 平日の日中しか手続きができない
- 銀行ごとに書式が違う
これらの注意点について、次項より解説します。
遺産分割手続きが完了するまで口座からお金を引き出さない
相続財産の預貯金は、遺産分割協議が成立するまで手を付けないようにしましょう。これは、金融機関が口座名義人の死亡の事実を把握して、口座が凍結される前であっても同じです。
口座が凍結されていなければ、ATM等を利用して預貯金を引き出すことが可能です。そのため、金融機関に被相続人が亡くなった事実を知られる前に預貯金を引き出そうとする人がいます。
しかし、預貯金を勝手に引き出すと、遺産隠しを疑われて相続トラブルの原因となるおそれがあります。
また、被相続人が多額の借金等をしていたことが判明した場合に、相続放棄が認められなくなるおそれもあります。
なお、相続が発生する直前に預貯金を引き出すケースもありますが、そのような「直前引き出し」は預貯金を現金に換えただけなので、その現金は基本的に相続財産となります。
そのため、現金は遺産分割の対象や、相続税の課税対象となります。
直前引き出しをした現金を申告しないと脱税になる危険もあるため注意しましょう。
平日の日中しか手続きができない
口座の凍結解除手続きを相続人が自分で行うためには、金融機関の窓口の営業時間内に手続きを行う必要があります。一般的な銀行では、窓口の営業は平日の午前9時から午後3時までです。
なお、ゆうちょ銀行については、平日の午前9時から午後4時まで窓口を営業しています。
また、一部の銀行では、窓口の営業時間を延長したり、土日も営業したり、郵送での手続きを受け付けているケースがありますので、金融機関へ直接確認すると良いでしょう。
銀行ごとに書式が違う
口座の凍結解除のためには、遺産分割協議書または遺言書等の書類が必要であることは共通している場合が多いものの、金融機関ごとに独自の手続き書類が用意されている場合があります。
書式を入手するためには、基本的に各金融機関の支店等に出向く必要があります。なお、書式を郵送してもらえる場合等もあります。事前に金融機関に確認することをお勧めいたします。
銀行等の金融機関で行う相続手続の流れ
金融機関で行う相続手続きは、主に以下のような流れで進みます。
- 銀行等、口座のある金融機関に相続手続を申し出る(口座が凍結される)
- 必要書類を準備する
- 払戻し等の手続を行う
この流れについて、次項より解説します。
1. 銀行等、口座のある金融機関に相続手続を申し出る
預貯金を相続するためには、口座のある金融機関に名義人がなくなったことを伝えます。伝える方法として、窓口で直接伝える方法や電話で伝える方法、WEBサイトで伝える方法等があります。
名義人が亡くなったことを伝えると、金融機関は口座を凍結します。凍結後は公共料金や通信料等の引き落としができなくなるので、なるべく事前に引き落とし口座を変更しておくようにしましょう。
2. 必要書類を準備する
預貯金を相続するために必要な書類は、遺言書があるか否かによって変わります。また、各金融機関が用意している「相続手続依頼書」の提出等が必要となります。
なお、相続手続依頼書は、各金融機関において「相続届」等の名称で書式が用意されています。
相続手続依頼書には、基本的に相続人全員による署名押印が必要です。通常の場合、押印には実印を用いて印鑑証明書を添付します。
遺言書がある場合
遺言書がある場合、預貯金を相続する権利がある人は遺言書を確認すればわかるケースが多いので、主に以下のような書類を提出します。
- 遺言書
- 検認調書または検認証明書(検認が必要な場合)
- 被相続人の戸籍謄本(死亡が確認できるもの)
- 預貯金の相続人の印鑑証明書
- 被相続人の通帳等
- 相続手続依頼書
遺言書がない場合
遺言書がなく、遺産分割協議書を作成したケースでは、遺産分割協議書を提出する必要があります。
また、相続人全員が手続きに関わっていることを証明するために、被相続人が生まれてから亡くなるまでの戸籍謄本が必要となります。
遺言書はないが、遺産分割協議書がある場合
遺言書がなく、遺産分割協議書がある場合、相続人全員が決めた相続人を明らかにするために遺産分割協議書を提出する必要があります。
この場合には、主に以下のような書類を提出することになります。
- 遺産分割協議書
- 被相続人が生まれてから亡くなるまでの戸籍謄本
- 相続人全員の戸籍謄本
- 相続人全員の印鑑証明書
- 被相続人の通帳等
- 相続手続依頼書
遺言書も遺産分割協議書もない場合
遺言書も遺産分割協議書もない場合であっても、預貯金の払い戻しを受けることは可能です。
主な必要書類は以下のとおりです。
- 被相続人が生まれてから亡くなるまでの戸籍謄本
- 相続人全員の戸籍謄本
- 相続人全員の印鑑証明書
- 被相続人の通帳等
- 相続手続依頼書(相続人全員)
3. 払戻し等の手続
すべての手続きを終わらせると、被相続人名義の預貯金口座は、解約されて払い戻しとなるか、口座の名義が変更されます。
払い戻しの場合、必要書類を提出してから2週間~1ヶ月程度かかります。払い戻しの入金は、相続手続依頼書で指定した口座に行われます。
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貯金・預金の相続に関するQ&A
銀行預金の相続に期限はありますか?
銀行預金の相続について、明確な期限は設けられていません。しかし、なるべく早く相続手続きを行うのが望ましいです。
なぜなら、銀行預金を10年以上放置すると休眠口座になってしまうだけでなく、放置されている口座には管理手数料が生じることもあるからです。
さらに、債権は基本的に5年で消滅時効を援用できるようになることから、5年以上放置した預金口座については銀行が消滅時効を援用するリスクを否定できなくなります。
今のところ、そのような事例はないようですが、絶対にないことだとは言えないため注意しましょう。
生活保護を受けているのですが、貯金を相続したら保護は打ち切られてしまいますか?
生活保護の受給者であっても、被相続人の預貯金を相続することはできます。そして、預貯金を相続したとしても、生活保護が必ず打ち切られるわけではありません。
例えば、生活保護費の1ヶ月分に届かない程度の預貯金を相続しても、そのまま生活保護を受給できる可能性があります。
また、生活保護費の6ヶ月分程度以下の預貯金を相続した場合には、生活保護が停止されるものの打ち切られない可能性があります。
ただし、生活保護費の6ヶ月分を上回るような預貯金を相続すると、生活保護が打ち切られるおそれがあります。
なお、預貯金を相続したときには、福祉事務所等に届け出ましょう。また、事情があって相続放棄したい場合には、ケースワーカー等に事前に相談することが望ましいでしょう。
相続人は自分だけです。相続手続きせず口座を使っていても良いですか?
相続手続きを行っていない預貯金口座からお金を引き出すことは、相続人が一人であっても、リスクがあるのでおすすめできません。
なぜなら、預貯金は金融機関が名義人から預かっているお金なので、名義人でない人が無断でお金を引き出すと、少なくとも形式的には詐欺や窃盗に該当するおそれがあるからです。
また、金融機関は名義人以外の利用を禁止している場合が多いので、相続人がお金を引き出すと契約違反になるおそれがあります。
相続する貯金がどこの銀行にあるか分からない場合はどうしたらいいですか?
被相続人の預金がある金融機関が分からない場合には、通帳やカード等を探して調べる方法があります。
また、被相続人の自宅等に金融機関からのはがきがある場合、パソコンやスマートフォンにメールが届いている場合等もあるため確認しましょう。
他にも、近所にある金融機関等で手続きを行えば、口座を開設していないか確認できることがあります。
なお、近年は店舗のないインターネットバンキング等もありますが、パソコンの接続履歴やスマートフォンのアプリ等を確認することによって口座を把握できる可能性があります。
貯金の相続手続きをするなら、弁護士への相談・依頼がおすすめです
準備をする時間がない状況で被相続人が亡くなってしまうと、口座の凍結により生活に支障が生じるおそれがあります。
そのような場合には、すぐに凍結解除の手続きを行う必要がありますが、遺産分割協議がすぐにまとまるとは限りません。
そこで、預貯金の相続について困っている場合には、すぐに弁護士にご相談ください。弁護士であれば、早く交渉をまとめるためのアドバイスが可能です。
また、お金がすぐに必要な場合等では、仮払いの手続きについてもお手伝いいたします。
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保有資格弁護士(神奈川県弁護士会所属・登録番号:57708)