監修弁護士 伊東 香織弁護士法人ALG&Associates 横浜法律事務所 所長 弁護士
相続登記とは
相続登記とは、被相続人が不動産を所有していた場合に、不動産の登記名義を相続人へ変更をするための手続きをいいます。 不動産には登記制度があり、登記制度に基づき、所有者などの情報が法務局で管理されています。被相続人が亡くなり、相続が開始したからと言って、自動的に不動産の登記名義が変更になるわけではないですし、相続人間で遺産分割協議が成立したとしても、登記名義は変更されるわけではありません。相続によって不動産を取得した際には相続登記の申請がきちんと行うことが必要になります。
相続登記の手続き方法
被相続人から不動産を相続した相続人は、法務局に対して、必要書類を揃えて相続登記に申請を行う必要があります。相続登記に必要な書類は遺言書の有無などによって相続ごとに異なってきますので注意が必要です。
不動産の所有者を確認する
相続登記を行うにあたっては、まず、不動産の所有者が誰であるかを確認することが重要となります。「亡くなった母親の所有する家など思っていたが、実際に母親より先に亡くなっている祖父名義のままになっていた」といったケースは決して珍しくありません。相続登記の準備中に実は所有者が異なっていたことが判明した場合、追加の書類が必要になるなど手続きに余計な時間がかかることもありますので、不動産の所有者を最初に確認してきましょう。
必要な書類を集める
どのような場合でも必要な書類
①所有権移転登記申請書:
申請書を記載する際には、法定相続分による場合、遺産分割協議による場合、遺言書による場合に応じて、記載する内容が異なること注意が必要です。
②対象不動産の固定資産評価証明書:
登録免許税を算定するために用いる書類であり、相続登記の申請を行う年度の証明書が必要となります。
③被相続人の住民票除票または戸籍の附票
戸籍と登記後の人物(被相続人)が同一であることを示すための資料です。
④被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本
被相続人の特定や被相続人が死亡した事実を示すための資料となります。
遺言書がある場合に必要な書類
⑤遺言書
公正証書遺言書の場合、自筆証書遺言補完制度を用いた場合であれば問題にありませんが、それ以外の遺言書の場合は、検認手続を経たうえで、検認調書を添付することが必要となります。
遺言書がある場合には、上記④は、死亡の記載ある戸籍のみで足りることになります。
遺言書がない場合で法定相続分どおりに登記する場合に必要な書類
⑥相続人全員の戸籍謄本
⑦相続人全員の住民票
遺産分割協議による場合に必要な書類
⑧遺産分割協議書
相続人全員が署名し、実印で押印することが必要となります。
⑨相続人全員の印鑑証明書
遺産分割協議書内の印鑑が実印であることを証明するための資料です。
遺産分割調停または審判による場合
⑩調停(又は審判)調書
調停や審判で決まった内容を明らかにする資料です。
相続関係説明図、登記申請書を作成する
必要書類が揃ったら、登記申請書を作成します。登記申請書(相続登記の場合、正確には「所有権移転登記申請書」)は、遺言書の有無や法定相続分、遺産分割協議等、申請内容に応じて、法務局に様式が準備されています。インターネットからもダウンロードすることが可能です。
また、相続関係説明図を作成する必要もあります。相続関係説明図とは、被相続人と相続人を続柄とともに一覧できるように図面にした書類であり、相続関係説明図を添付しておくと法務局から提出した戸籍の原本の還付が受けられるので、法定相続分どおりの相続登記や、遺産分割協議書による場合などには相続関係説明図を添付することが多いです。
法務局へ申請する
相続登記の準備ができたら法務局に申請手続を行います。申請方法には、①法務局の窓口で行う方法、②郵送で行う方法、③オンラインで行う方法があります。
①については、窓口で確認を取りながら進めていくことができることから訂正があってもその場で対応できるメリットがある一方で、平日の時間内に法務局を訪問する時間を確保する必要性があります。
②は、法務局を訪問する必要がないというメリットがある一方で、訂正があってもすぐに対応をすることができないというデメリットがあります。
③は、自宅で全ての手続を行うことができるのメリットがある一方で、ソフトウェアのインストールが必要となるなど手間がかかる部分があるのがデメリットとなります。
登記識別情報を受け取る
相続登記が無事に完了すると、申請者に対して、法務局から登記識別情報通知という書類が発行されることになります。登記識別情報とは、12桁の英数字で構成された不動産の名義変更に使うパスワードに該当するものです。そのため、登記識別情報通知は大切に保管してください。
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相続登記を行った場合に掛かる税金は?
不動産登記の申請を行うために登録免許税という税金を納める必要があり、相続登記を行う場合にも登記を免許税の納付が必要となります。登録免許税の金額は、相続登記の対象となる不動産の固定資産評価証明書記載の金額に、0.4%の税率をかけたものです(100円未満は切り捨てとなります)。登録免許税の納付は、現金で行うことが原則となりますが、3万円以下の場合は収入印紙でも行うことも可能です。
相続登記の期限
相続登記に現時点では期限は定められていません。
しかし、法改正により、今後は、不動産の登記名義人が亡くなったときは、当該相続により不動産を取得した者は、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、その不動産の所有権を取得したことを知った日から3年以内に相続登記を行う必要があります。相続時を怠った場合には10万円の過料という罰則も設けられています。改正法は2024年を目途に施行予定ですので、これからの相続には注意が必要といえます。
相続登記で問題になりやすいケース
相続登記は、期間制限はないとしても、なるべく早く、かつ、将来を見越した形で行っておかないと、後々になってトラブルの原因となってしまうことがあります。相続登記で問題となりやすいケースとして、①相続登記自体を放置してしまった場合、②相続登記を共有名義で行った場合などが挙げられます。
相続登記手続きを放置した場合
まず、相続登記を放置してしまった場合について解説します。
長期間放置するほど、登記が難しくなる
相続登記を行うためには登記義務者の協力を得ることが必要となります。しかし、相続登記を行わないまま放置してしまうと、時間が経過に伴って、本来の相続人が亡くなって代襲相続が発生するなどして登録義務者が増えていってしまい、相続登記に協力を求めるべき人も増えてしまうことになります。当然、準備する資料が増えていくことになります。すぐに行えば揉めることのなかった相続登記でも、放置してしまうことにより、登記に協力してくれない人が出てきたり、相続人の中に海外にいて連絡が取れない人が出てきたりと事後的にトラブルが生じることがあります。
相続登記せず住み続けた場合
相続登記をしていないということは、不動産の権利を対外的に表明する手段がないということになります。そのため、被相続人から相続した不動産に相続登記をしないまま住み続けた場合、事後的に、当該不動産に関する所有権をほかの相続人から主張されたりといったトラブルが生じることがあります。
相続登記を放置しているとできなくなることがある
不動産の相続登記を放置してしまった場合、不動産を売却したい場合、賃貸したい場合などにすぐに手続きを行うことができず、取引の機会を喪失することがあります。また、不動産を担保に融資を受けることも難しくなりますし、抵当権の抹消登記ができないといった支障もあります。
つまり、せっかく不動産を相続したにもかかわらず、不動産を十分に有効活用することができなくなってしまう可能性があります。
共有名義で相続登記した場合
次に、相続登記を共有名義で行った場合について解説します。
後から共有関係を解消する場合に、費用が高額になる
相続時にとりあえずということで複数の相続人による共有名義で相続登記をしようと考えることもあるかもしれません。しかし、後々になって、不動産の登記名義を1人にまとめたいとなったとしても、共有者の1人にほかの共有者の持分を移転するための登記費用や贈与する場合に課税される贈与税の金額は、相続時と比べて相当高額になってしまいます。
売却等、処分をするときに手間がかかる
相続登記をした後、不動産を売却しようと考えたとき、共有者の間で、売却すること自体について意見が合致しなかったり、売却価格や仲介業者の選択について意見が合わなかったりすることがあり、不動産の売却を思うように行うことができず、余計な手間がかかることがあります。
相続登記のお悩みは弁護士にご相談ください
相続登記については、必要となる書類も多くあるうえ、事案ごとに必要となる書類が異なるなど、手間のかかる手続きですし、先々のことを見据えて、速やかに手続きを行っておかないと、トラブルが生じてしまうことも少なくありません。特に、相続登記を放置してしまうことによる問題は相当多いといえます。相続登記にお悩みの方は是非一度弁護士に相談してみてください。
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保有資格弁護士(神奈川県弁護士会所属・登録番号:57708)