監修弁護士 伊東 香織弁護士法人ALG&Associates 横浜法律事務所 所長 弁護士
相続財産に株式が含まれている場合、相続手続きでは名義変更などを行う必要があります。
このとき、上場企業の株式と、非上場企業の株式とでは、手続きに違いが生じます。
この記事では、株式の相続手続きについて、上場企業と非上場企業の違いや、上場しているかの見分け方、有価証券の相続手続きの流れ、株券を紛失した場合の対処法等について解説します。
目次
上場株式と非上場株式で相続手続きに違いが出る
手続きの窓口・流れが違う
上場会社の株式の相続は、基本的に被相続人が口座を開設していた証券会社で手続きを行います。しかし、非上場会社の株式の相続は、証券会社では扱っておらず、株式を発行している会社か、株主名簿管理人に対して手続きしなければなりません。
株主名簿管理人とは、企業の株主名簿の管理や保管を行う機関であり、多くの会社が信託銀行を指定しています。会社法によって株主名簿の備え付けは義務とされていますが、自社で管理するための労力を抑えるために利用しています。
必要書類が違う
上場会社の株式の相続では、必要書類はほぼ共通します。手続きをする場所も、被相続人が口座を開設していた証券会社なので、あまり迷うことはありません。
しかし、非上場会社の株式では、会社によって必要書類が違うため、事前の問い合わせが必要です。手続きをする場所も、株式を発行している会社ではない場合があります。
口座開設の必要性
上場会社の株式を相続するためには、被相続人が口座を開設していた証券会社に、相続人も口座を開設しなければなりません。
一方で、非上場会社の株式を相続するときには、発行会社などで手続きすれば良いため、口座開設は不要です。
上場株式と非上場株式の見分け方は?
上場企業の株式と非上場企業の株式を見分ける方法として、主に以下のようなものが挙げられます。
【上場企業の株式であることを確認する方法】
- インターネットで株価を調べられるかを確認する
- 日本取引所グループのサイトで、上場会社として登録されていることを確認する
- 会社の決算短信や有価証券報告書を確認する
【非上場企業の株式であることを確認する方法】
- インターネットで株価が表示されないことを確認する
- 日本取引所グループのサイトで、上場会社として登録されていないことを確認する
- 会社から、非上場株式である旨の証明書を発行してもらう
特別口座・タンス株の扱い
特別口座とは、株券のペーパーレス化のときに作られた信託銀行の口座であり、名義や住所が不明確な場合の株主の株式を管理するための口座です。
被相続人の株式が特別口座に入っている場合には、基本的に相続人が証券口座を開設し、相続財産である株式を振り替える必要があります。
タンス株とは、自宅などに保管されている紙の株券のことです。
上場企業の株券は電子化されているため、紙の株券自体には価値がない場合がありますが、株主としての権利が残っている可能性もあるため、証券保管振替機構などに確認が必要です。
また、未上場の場合にも株券が有効なケースがあるため、発行会社に確認して、株券が有効であれば名義変更を申請しましょう。
名義変更の方法と必要書類
上場株式の名義を変更する方法
上場会社の株式を相続するためには、被相続人が利用していた証券会社が判明している場合、その証券会社で手続きをします。
このとき、被相続人名義の口座を相続人名義に変更することはできないので、相続人の口座を新たに開設する必要があります。
証券会社が判明していない場合には、証券保管振替機構に開示請求書や戸籍謄本などの必要書類を提出して、どの証券会社を利用していたかを調べてもらいます。
非上場株式の名義を変更する場合
非上場会社の株式を相続するときには、株式を発行している会社か、その会社が指定した株主名簿管理人に対して名義変更を申請します。
このとき、株券発行会社であるか等によって必要書類が異なるため、事前に必要書類を確認しましょう。
必要書類の具体例
上場会社の株式と、非上場会社の株式とでは、相続するときに、それぞれ主に以下のような書類を用意しなければなりません。
【上場会社の株式】
- 名義変更依頼書
- 被相続人が生まれてから亡くなるまでのすべての戸籍謄本
- 相続人全員の戸籍謄本
- 遺産分割協議書
- 相続人全員の印鑑証明書
【非上場会社の株式】
- 株式名義書換請求書
- 株券発行会社については相続する株券
- 被相続人が生まれてから亡くなるまでのすべての戸籍謄本
- 相続人全員の戸籍謄本
- 遺産分割協議書
- 相続人全員の印鑑証明書
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有価証券(株式)の相続手続きの流れ
証券会社へ問い合わせする際の注意点
証券会社によって、相続に関する問い合わせのできる窓口が異なり、相続を主に受け付けるための電話番号が用意されている会社もあります。
また、インターネット上でほとんどの手続きが可能な会社もあるようです。
電話では、細かな違いのある提出書類について確認しましょう。
必要書類を集めるためのサポートが受けられる等、会社によって提供しているサービスが異なるため、早い時点で確認しておくことをおすすめします。
相続発生後の配当金や未受領分の手続きについて
相続が発生する前に発生した配当金は、被相続人の収入なので準確定申告の対象となり、相続財産として扱われます。
しかし、相続発生の後で発生した配当金は、株式を相続した者の収入となります。
証券口座で配当金を受け取ることにしていれば、相続手続きをすると口座に未払い配当金が振り込まれるため、特別な手続きは必要ありません。
しかし、他の受け取り方を指定していると、株主名簿管理人に連絡する等の手続きが必要となります。
相続した株券を紛失した場合
相続した株券を紛失した場合には、株主としての権利を行使することが難しくなるため、株券を発行した会社に対して喪失手続きを行うことができます。
手続きでは、株券喪失登録簿へ必要事項を記載してもらいます。
必要事項として、主に以下のようなものが挙げられます。
- 喪失した株券の番号
- 喪失した者の氏名および住所
- 株券喪失登録簿に記載を行った日
登録日から1年が経過すると、紛失したものは無効となります。これにより、株券を入手した者が善意の第三者に売却して、他人の物となってしまう事態を防ぐことができます。
無効となったら、会社は登録者に対して株券を再発行します。株券を紛失した場合、再発行までに時間がかかることがあるため、紛失しないよう十分に注意が必要です。
専門家への相談のメリット
株式の相続について弁護士等の専門家に相談すると、面倒な手続きや、厄介な価格評価についてのサポートが受けられます。
株式を相続するためには、被相続人が遺言書を作成していなければ、遺産分割協議書を作成しなければなりません。しかし、非上場会社の株式の評価方法は難しく、公平な分配を実現することは簡単ではありません。
相続手続きには期限が設けられているものが少なくないため、なるべくトラブルを防ぎながら急がなければなりません。
非上場会社の株式の評価は、相続税の金額にも影響します。
相続財産に株式が含まれている場合には、専門家に相談することをおすすめします。
株券・有価証券の相続手続きでお悩みの方はご相談ください
株式の相続は、手続きが大変であり、必要書類も証券会社などによって異なり、非公開会社の株式だと評価額が分かりづらいことから、現金や預貯金を相続するときよりも手続きが面倒です。
株式の評価額によっては、相続税がかかってしまうため、ミスは防がなければなりません。
特に、お金に換えにくい非上場会社の株式は、誰も相続したがらないような事態も想定しなければなりません。
なるべく揉めずに遺産分割協議を終わらせるためには専門家のアドバイスが必要です。
事前に遺言書の作成について相談いただければ、遺言書の作成や親族間の意見の集約等でお役に立つことができます。株式の相続について不安な方は、ぜひ弁護士にご相談ください。

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保有資格弁護士(神奈川県弁護士会所属・登録番号:57708)
